第9話
薬草を採って帰った俺達は、ミリアを街の外に置いていき冒険者の宿に着いた。店内は冒険から帰ってきた冒険者でごった返していた。
タヒュは店内を軽く見回すと、一人のワードッグ族らしき男に声をかけた。金髪の好青年といった感じの外見で、年は20を少し過ぎたあたりか。
ちなみにワードッグ族と言うのは、頭の上に犬の耳がついた魔人だ。魔人だが、人類に対して敵対的でなく、義に厚いという特徴を持つため、人類と同じ扱いをされている。似た種族にワーキャット族、ワーラビット族がいる。ワーキャット族は自由奔放で、ワーラビット族は天然だ。
「あ、アークさんじゃないですか!」
「おお、タヒュか。そっちの男はお友達かい?」
「そうなんです、あ、僕らパーティーを組むことになったんですよ、アークさんも入りません? 予想外のメンバーに、きっと驚きますよ!」
「タヒュの勧めなら入らないでもないが……僕の実力には、釣り合う奴らなのかい?」
「そりゃもちろん!」
「おいおい……何勝手に話を進めてるんだか。俺や、他のメンバーと相談してメンツを決めるのが筋じゃないか?」
「だそうだよ、タヒュ。まぁとりあえずタヒュが認めるんだから、弱いわけではないだろう。僕で良ければパーティーに誘ってくれ。前のパーティーが解散しちゃってね。タヒュは落ち込んでた僕を励ましてくれたんだ。それ以降無二の友として付き合わせてもらっているよ。年は少し離れているがね。それでタヒュ、君は戦闘には参加する予定はあるのかい?」
「ありません……」
「それは良かった。言っちゃあ悪いけど、タヒュが戦いに出たら、死ぬ未来しか見えないからね。」
「アークさん……今のは心にきますよ。」
「はっはっはっ……」
「とりあえず、さっさと依頼の報酬を受け取って街を出るぞ。」
「アークさんは?」
「腕は確かなのか?」
「もちろん!アークさんは冒険者の中でもかなりの上位の魔闘術の使い手ですよ!」
この際に説明しておくと、この世界の武術の根底にはマナで体を強化する魔武術の技術があり、その上に剣技の魔剣術、斧術の魔斧術、杖術の魔杖術、槍術の魔槍術、格闘技の魔闘術がある。魔剣術は切断に長けているが、技術を必要とする。魔斧術は技術を必要としないが、切れ味は魔剣術に劣る。魔杖術は硬い装甲の魔物にもよく効き、魔槍術は一点に威力を集中させることができる。魔闘術は魔杖術に似ているが、熟達すれば技により相手の内部を破壊することができる。どれも一長一短なのだ。
「ほう……とりあえず、一時メンバーとして加わらないか?」
「喜んで、加わらせてもらうよ。でも僕の理想と違うようだったら、すぐ抜けるからね。」
「勝手にしろ。」
俺は受付に並び、薬草採りの報酬の100Gを受け取る。定食屋の一食が5G、自炊なら3から2G、パーティーメンバーが3人だったから、毎日自炊するとしたら4日分ほどか。やはり冒険者は危険が伴うだけあって、かなり儲かるようだ。
そして俺達が宿を出ると、黒い甲冑の男が目に入った。相手もこちらが目に入ったようで、声を掛けてきた。
「お前達、ケオスという男を知らないか?赤い髪に三白眼の……知っているわけがないか。忘れてくれ。」
忘れる訳がない。その名前、外見。あの日、俺の両親を奪った、あの男のことを!
「貴様……なぜその名を! 何を知っている! 言え!」
「偶然にも、当たりを引き当てたってわけかい……吐くのはお前だよ。さあ、俺と勝負しろよ。負けたら洗いざらい吐くか、死ぬか、吐いて死ぬかだ。選べるだけ、マシだぜ?」
「まぁまぁ二人共、落ち着いて。」
話に入ってきたのは、アークだ。
「「これが落ち着いていられるか!!」」
「ここで決闘すると、衛兵が来るよ。街の外でやろうか。」
「アークさん、止めないんですか!?」
「彼らには因縁があるみたいだ。これを止めるのは、難しいよ。」
こうして俺と黒甲冑は決闘することになった。あいつの正体は何なんだ? ケオスについての手がかりは得られるのか? 答えは……決闘の中にあるだろう。