奇術の天使
はじまりのものがたり
二〇X三年五月二十一日、時計塔最上階。
雨粒を含んだ雲、地上からの先生たちの雑言、隣接する施設からの視線。
二人の少女は、屋上へと出る階段を駆け上がり、重い扉を開け放つ。息が上がり、涙も滲む中、
そこにいるであろう人物の名を叫んだ。
声の先に、一人の少女が佇む。名を呼ばれてもなお、背を向けたまま。
少女は今にも消え入りそうな声で、目前にいる二人の少女たちの名を口にした。
危ないよ。こっちに降りて。陸も心配するし、ね? それに今日は――
二人の少女のうち,小柄な少女が声をかける。
「・・・・・・ごめん、ほたる」
少女は小さい声で謝る。
どうして――?
もう一人の少女が震える声音で呟いた。
「・・・・・・ごめんね、葵」
少女はゆっくりとこちらを振り返る。
「ごめんね、二人とも。弱くて――」
瞬間、少女は瞳に微笑をたたえ空へと舞った。
其の先にあるのは苦しみか、安らぎか。
周囲の声が悲鳴に変わる。
その場に残された二人の少女の声が空に響いた。
はじめまして。りぃと申します。この作品ははじめて書いた小説を分割投稿しています。つたない文章ですが,よろしくお願いいたします。