第8話
「助けて!」
俺達の前に現れた光景は、棍棒を持った俺と同い年くらいの弱々しい黒髪の少年が下級魔物ファングウルフと睨み合っている姿だった。少年は武器は持っているものの、防具はなく、見た目に反して武術の心得がありそうなわけでもない。
では敵のファングウルフはと言うと、下級魔物の中でも下位で、戦闘の心得があれば苦戦せずに倒せる相手だ。だが群れを作っている場合は話が変わってくる。群れているファングウルフは連携に長けており、ナメてかかると痛い目に遭う。が、今目の前にいるファングウルフは一体だけだ。
「しょうがない、助けてやるか。フィレ、バルル、コマンド、ブート!」
俺のファイアボールがファングウルフに命中する。
「はぁっ!」
ミリアの一閃が弱ったファングウルフを両断。ファングウルフは瞬間的に倒された。
「あああ、ありがとうございます。お、お名前を教えててていただけますか?ボクはタヒュです。」
「そんな事より、何故ああなっていた? お前のような奴が棍棒一つで一人で森に入るとは、命知らずもいいところだぞ。」
「ボク、両親とも冒険者で、でもボクは体が弱くて、それで、強くなろうと……」
冒険者の戦闘能力は、基本的にマナの最大容量で決まる。この最大容量は殺した相手の容量の一部を奪えるというのが定説となっている。大量に魔物を狩った冒険者が強い理由が、これだ。
「この森には魔人もいる。ここにいる奴のようにな。ほんとお前、馬鹿だな。」
「ま、魔人を従えているのですか! さぞご高名な冒険者の方でしょう! 名前、どうかお名前を!」
「ザインだ。今日冒険者になった。後コイツは従えているわけではない。」
「え、ええっ……ま、まぁいいです。ザインさん、私を弟子に、弟子にしてください! 魔人を仲間に出来れば、こんな弱いボクでも戦えるんです!」
「やめておくことね。人間の仲間になる、魔人にそんな物好きは基本的にいないわ。」
「は、はい……で、では、お手伝いさせてください! 命を救われた恩です! 雑用なら、何でもこなせますよ!」
「邪魔だ、ふざけるな、と言いたいところだが、勝手にしろ。お前のような手合は、断ってもしつこく付いてくるからな。」
「ありがとうございます! 煮炊きでも野営の見張りでも何でもやりますよ!」
「ふふっ、これで、20株ね。」
「はぁ……」
「2、20株って、何の話ですか?」
「気にするな、薬草を取りに行くぞ。」
「は、はいっ!」
これが、俺達の得難い仲間となるタヒュとの出会いだった。