消えた万年筆
僕は今年の四月、新社会人になった。初めて今の部署に行くと、まずは部長に挨拶。次に、僕の教育係として、四年目の女性社員を紹介された。その女性は、瀧本愛香という名前で、仕事が出来て、頭が良く、背が高く、綺麗で、スタイルが良く、正に理想の女性という感じの人なのだが、仕事に関して厳しく、性格がきつい事で知られているとの事だ。僕はそんな事を知らずに、瀧本愛香と対面し、容姿端麗な瀧本愛香に少し見とれていると、瀧本愛香が笑顔で口を開いた。
「初めまして。教育係に任命された瀧本愛香です。さんずいに、難しい龍で、たき、本で、もと、愛情の愛で、あい、香りの香で、か、です。よろしくお願いします。分からない事があったら、何でも聞いて下さいね」
―うわっ!すごく綺麗で優しそうな女性だな!こんな綺麗でスタイルがいい人に、いろいろ教えてもらえるなんて、僕は幸せ者だな!―
僕が瀧本愛香に見とれながら自己紹介し、元気な声を出す。
「ありがとうございます!分からない事だらけだと思いますが、一生懸命頑張りますので、これからよろしくお願いします!」
「君、元気いいね。でも、元気いいだけじゃダメよ。しっかり仕事を覚えて、早く戦力にならなきゃダメよ。まずは、会社用のスマホとパソコンの設定をしてね。はい、これマニュアルよ。分からない事があったら、何でも聞いてね」
「はい!分かりました!」
瀧本愛香からマニュアルを受け取り、まずは会社用スマホの設定に取り掛かる。丁寧なマニュアルで、特に迷う事なくスイスイと進める事ができ、完了。続けてパソコンの設定を始める。会社用スマホの設定より複雑だが、少し迷いながらもどんどん進めていく。そんな僕の様子を見て、瀧本愛香が僕をチラチラ見ながら、少し笑顔を見せてきた。
「お、スムーズにいってんじゃん!問題なさそうだね」
「はい。大丈夫だと思います。もうちょっとで完了します」
更にパソコンの設定を進め、何とか完了させた。
「瀧本先輩、会社用スマホとパソコンの設定が終わりました」
「うん。じゃあ、うちの部の仕事内容をまとめた資料があるから、しっかりと読んでおいてね。ちょっと私、打ち合わせがあるから、暫く席を外すね」
「はい!分かりました!ありがとうございます!」
瀧本愛香が僕に仕事内容をまとめた資料を渡し、打ち合わせに向かって行った。歩く後ろ姿も、仕事が出来る女性という雰囲気を漂わせていて、かっこいい。
―瀧本先輩、綺麗だしセクシーだし、仕事が出来るかっこいい人って感じだな~。これからいっぱい吸収していかなきゃな~―
僕が資料に目を通し始めると、一人の男性社員が僕に声を掛けてきた。
「ねぇ、君、新人なのに、仕事が出来る感じがするね。でも、瀧本には気を付けなよ。めちゃくちゃ厳しいからね。瀧本、僕に対しても厳しくて、大変なんだよ。僕、五年目の高杉稜介っていうんだ。よろしくね」
僕が高杉稜介に自己紹介し、続けて言う。
「そうなんですか!でも、瀧本先輩、丁寧に指示を出してくれて、すっごく助かってます。アドバイスありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします」
「うん。じゃあ、頑張ってね」
高杉稜介が自分の仕事に戻って行った。僕が引き続き資料を読んでいると、今度はセクシーな女性社員が僕に声を掛けてきた。
「ウフフ、新人さんね。初々しいね~。私、三年目の三島彩海っていうの。よろしくね」
僕が三島彩海に自己紹介し、続けて言う。
「こちらこそ、よろしくお願いします。分からない事だらけですが、教えて下さい」
「うん。何でも聞いてね。そうそう。瀧本さん、すっごく綺麗でスタイル良くて、仕事バリバリ出来るけど、高杉さんの言う通り、めちゃくちゃ厳しいからね。私もしょっちゅう怒られるよ。愚痴はいくらでも聞いてあげるからね」
「やっぱり瀧本先輩、厳しいんですね。愚痴ができたら聞いて頂けるの、嬉しいです」
「うん。君、可愛いね。じゃあ、頑張ってね」
三島彩海が自分の仕事に戻って行った。更にどんどん資料を読み進め、一通り読み終わると、打ち合わせを終えた瀧本愛香が戻って来て、僕をチラッと見てから声を掛けてきた。
「資料を読み終えたようね。どう?うちの部の仕事、少しは理解できた?」
「はい。まだ分からない事が多いですけど、何となく理解できました」
「うん。今はそれで十分よ。そろそろ昼休憩の時間だね。ランチどうする?」
「ありがとうございます。え~と、ランチ、どうしようかな~」
その時、高杉稜介と三島彩海が僕と瀧本愛香のところに歩いて来た。
「ねぇ、僕達と一緒にランチ食べようよ。三島さん以外の人も行くよ」
「はい。分かりました。行きます。ありがとうございます」
三島彩海が瀧本愛香の方を向き、少し恐る恐るという感じで訊ねる。
「瀧本さんも、ランチ一緒にどうですか?」
「ううん。私はいいや。そんなに長く休憩とれないし。ゆっくり行ってきてよ」
「そうですか。分かりました。じゃあ、行ってきますね」
僕と高杉稜介と三島彩海が、ランチを食べに行く。他に三人の社員が一緒に歩く。瀧本愛香は仕事を続けている。僕が瀧本愛香をチラッと見る。
「瀧本先輩、ランチに行ってきます」
「うん。行ってらっしゃい。ゆっくり食べていいからね」
「はい。ありがとうございます」
オフィスから出て、暫く歩いていると、三島彩海が口を開いた。
「瀧本さん、一応誘ってみたけど、やっぱり私達とランチ食べるの嫌なんだろうね。一人で食べるのが落ち着いて、気に入ってるんだろうね。仕事は出来るんだろうけど、何だか打ち解けにくい人だよね」
「そうだね。綺麗でスタイルいいんだけど、仲良くはなれない人だよね」
高杉稜介がそう返すと、他の三人の社員も同調する。ふと、三島彩海が僕に訊ねてきた。
「ねぇ、まだ瀧本さんとそんなに話してないと思うけど、瀧本さん、どう?怖くない?」
僕が返答に困っていると、高杉稜介が見るに見かねて三島彩海に言葉を掛けた。
「三島さん、まだ半日なんだし、そんな事を訊いても、困らせるだけだよ」
「そうですね。でも、困った事があったら。いつでも言ってね」
「はい。ありがとうございます。今のところは大丈夫です」
―瀧本先輩、そんなに怖いのかな。あんなに綺麗でスタイルいいのに、勿体ないな―
更に六人で歩を進め、有名な洋食レストランの前に着いた。少し行列が出来ている。六人でおしゃべりしながら待っていると、思ったよりも早く順番が回って来た。レストランに入り、店員に案内され、六人用のテーブル席に座り、僕がメニューを見ると、たくさんの美味しそうな料理が載っている。
「いっぱい料理があるんですね!どれも美味しそうで、迷っちゃいます」
「ウフフ、そんな時は、このお店の一番人気、オムライスを食べるのがいいよ!」
僕の言葉に対して、三島彩海がすかさず反応。その言葉通り、オムライスを注文。店員を呼び、六人分の料理を注文し、暫く談笑。三人の社員が次々と自己紹介する。
「私、四年目の菅山香菜っていうの。違う部署だけど、瀧本と同期なの。よろしくね」
「僕は、三年目の森崎悠磨っていいます。三島さんと同期で、菅山さんと同じ部署です。少しは力になれるかもしれないし、よろしくね」
「私は、二年目の藤森美幸っていいます。皆さんとは違う部署ですけど、時々ランチをご一緒させて頂いてるの。あまり教えられる事は無いけど、元気をあげる事はできるかな。私もまだまだこれからだし、よろしくね」
僕が三人に自己紹介し、続けて言う。
「ありがとうございます。分からない事だらけですが、よろしくお願いします」
引き続き六人でおしゃべりしていると、店員が次々と注文した料理を運んで来た。その中には、勿論、僕が注文したオムライスもある。女性三人と僕はオムライスを注文していて、残りの男性二人はハンバーグランチを注文している。六人で美味しくランチを食べ進めていると、三島彩海が瀧本愛香の話題を口にした。
「瀧本さん、誘ってもランチに来ないし、仕事してる時、怖い事があるし、打ち解けられないんですよね」
「気にしなくていいんじゃないの。機嫌取ったって仕方がないし」
「瀧本、怖いとこあるからな。でも、笑う時だってあるし、根はいい女だと思うよ」
「瀧本さん、そんなに怖いんですね。言われてみれば確かに怖そうかも。綺麗なのに勿体ないですね」
「そうですよね。私もあんまり話した事ないですけど、話を聞いてると、本当に勿体ないって感じがします」
―瀧本先輩、容姿は褒められてるけど、性格や振る舞いは良く思われてないんだな。これからどんどん分かってくるのかな―
そんな事を考えていると、三島彩海が満面の笑顔で僕に声を掛けてきた。
「瀧本さんが教育係で、大変だろうけど、あの人、すっごく仕事出来るし、吸収できる事はたくさんあると思うから、あんまり心配しないで、頑張ってね。もし辛い事があったら、いつでも言ってね」
「はい!ありがとうございます!よろしくお願いします!」
―三島先輩、優しいな!綺麗だしスタイルいいし、すっごくいい先輩だな!―
皆でワイワイおしゃべりしながら更に食べ進め、ランチを完食。レジに行くと、高杉稜介が笑顔で僕に言ってきた。
「ここは奢ってあげるよ。毎回奢るって訳にはいかないけどね」
「いいんですか!ありがとうございます!御馳走様でした!」
高杉稜介が僕のオムライス代を払ってくれた。六人で店から出て歩き、オフィスに到着。既に瀧本愛香が席に座って仕事をしている。
「瀧本先輩、戻りました。オムライスを食べました。美味しかったです」
「そう。それは良かったわね。さぁ、切り替えて仕事するよ!うちの部署がどういう仕事をしてるのか、大体分かったと思うから、まずは簡単な入力作業から始めましょう」
「はい!分かりました!頑張ります!」
「うん。いい返事ね。じゃあ、早速教えるね。まずは、このアイコンをダブルクリックして、システムを開けてね。IDとパスワードは、さっき渡した資料のここに載ってるよ」
僕がシステムを開け、IDとパスワードを入力する。三島彩海が、チラチラと僕の様子を見て、「頑張れ」という感じで小さくガッツポーズをし、僕が笑顔でペコリと軽くお辞儀をする。その仕草を見て、瀧本愛香が僕に少し強めの口調で言ってきた。
「何してんの。仕事に集中よ。簡単な入力作業だけど、気を抜いたらミスするわよ」
「あ、はい。すみません」
―瀧本先輩に軽く怒られたな。瀧本先輩の厳しさを、ちょっとだけ見た感じがするな。よ~し、頑張るぞ!―
パソコンの画面とデータが記載されている資料を見て、瀧本愛香に教えてもらいながら入力作業を進める。
「じゃあ、そのまま入力作業を続けてね。私は自分の仕事を進めるけど、入力作業が終わったら言ってね。次の仕事を教えるから」
瀧本愛香が自分の仕事に取り掛かる。チラッと見ると、何かのプロジェクト用のプレゼン資料を作成しているようだ。できるだけ早く入力しようとするが、ミスしてはいけないので、慎重さも必要。画面と資料とにらめっこしながら、どんどん入力作業を進める。瀧本愛香は自分の仕事に集中しながらも、時々僕の方を見て、僕が困っていないか確認している。
―瀧本先輩、自分自身が忙しいのに、僕の事も気に掛けてくれて、さすがだな!今のところ、ちょっと厳しいところがあるけど、優しい人って感じがするな―
更に入力作業を進め、全て完了させた。僕が瀧本愛香の方を見て、笑顔で声を掛ける。
「瀧本先輩、入力作業が終わりました。チェックお願いします」
「お、思ったよりも早く終わらせたね。なかなかやるじゃん」
瀧本愛香が僕の入力した内容を、真剣な目でチェックする。
―瀧本先輩の真剣な表情、すっごく綺麗でかっこいいな―
僕がそんな事を考えながら瀧本愛香を見ていると、瀧本愛香が厳しい表情で言ってきた。
「ここ、入力間違ってるよ。初めての入力作業だし、仕方がないけど、気を付けてね」
「本当ですね!すみません!次はミスしないように頑張ります」
僕がミスしたところを訂正し、入力作業が完了。時計を見ると、もう午後四時になっている。瀧本愛香が、企画しているイベントの資料を僕に渡し、しっかりと読むように指示を出してきた。大掛かりなイベントで、様々な業種のたくさんの企業の人が来るのが分かり、読んでいるだけでドキドキする。
―凄いイベントだな。人がいっぱい来るみたいだし、大きなモニターを使って説明するみたいだな―
どんどん読み進めていると、瀧本愛香が僕に声を掛けてきた。
「大規模なイベントでしょ~。ちなみに、私も前に出てプレゼンするよ。今、その為の資料を作ってるんだよ」
「さすが瀧本先輩、凄いです!瀧本先輩のプレゼンを聞くの、今から楽しみです」
「そんなプレッシャー与えないでよ。しっかり内容を把握してね。私はプレゼン資料作成を進めるよ」
僕が更にイベント資料を読み進め、一通り読み終わった。
「瀧本先輩、読み終わりました。凄いイベントですね~!今からすっごく楽しみです!」
「お、いい表情してるね~。じゃあ、君にも携わらせてあげよう。受付とかトイレとか、案内表示をいくつか作ってよ」
パソコンに向かい、早速、受付の案内表示作成に取り掛かる。暫く作業を進め、ふと、時計を見ると、定時を少し過ぎている。その時、高杉稜介の元気な声が聞こえた。
「皆さん、今日はもう仕事を切り上げて、行ける人は飲みに行きましょう!丁度、新入社員が来た事ですし、歓迎の意味も込めて」
「いいですね!行きましょう!もう今日は仕事終わり!」
三島彩海がすぐに反応し、僕の方を向いて言ってきた。
「ねぇ、飲みに行けるでしょ?今日は君が主役だよ!」
「はい!ありがとうございます!勿論行きます!」
「お~、いい返事だ~!瀧本さんも行きましょうよ!」
「そうだね。歓迎の意味もあるし、私も行くよ」
「嬉しい!瀧本さんと一緒に飲むの、めっちゃ久し振りですね!」
瀧本愛香も飲み会に行くと聞き、僕のテンションが一気に上がる。
―瀧本先輩と一緒に飲みに行けるのか~!すっごく嬉しい!―
僕がパソコンの電源を切り、飲み会に行く為に片付け、鞄を開けて中を見ると、僕が大切にしている万年筆が無い事に気が付いた。
―万年筆が無いな~。確か、鞄の中に入ってたと思うんだけどな。おじいちゃんがお父さんにあげて、僕がお父さんから貰った、大切な万年筆なんだけどな。まぁ、よくよく考えたら、持って来てなかったかな―
僕の様子を見て、瀧本愛香が声を掛けてきた。
「どうしたの?何かを探してるの?」
「大丈夫です。無くしたかな~と思ったけど、たぶん元々持って来てなかったんだと思います」
「そう。それならいいけど。さぁ、行くよ!」
僕の部署の七人が仕事を切り上げ、飲み会に向かう。その様子を見て、他の部署の菅山香菜と森崎悠磨と藤森美幸も、仕事を切り上げ、飲み会に参加する事になり、総勢十人で飲み会に行く事になった。暫く歩き、目的地の居酒屋の前に到着。
「この店で飲みましょう!実は、こっそり予約しておいたんですよ!」
高杉稜介の言葉に、部長が嬉しそうに反応する。
「この店、有名店で、なかなか入れないのに、しっかり予約しておくなんて、さすが高杉君だね!」
皆で店に入ると、元気の良い若い女性店員が、満面の笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃいませ~!お待ちしておりました!こちらのお席へどうぞ!」
女性店員に案内され、皆で席に座る。メニューを見て、どんどん食べたい物を注文し、お酒は全員生ビール中ジョッキを注文。暫く談笑していると、生中が十個運ばれて来た。
「じゃあ、乾杯しましょう!お疲れ様でした~!新入社員、これからよろしくね!かんぱ~い!」
「はい!ありがとうございます!頑張ります!かんぱ~い!」
高杉稜介の乾杯の発声に、僕が反応し、他の人も「かんぱ~い!」と口々に言い、ジョッキをカチ~ンと合わせ、一斉にビールをグイッと飲む。
「旨い!仕事の後のビールは最高だな!分からない事は、教育係の瀧本に訊いてくれよ」
「本当に仕事の後のビールは旨いですね!そうだよ。瀧本は仕事の出来る、頼りになるエース級の社員だから、どんどん瀧本を頼って、頑張ってくれよ」
「はい!分かりました!瀧本先輩、よろしくお願いします!」
「も~、部長も次長も、プレッシャーかけないで下さいよ。でも、私に出来る事はちゃ
んとするから、分からない事があったらどんどん言ってね」
「はい!ありがとうございます!頑張ります!」
部長と次長は、かなり年上の男性で、既に会社でお互い自己紹介していたが、残りの一人の男性社員とは、まだ話していない。すると、その社員が笑顔で僕に言ってきた。
「そういや、まだ挨拶してなかったね。僕は十年目の野田圭吾っていうんだ。うちの部署では、部長と次長の次にキャリアが長いから、少しは頼りになると思うよ。よろしくね」
野田圭吾の言葉を聞き、僕が自己紹介し、続けて言う。
「ありがとうございます!頑張ります!いろいろ教えて下さい」
店員が注文した料理をどんどん運んで来て、皆でワイワイ盛り上がりながらどんどん食べて酒を飲む。既に二杯目に入っている人が多く、二杯目は、それぞれ飲みたい酒を飲んでいる。ふと、瀧本愛香の方を見ると、まだ一杯目のビールを飲んでいる。顔がほんのり赤く、少し酔っているように見える。
「瀧本先輩、お酒強いですか?まだ一杯目のビールですけど、二杯目は何飲みます?」
「私、そんなにお酒強くないよ。二杯目なんて飲むかどうか分からないよ。すぐに顔に出るけど、今はまだ酔ってないよ。そっちはどうなの?お酒強いの?」
「そうなんですね。僕はお酒強くないですけど、飲めない事はないですよ。今は二杯目のビールですけど、あと一杯何かお酒飲めると思います」
「そっか~。まぁ、今日は君が主役なんだし、今は仕事を忘れて、どんどん飲んでよ。ところで、家では何して過ごしてるの?」
「はい。まだまだ飲みますよ。家ではゲームをしたり、テレビを観たりして過ごしてますね。瀧本先輩はどうですか?」
「ゲーム、私もするよ。ゲームに熱中し過ぎて、徹夜になりそうな時もあるよ」
「そうなんですか~。瀧本先輩と共通の趣味があって、嬉しいです!」
僕と瀧本愛香が笑顔で楽しくおしゃべりしていると、酒に酔って御機嫌の高杉稜介と三島彩海が会話に入ってきて、口々に言ってきた。
「お、二人で盛り上がってるね。何話してるの?俺も話に混ぜてよ」
「瀧本さんの笑顔、久し振りに見ました。嬉しいです~。私も話に参加します!」
四人で楽しくおしゃべりしながら、どんどん食べて飲んでいると、向こうにいる部長が僕を呼んできた。
「お~い、若者とばっかりしゃべってないで、こっちに来て話してくれよ」
「あ、はい。分かりました。今行きます」
僕が部長と次長と野田圭吾が話している場に行き、少し緊張しながら話す。三人共、既にかなり酒に酔っている。ふと、野田圭吾が少し怖い表情をしながら僕に言ってきた。
「おい!いつまでも新人気取りじゃダメなんだぞ!早く一人前になる為に、努力しろよ!」
「あ、はい。それは勿論分かってます」
「分かってるって、何だよ。分かってなかっただろ!」
すると、野田圭吾と僕のやり取りを聞いていた瀧本愛香が、迫力のある表情を浮かべながらこっちに来て、野田圭吾に向かって強い口調で言った。
「何酔っぱらって絡んでるんですか!困ってるじゃないですか!止めて下さい!」
「そうだぞ!野田、酔っぱらってるぞ!ちょっとあっちに行って頭冷やしてこい!」
「はい!すみませんでした。ちょっと頭冷やしてきます」
部長の言葉により冷静になった野田圭吾が、僕と瀧本愛香に謝り、向こうに行った。
「瀧本先輩、ありがとうございました。正直、困ってたんです」
「いいよ~。野田さん、酒癖悪いからね。まぁ、悪い人じゃないし、許してあげて」
「はい。勿論です。それにしても、瀧本先輩、頼りになりますね」
「ウフフ、そんな事を言われると、照れちゃうよ。ありがとうね。さぁ、気を取り直して飲もう。あっちに菅山と森崎君と藤森さんがいるし、一緒に飲むか~!」
「はい。一緒に飲みましょう!三人共、楽しそうにしゃべってますね」
僕と瀧本愛香が、菅山香菜と森崎悠磨と藤森美幸のところに行き、五人でワイワイ楽しくおしゃべり。そこに高杉稜介と三島彩海が加わり、更に会話が盛り上がる。最終的には、部長と次長と、頭を冷やして戻って来た野田圭吾も加わり、十人全員で盛り上がり、僕のスマホの連絡先を教え、他の人のスマホの連絡先を教えてもらい、更にワイワイと盛り上がり、和気あいあいとした雰囲気で飲み会が終了した。
「今日は、君の歓迎会なんだし、お金の事は気にしないでいいよ」
「え~!いいんですか!嬉しいです!皆さん、本当にありがとうございました!すっごく楽しかったし、美味しかったです!御馳走様でした!」
「どう致しまして~。私もいっぱいお酒を飲めて、すっごく楽しかったよ!」
「うん。今日は楽しかったね。明日、またいろいろ仕事教えるから、頑張ろうね」
「はい!分かりました!頑張ります!よろしくお願いします!」
高杉稜介と僕と三島彩海と瀧本愛香がハイテンションで話し、他の人も僕からの御礼の言葉に反応してくれた。解散となり、それぞれ歩き出す。僕が駅に向かって歩く。横に瀧本愛香と三島彩海がいる。暫く歩いていると、三島彩海が満面の笑顔で僕に言ってきた。
「ねぇねぇ、もう一軒行きましょうよ!いいお店知ってるんです~!」
「あ~、私は家に帰るよ。明日も仕事だし、早く寝たい気分なの。二人で行ってきたら?」
「そうなんですね~。じゃあ、二人で飲みに行こっか」
「はい。行きます。瀧本先輩、お疲れ様でした。また明日よろしくお願いします」
「うん。あんまり飲み過ぎて明日の仕事に差し支えないように、気を付けてね」
瀧本愛香が僕と三島彩海に手を振りながら、駅に向かって歩く。僕と三島彩海が手を振り返し、三島彩海と一緒に歩いて店に向かう。
暫く二人で楽しく話しながら歩き進み、お洒落な雰囲気の洋風居酒屋の前で止まった。
「このお店、お酒美味しいし、料理も美味しいよ~!さぁ、入ろう!」
「はい。そんなに美味しいんですね~。楽しみです~!」
店に入り、美味しいお酒と料理を満喫し、店を出た。暫く談笑しながら歩いていると、ふと、三島彩海が甘えるような表情になって僕に言ってきた。
「ねぇ、今日、私の部屋に泊まっていってよ。私、一人暮らしなの。もっと君の事が知りたいし、もっと一緒にいたいよ」
「え!いいんですか?僕、一応男ですし、止めといた方がいいんじゃないですか?」
「な~に言ってんのよ!私が君と一緒に泊まりたいの!すっかり君の事、好きになっちゃったし、好きな人と一緒に過ごしたいの!」
「僕の事が好きだなんて、嬉しいです!ありがとうございます!じゃあ、三島先輩の部屋に行かせて頂きますね。何だか、ドキドキしてきました!」
「あはは、やっぱ君、可愛いね!益々好きになっちゃった!じゃあ、行くよ!」
二人で並んで歩き、電車に乗って、三島彩海の部屋があるマンションの最寄り駅に到着。暫くの間、楽しくおしゃべりしながら歩いていると、ふと、三島彩海が足を止めた。
「着いたよ!ここが私の住んでるマンションだよ!なかなかいいマンションでしょ~」
「そうですね。いいマンションに住んでますね。緊張します~!」
「ウフフ、ほんと、可愛いね!じゃあ、行くよ!」
二人でマンションに入り、エレベーターに乗って上がり、廊下を少し歩くと、三島彩海の部屋の前に到着し、三島彩海が鍵を使ってドアを開け、二人で部屋に入る。
「ウフフ、これが私の部屋だよ~!綺麗にしてるでしょ~」
「ほんとに綺麗な部屋ですね。女の人の部屋って感じで、すっごくドキドキします!」
「ウフ、ありがと~!そこに座っていてよ。コーヒー入れるよ~」
僕が席に座り、三島彩海がホットコーヒーを二つ持って来て、二人でホットコーヒーを飲む。ふと、目が合い、見つめ合う。三島彩海がゆっくりと立ち上がり、僕も立ち上がり、三島彩海が真剣な表情で僕に言う。
「ねぇ、彼女いる?ちなみに、私は彼氏いないよ」
「いませんよ。なんでそんな事を訊くんですか?」
「私、すっかり君の事、好きになっちゃった。私達、付き合っちゃおうよ!」
「え!いきなりですね。今日会ったばかりなのに、いいんですか?」
「うん!恋愛は勢いでするものよ!ね、いいでしょ?」
「はい!喜んで!嬉しいです!ありがとうございます!よろしくお願いします!」
「わ~い!嬉しい~!これからは、彩海って呼んでね!敬語使わないでね~!」
「はい。分かりましたけど、会社ではさすがに三島先輩って呼んで敬語使いますよ」
「うん!ほら、もう敬語使わないでね」
「あ、そうだ!じゃあ、早速呼んでみるね。彩海!」
「わぁ~、彩海って呼ばれて、すっごくドキドキする~!嬉しい~!大好き!」
「うん。ありがとう。僕も彩海の事、好きになってきたよ」
「おぉ~!好きって言われて、すっごく興奮してきた~!」
三島彩海が僕に抱き付き、僕をぎゅ~っと強く抱き締める。僕も三島彩海をぎゅ~っと強く抱き締める。二人でじ~っと見つめ合う。唇と唇を熱く重ね合わせ、舌と舌をグリグリと絡め合う。唇をそ~っと離し、そのまま勢い良くベッドに雪崩れ込み、時間が経つのを忘れて、無我夢中でひたすら熱く激しく愛し合いまくった。二人でベッドに横たわると、心地良い疲れを感じ、幸せな気分に包まれながら眠りについた。
その日の夜、瀧本愛香が自分の部屋に到着し、酒に酔いながら今日の事を振り返る。
―今日はお酒飲み過ぎたな。こんなに飲んだの、久し振りだな。でも、会社の人と飲む事ってあんまりないけど、あの新入社員の歓迎会って事で、行ってみたら、思ったよりも楽しかったな。いろんな人と交流を深められたし、新入社員の事もある程度知る事ができて、良かったな。そういや、新入社員と三島さん、二人で飲みに行っちゃったけど、大丈夫かな。教育係として、一緒に飲みに行けば良かったかな。でも、あんまり深入りするのも良くないだろうし、今日はこれで良かったよな。それにしても、あの新入社員、初々しくて可愛い感じの男性だったな。私の教育によって、良くも悪くもなるんだろうな。教育係なんて、最初はびっくりして、不安だったけど、やってみると、結構楽しくて、上手くやっていけそうだな。よし、頑張るぞ~!明日も仕事だし、まだお酒に酔ってるし、ゆっくりお風呂に入るか~。お風呂で寝ないように気を付けなきゃな―
瀧本愛香が洗面所に行き、服と下着を脱いで裸になる。超絶に大きいおっぱいとふっくらとしたお尻がブルンブルンと揺れる。浴室に入り、シャワーの蛇口を捻る。シャワーの湯が勢い良く噴出し、瀧本愛香の身体に当たる。瀧本愛香が目を閉じ、少し上を向いて口を少し開け、気持ち良さそうに適温のシャワーを満喫。
―あ~、お酒に酔ってる時のシャワー、すっごく気持ちいい~!最高~!―
シャンプーを頭に塗り、長くて綺麗な髪を優しく丁寧に洗い、ボディーソープを手に付けて泡立たせ、身体を洗う。おっぱい、お尻を丁寧に洗い、身体の他の部分も洗い進める。洗顔フォームを手に付けて泡立たせ、丁寧に洗顔し、バスタブに入り、湯船に浸かる。
―お風呂はやっぱり気持ちいいな!至福の時だな。寝ないように気を付けなきゃな。酔いはだいぶ冷めてきた。明日も頑張るぞ!新入社員の男の子にいろいろ教えなきゃな~―
少し長めに湯船に浸かり、ゆっくりとお風呂から出て、バスタオルで身体を拭き、ドライヤーで丁寧に髪を乾かし、下着と部屋着を着て、暫くの間、テレビを観ながら寛ぐ。
―あんまりいい番組ないし、ちょっと遅い時間だけど、ゲームしちゃえ~―
ゲームを始めると、元々ゲーム好きなので、徐々にのめり込み、気が付くと、日付が変わる時間。慌ててゲームを切り上げ、ベッドに横になり、心地良い気分で眠りについた。
翌朝、目が覚めると、思ったよりも遅い時間で、少し急いでシャワーを浴び、朝の準備を進め、朝御飯にパンとサラダを食べ、仕事に行く準備を進め、準備完了。
―よ~し!いい感じだ~!今日も頑張るぞ~!新人教育もしっかりやるぞ~!あ、そうだ!昨日は一緒にランチ食べられなかったけど、今日は一緒にランチを食べるぞ~!―
鏡を見てニッコリと笑顔を作り、部屋を出発し、会社に向かった。
その頃、僕が三島彩海をキスで起こし、朝の準備を済ませ、三島彩海の部屋を出た。さすがに一緒に会社に行くのはまずいと考え、駅からは三島彩海が前を歩き、僕が少し離れて歩き、会社に到着。職場に行くと、既に瀧本愛香は仕事をしていて、僕が来たのに気付き、微妙な笑顔を浮かべてきた。
「おはよう。ギリギリセーフだね。まぁ、遅刻じゃないからいいけどね」
「おはようございます。ほんと、ギリギリですね。昨日はありがとうございました。すっごく楽しかったです」
「うん。私も楽しかったよ。早く仕事に取り掛かれるように準備してね」
他の人にも御礼を言って回る。三島彩海にも御礼を言ったが、さっきまで一緒にいただけに、変な感じがする。ふと、野田圭吾がいない事に気が付いた。準備を整え、席に行くと、まだ野田圭吾は来ていない。既に始業時間を少し過ぎている。僕が案内表示の作成に取り掛かり、完成させ、瀧本愛香に見せる。
「お、いいじゃん!これでいこう!」
「はい!ありがとうございます!次は何をすればいいですか?」
「やる気満々だね!次はね、イベントで使う資料に載せるデータの仕事をしてもらおっかな~」
瀧本愛香に教えてもらいながら、データ分析を進めるが、瀧本愛香に見とれてしまう。
―瀧本先輩、真剣な表情もめっちゃ綺麗だな。どうしても見とれてしまうな~―
瀧本愛香が顔を僕の顔に近付けて来て、息が僕の顔に当たる。更に、おっぱいを僕の上腕に近付け、もう少しで当たるのが分かる。僕のドキドキ感がどんどん増す。
―うわ~、瀧本先輩の息、いい匂いがするな~!もうちょっとでおっぱいが当たる!―
瀧本愛香の熱意が上がり、更に僕に身体を近付け、いよいよ待ちに待った瞬間!瀧本愛香の超絶に大きいおっぱいが、ムニュッと僕の上腕に当たった!
―やった~!瀧本先輩のおっぱいが、僕に当たってる!めっちゃでっかくて柔らかくて弾力がある!―
そんな僕の様子を見て、瀧本愛香がじ~っと僕を見つめてきた。表情が少し迷っているように見える。
―ん?瀧本先輩、何か言いたそうだな。ちょっと探りを入れてみるか―
「あの~、瀧本先輩、違ってたらあれですけど、僕、何か変わったところありますか?」
「う~ん、言っていいのかどうか。訊いていい?」
「いいですよ。気になります。何ですか?」
「お前、昨日と同じ恰好をしてるよな。スーツもシャツもネクタイも革靴も同じだぞ。こんな事訊くのもなんだけど、まさか、三島さんの部屋に泊まったとか?」
―え!瀧本先輩、鋭い!でも、昨日と同じ恰好をしてるし、僕と彩海が一緒に飲みに行くのを見られてるし、そりゃそう思うわな。適当な事を言って誤魔化すか―
「ははは。そんな訳ないですよ。昨日、三島先輩と一緒に飲みに行って、僕の家に着いたら、もう日付が変わっていて、そのままの恰好で寝ちゃって、朝、目覚めたら、もうやばい時間になっていて、大慌てで会社に行ったんで、昨日と同じ恰好になってるんですよ」
「そうか。ま、あんまり詮索するのもなんだし、この位にしとこう」
ふと、三島彩海の方を見ると、僕を見て、微笑みながらウィンクしている。僕がぎこちない笑顔で返し、再び仕事に取り掛かる。瀧本愛香に教えてもらいながら、順調にデータ分析を進めていると、ふと、万年筆の事が気になった。
―そういや、僕が大切にしてる万年筆、まだ見つからないな。鞄の中に入れてたと思うんだけどな。でも、もしかしたら家に置きっぱなしになってるのかな。気になるな~―
そんな僕の様子を見て、瀧本愛香が僕の顔を覗き込むように言ってきた。
「また仕事に集中できてないよね~。今度は何を考えてるの?」
「さすが瀧本先輩ですね~!僕が大切にしてる万年筆が、昨日からずっと見つからなくて、今も見つかってなくて、気になって仕方がないんです。間違いなく鞄の中に入れたと思うんですけどね~。このまま見つからなかったらどうしようって思ってます」
「そっか。大切な物が無いんだし、そりゃ気になるよね。気持ちは分かるけど、今は仕事に集中して、家に帰ってからしっかり探したら、見つかるかもしれないよ」
僕が再びデータ分析に取り掛かる。瀧本愛香が熱心に教えてくれているが、やはり瀧本愛香の息と超絶に大きいおっぱいが気になり、集中力が徐々に弱くなっていくのが分かる。それでも何とかデータ分析を進めていくと、急に部長の声が聞こえた。
「野田がまだ来ないな。一体何をしてるんだ!誰か、野田に電話して訊いてくれよ!」
「はい。分かりました。私が電話してみます」
高杉稜介が反応し、社用スマホを手に取り、野田圭吾に電話する。暫くコールを鳴らすが、野田圭吾は電話に出ない。
「野田さん、電話に出ないですね。もしかして、二日酔いで動けなくなってるのかもしれませんね。私用のスマホの電話番号、誰か知ってますか?」
「あ~、それは誰も知らないと思うよ。野田は仕事とプライベートを分けてるからな。野田の家にまで押しかけていいものかどうか、難しいな~」
部長の言葉に対し、少し気持ち悪い感じの笑顔で次長が答える。
「そこまでしなくていいと思いますよ。どうせ野田の事だし、二日酔いで爆睡してるんでしょ~。さすがに三日酔いはないでしょうし、今日はほっときましょう」
「そうだな。家に行って、何か問題になっても困るし。気を取り直して仕事を続けよう」
再び仕事に取り掛かる。瀧本愛香に仕事を教えてもらうのはドキドキするが、何とか集中しながらデータ分析を進める。瀧本愛香からは、厳しいながらも、僕を成長させようという愛情を感じ、僕のやる気に拍車がかかる。ふと、瀧本愛香が笑顔で僕に言ってきた。
「うん!かなりデータを分析できたし、どんどん資料に載せていくか~!でもその前に、そろそろランチの時間だね。今日はランチどうするの?」
「あ、もうそんな時間なんですね。ランチどうしよっかな」
「そうなんだね。それなら、今日は私と一緒にランチに行こう!教育係として、ランチを食べながら、いろいろ質問に答えてあげるよ。勿論、私が御馳走するよ~」
「え~!いいんですか~!行きます~!嬉しいです~!よろしくお願いします!」
―お~!瀧本先輩がランチに誘ってくれた~!めちゃくちゃ嬉しい~!―
僕が浮かれた表情をしていると、三島彩海が少しムッとした表情で僕を見ているのに気付いた。少し気まずい感じがして、申し訳なさそうな表情で三島彩海を見る。
僕と瀧本愛香がオフィスから出て、ランチに向かい、瀧本愛香が足を止めた。
「このお店でランチ食べよう。いろんな料理があるから、何でも好きな物食べていいよ」
「わぁ~、良さげなお店ですね。ありがとうございます!楽しみです~!」
二人で瀧本愛香お勧めの店に入ると、女性店員が笑顔で迎えてくれ、席に案内してくれた。二人で席に座り、メニューを見ると、たくさんの美味しそうな料理が並んでいる。
「どう?美味しそうでしょ~。何でも好きな物食べていいからね」
「はい。どれも美味しそうですね。え~と、僕はハンバーグランチセットにします!」
「うん!私はね~、パスタランチセットにするよ~」
店員を呼んで注文すると、瀧本愛香が笑顔で僕に言ってきた。
「まだ仕事が始まって二日目だけど、どう?困ってる事ない?大丈夫?」
「ありがとうございます。今のところ大丈夫です。瀧本先輩、頼りになりますし」
「嬉しい事を言ってくれるね。分からない事や困った事があったら、ちゃんと言ってね」
「はい。分かりました。それにしても、野田先輩、どうしちゃったんですかね。今日は会社に来なさそうですね。大丈夫だと思いますけど、ちょっと心配ですね」
「まぁ、心配っていえば心配だけど、それなりにベテランの人だし、大丈夫だと思うよ。今頃、二日酔いで寝ちゃっていて、明日はさすがに会社に来るでしょ」
「そうですね。後、万年筆がどうしても気になります。今日、家でしっかり探してみます」
「そうだね。今日しっかり探したら、きっと見つかるよ。見つかるように願ってるよ」
「はい。ありがとうございます。瀧本先輩に言われると、見つかる気がしてきました」
そんな会話をしていると、店員がハンバーグランチセットとパスタランチセットを運んで来た。僕がハンバーグを一口サイズに切り、口に入れると、口の中に旨味が広がった。
「ハンバーグ、すっごく美味しいです!このお店、最高ですね!」
瀧本愛香がカルボナーラのパスタを口に入れ、満面の笑顔で言う。
「カルボナーラも美味しいよ!ハンバーグも美味しいんだね!シェアして食べようよ!」
「はい!そうしましょう!楽しみです~!」
瀧本愛香がハンバーグを一口サイズに切り、口に入れる。僕がカルボナーラを口に入れる。瀧本愛香の口の中も、僕の口の中も、旨味が広がった。
「うん!ハンバーグも美味しいね!やっぱ、このお店の料理は、何でも美味しいわ!」
「はい!カルボナーラも美味しいです!さすが、瀧本先輩お勧めのお店ですね!」
―おぉ~!カルボナーラ美味しいけど、瀧本先輩が食べたカルボナーラという事で、より美味しく感じる~!幸せ~!僕が食べたハンバーグを瀧本先輩が食べてるのも、幸せー
「ありがと~!ところで、昨日、三島さんと二人で飲みに行ってたけど、楽しかった?」
「楽しかったですよ。三島先輩、明るくて話が面白くて、盛り上げ上手ですね~」
「そうだね~。私には無い明るさを持ってる女性だよね~。あの明るさは羨ましいよ~」
「え~!瀧本先輩には瀧本先輩の良さがありますよ。僕は、瀧本先輩の方が好きですよ」
―うわっ!とんでもない事を言っちゃった!瀧本先輩、どんな反応してるんだろ―
チラッと瀧本愛香の方を見ると、少し恥ずかしそうにしていて、頬が少し赤らんでいるように見える。
「すみません!僕に好きなんて言われて、迷惑ですよね。気にしないで下さいね」
「そんな、迷惑だなんて思ってないよ。三島さんより私の方が好きって言ってくれて、ありがとう。ちょっとドキドキしちゃったよ」
「瀧本先輩でもドキドキするんですね。ちょっと嬉しいです。さぁ、食べましょう!」
―瀧本先輩、まんざらでもない感じの反応だったな。ちょっと嬉しいな―
再び二人で楽しくおしゃべりしながら食べ進め、完食。そろそろ店を出る事になった。
「じゃあ、そろそろ行こっか。お金払ってくるね」
「はい!ありがとうございました!すっごく美味しかったです!御馳走様でした!」
瀧本愛香がレジで料金を支払い、二人で店から出て暫く歩き、オフィスに到着。席に座り、気持ちを切り替えて仕事に取り掛かる。データを使ってグラフを作成するやり方が分からず、瀧本愛香に訊ねると、瀧本愛香が丁寧に教えてくれた。更にどんどん仕事を進めると、時間が経ち、いつの間にか定時の時間になっていた。
「もうこんな時間だね。まだ仕事を始めて二日目だし、無理しないで帰っていいよ」
「そんな~。まだ中途半端ですし、もう少し仕事してから帰りますよ」
「お、やる気満々だね。でも、程々にしなきゃダメだよ。あとちょっとだけだよ」
瀧本愛香に教えてもらいながら仕事を進めていると、ふと、部長の大きな声が聞こえた。
「結局、野田、会社に来なかったな。連絡もして来ないし、明日来たら、お説教だな!」
「そうだ~!野田~!サボりなんてふざけやがって!明日覚悟しろよ!」
次長が変なテンションでそう叫んだのを聞き、瀧本愛香が小声で僕に言ってきた。
「何だか、今日の次長、変な感じだね。いつもはこんな人じゃないのにな」
「そうなんですね。確かに、今日の次長、昨日と比べて、変な感じがしますね」
「今日の次長には近付かない方がいいよ。さぁ、サッサと仕事終わらせよう」
更に二人でペースを上げて仕事を進め、僕の分の仕事が完了。
「お疲れ~!今日はよく頑張ったね!もう帰っていいよ」
「はい!瀧本先輩はまだ仕事するんですか?」
「うん。まだしなきゃいけない仕事があるから、もうちょっと仕事してから帰るよ」
「分かりました。無理しないで下さいね。お先に失礼します」
「ウフフ、私を気遣ってくれるなんて、お前、いい奴だな!お疲れ様~!」
僕が用意を済ませ、職場を出てエレベーターの前に到着。エレベーターを待っていると、後ろからポンと肩を叩かれ、直後に菅山香菜の声が聞こえた。
「お!タイミングが同じだね!お疲れ様でした~!瀧本、厳しかったでしょ?」
「菅山先輩!お疲れ様でした!ちょっと厳しかったですけど、僕を成長させようという想いが伝わって来て、嬉しかったですよ!」
「へ~、瀧本、いい後輩に恵まれて幸せ者だね。どう?これから二人で飲みに行こうよ!」
―お、菅山先輩から飲みに誘われた!瀧本先輩の同期だよな。彩海が気になるところだけど、瀧本先輩に関するいろんな話が聞けるかもしれないし、ここは行っとくか~―
「はい!行きます!ありがとうございます!楽しみです!」
二人でオフィスから出て、いろいろな話をしながら暫く歩き、菅山香菜が足を止めた。
「着いたよ!このお店、お洒落でお酒も料理も美味しくて、いいお店だよ~!」
「ほんとですね~!見るからにお洒落でいいお店って感じがします~!」
店に入り、お酒と美味しい料理を満喫。瀧本愛香が、『部下を指導する時に気を付けるポイント』という本を読んでいる事を、菅山香菜から聞き、嬉しくなった。店を出て、楽しくおしゃべりしながら暫く歩いていると、ふと、菅山香菜が僕に言ってきた。
「ねぇ、今日私の部屋に泊まっていってよ。実は私、彼氏と別れたばっかりで、寂しいのよ。私の事、いっぱい慰めてよ」
「そうだったんですか!びっくりしました!でも、僕なんかでいいんですか?僕が菅山先輩の部屋に行って、慰められるかどうか分かりませんよ。それに、僕、一応男ですし、大丈夫ですか?」
「いいよ~。君の事、すっかり気に入っちゃったし、今夜は君と一緒に過ごしたいの」
―菅山先輩の部屋に行っていいのかな。昨日、彩海と付き合い始めたばっかりだしな。でも、菅山先輩をほっといて帰りづらいな。ま、いいか。菅山先輩が僕なんかに迫ってくるとは思えないし、慰めるだけだよな―
「分かりました!行きます!僕なりに精一杯、菅山先輩を慰めさせて頂きます!」
「それでいいのよ!いっぱい慰めてもらうよ!じゃあ、行くよ!」
二人で駅に向かって歩き、電車に乗って、菅山香菜の部屋の最寄り駅に到着。菅山香菜が僕の手を握り、僕を引っ張って歩く。僕が菅山香菜に引っ張られながら歩く。暫く歩き、菅山香菜の部屋があるマンションの前に着いた。
「着いたよ!ここが私の住んでるマンションだよ!さぁ、入って~!」
「これが菅山先輩の住んでるマンションなんですね。高級マンションって感じですね」
二人で菅山香菜が住んでいるマンションに入り、エレベーターに乗って上がり、廊下を少し歩くと、菅山香菜の部屋の前に到着。菅山香菜が鍵を使ってドアを開け、二人で中に入った。勿論、部屋の中は真っ暗。菅山香菜が鍵をかけ、二人で靴を脱いで部屋に上がると、菅山香菜がいきなり僕に抱き付いてきた。
「ちょ、ちょっと、菅山先輩、どうしたんですか?真っ暗ですし、こけたら大変ですよ」
「ねぇ、私をいっぱい慰めてくれるんでしょ。どうやったら私を慰められるか、分かるでしょ。こっち向いてよ」
菅山香菜が僕の肩を掴み、クルッと回転させ、いきなり唇を僕の唇に合わせ、舌を僕の口の中に入れ、僕をぎゅ~っと強く抱き締めてきた。暫くの間、濃厚にディープキス。唇をそ~っと離し、優しく微笑む。
「ねぇ、お願い!私の恋人になって、私を愛して!私をいっぱい慰めてくれるんでしょ?私をいっぱい愛してくれたら、私、すっかり慰められて、元気になれるよ!」
菅山香菜にそう言われ、少し迷ったが、慰めるため、意を決する。
「はい。菅山先輩、僕でよろしければ、よろしくお願いします!」
「ウフフ、やった~!ありがと~!これからは、私の事、香菜って呼んでね!」
唇と唇を熱く重ね合わせ、舌と舌をグリグリと絡め合い、ぎゅ~っと熱く強く抱き締め合いながら、勢い良くベッドに雪崩れ込み、無我夢中で時間が経つのを忘れてひたすら熱く激しく愛し合いまくった。
二人でベッドに横になり、イチャイチャしながら過ごしている時、幸せな気分で心地良い眠りについた。
その頃、瀧本愛香は遅くまで残業した後、オフィスを出て、ブラブラと買い物をしていた。何か買いたい物があるかもしれないと思いながら、いろいろな店に入り、見て回ると、一つの鞄が目に入った。瀧本愛香好みの色とデザインで、気持ちが買う方向に向かいつつあるが、買うかどうか迷う。
―この鞄、お洒落でいい色でデザインいいし、買うかどうか迷うな。値段も手頃だし、思い切って買っちゃえ!―
瀧本愛香が、気に入った鞄を購入し、店を出て御機嫌で街を歩く。ルンルン気分で歩いていると、ふと、男性の声が聞こえた。
「ねぇねぇ、君、すっごく綺麗でセクシーだね!これから俺と一緒に飲みに行こうよ!」
―うわっ!ナンパだ!仕事帰りにナンパされるなんて、こんな事あるもんなんだな~。それにしても、かっこいいけど軽そうな男だな。こんな男に付いて行ったら、お酒を飲まされまくって、酔い潰されて、襲われそうだな。初めから行かないのが得策だな―
「ごめんなさいね~。ちょっと急いでるの。じゃあね~」
「え~!そんな事言わないでよ~。ちょっとだけでいいからさ~」
「無理!本当に急いでるから、もう行くね~」
実際は急いでいないが、ナンパを断る為に嘘をつき、その場を足早に立ち去った。ナンパされた事を少し嬉しく感じながら家路につき、自分の部屋に到着。うがい手洗いを済ませ、服を脱いで下着姿になり、部屋着に着替え、晩御飯をテキパキと食べ進めて完食。浴室に入り、シャワーを浴びて身体を洗い、湯船に肩まで浸かりながら、今日の出来事を振り返る。
―今日の仕事は充実してたな。あいつに対して、厳しいだけじゃなく、ちゃんと優しい言葉も掛けてあげられてるのかな。そういや、野田さんが会社に来なかったの、単なる二日酔いのサボりなのかな。明日も会社に来なかったら、さすがに心配だな。あ、そうだ!あいつ、万年筆まだ見つかってないって言ってたな。かなり気にしてたし、大切な万年筆なんだろうな。まさか、野田さん、あいつの万年筆を盗んで売って、逃げたんじゃないだろうな。あはは、まさか、そんな訳ないか。さぁ、そろそろお風呂から出よう―
お風呂から上がり、下着と部屋着を着て、のんびり寛ぎながら、考え事をしてしまう。
―あいつは、今何してるんだろ~。もしかして、彼女と一緒に過ごしてるのかな。あ、またあいつの事を考えてる!プライベートを詮索しちゃダメだ!明日もあいつをしっかり教育しなきゃな~!―
ふと、時計を見ると、いつの間にか日付が変わろうとしている。歯磨きとトイレを済ませ、ベッドに横になると、すぐに眠りについた。
翌朝、目が覚め、朝御飯を食べ、気分的に大人の雰囲気が漂う服を着て、大人の魅力溢れる化粧をして、早速、昨日買った鞄を携え、部屋を出て、少しウキウキした気分で、会社に向かった。
これから僕はどうするのか?僕の大切な万年筆は見つかるのか?
朝、僕がキスで菅山香菜を起こし、ベッドから出て、シャワーを浴び、下着と服を着る。菅山香菜が朝御飯にパンとサラダを出してくれて、二人でパパッと食べ進め、一気に完食。僕が菅山香菜の部屋を出て、自分の家に向かった。
自分の家に到着し、大切な万年筆を探す為、思い当たる場所を探し回る。思い出しながら、いろいろな場所を次々と探すが、どうしても見つからない。時間がどんどん経ち、そろそろ会社に行く準備をしなければいけない時間になった。万年筆を探すのを止め、会社に行く用意に取り掛かる。お気に入りのシャツとスーツを着て、鞄を持ち、革靴を履いて、家を出発。電車に乗り、暫く歩いて会社に到着。職場に着くと、既に瀧本愛香が席に座って仕事に取り掛かっている。
「瀧本先輩、おはようございます。今日は早く着いたかなと思ったんですけど、瀧本先輩の方が早かったですね」
「おはよ~!さっき来たばかりだよ。まだ始業時間まで時間あるし、そんなに焦らなくていいよ」
僕が仕事を始める準備を進め、席に座り、パソコンを操作すると、すぐに瀧本愛香が、満面の笑顔で僕に言ってきた。
「何だかやる気満々って感じだね。今日はさすがに一昨日と昨日とは違う服装なんだね。似合ってるよ」
「ありがとうございます!すっごく嬉しいです!実は、瀧本先輩が気に入ってくれる服装ってどんな服装なのかな~って考えて、結局、気に入ってる服装で会社に来ました。瀧本先輩、その鞄、めっちゃお洒落で綺麗ですね。新品っていう感じがして、すっごくいいと思いますよ」
「ありがと~!実はね、昨日、お店で見て、ビビッときて、我慢できずに買っちゃったの。期待以上の反応で、すっごく嬉しいよ!」
僕と瀧本愛香が仕事を進めていくと、始業時間が少し過ぎた時、部長の大きな声が職場に響いた。
「どうなってんだ!野田は今日も会社に来てないし、次長まで来てないぞ!」
「本当ですね。野田さん、二日連続で会社に来ないなんて、さすがに酒のせいではなさそうですね。次長なんて、普段会社をサボる人じゃないのに、何も言わずに会社に来ないなんて、只事ではないですね」
「そうなんだよ。野田はともかく、次長がサボりなんて、只事じゃないよ!さすがに心配だし、俺から二人に電話してみるよ」
次長と野田圭吾に電話したが、二人共出ない。
「二人共、電話に出ないぞ!どうなってるんだ~!」
「部長、落ち着いて下さい。二人からそのうち連絡があるかもしれませんし、少し待ってみましょうよ。連絡が無ければ、野田さんは二日目ですし、野田さんの家に行くのも考えないといけませんね」
「そうだな。高杉、お前は冷静だな。少し待ってみるか」
部長と高杉稜介の会話を聞き、瀧本愛香が僕に言う。
「今日は、野田さんだけじゃなく、次長まで会社に何も言わずに来てないんだね。何だか、只事じゃなさそうだね。野田さんなんて、二日目だし、心配だよ~」
「そうですね。こんなに無断欠勤が続くと、さすがに心配になりますね」
「ほんとだよ。ところで、大切にしてる万年筆は見つかったの?」
「それが、家にも鞄の中にも無いんですよ。ほんとに困ってます」
「見つかってないか~。ちょっと考えちゃったんだけど、その万年筆、すっごく高価な物なの?まさかとは思うけど、野田さん、何かの拍子で、その万年筆を手に取って、悪い思いに駆られて、持ち去っちゃったなんて事、あるかもしれないな~って」
「え~!さすがに野田さん、そんな事しないと思いますけどね。そもそも、あの万年筆、そんなに高価な物じゃないと思いますよ」
「まぁ、野田さんが持ち去ったなんて事、ないと思うけどね。でも、その万年筆、意外と高級品かもよ。じゃあ、仕事を再開しよう。このデータを基に、提案する内容を考えるよ!」
「はい!何だか、クリエイティブな仕事ですね!頑張ります!」
僕と瀧本愛香が、様々なデータを基に、イベントで提案する内容を考える。瀧本愛香が、いくつかのアイディアを僕に言って、意見を求めてきた。どれも良いアイディアで、そのままでいいと考え、瀧本愛香に言うと、もっと考えるように言われ、データを基に考えようとした時、急に森崎悠磨が、物凄い勢いで僕に言ってきた。
「おい!さっきから見てたけど、イライラするなぁ!もっとしっかりしろよ!単なるイエスマンなんて、いらねぇんだよ!」
僕がびっくりして固まっていると、瀧本愛香が森崎悠磨を睨みながら怒鳴った。
「森崎!何だ、その言い方は!新入社員をビビらせて楽しいのか!お前、あっちの部署だろ!自分の部署に帰って、自分の仕事をしっかりしろよ!」
瀧本愛香に言われ、森崎悠磨が舌打ちをしながら、自分の部署に戻って行った。
「瀧本先輩、ありがとうございました。森崎先輩、どうしちゃったんでしょうね」
「そうだね。森崎君、普段はどっちかと言えば大人しい感じの社員なのに、今日はおかしいよね。さ、気を取り直して、仕事しよっ!」
「はい!ちょっとデータを基にして考えてみます」
様々なデータを基にして、瀧本愛香からのアイディアがもっと良くなるように考える。チラッと瀧本愛香の方を見ると、自分の仕事に集中している。データと瀧本愛香のアイディアを交えて、必死に頭を巡らせて考える。すると、瀧本愛香のアイディアをより良くするデータを見つけた。瀧本愛香に言うと、他にマイナス要因があると言われ、改めて瀧本愛香の凄さを感じる。瀧本愛香の大きなおっぱいが僕の身体に当たると、あまりの気持ち良さに幸せな気分になり、ニヤニヤしているところを、瀧本愛香に笑顔で指摘された。更に仕事を進めていると、ふと、部長の大きな声が響いた。
「結局、次長も野田も会社に来てないぞ!電話にも出ないし、あいつらの家まで行って、様子を見て来るか~!」
「分かりました。さすがに心配ですね。僕が見て来ましょう」
「そうか。助かるよ。直帰せずにちゃんと会社に戻って来て、報告してくれよ」
「分かりました!では、行ってきます!」
高杉稜介がそう言って、外出の準備をして歩き出す。
「高杉さん、お疲れ様です。仕事が溜まってるなら、私がやっておきましょうか?」
「いいよ~。そんなに仕事溜まってないし、野田さんの家の最寄り駅に、前から行きたかった有名なラーメン屋があるから、そこでランチを食べるよ」
瀧本愛香の言葉に高杉稜介が返答し、高杉稜介がオフィスを出た。僕と瀧本愛香も、二人でランチに向かおうとした時、三島彩海の少し焦った大きい声が響いた。
「待って下さい!私も一緒にランチに行きま~す!」
「うん!いいよ!三島さんが言ってくるなんて、珍しいね」
「エへへ、今日は、是非とも瀧本さんと一緒にランチ食べたい気分なんです」
三人で職場を出て、エレベーターの前で待っていると、急に、菅山香菜が走って来た。
「私も一緒にランチ行くよ!三人より四人の方が楽しいよ!」
「うん!いいよ~!行こう!菅山が走って来るなんて、びっくりしたよ」
四人で会社を出て、おしゃべりしながら暫く歩き、ランチを食べる店の前に到着。店に入って席に座り、店員を呼んで注文し、いろいろな話をしていると、店員が次々と注文した料理を運んで来た。どの料理も美味しく、他の人が食べている料理が美味しそうに感じ、シェアしてどんどん食べ進め、完食。瀧本愛香が僕の分の支払いを済ませてくれて、僕がニッコリ笑顔で御礼を言う。店を出て暫く歩き、職場に到着。勿論、高杉稜介の姿は無い。
瀧本愛香が、笑顔で張り切りながら、僕にイベントのプレゼン資料に関する仕事を教える。瀧本愛香の熱心な教育により、僕がどんどん仕事に慣れてきて、仕事の速さと成果が上がる。そろそろ定時になろうかという時、職場に高杉稜介と部長の声が響いた。
「今帰りました!でも、次長にも野田さんにも、会えませんでした」
「え!どういう事だ!二人共、家にいなかったという事か?」
「まず、野田さんの家に行ったんですけど、野田さんの家のインターホンを鳴らしても、ドアをノックしても、ドア越しに呼んでも、電話しても、返答が無かったんです。次長の家に行ったら、不思議なんですけど、次長の奥さんから、次長が外出したので会社に行ったのかと思ったって言われたんです。野田さんはともかく、次長は不思議ですよね。一体、何処に行ったんでしょうね」
「え~!野田は家で寝てる可能性があるけど、次長は一体何処に行ったんだろうな。警察に言うと、話が大きくなるだろうし、ここはもう一日だけ待ってみよう。明日も無断で会社に来なかったら、警察に連絡するぞ!」
二人の会話が聞こえ、瀧本愛香が僕に言ってきた。
「次長も野田さんも、まだ見つかってないみたいだけど、もう定時過ぎてるし、イベントのプレゼン資料も順調に進んでるし、もう帰って大丈夫だよ。私ももう少しで会社を出るよ」
―瀧本先輩と一緒に、飲みに行きたいな。今日誘ったら、一緒に行ってくれるかな。思い切って、瀧本先輩を飲みに誘ってみよう!―
「瀧本先輩、僕と一緒にこれから飲みに行きませんか?いろんなお話を聞きたいです」
僕からの思いがけない飲みの誘いに、瀧本愛香が少し驚いた表情を見せ、暫く間を置いてから、申し訳なさそうに僕に言ってきた。
「ほんっとうにごめん!今夜は、同期の社員と食事をする事になってるの。何か、大切な相談事があるみたいで、さすがに断れないの。でも、明日なら行けるよ!明日、一緒に飲みに行こう!お店は、好きなお店でいいからね。明日、楽しみにしてるよ!」
「はい!分かりました!僕も明日、すっごく楽しみです!今日は同期の方の相談事を聞いて、楽しく飲んで下さいね」
「うん!ありがと~!今日の食事より、明日のお前との飲みの方が、ずっと楽しみだよ!」
「そう言ってもらえて、すっごく嬉しいです!じゃあ、僕はもう帰りますね。お先に失礼します。家に帰って、もう一度しっかり万年筆を探します!」
「うん!きっと万年筆見つかると思うよ。見つかるように祈ってるよ!」
僕が帰る準備を整え、職場を出て歩き、エレベーターホールに到着。エレベーターを待っていると、後ろから肩をポンと叩かれ、藤森美幸の声が聞こえた。
「お!帰るタイミングが一緒だね!もう帰っちゃうの?ここで会ったのも何かの縁だし、これから一緒に飲みに行こうよ!」
「いいですね。行きましょう!藤森先輩お勧めのお店、楽しみです!」
「お!そうこなくっちゃ!じゃあ、行くよ!」
二人で会社を出て、居酒屋で食べて飲み、会計を済ませ、店を出て、楽しくおしゃべりしながら歩いていると、急に、僕の目に、驚きの光景が入った。瀧本愛香が、僕の知らない男性と一緒に歩いている。
―え!瀧本先輩だ!男の人と一緒だ!同期の社員って、男性だったんだな!それにしても、瀧本先輩、楽しそうに話してるなぁ。瀧本先輩のこんなに楽しそうな笑顔、初めて見たかも。あの人、もしかして、瀧本先輩の彼氏なのかな。これから二人で何処に行くんだろうな。まさか、ホテル?それとも、瀧本先輩の部屋?こんな光景、見たくなかった!―
僕が悲しそうな表情をしているのを見て、藤森美幸が僕に言ってきた。
「どうしたの?急にテンション低くなっちゃったね。何かあったの?」
「いえ、別に何もないです。僕、元気ですよ!」
僕が無理矢理笑顔を作るが、やはりぎこちなく、益々、藤森美幸が僕を気に掛ける。周りをキョロキョロ見回し、瀧本愛香に気付き、「なるほど~」という表情を浮かべた。
「ねぇ、瀧本さんを見たんでしょ?男の人と歩いてるね。あの人、かっこいいよね。瀧本さんの同期だね。あの二人、お似合いだね。たぶん付き合ってるんだろうな。これからホテルか瀧本さんの部屋に行くのかな。熱~い夜を過ごすんだろうね~」
「止めて下さい!別にいいですよ!瀧本先輩が幸せなら、僕はそれでいいんですよ」
「君、ほんとにいい子だね!ほんとは、悲しくて仕方がないだろうにね。我慢しなくていいんだよ。今日は私が慰めてあげよう!これから私の部屋に来てよ!いっぱい慰めてあげるよ!」
「はい!喜んで行きます!こうなったら、いっぱい慰めてもらいます!」
「お~!嬉しい!任せてよ!いっぱい慰めてあげるよ!」
二人で電車に乗り、藤森美幸のマンションの最寄り駅に到着。御機嫌の藤森美幸に手を引っ張られながら少し歩き、藤森美幸のマンションの前に着いた。
「着いたよ。このマンションに私が住んでるんだよ!そんなに高級なマンションじゃないけど、駅から近いし、すっごく気に入ってるよ!」
「なかなかいいマンションですよ!藤森先輩の部屋に入るの、めっちゃ緊張します」
二人でマンションに入り、エレベーターで上がって廊下を歩き、藤森美幸の部屋の前に到着。藤森美幸が鍵を使ってドアを開け、二人で部屋に入り、電気をつけると、綺麗に整理整頓された部屋が、僕と藤森美幸を迎えてくれた。すると、突然、抑えていた感情が爆発したかのように、藤森美幸が僕の頭に腕を回し、おっぱいの谷間に僕の顔を埋めた。
「ふ、藤森先輩、どうしたんですか?息ができなくて苦しいです!」
「私の胸の中で、いっぱい泣いていいんだよ。我慢しなくていいんだよ。いっぱい慰めてあげるからね。私で良かったら、君の恋人になってもいいんだよ」
「え!いきなり何言ってんですか!いくら慰めでも、僕に同情なんてしないで下さいよ」
僕の言葉を聞き、藤森美幸が僕の顔を上げ、自らの顔を近付けてきた。
「同情なんかしてないよ!私、君が瀧本さんに熱を上げてるの、微笑ましく見てた反面、悔しい想いもしてたんだよ。今日、瀧本さんが男性社員と一緒にいるところを見て、君がすごくショックを受けてるのが分かって、慰めようと思ったのもあるけど、私にチャンスが来たとも思ったの。私、君の事が好きになっちゃった。瀧本さんなんか忘れて、私と恋人同士になって!今夜、いっぱい愛し合って、瀧本さんを忘れさせてあげる!」
「藤森先輩、本気なんですか?急にそんな事言われて、ちょっと信じられない気分ですよ」
僕の言葉を聞いた直後、藤森美幸が唇を僕の唇にグッと重ね合わせてきて、舌を僕の口の中に入れ、僕の舌と絡めてきた。暫くの間、濃厚にディープキス。唇をそ~っと離し、藤森美幸がニッコリと微笑んだ。
「これで信じてくれた?私、君の事が本当に好きなの!大好きだよ!私と付き合って!」
「分かりました。藤森先輩と付き合います!よろしくお願いします!」
「やった~!めっちゃ嬉しい~!ありがと~!これからは美幸って呼んでね!」
二人でじ~っと見つめ合う。唇と唇を熱く重ね合わせ、舌と舌をグリグリと絡め合い、ぎゅ~っと熱く強く抱き締め合いながら、勢い良くベッドに雪崩れ込み、時間が経つのを忘れて気が狂ったようにひたすら熱く激しく愛し合いまくった。
二人でベッドに横になり、ぎゅ~っと抱き締め合っていると、心地良く幸せな気分に包まれて眠りについた。
その頃、瀧本愛香は、同期の社員との食事を終え、一緒に歩いていた。僕に見られていたのには気付いていなかった。
「今日は楽しかったね。やっぱ、たまに同期と話すのはいいね」
「そうだね。今日は私の相談事に乗ってくれて、ありがとうね。お陰ですっきりしたよ」
「いいよ~。そりゃ、見た目が男性に見えるから、いろいろ誤解されるよね。大変だと思うよ。それにしても、上司が宇田を男性扱いするなんて、ひどいね!女性と分かってるのに男性扱いして、重い物を持たせるって、最悪だよ!」
「ほんとだよ~。まぁ、私が女性なのに、ネクタイ締めて、男性が着てもいいスーツを着てるのも、悪いのかもしれないけど、私、こういう恰好するのが好きだから、自分に正直に生きたいんだよね。上司に男性扱いするなって言うように、瀧本に言われて、決心が付いたよ!自分でしっかり言うよ!」
「うん!宇田が元気になってくれて良かったよ!」
実は、僕が見た瀧本愛香の同期社員は、女性だった。宇田は名字で、下の名前は麗子という。見た目で男性社員と勘違いしていただけだった。この時の僕は、気付いていなかった。しかし、藤森美幸は、この社員が女性だと知っていた。僕の瀧本愛香への想いを消す為に、わざと、この社員が男性だと僕に思わせるように振る舞ったのだ。僕はまんまと藤森美幸に騙されてしまっていた。
瀧本愛香が宇田麗子と駅で別々の電車に乗り、最寄り駅に着いて暫く歩き、コンビニに寄ってお茶を購入。更に少し歩き、瀧本愛香の部屋に到着。
早速、浴室に入ってシャワーを浴び、大きなおっぱいとふくよかなお尻を丁寧に洗う。
―自分で言うのもなんだけど、私、おっぱいとお尻、すっごく大きいよな~。自分で洗っていて、弾力があって、気持ちいいな。新入社員のあいつに洗ってもらったら、どんなに気持ちいいんだろうな。え、私、何考えてんのよ!教育してるあいつを好きになってどうすんのよ!私がしっかり教育して、あいつを一人前にしなきゃいけないんだからね!そういや、あいつ、大切にしてる万年筆を見つける事ができたのかな。かなり気にしてたし、見つかるといいけどな。あいつ、今何してるんだろ。万年筆を探してるのかな。それとも、まさか、彼女と一緒に過ごしてるのかな。そもそも、あいつに彼女がいるのかな。明日、あいつと一緒に飲みに行くのか~。ドキドキするし、楽しみだな~―
お風呂から上がり、寝る準備を整え、ベッドに横になって目を閉じると、いつの間にか心地良い眠りについた。
翌朝、目が覚めて時計を見ると、思ったよりも遅めの時間に驚き、慌ててベッドから出て、ササッとシャワーを浴び、裸のまま朝御飯でパンとサラダを食べ、歯磨きを済ませ、鏡の前に移動して化粧に取り掛かる。
―どんな化粧がいいかな~。今日、あいつと一緒に飲みに行くし、ちょっと色っぽい感じの、キスしたくなる化粧にしよ~っと。あ、また変な事考えてる~。まぁ、いいか。色っぽい感じの化粧でいくぞ!―
キスを誘う感じの化粧を進め、化粧が完了。下着を着て、一番お気に入りの服を着て、大きな鏡の前に立ち、自分の容姿をしっかりチェックする。
―うん!今日の私、自分で言うのもなんだけど、めっちゃ綺麗だ!あいつとの飲みで、いい事あるといいなぁ!じゃあ、行くぞ!―
部屋を出て、駅に向かって歩き、電車に乗り、御機嫌な感じで暫く歩き、会社に到着した。
その日の朝、藤森美幸のキスで目が覚め、二人でベッドから出て、シャワーを浴び、朝御飯を食べ、僕が藤森美幸の部屋を出て、電車と徒歩で家に到着。
どうしても気になり、大切にしている万年筆を探し回る。鞄の中を隅から隅までチェックし、部屋の中を隅から隅まで見て回るが、やはり見つからない。万年筆を探すのを止め、家を出発し、会社に到着。オフィスに入ると、瀧本愛香が既に席に座っていて、仕事に励んでいる。
「瀧本先輩、おはようございます。相変わらず、朝早いですね」
「おはよう。私もさっき来たところよ。まだ始業時間前だし、そんなに焦らなくいいよ」
朝の挨拶を済ませた後、ふと、昨日見た光景が気になった。
―瀧本先輩、昨日の夜、男の人と一緒に二人で歩いてたな。あの後、一体、その人とどうなったんだろうな。勇気を出して、訊いてみよっかな~―
僕が露骨に迷っていると、瀧本愛香が、たまりかねて僕に言ってきた。
「ねぇ、さっきから、私に何か訊きたい事あるの?すっごく迷ってる表情をしてるよ」
「はい。実は、昨日の夜、瀧本先輩が、男の人と一緒に歩いてるのを、見ちゃったんですよ。あの男の人、彼氏ですか?昨日その光景を見てから、気になって、何も手に付かないんですよ」
「え!あんな所をあんな時間に歩いてたのを、お前に見られてたのか!めちゃくちゃ恥ずかしいよ!一緒に歩いてた人、男っぽく見えるけど、実は、女性なんだよ!私の同期社員で、宇田麗子って名前なの。本人も、男性に間違われるの、すっごく気にしていて、昨日、相談に乗ってあげてたんだよ!変な誤解をさせちゃったね。真相が分かった事だし、しっかり集中して仕事してね!」
「そうだったんですね!あの人が女性だなんて、びっくりです!って言ったら、その人に失礼でしたね。一度、その方とお話してみたいです!」
「そうか。じゃあ、今日の夜、飲みに行くの、宇田も誘ってみるか?飲みながらいっぱい話せばいいんじゃない?」
―あ!しまった!折角、瀧本先輩と二人で飲みに行く事になってたのに、余計な事を言っちゃったな。まぁ、仕方ない。その人にも興味あるし、誘ってもらうか―
「はい!ありがとうございます!楽しみにしてます!」
その直後、瀧本愛香が宇田麗子に電話し、飲みに誘う。
「もしもし、麗子です。朝からどうしたの?」
「宇田、朝から電話してごめんね~。実はね、昨日の夜、宇田と一緒に歩いてるところを、新入社員の男の子に見られてたみたいで、その男の子が、宇田と話したいって言ってるの。良かったら、今日、私とその男の子と一緒に飲みに行かない?」
「へ~!私と話す為に一緒に飲みに行きたいなんて男性、珍しいね!まぁ、私より、瀧本と一緒に飲みに行きたいんだろうけどね。いいよ~!とっとと仕事を終わらせて、ぱ~っと飲みに行こう!」
「あはは。私より宇田に興味を持ってるかもしれないけどね!ありがと~!じゃあ、後でね!一階のロビーで待ち合わせでお願いね!」
電話を切り、再びパソコンに向かって仕事を始める。
その頃、僕はトイレでうがい手洗いをしながら、いろいろな事を考えていた。
―瀧本先輩と一緒にいた人、まさか、女性だったとは!しかも、瀧本先輩の同期社員だなんて、びっくりだな!あの時、声を掛けなくて、本当に良かった!僕、やっぱり、瀧本先輩の事、好きなのかな。それにしても、美幸、知ってるくせに、あの女性の事を男性って、僕に嘘をついたんだな。でも、僕の瀧本先輩への想いを無くす為の行動だったんだろうな。それだけ、僕を愛してくれてるって事だよな。嬉しいような、腹が立つような、複雑な気分だな!瀧本先輩と一緒に飲むの、すっごく楽しみだな!宇田先輩と一緒に飲むのも、ちょっと楽しみ~―
うがい手洗いを済ませ、席に戻ると、既に瀧本愛香が真剣な仕事モード。僕に気付き、ニッコリ笑ってくれた。
「宇田、今日飲みに行けるって。楽しみだね!さっさと仕事を終わらせなきゃね~」
「はい!楽しみです!そうですね~。頑張って早く仕事を終わらせましょう!」
僕が席に座り、パソコンの電源を入れ、仕事に取り掛かる。今日も瀧本愛香の指導が的確で、やるべき仕事を丁寧に教えてくれ、瀧本愛香の髪から良い香りがして、気分良く仕事に取り組む。二人で順調に仕事をこなしていると、ふと、他部署の部長が、こっちの部署に来て、大きな声で言ってきた。
「おい、皆、森崎を見なかったか?今日、会社に来てないんだよ。連絡も無いし、こっちから電話しても出ないし、サボってやがるのかな~!」
その言葉に対し、こっちの部署の部長が答える。
「いや、見てないなぁ。森崎が来てないのか~。まぁ、サボっていてもおかしくない感じの男だけどな。それにしても、うちの部署の次長と野田、今日も会社に来てないし、さっきから何回も電話してるのに、電話に出ないし、最近どうなってるんだ!高杉、何か知ってるか?」
「え!そういや、今日も来てませんね。私は何も知らないです。今日は森崎も来てないんですね。ほんと、一体どうなってるんでしょうね」
「さすがに心配だし、俺が後で次長と野田の家に行って、様子を見て来るよ。場合によっては、警察に言わなきゃいけないかもな。あいつら、ふざけんなよ~!」
「おいおい、そんなに大きな声で叫ぶなよ。森崎の事は、こっちで調べてみるから、そっちはそっちで確認しといてくれよ」
三人の会話が終わり、瀧本愛香が僕に小声で言ってきた。
「森崎君、会社に来てないんだね。次長と野田さんは、相変わらず今日も会社に来てないし、どういう事なんだろうね。一日一人、急に会社に来なくなった社員がいるって感じだよね」
「ほんとですね。森崎先輩まで会社に来てないなんて、異常事態ですね。次長と野田さんも会社に来てなくて、本当に心配です」
「そうだね~。ところで、無くなったって言ってた、大切にしてる万年筆は、やっぱり見つかってないの?」
「まだ見つかってないんですよ。代々受け継がれてきた大切な万年筆なので、すっごく困ってるんです~」
「そうか~。こんなに探しても見つからないなんて、不思議な事もあるもんだな。もしかしたら、警察に届いてるかもしれないぞ。一度、警察署に行って、相談してみたらどうだ?」
「それも考えてます。もう少し探してみて、見つからなかったら、警察署に行って、相談してみます」
「うん。早く見つかるといいな。私も、会社にいる時は、意識しながら過ごすよ。さぁ、仕事の続きだ~!」
僕と瀧本愛香が、再び仕事に取り掛かる。イベントが迫っている事もあり、瀧本愛香の表情が引き締まっていて、僕も瀧本愛香の指導を受けながら、順調に仕事をこなしている時、部長の大きな声が響いた。
「じゃあ、次長と野田の家に行って来るよ!状況次第では、警察に連絡しなきゃいけないな~。あ~、なんでこんな事になったんだ~!忙しいのに~!」
部長が早足でオフィスを出た。高杉稜介が、瀧本愛香と僕のところに来て、やれやれといった表情で言う。
「今日の部長、何か変だよな。普段、こんなに荒れた感じにならない人なんだけどな」
「確かに、今日の部長、変ですね。こんなに感情を剥き出しにしてる部長、初めて見ました」
「そうなんですか。まだ部長の事、よく知らないですけど、普段は落ち着いた感じなんですね」
「それにしても、次長も野田さんも森崎も、なんで急に会社に来なくなったんだろうな。部長、本当に警察に相談するかもしれないな」
「そうですよね。森崎君は今日だけですけど、野田さんは三日目で、次長は二日目ですし、本当に心配ですね」
「そうですね。次長も野田さんも森崎さんも、本当に心配です」
三人でそれぞれの仕事に戻る。瀧本愛香が気持ちを切り替え、仕事に励みながら、僕の仕事ぶりをチェックし、気が付いた事を的確にアドバイスする。
―瀧本先輩のアドバイス、めっちゃ勉強になるなぁ。僕、やっぱり、一番好きな人は、瀧本先輩だよな。彩海と香菜と美幸と過ごしてる時よりも、瀧本先輩と過ごしてる時の方が、幸せな気分に浸ってるもんな。あ、今、仕事に集中してない!集中しなきゃ!―
二人でどんどん仕事を進めていく。気が付くと、もう昼休憩の時間。
「そろそろランチに行くか。お前の行きたい店でいいぞ!」
「はい!行きましょう!今日は、気分的に、ラーメンを食べたいです。いいですか?」
「ラーメンなんて、久し振りだな。勿論いいぞ!行きたいラーメン屋があるの?」
「はい!その店のラーメン、是非、瀧本先輩と一緒に食べたいんです!」
二人でオフィスを出て、楽しくおしゃべりしながら歩く。その時、瀧本愛香が、僕と手を繋いでいる事に気付いた。
「あ、いつの間にか、お前の手を握ってたな!ご、ごめん」
「え!いや、謝らなくていいですよ。瀧本先輩と手を繋げて、嬉しいですよ。このまま、手を繋いでいてもいいですか?ラーメン店には、僕が案内しますので」
「え!ま、まぁ、いいけど。お前の手、大きくて分厚いな。当然だけど、男の手~って感じがするよ」
「そう言って頂けて、嬉しいです。瀧本先輩の手、温かくて柔らかいですね」
「な、何言ってんだ、お前!くだらない事を言ってないで、しっかりラーメン店に案内してくれよ!」
「本心ですよ~!ちゃんと案内しますよ。さぁ、もうすぐ着きますよ!」
二人で更に歩き進み、お目当てのラーメン店に到着。店に入り、店員に案内され、席に座る。一番人気のラーメンを注文し、談笑していると、すぐにラーメンが二つ運ばれて来た。早速、箸でラーメンを掴み、口の中に入れて、すすり込む。
「お~!めっちゃ美味しい~!このラーメンを食べたかったんですよ~!瀧本先輩と一緒に、こんなに美味しいラーメンを食べられて、幸せです~!」
「うん!ラーメン自体、久し振りに食べたけど、すっごく美味しいね~!お前がこのラーメンを食べたいと思った気持ち、分かるよ~!」
一気に完食し、レジに向かい、お互いのラーメン代を払い合い、ラーメン店を出て、オフィスに戻ると、高杉稜介が慌てながら、瀧本愛香と僕のところに駆け寄って来た。
「さっき、部長から電話がかかってきたんだけど、様子が変なんだよ。ワーワー騒いで、何を言ってるのか、よく分かんないし。とりあえず、次長も野田さんも、インターホンを鳴らしても出て来なかったというのは、何とか聞き取れたよ。警察に相談するかどうかは、分からないな」
「そうなんですね。次長も野田さんも、心配ですけど、部長がそんなに取り乱すなんて、普段の部長からは、考えられないですね」
「そうですよね。次長と野田さん、何処に行ったんでしょうね。部長も混乱してるみたいで、原因が気になりますね」
三人で、それぞれの仕事に取り掛かる。イベントを成功させる為、瀧本愛香がプレゼンのパワーポイント用のデータをどんどん作成し、僕が基となるデータをまとめる。時々、瀧本愛香が僕に的確なアドバイスをしてくれて、瀧本愛香の良い匂いがして、ドキドキしながら仕事を進める。イベント成功に向けての仕事がどんどん進み、瀧本愛香の笑顔が弾け、僕も嬉しくなる。更に仕事を順調にこなしていき、気が付くと、もう定時の時間になっている。
「いろいろあったけど、仕事は順調に進んで、良かったよ!さぁ、仕事を切り上げて、飲みに行くぞ!」
「はい!僕も少しでも瀧本先輩のお役に立てて、すっごく嬉しいです!これから瀧本先輩と一緒に飲みに行くの、めっちゃ楽しみです!」
「ウフフ、少しじゃなくて、すっごく役に立ったよ!ありがとうね!私だけじゃなく、宇田も一緒に飲みに行くからね。じゃあ、行こう!」
「そう言って頂けて、めっちゃ嬉しいです!行きましょう!」
二人で職場から出ようとした、その時、高杉稜介が困惑した表情を浮かべながらこっちに来て、瀧本愛香と僕に言ってきた。
「結局、部長に電話しても出ないし、まだ会社に戻って来ないし、次長と野田さんの事が分からないままなんだよな。森崎も、相変わらず何処にいるのか分からないみたいだし、部長も、何処にいるのかさっぱり分からないよ」
「そうなんですか。次長と野田さん、本当に心配ですね。森崎君も心配です。部長に連絡を取れないっていうのも、気になりますね」
「そうですよね。ここまで来ると、次長と野田さんと森崎さんの事が、本当に心配です。部長も、今日は変ですし、連絡が取れなくなったっていうの、気になりますね」
「まぁ、明日、部長も含めて四人共、元気に出社してくれればいいんだけどな。ところで、二人で一緒にオフィスを出ようとしてたけど、飲みにでも行くの?」
「さすが高杉さん、鋭いですね。そうなんですよ。二人じゃないですよ。同期の宇田も一緒に飲みに行きますよ」
「そうなんですよ。実は、僕から飲みに行きたいって言ったんです。瀧本先輩と宇田先輩と一緒に飲みに行くの、すっごく楽しみです!」
「お~、いいねぇ!雰囲気的に、俺は行かない方がいい感じがするね~。二人共、飲み過ぎないようにね~。明日、話を聞かせてよ~」
「はい。分かりました。では、行ってきます!」
会話が終わり、僕と瀧本愛香が職場から出て、一階ロビーに行くと、既に宇田麗子が、ソファに座りながら待っていてくれている。瀧本愛香が宇田麗子の姿を見るや否や、大きく手を振り、満面の笑顔で宇田麗子に駆け寄った。
三人で会社を出て、楽しくおしゃべりしながら歩き進み、飲みに行く店に到着。店に入り、美味しい料理とお酒を食べて飲み進め、宇田麗子がすっかり酔っ払う。
「瀧本~、あんた、この新入社員の人の事、好きなんでしょ~?」
―え!宇田先輩、酔ってるんだろうけど、ナイス質問!瀧本先輩、どう答えるんだろう。もしかして、好きって言ってくれたりして!―
「何言ってんのよ!恋愛感情なんて無いよ!私は、こいつの教育係だよ!恋愛感情を持っちゃいけないのよ」
「瀧本先輩、恋愛感情を持っちゃいけないなんて、そんなの寂し過ぎます!別に恋愛感情を持ったって、いいじゃないですか!僕は、瀧本先輩の事、もっと知りたいし、もっと深い関係になりたいです!」
僕が瀧本愛香の顔を見ると、恥ずかしい気持ちもあり、お酒に酔っている事もあり、真っ赤になっている。暫く黙った後、瀧本愛香が急に立ち上がり、大声で叫んだ。
「私だって、お前の事をもっと知りたいし、お前ともっと深い関係になりたいよ!でも、教育係なんだし、他の人の目があるんだよ!分かってくれよ!」
瀧本愛香が涙目になる。そんな瀧本愛香を見て、僕と宇田麗子が驚きながら言う。
「た、瀧本先輩、落ち着いて下さい。瀧本先輩の言葉、すっごく嬉しいです!お互い、もっといっぱい分かり合いましょうよ!いずれは、瀧本先輩と、深い関係になりたいです」
「た、瀧本、ちょっと挑発しちゃった感じになって、ごめん。でも、瀧本、この人の事、ちゃんといっぱいいろんな事を考えてるんだね。感心したよ」
「う~!酔っ払って、とんでもない事を大声で言っちゃった!恥ずかしい~!もっと食べて飲むぞ~!」
三人で更にどんどん食べて飲み、全て平らげた。店を出る事になり、レジに向かい、瀧本愛香と宇田麗子が会計を済ませた。金額を見て、思ったよりも高かったのか、二人共、微妙な笑顔になる。
三人で店を出て、ワイワイ楽しく話しながら、並んで歩いていると、急に、瀧本愛香がよろめいて、僕に軽く抱き付いてきた。
「あ~、すっかり酔っ払っちゃった~。もう歩けないかも~。どうしよう~」
「え!瀧本先輩、飲み過ぎちゃったんですね。タクシーに乗って、家まで送りますよ」
「お~!お前、めっちゃ気が利くじゃないか~!よろしく頼むぞ~!道案内するし、タクシー代はちゃんと払うからな!」
「はい!分かりました!宇田先輩は、どうしますか?」
「あはは。私は、このまま家に帰るよ。遅くなっちゃったし、ササッとシャワーを浴びて、パパッと寝るよ」
宇田麗子が駅に向かって歩き出し、僕と瀧本愛香は、大通りに出て、タクシーを探す。暫くの間、待っていると、一台のタクシーが、こっちに走って来た。僕がすぐに手を挙げ、タクシーが僕と瀧本愛香の目の前で停車。二人でタクシーに乗ると、瀧本愛香が、覚束ない感じではあるが、何とか道案内し、暫く走ると、瀧本愛香が大声を出した。
「運転手さん!止まって下さ~い!このマンションなんです!」
タクシーの運転手が慌ててタクシーを止め、料金メーターを見ると、それ程高くない金額。僕が払おうとすると、瀧本愛香が、呂律の回らない口調で言ってきた。
「だ~いじょ~ぶ!私がビシッと払ってあげる!まっかせなさ~い!」
「そ、そうですか。ありがとうございます。一人で部屋まで辿り着けますか?」
「そ~んなの、無理に決まってんじゃ~ん!ここまで来たんだから、うちに寄って行きなさ~い!」
「い、いいんですか。分かりました。まぁ、確かに、瀧本先輩だけじゃ、本当に部屋まで辿り着けなさそうで、心配ですし」
瀧本愛香がタクシー代を支払い、二人でタクシーから降り、瀧本愛香のマンションに入る。僕の心臓がバクバクしてきた。
瀧本愛香がオートロックを開錠し、僕と瀧本愛香が中に入る。
「瀧本先輩、いいマンションに住んでるんですね。僕が住んでるとこよりも、ずっといいマンションですよ。瀧本先輩の部屋を見れるの、すっごく楽しみです!」
「あはは。ありがとうね~!割と最近、このマンションに引っ越して来たんだよ~。実は、まだ親も来た事なくて、他の人を部屋に入れるの、お前が初めてなんだよ!嬉しいだろ?」
「はい!めっちゃ嬉しいです!すっごくドキドキしてます!」
二人でエレベーターに乗る。どんどん上がって行き、エレベーターから降り、廊下を少し歩くと、瀧本愛香がドアの前で足を止めた。
「着いたよ~!さぁ、鍵を開けて、ドアを開けると、そこは、私の部屋だぞ!緊張するか?」
「はい!めっちゃドキドキしてますし、めっちゃ楽しみです!」
「そうか~。じゃあ、ドアを開けるから、入ってくれ!」
瀧本愛香が、鍵を使って開錠し、ドアを開け、二人で部屋に入る。ゆっくりと靴を脱いで床に上がり、少し歩いてリビングに行くと、思っていた以上に整理整頓されている。
「瀧本先輩、めっちゃ部屋を綺麗にしてるんですね!僕の部屋とは大違いです!益々、尊敬しちゃいました!」
「ウフフ、そんなに褒めてくれると、照れちゃうけど、すっごく嬉しいよ!ねぇ、一緒に夜景を見ようよ!この部屋、高い所にあるし、夜景綺麗だよ!」
「はい!夜景を見ましょう!めっちゃ楽しみです!」
二人で窓の前に行き、窓の外を見ると、都会の煌びやかな夜景が目の前に広がっていて、思わず見とれてしまう。
「瀧本先輩!すっごく綺麗な夜景ですね!こんなに綺麗な夜景、初めて見ました!毎日、綺麗な夜景を見る事ができるなんて、羨ましいです!」
「ウフフ、ありがと~!この部屋に引っ越して来て、最初の頃は、毎日ウットリしながら夜景を眺めてたけど、最近は見慣れてきて、何とも思わなくなってきたんだよね。でも、お前がこの夜景に感動してくれて、改めてこの夜景はいいな~って思えたよ」
「この綺麗な夜景、ほんとに素晴らしいですよ!でも、瀧本先輩の方が、キラキラ輝いていて、綺麗ですよ!」
「はぁ?お、お前、急に何を言い出すんだ!ここまで言われると、嬉しいというか、恥ずかし過ぎるぞ!」
「本心ですよ!瀧本先輩、本当にめっちゃ綺麗ですよ。僕、今、めっちゃドキドキして、心臓が口から飛び出そうです」
「ちょ、ちょっと、何言ってんのよ!そんな事言われると、私もドキドキしてきたじゃないの!もう十分夜景を見たし、ちょっと座ろっか」
「瀧本先輩!」
僕が瀧本愛香の肩を優しく掴み、僕の方を向かせる。二人でじ~っと見つめ合う。心臓の鼓動がどんどん早まる。
「ちょ、ちょっと、どうしたのよ?お前、酔っ払ってるだろ」
「もう緊張で酔いなんて冷めちゃいました。真剣な話をさせて下さい」
「お、おぅ。どうぞ」
「僕、瀧本先輩と仕事したり、一緒に過ごしたりしてる時、ドキドキ感が止まらないんです。これって、やっぱり、僕、瀧本先輩の事が好きなんだと思うんです!瀧本先輩、大好きです!僕と、恋人同士になって下さい!」
「え!な、何を言い出すんだ!私は、お前の教育係だぞ!」
「そんなの関係ありません!瀧本先輩、僕の事をもっと知りたいし、僕ともっと深い関係になりたいって、言ってくれたじゃないですか。僕、めっちゃ嬉しかったんですよ。いろんな意味で、僕ともっと深い関係になって下さい」
「え・・・いろんな意味って、どういう事なんだ?」
「まずは、こういう事です」
僕が瀧本愛香をぎゅ~っと強く抱き締める。瀧本愛香が驚きながら、僕をそっと抱き締める。二人でじ~っと見つめ合う。僕が唇をどんどん瀧本愛香の唇に近付ける。瀧本愛香がドキドキし過ぎて固まりながら、口を少し開けて少し上を向き、僕の唇が重ね合わさるのを待つ。もう少しで唇と唇が重なり合わさる、その時、瀧本愛香が顔を横に向け、申し訳なさそうな表情になった。
「ご、ごめん。まだ心の準備ができてなくて。私、その、こういう事に慣れてなくて、やっぱり、まずは、お前の事を徐々にでも知ってから、ゆくゆくは、お前が言う、いろんな意味での深い関係になっていきたいんだ。私の事、好きって言ってくれて、嬉しかったぞ。ちゃんと、お前の事、真剣に考えるからな!」
「そ、そうですね。急にキスしようとして、申し訳ございませんでした。僕も、少しずつでもいいから、瀧本先輩の事をもっと知りたいです」
「そんな、謝らないでくれ。お前が私にキスしようとした事、私、その、嬉しかったんだぞ。ただ、その、こういう事は、段階を踏んでだな、したいんだよ」
「はい!分かりました!瀧本先輩と、いろんな意味で深い関係になれるよう、焦らずじっくり頑張ります!」
僕の言葉を聞き、瀧本愛香が可愛らしい笑顔で笑い出す。
「あはは。お前のその言葉を聞いて、安心したし、嬉しかったぞ。ところで、もう最終電車は無くなってしまったし、始発電車まで、うちでゆっくりしていってよ。私、シャワー浴びて来るね。お前は、椅子に座って寛いでいてくれ。何なら、ベッドに横になっていてもいいぞ。そのまま寝ちゃったら、起こしてあげるよ」
「はい。ありがとうございます」
瀧本愛香がシャワーを浴びる為、浴室に向かう。僕は椅子に座り、ドキドキ感がある程度収まった状態でいろいろ考える。
―もうちょっとで、瀧本先輩とキスする事ができたな!キスの寸前で、瀧本先輩、我に返った感じだったな。瀧本先輩は、一筋縄ではいかないよな!益々、瀧本先輩の事、好きになっちゃった!ゆっくりでいいから、徐々にでも瀧本先輩との距離を縮めて、瀧本先輩と恋人同士になるぞ!―
僕がそんな事を考えている間、瀧本愛香が、裸になって浴室に入り、蛇口を捻ってシャワーを浴び始める。
―あいつ、いきなり迫って来て、びっくりしたな。勢いにのまれて、キスしちゃいそうになっちゃったな。でも、あのままキスしちゃえば良かったかな。私、恋愛に対して、臆病なところがあるもんな。あいつ、キスを拒否されて、しょんぼりしてるのかな。もっとあいつの事を知りたいし、あいつと恋人同士になれればいいな~って思うよ。浴室から出たら、あいつを元気付けて、一緒に楽しくおしゃべりしよう!―
瀧本愛香がシャワーを浴びている時、シャワーの音が聞こえ、僕がどんどん興奮する。
―瀧本先輩がシャワーを浴びてる音を聞いてるだけで、めちゃくちゃドキドキする~!どんな格好で出て来るんだろう。もしかして、バスタオル一枚羽織るだけとか!―
一方、瀧本愛香は、身体を洗い終わり、シャワーで流し、浴室から出て、バスタオルで身体を拭き、ブラジャーと部屋着を着て、リビングに戻って来た。
「お待たせ~。もしかして、裸で出て来ると思っちゃった?残念でした~!ちゃんと下着も部屋着も着てるよ!」
「あはは。さすがに、裸で出て来るとは思ってませんでしたよ。もしかしたら、バスタオル一枚で出て来るかもしれないな~とは思ってましたけどね」
「あ、そうか!バスタオル一枚で出て来ても良かったな。なんちゃって。冗談だよ。で、お前はどうする?シャワー浴びるか?着替えは持って来てないよな?」
「そうですね。着替えは持って来てないですけど、シャワーは浴びて来ます」
僕が浴室に入ってシャワーを浴びる。テキパキと身体を洗い、浴室から出て、バスタオルを腰に巻いた状態で、リビングに戻ると、元々お酒の影響でほんのり赤くなっている瀧本愛香の顔が、更に赤くなった。
「キャッ!何て恰好してんだ!そのバスタオル、絶対に取るなよ!」
「え!そんなに驚きましたか。瀧本先輩の驚きぶりを見て、僕の方が驚きましたよ。良かったら、Tシャツと短パンを貸してもらえませんか?」
「貸すのはいいけど、お前、パンツを履かずに短パンを履くつもりか?」
「え!ダメですか?しっかり洗いましたし、汚くないと思いますよ」
「そ、そうか。ま、いいか。それでいいよ。Tシャツと短パンを持って来るから、ちょっと待っていてくれ」
瀧本愛香が棚を開け、大きめのTシャツと短パンを取り出し、僕に渡してきた。
「ほら、これでいいか?私にとって、大きめのサイズの物を持って来たぞ」
「はい!ありがとうございます!ちょっと小さいですけど、何とか着れそうです」
僕がTシャツを着て、短パンを履く為に、深く考えずにバスタオルを取った。
「キャ~!お前、バスタオルを取るなって言っただろ!お前のを見ちゃったじゃないか!」
「あ!そうか!すみません!何も考えてなかったです」
「もういい!早く短パンを履け!」
僕がすぐに短パンを履き、恥ずかしくなって照れ笑いを浮かべると、瀧本愛香が僕の様子を見て、大爆笑する。
「あははははは。お前、めっちゃくちゃ可愛くて、面白いな!お前みたいな男、初めてだよ!ベッドに座りながら、暫くお話するか~!」
僕と瀧本愛香が、並んでベッドに座り、暫くの間、楽しくおしゃべりしていると、ふと、瀧本愛香が眠そうな表情で僕に言ってきた。
「めっちゃ眠くなってきちゃったよ。ベッドに横になっていいか?何なら、お前も一緒に横になっていいぞ!二人で寝ちゃったら、それはそれでいいかもな」
「はい!勿論いいですよ。僕も眠くなってきましたし、一緒に横になります。二人で寝ちゃうかもしれませんね」
まず瀧本愛香がベッドにごろ~んと横になり、すぐに僕が瀧本愛香の横でベッドに寝転ぶ。瀧本愛香がすぐに眠り出し、可愛い寝顔を見て癒される。
―瀧本先輩の寝顔、めっちゃ可愛いな。唇がぷっくりとしていて、キスしたら気持ち良さそうだな。今、寝てるし、こっそりキスしちゃおっかな―
僕が唇をどんどん瀧本愛香の唇に近付ける。あと少しで重ね合わさる、その時、僕がはっとなり、思い止まる。
―ダメだ!さっき、キスを拒否されたのに、瀧本先輩が寝てる時に、こっそりキスするなんて、道に外れる事をしたらダメだ!瀧本先輩が起きてる時に、堂々とキスできるように、徐々にでも距離を縮める為に、頑張るぞ!―
僕も目を閉じると、あっという間に眠ってしまった。少し時間が経ち、ふと、瀧本愛香が目を覚ました。
―気持ち良さそうに寝てるな。寝顔、可愛いな。それにしても、こんなにいい女が、横にいるのに、手を出さずに、スヤスヤと寝るなんて、何だか、複雑な気分だな。まぁ、キスを拒否しちゃったから、私に手を出すのを、ためらっちゃうんだろうな。あ~、あのままキスしちゃえば良かったな。あ~、無性にキスしたくなってきた!今、寝てるし、こっそりキスしちゃうか―
瀧本愛香が、唇をどんどん僕の唇に近付ける。あともう少しで唇と唇が触れ合う、その時、瀧本愛香が思い止まる。
―ダメ!自分でキスを拒否したのに、こいつが寝てる時にキスするなんて事したら、いくら新入社員でも、こいつに失礼だよ!ちゃんと恋人同士になって、キスできるように、いろいろ考えながら動いて行くぞ!私、やっぱり、こいつの事、好きになっちゃったのかな~―
瀧本愛香が再び目を閉じ、軽く僕を抱き締めると、物凄い安心感に包まれ、すぐに眠りについた。僕が眠りながら、瀧本愛香を優しく抱き締めた。
翌朝、と言っても、まだ外は暗い時間、僕が目を覚ますと、びっくり仰天!僕と瀧本愛香が抱き締め合っていて、瀧本愛香はまだ眠っている。
―うわっ!いつの間にか、瀧本先輩と抱き締め合ってる!瀧本先輩のめっちゃでっかいおっぱいが、僕の身体にぐ~っと押し付けられていて、めちゃくちゃ気持ちいい!でも、なんで瀧本先輩と抱き締め合ってるんだろ。僕から抱き締めたのかな。寝る前に、そんな事してないけどな。という事は、瀧本先輩から僕を抱き締めたのかな。たぶんそうだろうけど、もしかしたら、寝てる僕が寝てる瀧本先輩に抱き付いたのかもしれないな。ここは、瀧本先輩が目を覚ますまで、このままでいとくのがいいだろ―
引き続き、二人で抱き締め合っていると、瀧本愛香が顔の位置を変え、僕の顔の目の前で顔を止めた。あと少しで、唇と唇が触れ合う状態。その時、瀧本愛香が目を覚ました。
「お、おはよう。やっぱり、二人共、寝ちゃったんだね」
「お、おはようございます。そうですね。寝ちゃいましたね」
暫くの間、顔と顔の距離が数ミリの状態で、じ~っと見つめ合う。僕も瀧本愛香も、心臓がバクバク鼓動する。そして、二人同時に、顔を動かし、唇と唇が重ね合わさった。少しの間、キスを続け、唇をそ~っと離し、再びじ~っと見つめ合う。
「キ、キス、しちゃったね。私の口、臭くなかった?大丈夫?」
「く、臭い訳ないですよ!めちゃくちゃいい味がしましたよ!瀧本先輩とのキスの味、今までのキスの中で、一番美味しかったです!」
「はぁ?お前、とんでもない事を言う男だな!恥ずかし過ぎて、心臓が口から飛び出そうだぞ!私の心臓の鼓動を感じるだろ?」
「はい。感じます。ドキドキしてますね。僕もめっちゃドキドキしてます。僕の心臓の鼓動、感じますか?」
「うん。感じるよ。私に負けず劣らず、バクバク鼓動してるね」
「はい。瀧本先輩、大好きです。僕の恋人になって下さい!」
「え!はい、と言いたいところだが、もう少し、考えさせてくれないか?私も、お前の事、たぶん好きなんだと思うけど、自分の気持ちが、はっきりとは分からないんだ。もっとお前の事が知りたい。お前にも、私の事をもっと知って欲しい。付き合うのは、それからでもいいか?」
「はい。勿論いいですよ。そんな感じで返されると思ってました。いつか、瀧本先輩と恋人同士になれるように、精一杯頑張ります!」
「そ、そんな、頑張らなくても、力を抜いて、思うように私と一緒に過ごしてたら、そのうち、私達、付き合う事になると思うよ」
「そうなんですね!それを聞いて、安心しました!嬉しいです!」
「うん!私もお前も、分からない事がいっぱいある感じだけど、少しずつ解いていって、幸せになれるといいな」
「確かに、少しずつ謎を解き明かして、全部解き明かした時、僕と瀧本先輩、一緒に幸せになれるんでしょうね!」
二人で見つめ合い、クスクスと笑い合う。時計を見ると、始発電車がそろそろ走り出す時間。ベッドから起き上がり、朝御飯としてパンとサラダを食べ、僕が洗面所で着替えを済ませ、瀧本愛香の部屋から出る直前、瀧本愛香が僕に言葉を掛ける。
「じゃあ、また会社でね。一緒に過ごせて、楽しかったし、そ、その、キスしちゃったし、ま、まぁ、会社では、普通に接してくれよ」
「はい!僕もすっごく楽しかったです!ありがとうございました!瀧本先輩と、キスできて、めっちゃ嬉しかったですよ!」
「お、おぅ。私も、う、嬉しかったぞ」
僕が瀧本愛香の部屋を出て、瀧本愛香が僕に手を振ってくれて、僕も手を振り返す。マンションを出て、電車に乗った。
僕の家に到着し、わずかな望みを賭け、大切にしている万年筆を探し回るが、やはり見つからない。警察に届け出るのも考えながら、会社に行く用意を済ませ、家を出発した。
一方、瀧本愛香は、僕を見送った後、少し寝て、シャワーを浴びていた。
―あいつとの関係が、一気に前進した感じがするわ!あいつに好きって言われて、すっごく嬉しかったな。キスされそうになって、思わず拒否しちゃったけど、朝起きてから、チュッとキスしちゃって、幸せな気分だったな!私もあいつの事、好きなんだろうな。もっと自分の気持ちに正直になって、あいつの想いに応えていかなきゃな!―
浴室を出て、下着を着て、時計を見ると、かなり時間が経っている。急いで化粧に取り掛かるが、手を抜く訳にもいかず、どうしても時間がかかってしまう。ナチュラルな感じの化粧に仕上げ、キャリアウーマン風のかっこいい服を着て、部屋を出発した。
この日は、僕が瀧本愛香よりも早く職場に着いた。初めて瀧本愛香より早く職場に着いた事により、驚きと、ちょっとだけ嬉しい気分が混じり、複雑な感情になる。少しドキドキしながら、瀧本愛香を待っていると、始業時間ギリギリに、小走りで瀧本愛香が到着した。
「おはよう。良かった。間に合った~!久し振りに走っちゃったよ~」
「おはようございます。瀧本先輩がギリギリの時間に出社なんて、初めて見ました。間に合って良かったですね。その服、すっごく似合ってますよ。化粧もバッチリで、めっちゃ綺麗です。朝の用意に時間がかかった感じですね」
「嬉しい事を言ってくれんじゃん!ありがと~!お前も、いつも爽やかな感じでいいな!」
「ありがとうございます!爽やかなんて言ってくれて、めっちゃ嬉しいです!」
二人でパソコンに向かい、仕事に取り掛かる。少し時間が経った時、瀧本愛香が僕の方を向き、真剣な表情で言ってきた。
「いよいよ、大事なイベントが迫ってきたし、今日もデータ分析を頼むな!このデータとこのデータから、予測できる内容をまとめてくれ。やり方を教えるよ。分からない事があったら、どんどん訊いてくれよな!」
「はい!分かりました!頑張ります!」
瀧本愛香が、データ分析のやり方を丁寧に説明し、僕がしっかりと聞き、早速、取り掛かる。少し分析したところで、いきなり行き詰る。僕が瀧本愛香に質問しようとした、その時、高杉稜介が僕と瀧本愛香のところに来て、困り果てた感じで言ってきた。
「今日も、次長と野田さんが、会社に来てないんだよ!森崎も、会社に来てないみたい。そればかりか、まさかの部長まで、会社に来てないんだよ!部長も次長も野田さんも、電話に出ないし、森崎も電話に出ないらしい」
「え!次長と野田さんと森崎さんだけじゃなく、部長も今日会社に来てないんですか!部長は、昨日、警察に相談したんですかね」
「え~!部長も今日、会社に来てないんですね!次長と野田さんと森崎君も、会社に来てないという事ですし、部長が警察に相談したかどうかが気になります。分かりますか?警察に相談してないなら、今からでも警察に電話すべきですね」
「そうだな~。部長が昨日警察に相談したかどうかなんて、今は分からないけど、俺が警察に電話して、確かめる事はできるな。四人も突然会社に来なくなったなんて、異常事態だし、十分、警察に言う理由になるよな。よし!今から俺が、警察に電話して、事情を説明してみるよ」
高杉稜介がそう言うと、スマホを手に取り、警察に電話した。その間、瀧本愛香が気になった事を僕に言ってきた。
「ねぇ、ところで、無くなった大切にしてる万年筆は、やっぱり見つからないの?」
「そうなんですよ。今朝、家に帰ってから、探してみたんですけど、どうしても見つからなかったです。警察に届け出をしようかどうか、考えてるところです」
「まぁ、関係ないと思うけど、部長と次長と野田さんと森崎君が、突然会社に来なくなった事と、ほんのわずかでも関係があるなら、その万年筆を見つけ出せたら、あの四人が何処にいるのか、分かるかもしれないね」
「え~!僕の万年筆が、あの四人がいなくなった事と、関係があるとは思えませんけど、もし万が一、関係があるなら、何が何でも見つけ出さなきゃいけませんね。後で高杉先輩に電話を代わってもらって、相談してみます」
瀧本愛香と僕の会話が終わった直後、高杉稜介の電話に警察が出た。
「はい。警察です。どのようなご用件でしょうか?」
「もしもし、高杉と申します。実は、四人もの男性が、突然うちの会社に来なくなったんです。電話にも出ないんです。一日一日、会社に来なくなる人が増えていってまして、これは、事件性があるかもしれないと思って、今回、電話させて頂きました。ところで、昨日、うちの部長から、三人もの男性が突然うちの会社に来なくなったという旨の電話がかかってきましたか?」
「それは、大変ですね。確かに、事件性が十分に考えられますね。その方からの電話は、無かったと思います。詳しくお話を聞かせて頂けますか?」
「電話が無かったんですか。その人、電話する感じの事を言ってたので、電話してると思ってました。四人共、会社をサボる感じの社員ではありませんので、すごく心配してます。詳しくお話しします」
高杉稜介が、四人の男性社員が突然会社に来なくなった事を、警察に詳しく説明する。その間、僕と瀧本愛香が、小声で話し合う。
「瀧本先輩、高杉先輩の説明が終わったら、電話を代わってもらって、無くしてしまった大切な万年筆の事を相談するのがいいですかね?」
「そうだね。今回の件、その万年筆が関係してるとは思えないけど、その万年筆が無くなった時から、どんどん会社に来なくなった男性社員が増えてきたのもあるし、警察に相談するのがいいと思うよ」
そんな話をしていると、高杉稜介の説明が終わり、電話を切ろうとしている。
「高杉先輩!僕も話したい事があるので、電話を代わって頂けますか?」
しかし、僕の言葉を聞く前に、高杉稜介が電話を切ってしまった。
「え!もう電話切っちゃったよ。もうちょっと早く言ってくれれば、電話を代われたんだけどね~。これから、警察官が来てくれるらしいよ。警察が動いてくれれば、この異常事態が、一気に解決されそうだね~。ところで、警察に何を話そうとしたの?」
「あ~、気にしないで下さい。急に電話を代わって頂けますかなんて言って、無茶苦茶でした。僕の話は、後で警察に電話します。大切にしてる万年筆が、どうしても見つからないので、警察に届け出をしようかと思って、言おうとしたんですよ」
「そうだったんだね。大切にしてる万年筆か~。警察に届け出をしようとしてる位なんだし、めちゃくちゃ大切な万年筆なんだろうね」
僕も瀧本愛香も高杉稜介も、それぞれの仕事に戻った。一旦、警察官が来る事は忘れて、僕も瀧本愛香も、集中してどんどん仕事を進めていく。暫く時間が経ち、仕事をしていると、数人の警察官が職場にやって来た。
「警察です。高杉様からの依頼で、突然会社に来なくなった四人の社員の方の捜索の為に、来させて頂きました。高杉様はいらっしゃいますか?」
「来て頂き、ありがとうございます。高杉と申します。こちらへどうぞ」
高杉稜介が、警察官を案内し、打ち合わせスペースに移動した。僕と瀧本愛香が、一連の流れを見守る。
「瀧本先輩、警察官が来ちゃいましたね。あの四人が見つかるといいんですけどね」
「そうだね。警察官が来てくれたんだし、一気に事態が打開されると期待して待とう!じゃあ、仕事に戻るか~」
僕と瀧本愛香が、気持ちを切り替えて仕事に戻って、より一層集中しながら、イベントに向けた仕事をどんどん進める。
どれ位時間が経っただろうか。打ち合わせスペースから、高杉稜介と警察官が出て来て、高杉稜介の案内で、警察官が、部長、次長、野田圭吾、森崎悠磨の机とパソコンを、どんどん調べていく。更に、周囲の社員に聞き込みをする。僕も瀧本愛香も、警察官から話を訊かれ、分かる事を正確かつ正直に話す。警察官による調査と聞き込みが終わり、警察官が職場を出て、捜査に向かった。
「警察官からいろいろ訊かれて、疲れました!でも、警察官、頼り甲斐がありますね!」
「そうだね!私もいろいろ訊かれて、疲れたけど、あの四人が見つかる為だもんね!」
「うん!実は、俺も、呼んでおいて、実際、警察官が来た時は、めっちゃくちゃ緊張して、ちゃんと説明できたかどうか、不安だけど、やれる事はやったよ」
三人でそれぞれの仕事に戻り、どんどん仕事を進めていく。更に時間が経ち、そろそろ昼休憩の時間になった。
「あ~、だいぶ仕事が進んだな~!ランチに行こう!いっぱい頑張ってくれたし、今日のランチ、私が御馳走するよ~!」
「わぁ~!瀧本先輩、ありがとうございます!ランチ行きましょう!」
二人で会社を出て、寿司屋に入り、海鮮丼を二つ注文。談笑しながら、どんどん食べ進め、完食。瀧本愛香が二人分の食事代を支払い、店を出て、暫く歩き、会社に到着した時、ふと、大切にしている万年筆の事が気になった。
「瀧本先輩、まだ無くなった万年筆の届け出を、警察にしてなかったので、これから警察に電話して、届け出ていいですか?」
「うん。いいよ。そうだね。万年筆の事も、気になるよね」
僕が席を外し、廊下に出て、警察に電話すると、すぐに電話に出てくれた。落とし物で届いておらず、届け出をして、席に戻ると、すぐに瀧本愛香が訊ねてきた。
「ねぇ、万年筆、どうだった?警察署に届いてた?」
「いえ、届いてませんでした。電話で届け出をしましたが、期待できなさそうです」
「そんな事、分かんないよ。もしかしたら、時間がたっぷりある人が拾って、警察署に届けて、状況を詳しく説明してくれてる可能性だってあると思うよ」
「はい!ありがとうございます!瀧本先輩にそう言ってもらえると、本当に見つかりそうな気がして、心強いです!」
瀧本愛香が真剣な表情でパソコンに向かい、仕事を再開する。僕もパソコンに向かい、自分なりに仕事に取り掛かる。どんどん仕事を進めている時、ふと、思い付いた。
―万年筆を会社で落としてたら、誰かが持ってるか、会社の警備室に届いてるかもしれないな。後で、警備室にいる警備員に、訊いてみようかな―
そんな僕の様子を見て、瀧本愛香が言ってきた。
「おい、お前、さっきから、仕事に集中できてないだろ。どうしたんだ?」
「はい。万年筆を会社で落としてたら、会社の警備室に届いてるかもしれないし、後で警備室の警備員に訊いてみようかなと考えてたところなんです」
「会社の警備室に届いてるかもしれないっていうの、確かに、その通りだと思うよ。内線電話で訊いてみたら?番号教えてあげるよ」
瀧本愛香に聞いた、警備室の内線番号に電話すると、すぐに警備員が電話に出た。
「はい。警備室です」
「すみません、ちょっと訊きたい事がありまして。大切にしてる万年筆を落としてしまったんですけど、そちらに届いているかどうかを、教えて頂けますか」
「分かりました。少々お待ち下さい」
保留音が鳴り、警備員が、落とし物を調べる。暫く時間が経ち、警備員が話す。
「その万年筆は、どのような特徴なのでしょうか?」
「え!届いてるんですか?」
「実は、昨日、一度、届いたんですけど、落とし主とおっしゃった方が取りに来られたんです。念の為、特徴をお聞きしたく思いまして」
「なるほど、そういう事ですか。分かりました」
僕が万年筆の特徴を言うと、警備員が驚いた様子で言ってきた。
「この特徴、昨日届いて既に落とし主とおっしゃった方が受け取った万年筆と同じです。おそらく、同じ万年筆だと思います」
「やった~!でも、誰かが受け取ってしまったんですね。誰が受け取ったんですか?」
「それが、分からないんですよ。受取日時と受取人の欄が空白で、昨日、その人に万年筆を渡した警備員は、今日は夜勤で、まだ来てないんですよ、その警備員が来たら、どういう人が受け取ったのか、話を聞いてみます」
電話を切り、早速、瀧本愛香に報告する。
「瀧本先輩、僕の万年筆、昨日、一度、警備室に届けられたそうです。でも、誰かが昨日受け取ったらしくて、しかも、受取人と受取日時の欄が空白で、その時の警備員が今日は夜勤らしいんです。その人の話を聞けたら、誰が受け取ったのかが分かると思います」
「お~!良かったね!上手くいけば、万年筆が見つかるかもしれないよ!」
「そうですね。でも、なんでその人は、僕の万年筆を受け取ったんでしょうね。それと、その警備員、なんで受取人と受取日時の欄を空白にしたんでしょうね。めちゃくちゃ気になります!」
「確かにそうだね。その警備員の話が聞けたら、かなり前進するかもしれないよ。まだその警備員は、暫く会社に来ないし、今は仕事に集中して、その警備員が出社してから、話を聞いてみよう」
再び仕事に集中し、イベントに向けた仕事を二人でどんどん進める。僕のデータ分析を瀧本愛香がチェックし、的確なアドバイスをしてくれ、瀧本愛香がプレゼン資料をまとめていく。仕事に励んでいると、あっという間に夕方になった。
「あ、もうこんな時間だ!仕事めっちゃはかどったね!ところで、お前の万年筆を誰かに渡してしまった警備員、もう出社してると思うよ。電話して、その人の話を聞いてみたらどうだ?」
「分かりました!早速、電話してみます」
僕が警備室に電話すると、すぐに警備員が電話に出た。
「はい。警備室です」
「お昼過ぎに電話した者なんですが、僕の万年筆を誰かに渡してしまった警備員の方、も
う出社されてますか?」
「もう来てますよ。バタバタしていて、まだ話を聞けてないんですよ。電話代わりますね」
電話に出た警備員が、僕の万年筆を誰かに渡してしまった警備員を呼び、電話をその人に代わった。
「お疲れ様です。私に何か御用ですか?」
「はい。昨日の万年筆の件で、お話を聞きたいんですが、これからお伺いします」
電話を切り、瀧本愛香に話す。
「瀧本先輩、その警備員、もう警備室に来てるので、これから警備室に行って、話を聞いて来ます。その警備員、女性でした」
「うん。女性の警備員なんだね。情報を得られるといいね」
僕がエレベーターで一階に下り、警備室に行くと、その警備員が待っていてくれた。
「先程、電話してくれた方ですね。昨日の万年筆の件、何からお話しましょうか?」
「お時間を取って頂き、ありがとうございます。聞きたいのは、何故、受取人と受取日時の欄が空白なのか、誰が僕の万年筆を受け取ったのか、この二点です」
「そうなんですか。実は、私も不思議なんですけど、何故、受取人と受取日時の欄を空白にしたのかと言われましても、その人にお願いされてそうしたとしか言えないんです。誰が万年筆を受け取ったのかも、その人にお願いされましたので、言えないんです。私としては、どちらの方が、本当の持ち主の方なのか、分からないですし、現状としては、その人の言う通りにせざるを得ないんです」
「え!万年筆の持ち主は、間違いなく僕ですよ!お願いですから、ちゃんと答えて下さい!答えてくれないなら、こちらとしても、何か手段を講じなければいけなくなります」
「そう言われましても、これ以上お話する事はありません。今、忙しいので、そろそろよろしいでしょうか」
「分かりました。もう結構です。それでは、失礼します」
僕が警備室から出て、いろいろ考える。
―なんであの女性警備員、受取人と受取日時の欄を空白にしたのかな。なんで誰に万年筆を渡してしまったのかを言わないのかな。受け取った人に口止めされてるとはいえ、その人に従うのが、不思議だな。無くなった僕が大切にしてる万年筆、何か重大な秘密があるのかもしれないな。長い間、単に時々使ってただけだったから、ほとんど意識してなかったけど、代々受け継がれてきた万年筆だし、何か重大な事を、かなり前に聞いてたような気がするな。何だったかな~―
職場に戻ると、瀧本愛香がすぐに僕に駆け寄って来た。
「おかえり。どうだった?万年筆の事、何か分かった?」
「それなんですけど、残念ながら、その女性警備員、万年筆を渡してしまった人から、口止めされていて、受取人と受取日時の欄を空白にした理由も、誰に渡したのかも、言えないって言うんですよ。何か策を講じて、女性とはいえ、あの警備員に言わせてやりますよ!」
「そうなんだね。その女性警備員、なんで言ってくれないのかな。何か理由があるんだろうけど、今は分からないよね。それにしても、腹が立つよね!私も一緒に策を考えるよ!何かいい方法を思い付いたら、すぐに言ってあげるよ!」
「はい!ありがとうございます!前に、僕の万年筆について、何か重大な事を聞いたような気がするんですけど、なかなか思い出せなくて、もどかしい状態なんですよ」
「そっか~。そういう時って、気持ち悪いよね~。何か気分転換したら、パッと思い出す事があるんじゃない?もうそろそろ終業時間だし、仕事は順調に進んでるし、明日は土曜日で休みだし、仕事が終わってから、一緒に気分転換しようよ!お前がやりたい事に、付き合ってやるぞ!」
「わぁ~!ありがとうございます!じゃあ、瀧本先輩が、普段、気分転換にしてる事をしたいです!どんな事をして、気分転換してるんですか?」
「私は、よくバッティングセンタ―に行って、気分転換するよ!でも、別に私に合わせなくていいよ」
「バッティングセンター、いいじゃないですか!久しく行ってないですし、行きたいです!行きましょう!瀧本先輩、バッティング上手いんですか?」
「あはは。上手くはないけど、一応、ボールがバットに当たる事は当たるよ!じゃあ、後、一踏ん張り仕事を頑張って、バッティングセンターに行って、ガンガン打ちまくろう!私も結構久し振りに行くし、楽しみだよ!」
そんな会話をしていると、いつの間にか終業時間を過ぎていた。仕上げの仕事をして、今日の仕事が完了。二人で職場を出て、エレベーターの前に行くと、三島彩海と菅山香菜と藤森美幸が、何故か待ち構えていて、気分転換に行く事を言うと、自分達も一緒に行くと言ってきた。断ったが、なかなか引き下がってくれない。
「もう、この三人に何を言っても無駄ね。走るよ!」
「え!走るって、どんな感じで走るんですか?」
「ウフフ、全速力でダッシュするんだよ!行くよ!」
瀧本愛香がそう言うと、僕の手を強く握り、全速力で走り出した。僕も瀧本愛香に合わせて走り出す。階段に通じるドアを開け、バタバタバタと音を立てながら、どんどん階段を駆け下りて行く。
「あ!逃げやがった!待て~!」
「瀧本~、逃げんじゃねぇよ~!待ちやがれ~!」
「あ~!逃げた~!逃がさないわよ~!」
三人が口々に叫びながら、瀧本愛香と僕を全速力で追う。
瀧本愛香と僕が、楽しそうに声を出しながら、階段を駆け下りる。
「きゃははは。こんなに速く階段を駆け下りるの、初めてだよ!」
「そうですね!油断すると、転んで下まで転げ落ちそうですけど、何とかなるもんですね」」
差がどんどん開いていき、瀧本愛香と僕が、一階に辿り着き、ドアを開けて、更にスピードを上げて走り、会社から出た。暫く後で、三島彩海と菅山香菜と藤森美幸が、漸く一階に辿り着き、ドアを開けて走り、会社から出ると、もう瀧本愛香と僕の姿が見えない。三人でキョロキョロして周りを見回すが、何処にも姿が無い。悔しがった後、決起集会を開く事になり、居酒屋に向かった。
瀧本愛香と僕が、息を切らしながら暫く走って行く。ふと、瀧本愛香が足を止めた。
「もうここまで来れば大丈夫だね。よく走ったね。いい運動になったわ!」
「はい!もう大丈夫ですね!良かったです!こんなに走ったの、久し振りです!」
「うん!私も久し振りにいっぱい走ったわ。さぁ、もうすぐバッティングセンターに着くよ!ガンガン打つよ~!」
「はい!いっぱい打ちましょう!めっちゃ楽しみです~!」
「あ、まだ手を繋いでたね。そろそろ離さなきゃね~」
「え!まだ瀧本先輩と手を繋いでいたいです。離さないで下さい」
「そう?じゃあ、バッティングセンターに着くまで、手を繋いで歩こっか」
二人で手を繋いで、楽しくおしゃべりしながら歩き進み、瀧本愛香が足を止めた。
「バッティングセンターに着いたよ!さぁ、入っていっぱい打つよ!」
「はい!いよいよですね!ワクワクしてきました!」
二人でバッティングセンターに入る。中にはたくさんの人がいて、バッティングを楽しんでいる人もいれば、バッティングを見ながら笑っている人もいる。
「じゃあ、早速打とう!まずは私が打つよ!しっかり見ていてね!」
「はい!瀧本先輩のバッティングを見るの、すっごく楽しみです!」
瀧本愛香はバッティングが上手く、どんどんヒット性の当たりを打ち、ホームランボードに当てたのもあった。僕も負けじと打とうとしたが、なかなか打てず、見かねた瀧本愛香が、僕に手取り足取り教えてくれて、時々おっぱいが身体に当たり、気分良くバッティングをすると、ヒット性の当たりを打つ事ができ、ホームランボードに当てる事もできた。瀧本愛香が大喜びで、僕にご褒美のキスをしてくれる事になった。
二人でじ~っと見つめ合う。瀧本愛香が唇をどんどん僕の唇に近付ける。僕が口を少し開けて瀧本愛香の唇が触れるのを待つ。更に唇と唇が近付き、瀧本愛香の唇と僕の唇が熱く重ね合わさった。暫くの間、濃厚にディープキス。舌と舌をグリグリと絡め合い、ぎゅ~っと熱く強く抱き締め合う。唇をそ~っと離し、二人でクスクスと笑い合っていた、その時、僕の頭の中に、突然、閃いた。
―あ!そうだ!前に聞いた、万年筆に関する大事な話を思い出した!僕は万年筆を受け継いだ時、万年筆に関する説明書も受け継いだんだ!前に聞いた話というのは、その説明書についての話だ!説明書は、万年筆が入ってたケースの中にある。家に帰ってから、説明書を読んでみよう!万年筆を見つけ出す為の手掛かりを掴めるかもしれないぞ!―
そんな僕の様子を見て、瀧本愛香が満面の笑顔で僕に言ってきた。
「どうしたの?何か思い付いた~って感じの表情をしてるよ!もしかして、何か万年筆についての事を思い出したの?」
「はい!バッティングと瀧本先輩とのキスで、思い出しました!僕が大切にしてる万年筆、説明書があるんですよ!万年筆が入ってたケースの中に、説明書が入ってるんですよ!家に帰ってから、説明書を読んでみます!何か万年筆を見つけ出す為の手掛かりを掴めそうな気がします!めっちゃ嬉しいです!ありがとうございます!」
「お~!やったな~!バッティングセンターに来て、ほんとに良かったな!その説明書に、万年筆を見つけ出す手掛かりが書かれてるといいな!私もすっごく嬉しいよ!ところで、ま、また、お前と、キ、キス、しちゃったな。私、そ、その、やっぱり、お前の事、す、好きになったんだと思う。私達、そ、その、両想いだな」
「え!瀧本先輩、僕の事、好きになってくれたんですね!やった~!最高に幸せです!ということは、僕と瀧本先輩、恋人同士って事で、いいんですよね?」
「そ、そうだな。私とお前、恋人同士って事になるな」
「お~!やった~!ばんざ~い!瀧本先輩、愛してます!」
「うん!ありがと~!私も、お前の事、愛してるぞ!ところで、瀧本先輩って呼ぶのではなく、愛香って呼んでもらっていいか?やっぱり、付き合ってるんだし、下の名前で呼んで欲しいんだ。あと、敬語は使わないでもらいたい。いいかな?」
「はい!分かりました!愛香って呼んで、敬語を止めます。じゃあ、早速言います!愛香、愛してるよ!」
「お~!いざ言われると、めちゃくちゃ恥ずかしいけど、すっごく嬉しいよ!ありがと~!私も愛してるよ!」
愛に溢れるキスをし、ぎゅ~っと熱く強く抱き締め合う。
バッティングを終え、ホームランボードに当てたという事で、無料になり、ニコニコ笑顔でバッティングセンターを出た。
「ねぇ、お腹空いたし、一緒に晩御飯食べようよ。行きたいお店でいいよ!」
「うん!そうしよう!愛香と一緒に晩御飯食べるの、めっちゃ楽しみだよ!僕の行きたいお店に案内するよ!」
―僕は愛香を一番愛してる!彩海と香菜と美幸とは、申し訳ないけど、別れなきゃいけないな。タイミングを見計らって言うぞ!愛香には、絶対にばれないようにしなきゃな―
二人で手を繋いで、楽しくおしゃべりしながら歩く。バッティングセンターでホームランを打った事もあり、ハイテンションのまま、バッティングの話を中心に盛り上がる。更に歩き進み、ふと、僕が足を止めた。
「着いたよ!このお店、鶏の唐揚げが美味しいんだよ!このお店でいいかな?」
「ウフフ、鶏の唐揚げが名物のお店なんて、お前らしいな!勿論いいぞ~!」
二人で店に入ると、若い女性店員が、元気な声を出して迎えてくれた。
「いらっしゃいませ~!お二人様ですね!お席にご案内しますね!こちらへどうぞ!」
店員に案内され、二人で席に座り、メニューを見る。
「やっぱり、僕のお勧めは、鶏の唐揚げだよ!あと、チキン南蛮も美味しいよ!他の料理は、愛香が食べたい物を注文しよう!」
「ウフフ、やっぱり鶏の唐揚げなんだね。チキン南蛮も美味しそう!後はね、ポテトサラダと焼き鳥の盛り合わせを頼もうよ!お酒は何にする?私は、生ビール中ジョッキにするよ!」
「うん!このお店、焼き鳥も美味しいよ~!僕も生中にするよ~!」
少しの間、談笑していると、店員が生中を運んで来て、ジョッキをカチ~ンと合わせて乾杯し、料理がどんどん運ばれて来て、二人で盛り上がりながら、どんどん食べて飲み進める。料理もお酒も美味しく、僕も瀧本愛香も、すっかり酔いが回り、超御機嫌状態。ふと、僕が気になっている事を瀧本愛香に訊ねる。
「愛香、こうやって二人で会ってる時は、愛香って呼ぶし、敬語を使わないけど、会社で話す時は、瀧本先輩って呼んで、敬語を使う方がいいよね?」
「お!お前、なかなか鋭い指摘だな。その通りだな。さすがに、会社では、今まで通りのビジネストークで頼むよ。別に、私とお前が付き合ってるのを、隠す必要は無いけど、わざわざ表立って公表する事は無いしな」
「そうだね~。僕も、愛香の意見に賛成だよ!愛香、めっちゃ綺麗で超セクシーだし、会社でイチャイチャしてたら、他の男に睨まれちゃうな」
「はっは。私、そんなに男に人気無いから、それは心配しなくていいけど、まぁ、私達から公表する必要は無いって事だな。ところで、エレベーターの前で、三島さんと菅山と藤森さんが来た時は、びっくりしたな。あの三人と何かあるのか?何を言われても、別に怒らないぞ」
突然そう言われ、僕が困った感じで考え込んでいると、瀧本愛香がニッコリ笑いながら僕に言ってきた。
「別に言いたくなかったら、言わなくていいよ。私、お前の事、信じてるから。私の事を一番愛してくれてるなら、それでいいよ」
「愛香、ありがとう!あの三人との関係、全く何も無かったと言えば、嘘になっちゃうけど、僕が一番愛してる人は、間違いなく愛香だよ!あの三人とは、もう恋愛の関係を断つよ!約束する!僕を信じて!愛香、愛してるよ!」
「うん!分かった!お前の事、信じてるよ!私も愛してるよ!さぁ、明日は休みだし、まだまだ食べて飲もう!」
「うん!まだまだ料理もお酒も残ってるし、どんどん食べて飲むぞ~!」
二人で更に食べて飲み進めていると、ふと、瀧本愛香が、思い付いた感じで言ってきた。
「今日、バッティングセンターで気分転換したら、思い出せなかった事を思い出せたし、気分転換したら、また何か閃くかもしれないな。お前は、普段、気分転換したい時、何をするの?」
「え~、そうだね~、僕は、やっぱりゲームかな~。最初の飲み会でも言ったけど、ゲームし過ぎて、気が付いたら明け方になってる時があるよ~」
「お~!私とお前、その点は同じだ~って話になってたな!私達、めっちゃ相性いいよね!今度、一緒にゲームしよう!私の部屋にも、ゲームあるからな~」
「あ~、そういえば、愛香の部屋にも、ゲームがあったな~。あの時は、ゲームする余裕なんて無かったけど、これからは余裕あるし、是非一緒にゲームしよう!」
瀧本愛香と僕の会話がどんどん盛り上がり、テンションがより一層上がる。更に食べて飲み、時間がどんどん経つ。料理とお酒を平らげた時、時計を見ると、もうすぐ日付が変わる時間になっていた。
「あ~、もうこんな時間!料理もお酒も、めっちゃ美味しかったね!そろそろ行こっか。ここは私が払ってあげるよ!」
「うん!ほんとにすっごく美味しかったよ~!ここは、僕が払うよ~!愛香と恋人同士になれたんだし、ここは、男である僕に払わせてよ!」
「何だか頼もしいね!お言葉に甘えちゃおっかな。ありがと~!御馳走様でした~!」
二人でレジに向かい、僕が飲食代を支払った。大体思った通りの金額で、ほんの少しだけ安心。店を出て、手を繋いで歩いている時、僕が瀧本愛香に訊ねる。
「愛香、これからどうする?また愛香の部屋に行っていいなら、行きたいな。さっき、ゲームの話が出たし、一緒にゲームするか~!」
「う~ん、確かに、私達、付き合い始めたし、私の部屋で一緒に過ごすのも、いいんだけど、今日は止めとこうか。そ、その、今日、お前が私の部屋に泊まったら、私達、ゲームするだけじゃなく、いくところまでいっちゃう感じがするんだよな。やっぱり、その、もっと段階を踏んでから、そ、その、愛し合いたいんだよな。勿論、お前と、愛し合いたい気持ちはあるんだけど、きょ、今日は、まだ早いかなと」
「そ、そうだね。愛香の言う通りだね。僕達、まだお互いの事を分かってない部分があるし、もっとお互いの事を知ってから、段階を踏んで、だね。もうかなり遅い時間だし、タクシーで部屋まで送るよ。で、僕はそのままタクシーに乗って、駅で降りて、電車で家に帰るよ。最終電車には間に合うと思うし。家に帰ってから、大切にしてる万年筆の説明書を読んでみるよ」
「そ、そうか。分かった。ありがと~!さっきのお店での飲食代を払ってもらったし、タクシー代は、私が払うからね!」
「うん。分かった。ありがと~!」
「うん!ねぇ、帰る前に、チュ―したい!チュ―しよ!」
「お!いいねぇ!キスしよう!丁度、愛香とキスしたかったんだよ!すっごく嬉しいよ!」
二人で手を繋いで歩き、人目に付かない場所に移動。二人でじ~っと見つめ合う。唇と唇を熱く重ね合わせ、舌と舌をグリグリと絡め合い、ぎゅ~っと熱く強く抱き締め合う。唇をそ~っと離し、二人でニッコリ微笑み合う。
そんな僕と瀧本愛香を、強烈な視線で見ている三人がいた。なんと、三島彩海と菅山香菜と藤森美幸だ!三人は、決起集会という名目で、居酒屋で飲みまくり、それぞれの部屋に帰る途中、偶然、僕と瀧本愛香がキスしている現場を目撃したのだった。
「な、何!あの二人、キスしてたよ!やっぱ、あの二人、付き合ってんじゃん!」
「た、瀧本~!私の愛しい男の子と、キスしやがって~!許さない!」
「ひ、酷い!あの人、瀧本さんとキスした~!私という大切な人がいるってのに、酷過ぎるよ~!めっちゃショック~!」
「絶対に許せない!今から三人で行って、問い詰めてやろうよ!」
「待って!冷静になろうよ。今、三人で行ったら、確実に私達、瀧本に負けて、余計に惨めな思いするだけだよ。ここは、グッと我慢して、後で瀧本に、目にもの見せてやろうよ!」
「そ、そうですね。私、瀧本さんも許せないけど、あの人の方が許せない!酷過ぎるよ!あの人に、究極の緊張感を味あわせたい!」
「よ~し!帰ろうと思ったけど、次の店に行って、作戦会議だ~!電車が無くなるだろうし、タクシーで帰ろう」
「お、三島さん、やる気満々だね~!そうしよう!」
「そうですね~。菅山さんも、燃えてますね~。私も、やる気が湧いてきました~」
三島彩海と菅山香菜と藤森美幸がそう言い合うと、次の店に向かって歩き出した。
そんな状況を全く知らず、僕と瀧本愛香がタクシーを見つけ、僕が手を挙げてタクシーを止め、二人でタクシーに乗った。
「そういや、駅から私の部屋への行き方、まだ分かってないよね。駅を通って、私の部屋まで行くから、道を覚えてよ」
「うん!分かった!多少酔っ払ってるけど、道を覚える自信はあるよ!」
瀧本愛香が運転手に道案内し、タクシーが順調に走る。瀧本愛香は、僕に駅からの行き方を説明してくれて、僕が一生懸命覚える。更に暫く走り進み、瀧本愛香のマンションの近くに到着。二人でタクシーから降り、タクシーに待ってもらう。
「送ってくれて、ありがと~!駅からの道、覚える事ができたかな?タクシー代を渡すよ。駅までは、このお金で行けると思うよ」
「うん!何とか覚えられたよ~!もう、駅から歩いて行けるよ~!ありがと~!」
「お!お前、頭いいじゃんか~!覚えられるか、ちょっと心配だったけど、良かったよ~!」
「うん!ところで、家に帰ってから、万年筆の説明書を読んでみるけど、明日、愛香が大丈夫なら、もしかしたら、僕と一緒に行動してもらうかもしれない。後で電話するよ。明日、大丈夫?」
「うん!勿論大丈夫だよ!電話、楽しみに待ってるよ。愛してるよ!」
「おぉ~!めっちゃ嬉しい~!ありがと~!愛してるよ~!」
二人でじ~っと見つめ合う。気持ちが高ぶり、暫くの間、濃厚にディープキス。ぎゅ~っと熱く強く抱き締め合う。
唇をそ~っと離し、瀧本愛香がニッコリ笑顔で手を振りながら、マンションに入って行く。僕が笑顔で手を振り返し、瀧本愛香がマンションに入ったのを見届けてから、タクシーに乗り、駅に移動。電車に乗り、家の最寄り駅で電車から降り、暫く歩いて行くと、程なく家に到着した。
僕が家に入り、お風呂に入ってから、すぐに万年筆が入っていたケースを探す。必死になり、血眼になって、万年筆が入っていたケースを探しまくる。思い当たる場所を中心に、手当たり次第にどんどん探しまくるが、どうしても見つからない。何処かにあるはずだが、どうしても思い出せない。
―そうだ!愛香が、思い出せそうで思い出せない時は、気分転換するのがいいって言ってたな。気分転換といえば、僕の場合、ゲームが一番いいな。愛香の部屋にあるゲームをしたい!愛香と一緒にゲームしたい!愛香と一緒にゲームしたら、すっごくいい気分転換になって、万年筆が入ってたケースを見つけ出せる気がする!今から愛香に電話して、愛香の家に戻っていいかどうか、訊いてみよう!―
早速、瀧本愛香に電話する。何回もコールが鳴るが、なかなか電話に出ない。それでもコールを鳴らし続ける。やはり電話に出ない。そろそろ電話を切ろうとして、電話のアイコンをタップしようとした、その時、瀧本愛香が漸く電話に出てくれた。
「もしもし、今日は楽しかったね。もう家に着いたの?こんな遅い時間にどうしたの?」
「お!愛香、電話に出てくれて、すっごく嬉しいよ!もう家に着いていて、お風呂に入って、さっきまで、万年筆が入ってたケースを探してたんだけど、どうしても見つからなくて、途方に暮れてた時に、愛香が言ってた、気分転換すれば思い出せない事を思い出せるって言葉を思い出したんだよ。僕の気分転換といえば、やっぱりゲームだし、僕の家のゲームを一人でするよりは、愛香の部屋にあるゲームを愛香と一緒にする方が、いい気分転換になると思うから、さっきまで愛香のマンションの前にいたけど、今から愛香の部屋に行って、僕と一緒にゲームしてくれないかな?勿論、段階を踏みたいっていう愛香の思いを尊重するし、愛香と一緒にゲームして、ケースの場所を思い出せたら、すぐに帰るよ」
「そ、そうか。そういう事なら、今から私の部屋に来ていいぞ!でも、どうやって来るんだ?もう電車は無いし、タクシーを捕まえられたいいけど、こんな時間、タクシーなんてほとんど走ってないぞ」
「ありがと~!移動手段は、心配要らないよ。愛香のマンション、僕の家から、自転車で行ける距離だし、自転車で行くよ!そんなに時間かからないと思うよ。マンションの前に着いたら電話するよ」
「分かった!もうお風呂に入ったし、ベッドに横にならずに待ってるよ!」
「うん!じゃあ、これから向かうよ。そんなに時間かからないと思うよ」
僕がテキパキと用意し、家を出発し、自転車に跨って、漕ぎ始める。順調に走り進み、思ったよりも早く、瀧本愛香のマンションの前に着いた。早速、スマホを取り出し、瀧本愛香に電話し、オートロックを開錠してもらって中に入り、エレベーターに乗って上がり、廊下を少し歩いて瀧本愛香の部屋のドアの前に到着。ドアを数回ノックすると、少し間が空いてから、瀧本愛香がドアを開けてくれた。
「さっきまで会っていて、もう会えたね!すっごく嬉しいよ!さぁ、入って~!」
「うん!ありがと~!僕も、こんなに早く愛香に会えて、めっちゃ嬉しいよ!愛香と一緒にゲームをして、気分転換して、万年筆が入ってたケースがある場所を思い出すぞ!」
僕が瀧本愛香の部屋に入ると、すぐに瀧本愛香が僕をぎゅ~っと抱き締めてきた。僕も瀧本愛香をぎゅ~っと抱き締める。二人でじ~っと見つめ合い、ぎゅ~っと熱く強く抱き締め合いながら、熱~いキス!唇をそ~っと離し、瀧本愛香が優しく微笑む。
「じゃあ、早速ゲームの準備をするね!面白いゲームが、いっぱいあるよ!最新のゲームもあるよ!お前がやりたいゲームでいいよ!」
「うん!ありがと~!気分転換になりそうなゲーム、どれにしようかな~」
どんなゲームがあるのかを見る。格闘ゲーム、恋愛ゲーム、推理ゲーム等、いろいろなゲームがあるが、僕の目に留まったのは、プロ野球ゲーム。
「バッティングセンターで、愛香と一緒にバッティングしたし、このプロ野球ゲームをやりたいな!いいかな?」
「うん!勿論いいよ!早速、私と試合しよう!負けないよ~」
「うん!しよう!たぶん負けるけど、もしかしたら、愛香に勝てるかもしれないよ!」
「ウフフ。私、お前が思ってるより、強いと思うよ~」
僕がお気に入りのチーム、瀧本愛香は関西の人気チームを選んだ。プレイボールがかかり、まずは僕の攻撃。愛香が巧みに指を動かし、高速スライダーを投げてきた。僕のバットが空を切る。
「どう?この高速スライダーを打つのは、並大抵の事じゃないよ~」
「さすが愛香。凄いボールを投げるね!でも、この試合中に打つよ!」
瀧本愛香の巧みな投球術により、三者凡退。次は僕がピッチングの番。まずはボールゾーンにストレートを投げたが、見送られ、ボール。次はストライクからボールになる球を投げたが、また見送られた。たまらずストライクゾーンにストレートを投げると、簡単にヒットを打たれ、次のバッターは送りバントでランナー二塁。次のバッターの初球に、内角ストレートを投げたが、読まれていて、フルスイングされた結果、ツーランホームラン!僕が悔しそうにしていると、瀧本愛香が怪しげな笑顔で僕に言ってきた。
「どう?私、強いでしょ~?折角、気分転換しに来たのに、ストレス溜まっちゃったら、ごめんね~」
「確かに愛香、強いね。でも、打たれても、愛香とゲームしてるの、すっごく楽しいし、気分転換になってるよ!まだまだ試合はこれからだよ!」
「ウフフ、そう言ってくれて、ほっとしたよ!コールドは十点差だよ!容赦しないよ」
瀧本愛香がどんどん攻勢をかけ、この回、一挙四点。僕はというと、瀧本愛香の巧みなピッチングに翻弄され、ランナーすら出せない。瀧本愛香のペースで試合が進み、五回終わって八対〇で瀧本愛香がリード。さすがに可哀想に思ったのか、瀧本愛香が僕にボール球を振らないようにアドバイスしてくれた。更に試合が進み、瀧本愛香が投手を交代し、アンダースローの投手がマウンドに上がった。ピッチングの組み立てを変え、ボール球を振らせようとし、僕が術中にはまってボール球を振ってしまう。瀧本愛香がチラッと僕の方を見て、妖艶な笑顔を見せてきた。僕がドキッとして、少し考える。
―愛香、急に笑顔を見せてきたけど、余裕なのかな。それとも、何か意図があるのかな。こんな時こそ、愛香のアドバイス通りにしてみるか~―
瀧本愛香に貰ったアドバイス通り、ボール球を振らないようにすると、どんどんボールカウントが増え、フォアボール。次の打者もフォアボール。次の打者の初球、ストライクを取りにきたストレートを、僕が狙いすまし、見事、バットの芯にボールを当て、なんと、ホームラン!僕が満面の笑顔ではしゃぐ。
「やった~!スリーランホームランだ~!まだまだこれからだよ!」
「お!やるじゃん!私のアドバイス通り、ボール球を振らずに、ストライクの球を、狙いを絞って打つっていうのが、しっかり出来てるね!」
このホームランをきっかけに、僕がコツを掴み、徐々に追い上げる。九回表になり、六対九で負けているが、瀧本愛香の抑えの投手を攻め、二死満塁、フルカウント。その時、瀧本愛香が、ニッコリ笑顔を僕に見せてきた。
―愛香、また笑顔を見せてきた!今回は、満面のニッコリ笑顔だな!僕が最高の気分転換をする事ができるように、考えてくれてるのかもしれないな。そうだ!分かった!―
瀧本愛香がボールを投じる。ボールゾーンからギリギリストライクゾーンに入る変化球。僕が狙いすまし、フルスイング。バットの芯にボールが当たり、なんと、逆転満塁ホームラン!その時、僕の頭の中に、万年筆が入っていたケースの在り処が思い浮かんだ。
「愛香!思い出した!あの万年筆が入ってたケース、本棚の本の裏側に置いてるんだった!愛香、アドバイスを僕が実行できるように、笑顔で合図を送ってくれてたんだね!ストライクからボールになる球を振らないって事は、ボールからストライクになるボールを振るって事だもんね!愛香のお陰で思い出せたよ!ありがと~!愛してるよ!」
「ウフフ、さすがだね!私の事、何でもお見通しって感じだね!打たれたけど、お前がすっごく喜んでくれて、万年筆が入ってたケースの在り処を思い出せて、私もすっごく嬉しいよ!私も愛してるよ!」
嬉しさのあまり、二人でぎゅ~っと熱く強く抱き締め合い、濃厚にディープキス。唇をそ~っと離し、瀧本愛香が笑顔を見せる。
「万年筆が入ってたケースの在り処を思い出せたけど、試合はまだ終わってないし、ちゃんと最後まで試合するよ!」
「うん!勿論だよ!愛香の裏の攻撃を抑えれば、僕の勝ちだ~!」
―このまま僕が勝っちゃったら、愛香は悔しがるかな~。逆転された方が、愛香が気分良くなって、いいかもな。でも、手を抜いたらばれるだろうし、手を抜かずに、愛香に勝ってもらう方法か~。そうだ!―
一点差のまま、瀧本愛香の裏の攻撃。抑えの投手をマウンドに上げ、ギリギリのボール球を中心に投げ、フォアボール。次の打者。ボールからストライクになる球を投げ、瀧本愛香が狙いすまし、カキーンと打ち、逆転サヨナラホームラン!瀧本愛香が、大喜びではしゃぎまくる。
「やった~!逆転サヨナラホームランだ~!めっちゃ嬉しい~!」
「お~!愛香、めっちゃ凄いよ!僕の負けだ~!」
瀧本愛香が大喜びで、僕にぎゅ~っと抱き付く。僕も瀧本愛香をぎゅ~っと抱き締める。二人でじ~っと見つめ合う。唇と唇を熱く重ね合わせ、舌と舌をグリグリと絡め合い、ぎゅ~っと熱く強く抱き締め合う。唇をそ~っと離し、瀧本愛香がニッコニコの笑顔。
「ねぇ、お前がこうして私の部屋に来てくれたんだし、私達、ちゃんと段階を踏んでるよね。まだ夜は長いし、まだ帰らなくていいよね。お前と、そ、その、愛し合いたい、かも」
「え!マジか~!めっちゃくちゃ嬉しいよ!僕も愛香と愛し合いたい!家に帰って万年筆が入ってたケースを探すのは、愛香と愛し合ってからで十分だよ!」
―お~!やった~!愛香のアドバイスの内容を、愛香にしてもらって、愛香が勝って、僕と愛香、めっちゃいい雰囲気になったな~!―
二人でじ~っと見つめ合う。濃厚にディープキス。舌と舌を濃密に絡め合い、ぎゅ~っと熱く強く抱き締め合いながら、勢い良くベッドに雪崩れ込み、熱く激しく気が狂ったように時間が経つのを忘れて無我夢中でひたすら濃密に愛し合いまくった。
二人でベッドに横になり、イチャイチャして過ごしていると、最高に幸せで心地良い気分に包まれながら眠りについた。
どれ位眠っただろうか。僕が目を覚ますと、僕と抱き締め合いながら、瀧本愛香が気持ち良さそうに眠っている。時計を見ると、深夜とも早朝とも取れる時間。
―愛香の寝顔、めっちゃ綺麗で、可愛いな。いつまでも見ていたいけど、そろそろ家に帰って、万年筆が入ってたケースを探し出して、万年筆の説明書を読んで、万年筆を見つけ出す為の手掛かりを掴まないといけないな。僕の直感だけど、早くしなきゃいけない気がするんだよな。そろそろ愛香を起こすか。よし!キスで起こすか~―
僕が唇を愛香の唇にどんどん近付けて行き、僕の唇が愛香の唇に触れ、グッと押し付け、舌を愛香の口の中に入れ、愛香の舌とグリグリと絡め合わせる。暫くの間、濃厚にディープキスしていると、瀧本愛香が、まだ眠そうに、ゆっくりと目を開けた。
「ウフ、おはよ~!王子様のキスで目覚めた感じで、最高の目覚めだわ!」
「うん!愛香、おはよ~!王子様なんて言われて、舞い上がっちゃうよ~!」
再び濃厚にディープキスし、僕が笑顔で瀧本愛香を見つめる。
「愛香、そろそろ帰って、万年筆が入ってたケースを探し出して、万年筆の説明書を読んで、万年筆を見つけ出す為の手掛かりを掴むよ。何となくだけど、早くしなきゃいけない気がするんだよ。もう電車が動き始める時間だし、外に出る準備に取り掛かるよ。後でちゃんと電話するよ。愛香と愛し合いまくれて、すっごく幸せな時間を過ごせたよ。ありがと~!愛香、愛してるよ!」
「うん。分かった。電話待ってるよ。私も、お前と愛し合いまくれて、とっても幸せな時間を過ごせたよ。ありがと~!愛してるよ!」
二人でベッドから起き上がり、僕が瀧本愛香の部屋から出ようとした時、瀧本愛香が僕に抱き付いてきた。僕も瀧本愛香をぎゅ~っと抱き締める。濃厚にディープキス。舌と舌を濃密に絡め合い、ぎゅ~っと熱く強く抱き締め合う。僕が笑顔で手を振りながら、瀧本愛香の部屋から出る。瀧本愛香も僕に笑顔で手を振り返す。ドアを閉め、瀧本愛香の姿が見えなくなり、瀧本愛香のマンションを出て、自転車を漕いで家に向かい、到着した。
家に着くとすぐに、本棚の前に行き、どんどん本を取り出す。ほとんどの本を取り出したが、まだ万年筆が入っていたケースは見つからない。更に本を取り出すが、やはり見つからない。そろそろ、全ての本を取り出す感じになってきた。
―あれ~?愛香の部屋で、気分転換にゲームをしてた時に、本棚の本の裏側にあるって、思い出したはずなのに、見つからないな。まぁ、ここまで本を取り出したんだし、諦めずに、全部取り出す位の勢いで、探しまくるか―
更に本を取り出し、残りの一冊になってしまった。諦め気分で英和辞典を取り出した、その時、目を疑う光景!なんと、万年筆が入っていたケースが、そこに置かれている!
「あった!まさか、英和辞典の裏側なんかに置いてたとは!よし!ケースを開けて、万年筆の説明書を読むぞ!」
万年筆が入っていたケースを取り出し、ゆっくりとケースを開け、中を見ると、何も入っていない。
―説明書が入ってない!でも、このケースの中に、万年筆の説明書が入ってるはずだ!何処にあるんだろ~―
万年筆が入っていたケースの中をじっくりと見るが、当然、何も無い。ケースの中を、指で触り、こすってみるが、何も変化は無い。指を激しく動かし、ケースの中をこすりまくる。爪を立てて、こすっていると、ほんのわずかだが、爪が引っ掛かる感じがした。わずかに爪が引っ掛かる部分を、更にガリガリと爪を立ててこすり続けると、段々、開きそうな感じがしてきた。力を更に強めてこすり続けると、突然、カパッと開いた。その中には、お目当ての、万年筆の説明書があった。
「やっと万年筆の説明書を見つけた!万年筆が何処にあるのか、手掛かりを掴むぞ!」
説明書を手に取り、丁寧に開いていくと、万年筆に関する説明が、びっしりと書かれている。元々知っている内容が多いが、ほぉ~と、驚かされる内容もある。その中で、僕が気になったのは、万年筆のインクに関する記述。
―そうか!この万年筆のインク、かなり特殊なインクみたいで、この万年筆のインクの匂いを嗅ぐと、精神的におかしくなるのか!もしかしたら、突然会社に来なくなった、部長と次長と野田さんと森崎さん、僕が大切にしてる万年筆のインクの匂いを嗅いで、精神的におかしくなって、会社に来なくなったのかな。そうだとしたら、益々、早く万年筆を見つけ出さなきゃいけないぞ!女性警備員から万年筆を受け取った会社の人が、一番怪しいぞ!何とかして、あの女性警備員から、その人に関する情報を聞き出さなきゃいけないな。あ、そういや、この説明書、ちゃんとした文字で書かれてる内容以外に、隠された内容もあるって、前に聞いたよな。どうやったら、その内容が分かるのかな。よし!空白の部分をじっくり見てみよう―
説明書の空白の部分を、目を凝らしてじ~っと見る。何も書かれていないが、それでもじ~っと見つめる。すると、右下の空白の部分に、何か書かれているような気がした。
―この空白の部分、ちょっとキラキラしてる感じがするし、いろんな角度に傾けよう―
説明書をいろいろな角度に傾けながら、じっくりと見ると、ある角度で、キラキラしている文字が浮かび上がった感じがした。しかし、何が書かれているのかは分からない。
―もうちょっとで分かりそうなんだけどな!そうだ!ライトに照らして、ゆっくりと説明書をいろんな角度に傾けてみよう!―
部屋のライトで説明書を照らし、ゆっくりと説明書をいろいろな角度に傾け、じ~っと見つめていると、ある角度で、キラキラしている文字が、読める位に浮かび上がった。ピタッと説明書を傾けている角度を止め、慎重にキラキラしている文字を読み進めていると、びっくり仰天の内容が書かれているのが分かった。
―こんな事があるのか!信じられないような内容だけど、本当の事なんだろうな。これは、早く行かなきゃいけないぞ!すぐに家を出発するぞ!―
大急ぎで家を出て、走って駅に向かった。
電車に乗り、大急ぎで走って着いた場所は、会社。
早速、会社に入り、走って向かったのは、一階の警備室。そこにいたのは、万年筆を誰かに渡してしまった、あの女性警備員。
―いた!今日は土曜日。昨日から夜勤という事で、土曜日の朝は、この女性警備員一人だけで勤務してると思ったけど、見事に当たった!今が、この女性警備員に、万年筆を渡してしまった人の事について、白状させる最大のチャンスだ!―
僕が警備室に入ると、女性警備員が驚きながら、僕に言ってきた。
「あなたは、昨日、万年筆の事で、私にいろいろ訊いてきた方ですね。こんな朝早くから、一体、何の御用ですか?」
「まぁまぁ、そんなに警戒しないで下さい。おはようございます。昨日、あなたを見た時、あなたと交流を深めて、仲良くなりたいって思ったんですよ」
「はぁ?何言ってんですか!私は別に、あなたと仲良くなりたくありません。とっとと出て行って下さい」
「そんなに冷たくしないで下さいよ。一目見た時から、警備員にしておくには惜しい位、綺麗で可愛くてセクシーな女性だな~って思ってたんですよ」
「な、何を言い出すんですか!そんな訳ないでしょ!社員に、私よりも綺麗で可愛くてセクシーな女性、いっぱいいるでしょ!」
「いやいや、あなたが、僕の中で、一番綺麗で可愛くてセクシーですよ!それに、筋肉もしっかりありますね。何かスポーツしてるんですか?」
「そんな事ないですって!まぁ、筋肉はありますけど。一応、柔道やってます」
「柔道やってるんですか!確かに、柔道やってるって感じがします!最近の柔道家って、こんなに綺麗で可愛くてセクシーなんですね!」
「も~!なんでそんなに褒めるんですか?そんなに褒めても、何もしませんよ」
「本心ですよ。ところで、折角こうして仲良くしゃべってるんですし、そろそろ敬語止めましょう。ねぇ、名札に下川って書いてるけど、下の名前は何ていうの?」
「え!下の名前は、みちるっていうんだよ。あなたは、名前何ていうの?」
「お!敬語止めてくれたね。みちるか~。いい名前だね~。僕はね~」
僕が名前を名乗り、言葉を続ける。
「じゃあ、下の名前で呼ぶね。みちる、僕、みちるの事が、好きになっちゃった。一目惚れってやつかな~」
「はぁ?いきなり何言い出すのよ!好きになるの、早過ぎでしょ!あなた、軽い人だね!」
「そう言わないでよ。みちるが魅力的過ぎて、あっという間に好きになっちゃった~」
「はぁ?本気で言ってんの?も~、ドキドキするじゃない」
「勿論、本気だよ!みちる、大好きだよ!」
「も~、そんな事言われると、ドキドキして、心臓が口から飛び出そうだよ」
「僕もめっちゃドキドキしてるよ。ねぇ、お願い!みちるとキスしたい!」
「はぁ?いきなり何言ってんのよ!まだ早過ぎるよ!」
「ダメだ!もう我慢できない!みちるが魅力的過ぎるんだよ!」
「ちょ、ちょっと、落ち着いてよ!ダメだってば~!」
みちるの言葉に従わず、僕が一気に唇を下川みちるの唇に重ね合わせ、舌を下川みちるの舌に絡め合わせ、ぎゅ~っと熱く強く抱き締め合う。暫くの間、濃厚にディープキス。唇をそ~っと離すと、下川みちるが、突然、はっとなった。
―よし!狙い通りだ!どんどん仕掛けるぞ!―
「ねぇ、みちる、お願い!昨日は教えてくれなかったけど、僕の大切な万年筆を渡してしまった人の事を、教えて欲しい。受取日時の欄が空白だけど、いつなの?受取人の欄が空白だけど、誰に渡したの?」
「うん。いいよ。教えてあげる」
下川みちるから、僕の万年筆をいつ誰に渡したのかを聞く事ができた。その内容に、僕がびっくり仰天し、少しの間、固まってしまった。
「みちる、ありがと~!これから行かなきゃいけない所があるから、もう行くよ」
「あ、もう行っちゃうんだ。ちょっと寂しいかも。今度は、二人で一緒に遊びに行ってくれるかな?」
「うん!いいよ~!楽しみにしてるね!スマホの連絡先、交換しとこっか」
下川みちると、スマホの連絡先を交換し、警備室を出て、僕が、ある場所に急いで向かう。スマホで場所を検索すると、歩いて行ける場所だと分かり、少しでも早く着く為、走る事に決め、可能な限り速く走って行く。どんどん走り進み、漸く目的地に到着。着いた場所は、警察署。
僕が鼻息を荒くしながら、警察署に入った。警察署の一階は、朝早い時間とはいえ、当然のように、警察官がウロウロ歩いていて、椅子に座って事務の作業をしている警察官もいて、それなりの緊迫感がある。僕が迷いながらウロウロ歩いていると、突然、横から女性警察官が話し掛けてきた。
「あの~、さっきから、何か相談したそうな感じで、歩き回ってますよね。良かったら、話を聞きましょうか?」
―この女性警察官、何処かで見たような。え~と、あ!そうだ!昨日、会社に来た警察官の中に、この女性警察官もいたよな!これは、何という偶然!早速、話してみよう!―
「あの~、昨日、突然いなくなった四人の社員の事で、うちの会社に来てましたよね?僕、その会社の社員で、あの時、職場にいました。今日、こちらに来させて頂いたのは、その件で、何か分かった事があるかな~と思って、話を聞きに来ました。後、僕、大切にしてる万年筆を無くしてしまって、届け出をしてるんですけど、もしかしたら、何か進展があったかな~と思って、その話も聞きに来ました」
「そうなんですか。あの時、いらっしゃったんですね。申し訳ないんですけど、今、捜査中でして、無関係の人には、捜査状況を言えないんですよ。万年筆の件については、届いてるかどうか、調べて来ますので、少々お待ち下さいね」
その女性警察官が、僕の大切にしている万年筆が届いているかどうかを調べる為、遺失物管理の部署に向かった。暫く待っていると、さっきの女性警察官が、申し訳なさそうな表情を浮かべながら戻って来た。
「申し訳ございません。残念ながら、万年筆の落し物は、届いておりません。もし届きましたら、すぐにご連絡致します」
「そうですか。仕方ないですね。万年筆の件は、それで構いませんけど、突然会社に来なくなった四人の社員の件については、簡単に引き下がる訳にはいきません。先程、僕の事、無関係の人っておっしゃいましたけど、僕、その四人には、大変お世話になっておりまして、物凄く心配してるんですよ。僕以外にも、心配してる人は、何人もいます。なんでそんなに隠すんですか?教えて下さいよ。僕達だって、あの四人が何処にいるか、探したいんですよ」
「そう言われましても、捜査状況を教える訳にはいかないんですよ。突然会社に来なくなった人を心配する気持ちは分かりますけど、こちらにも事情がありますので、これ以上は話せる事はありません。もうそろそろよろしいですか?」
「ちょっと、そんな事を言って、逃げないで下さいよ。これだから警察は、信用できないんですよ。僕等の方が、あの四人を探し出せる感じがしてきましたよ。何でもいいから、知ってる事を教えて下さいよ。僕等の方が、真剣に探しますよ。お願いします」
「いい加減にして下さい!あなたが言ってる事、はっきり言って、侮辱ですよ!これ以上言うなら、それなりの手段を講じさせて頂きますよ!どうぞお引き取り下さい!」
女性警察官が強くそう言うと、キリッとした表情で、指を出口に向かって差し、僕に対し、とっとと帰れと言わんばかりの雰囲気を醸し出した。
―そうだ!この人も、もしかしたら、あの女性警備員、みちると同じなのかもしれないな。という事は、みちるにした事と同じ事をすれば、対応がガラッと変わるかもしれない。でも、みちるは一人で警備室にいた警備員という事で、ああいう事が出来たというのもあるし、今回は、相手は女性警察官で、今は僕と火花バチバチだな。う~ん。よし!一か八か、古典的でベタな感じがするけど、当たって砕けろって感じで、やってみるか!―
「分かりました。そろそろ失礼しますけど、その前に、ちょっと一緒に来て頂けませんか?ここは警察官が多いし、僕もあなたも、興奮気味だし、落ち着いてから、もう少しだけ話をさせて頂きたいんです。時間はそんなに取らせません」
「そこまで言うなら、ちょっとだけという事で、構いませんよ。それで、何処に行くんですか?」
「ありがとうございます。勿論、近い場所ですよ。あそこのドアを開けて、階段を上って、上の階に行って、警察官が少ない場所で、話をしたいんですよ」
「なんでそこまで警察官が少ない場所にこだわるんですか?あなた、まさか、私に変な事をしようとしてるんじゃないでしょうね?もし変な事をしてきたら、逮捕しますよ!」
「ははは。変な事なんて、する訳ないじゃないですか。さぁ、行きましょう!」
女性警察官と僕が、どんどん階段を上り、上の階に到着。他の人は誰もいない。女性警察官が真剣な表情で言ってきた。
「さぁ、着きましたよ!私が話を聞いて、答えたら、今度こそ帰って下さいよ」
「分かりました。では、早速、話します。まぁ、話といっても、警察に対するクレームですけどね」
「はぁ?こんな所まで来て、クレームですか!」
「僕、前から、警察なんて大っ嫌いなんですよ。強引な事情聴取で、無理矢理自白させて、冤罪を作り出したり、証拠を捏造して、冤罪を作り出したり、ちょっと捜査して犯人が見つからなかったら、後はやる気の無い捜査で適当に済ませて、事件を迷宮入りさせたり、もう、滅茶苦茶ですよね。日本の警察、ほんっとうにレベルが低過ぎるんですよ!」
「おい!言いたい事を言いまくってるけど、全部間違ってるよ!警察は、常に誠実に一生懸命になって、事件を解決する為に頑張ってるんだよ!」
「はっは。いくらあんたがそう言っても、実際は僕が言った通りだよ!本当に警察なんて最低だよ!あんただって、僕が誠意を持って、突然会社に来なくなった四人の社員について、教えて下さいって頼んでも、全然相手にしてくれない!あんたのさっきの態度で、僕の警察に対する悪いイメージが、更に悪くなったよ!警察も最低だし、あんたも最低だよ!あんたなんか、警察官の資格無いよ!警察官なんて、とっとと辞めちまえ!」
「ふざけんな!私が、どんな思いで、警察官の仕事を頑張ってると思ってるんだ!」
女性警察官がそう怒鳴って、僕に掴みかかってきた。
―よし!来た!女性警察官が激情して、僕に襲い掛かって来るのを待ってたんだ!さぁ、もっと来いよ!―
女性警察官が、僕の両肩を両手で力一杯掴み、大声で叫びながら、僕の身体を激しく揺らしてきた。
「てめぇ、言いたい事ばっかり言いやがって!ふざけんな~!」
―よし!今だ!このチャンスを逃すな!―
僕が身体をよろめかせ、バランスを崩し、後ろに倒れていく。
「うわ~!」
「危な~い!」
女性警察官が、僕の背中に腕を回し、僕をぎゅ~っと抱き締め、僕の身体を守る為に、僕とぎゅ~っと抱き締め合いながら、階段を転げ落ちて行く。どんどん転げ落ちて行き、とうとう一階まで転げ落ちた。
その瞬間を逃さず、僕が一気に唇を女性警察官の唇に重ね合わせ、舌を女性警察官の口の中に入れ、女性警察官の舌と絡め合わせる。暫くの間、濃厚にディープキス。舌と舌を濃密に絡め合い、ぎゅ~っと強く抱き締め合う。
唇をそ~っと離し、女性警察官を見ると、目が覚めたように、はっとなっている。
―よっしゃ~!狙い通りだ!やっぱり、この女性警察官も、みちると同じ状況だったんだ!この女性警察官も、正気に戻った感じだな!これで、突然会社に来なくなった部長、次長、野田さん、森崎さんに関する情報を教えてもらえるはずだ!―
「ごめん。アクシデントとはいえ、キ、キス、しちゃったね。僕の事、守ってくれて、ありがとう。やっぱり、君、最高の女性警察官だよ。君と警察の悪口をいっぱい言っちゃって、ほんと、ごめんね。全部撤回するよ」
「ううん。気にしてないよ。私も、酷い事を言っちゃって、ほんとにごめんね。キ、キス、しちゃったね。元はと言えば、私があなたの身体を激しく揺すってしまったから、あなたが落ちちゃったんだし、無我夢中で、あなたを守らなきゃ~って思って、身体が勝手に動いたよ。最高の女性警察官って言ってくれて、ありがと~!すっごく嬉しいよ!」
「うん!そんなに喜んでくれて、僕もすっごく嬉しいよ!ところで、君、名前は何ていうの?教えて!」
「うん!勿論いいよ。私、香本優香っていうの。香って漢字が最初と最後に付いて、さいしょがこう、最後がかって読むの。いいでしょ~?あなたの名前も教えてよ」
「うん!いい名前だね!これから、優香って呼ぶよ!僕の名前はね~」
僕が名前を名乗り、言葉を続ける。
「優香、今なら教えてもらえるよね?突然会社に来なくなった四人に関する情報、どんな些細な事でもいいから、教えて欲しい。お願い!教えて~!」
「も~、しょうがないな~。まぁ、ちょっと行き詰ってるところだったし、考える人は、多い方がいいし、あなただけに、特別に教えてあげるよ。実はね~」
僕が香本優香から、突然会社に来なくなった社員に関する情報を聞き、驚愕する。
―え!マジか!あの人達に、こんな秘密があったのか!これは、大変だぞ!勿論、四人が何処にいるのか、すっごく気になるけど、この秘密、とんでもない事だぞ!これは、何が何でも、四人を探し出さなきゃいけないぞ!四人を探し出す事が、僕の大切にしてる万年筆を見つけ出す事にも繋がるかもしれない!―
「優香、教えてくれて、ありがと~!びっくりしたけど、すっごく役に立ったよ!後は、あの四人が何処にいるかだけど、それについては、何か知ってる事ある?」
「それについては、あなたと同じように、警察署に来た人がいて、その人が、写真を落として行ったんだけど、この写真が、何処の写真なのか、今、皆で考え中なの。特別に、その写真を見せてあげるよ。まぁ、そこにその四人がいるかどうかは、分かんないけどね。その人に、写真の事を訊いたんだけど、びっくりして、何でもないって言い張るのよね。まぁ、その写真に写ってる場所が、その四人がいる場所っていう証拠は無いし、これ以上は突っ込めないし、警察としても、この写真の場所について考えるの、もういいかな~って雰囲気になってきてるし、あなたが、その写真に写ってる場所が何処なのか、当ててくれれば、こっちとしても、願ったり叶ったりって感じだよ。持って来るから、ちょっと待っていてね」
香本優香が、その写真を取りに行き、暫く経ってから、写真を持って戻って来た。僕が写真を見ると、小さな島が写っている。
「優香、確かに、これだけじゃ、これが何処なのか、なかなか分からないな。この写真、コピーある?できれば欲しいんだけど」
「うん!その写真自体が、コピーだから、あなたにあげるよ!もしこの写真に写ってる島が、何処なのかが分かったら、教えてよ!そうだ!スマホの連絡先を交換しようよ!」
「うん!勿論いいよ!」
僕と香本優香が、お互いのスマホの連絡先を交換した。
「優香、ありがと~!後、誰が警察署に来て、この写真を落としたのか、教えてよ!」
「うん!いいよ~!あなたにだけ、特別だよ!」
僕が香本優香から、その人の名前を聞き、また驚愕したが、すぐに冷静になった。
―そうか!繋がって来たぞ!よし!何が何でも、この写真に写ってる島が何処なのか、解明するぞ!―
「優香、いろいろ教えてくれて、ありがとうね!すっごく助かったよ!じゃあ、僕、もう行くよ!この島が何処なのか、分かったら連絡するよ!これからも、協力し合って、突然会社に来なくなった四人を、何が何でも見つけ出そうね!僕が大切にしてる万年筆の事、何か分かったら、教えてね!」
「うん!分かった!ねぇ、もう行っちゃうの?私、まだ仕事が終わってないし、今すぐという訳にはいかないけど、今度、二人だけで会いたいよ」
「うん!勿論いいよ!後で連絡するよ!優香という最高の女性警察官に会えて、本当に良かったよ!じゃあ、またね~!」
「うん!ありがと~!私も、あなたに出会えて、ほんとに良かったよ!またね~!」
お互い手を振り合いながら、僕が警察署を出て、香本優香が仕事に戻った。
僕が状況を瀧本愛香に説明する為、電話すると、数回コールが鳴った後、電話に出てくれた。
「もしもし、どうだった?部長と次長と野田さんと森崎君が何処にいるかという事や、万年筆についての事が、何か分かった?」
「愛香!声を聞けて嬉しいよ!愛香の部屋を出た後、家に帰って、万年筆が入ってたケースを探し出して、中に入ってる説明書を読んで、会社の警備室と警察署に行って、話を聞いて、いろんな事が分かったよ。今から報告するから、しっかりと聞いてね」
僕が瀧本愛香に、得る事ができた情報と、島が写っている写真の事を報告すると、瀧本愛香が、驚きの余り、暫くの間、言葉を失っていたが、言葉を絞り出した。
「え!まさか、突然会社に来なくなった、あの人達に、そんな秘密があったなんて、びっくり~!それに、あの人が、万年筆を女性警備員から受け取ってたなんて、一体、何の狙いがあるんだろうね。島が写ってる写真も、気になるね。その島に、あの四人がいるかもしれないもんね」
「そうなんだよ。それで、愛香に、その島が写ってる写真を見せるから、何処かで待ち合わせて、僕と一緒に、その島が何処にあるのか、考えて欲しいんだよ。で、もし何処なのか分かったら、そのまま、その島に行きたいと思ってるんだよ。明日は日曜日だし、一応、泊まりの用意をして、出て来てくれるかな?僕も、一旦、家に帰って、泊まりの用意をして、家を出発して、愛香と合流するよ」
「うん!分かった!何処で待ち合わせる?お前が決めていいぞ!」
「そうだな~。島という事で、飛行機か新幹線に乗りそうだな。まぁ、飛行機に乗るのを見越して、羽田空港のターミナルビルの入口の前で待ち合わせにしよっか」
「うん!それでいいよ!羽田空港か~。展望デッキに行って、一緒にたくさんの飛行機を眺めたいな」
「いいねぇ!まずは展望デッキに行って、一緒に飛行機を見よう!」
電話を切り、家に向かって移動し、家に到着。泊まりの準備を整え、すぐに家を出発し、羽田空港に向かい、ターミナルビルの入口の前に到着し、周囲を見回すと、瀧本愛香はまだ来ていない。僕がスマホをいじりながら、瀧本愛香を待っていると、向こうの方から、満面の笑顔で手を振りながら、瀧本愛香が僕のところに走って来た。
「お待たせ~!バッチリ泊まりの用意を持って来たよ!さぁ、早速展望デッキに行って、飛行機をいっぱい見ようね!」
「愛香~、来てくれてありがと~!今日、行く先で泊まるかどうかは、まだ分からないけど、写真は後で見るとして、愛香がすっごく楽しみにしてるようだし、まずは展望デッキに行くか~。愛香、そんなに飛行機好きなの?」
「うん!実は、飛行機好きなんだよ。飛行機を見てると、心が清々しくなって、嫌な事を考えなくて済むんだよね」
「そうなんだね!僕も、飛行機好きだけど、愛香の方が、飛行機好きそうだね。僕は、飛行機を見るよりも、乗ってる時に景色を見るのが好きだな~」
「お前、意外とロマンチストなんだな。私も、飛行機に乗ってる時に見る景色、好きだよ!」
二人でターミナルビルに入り、手を繋いで楽しくおしゃべりしながら歩き進み、展望デッキに到着。見渡すと、多くの飛行機があり、瀧本愛香も僕も、テンションが爆上がり。二人で手を繋ぎながら、時々おしゃべりして、飛行機をじ~っと眺める。どんどん時間が経ち、僕が笑顔で瀧本愛香に言う。
「愛香、そろそろ行こっか。島が写ってる写真を見せるから、島が何処にあるのか、一緒に考えよう」
「うん。しっかり写真を見て、写ってる島が何処にあるのか、じっくり考えてみるよ」
―あ!そうだ!展望デッキを出る前に、やらなきゃいけない事がある!周りに人はいるけど、僕と愛香を見てる人は、誰もいない感じだし、今がチャンスだ!―
僕が瀧本愛香の肩を優しく掴み、僕の方を向かせ、瀧本愛香をじ~っと見つめると、瀧本愛香が驚いた表情になった。
「ねぇ、急にどうしたの?こんな事されると、ドキドキしちゃうよ」
「愛香、愛してる!もう我慢できない!」
僕が一気に唇を瀧本愛香の唇に重ね合わせ、舌を瀧本愛香の口の中に入れ、舌を瀧本愛香の舌に絡め合わせた。暫くの間、濃厚にディープキス。舌と舌をグリグリと絡め合い、ぎゅ~っと熱く強く抱き締め合う。唇をそ~っと離し、瀧本愛香が少し驚いた表情を浮かべながら、僕に言ってきた。
「いきなりキスしてきて、びっくりしたよ!キス、すっごく良かったよ!愛してるよ!」
「うん!愛香を見てると、急にキスしたくなっちゃって、我慢できずに、勢いでキスしちゃったよ!僕もすっごく良かったよ!僕も愛してるよ!」
―よし!愛香とキスする事ができた!狙い通りだ!これで、万が一の事があっても、愛香は大丈夫だ!―
「愛香、今度こそ行こっか。何処かの店に入って、写真を見て、写ってる島が何処にあるのか、一緒にしっかりと考えよう!」
「うん!そうだね!私が考えて、写真に写ってる島が何処にあるのか、分かる自信はないけど、頑張って考えてみるよ!」
二人で手を繋いで楽しくおしゃべりしながら歩き、展望フロアから出て、レストランフロアに行き、どの店に行くかを考えていると、突然、僕のスマホのバイブが鳴った。暫くの間、電話を無視していると、電話が鳴り止んだ。再び、二人でどの店に入るか考えていると、またスマホのバイブが鳴った。僕の様子を見ていた瀧本愛香が、微妙な表情を浮かべながら、僕に言ってきた。
「ねぇ、さっきから、ちょっと様子が変だよ。もしかして、スマホが鳴ってるの?」
「愛香、確かに、さっきから僕のスマホが鳴ってるんだよ。誰からの電話なのか、ちょっと見てもいいかな?」
「うん。勿論いいよ。私に遠慮なんかしないでよ」
「分かった。見てみるよ。一体、誰からの電話なんだろうな~」
僕がスマホを取り出し、ディスプレイを見てみると、なんと、三島彩海からの電話。瀧本愛香がディスプレイを覗き込み、怪しい笑顔を浮かべる。
「三島さんからの電話なんだね。私の事なんて気にしないで、出てよ!」
「愛香、誤解しないでね!三島先輩とは、何も無いよ!とりあえず、出てみるよ」
―まぁ、何も無いってのは嘘だけど、愛香が怪しんでる感じだし、何も無いって言っとかないとダメだもんな―
僕が電話のアイコンをスライドし、三島彩海からの電話に出た。
「もしもし、土曜日なのに、何かございましたか?」
「何をビジネストークみたいな話し方をしてるのよ!彩海だよ!今すぐに会いたいんだけど、今、何処にいるの?」
「分かってますよ。今、所用で、羽田空港にいるんですよ」
「だから、そのビジネストークみたいな話し方、止めろっつ~の!なんで羽田空港なんかにいるのよ?」
「だから、所用ですって。もういいですか?忙しいので、もう電話切りますよ」
「はぁ?ふざけないでよ!なんで言ってくんないのよ!もういいわ!今からそっちに行くから!そんなに時間かからないと思うし、羽田空港の何処に行けばいいの?」
「ちょ、ちょっと待って下さい!今、一人じゃないんですよ!大事な用事があるので、来られても困ります!」
「はぁ?一人じゃないって、一体、誰と一緒にいるのよ?」
「そ、それは、言えません。とにかく、大事な用事なんですよ。もう本当に電話切りますよ。忙しいんですよ」
「ダメよ!あんた、いい加減にしなさいよ!羽田空港の何処に行けばいいの?言わないと、こっちにも考えがあるからね!」
僕が困り果てた表情で、瀧本愛香の方を見て、かなり小さい声で言う。
「愛香、三島先輩が、羽田空港に来るって言ってる。どうしよう。何処に行けばいいかを言わないと、とんでもない事をするかもしれないよ」
「ふ~ん、ま、いいんじゃない。この際、皆でお話する方が、いいかもしれないし。あの洋食レストランで、早めのランチを食べようよ。三島さんにも、そこに来てもらえばいいでしょ」
「わ、分かったよ。じゃあ、三島先輩にそう言っとくよ」
再び、僕がスマホの近くに口を移動させ、三島彩海に話す。
「分かりましたよ。羽田空港の洋食レストランにいますから、来るなら来て下さい。どうせばれるから、言いますけど、瀧本先輩と一緒にいます。それでも来るんですか?出来れば、来ないで欲しいんですけど」
「フン、やっぱり瀧本さんと一緒にいるんだね。そんな事だと思ったわ。行くに決まってんじゃん!話したい事が山ほどあるから、覚悟しといてね!出来るだけ早く行けるよう、急いで行くからね!」
電話を切り、瀧本愛香の方を見て、やれやれという感じの表情で言う。
「三島先輩、やっぱり来るって言ってる。何の話をしに来るんだろうな。僕は、愛香と一緒に、写真に写ってる島が何処なのか、しっかり検証したいのにな」
「ま、いいんじゃない。三島さん、話したい事があるんだし、私と一緒にいるって分かってるという事は、私にも聞かせたい話なんだろうし、どんな話なのか、楽しみよね。大丈夫だよ。ちゃんと写真に写ってる島が何処にあるのか、一緒にしっかり考えるからね。三島さんにも、一緒に考えてもらおうよ」
「そうだね。三島先輩、意外に頭が冴えてるかもしれないしな。三島先輩が来たら、愛香の事、瀧本先輩って言わなきゃいけないな。敬語も使わなきゃいけないし、何か、変な感じだな」
「そうだね。でも、私とお前が付き合ってるの、別に隠す必要はないんだし、公表できるタイミングで、公表してもいいね!」
「お!愛香、そう言ってくれて、めっちゃ嬉しいよ!ありがと~!」
―そうは言っても、彩海とも香菜とも美幸とも、付き合ってるんだし、いきなり公表しちゃったら、とんでもない修羅場になってしまう可能性があるなぁ。ここは、慎重に、タイミングを見定めないといけないな~―
「じゃあ、話題に上がった洋食レストランに入ろっか。楽しみ~!」
「うん!そうだね~!三島先輩が来るまでは、愛香と二人だけの甘い時間を満喫するよ!勿論、写真に写ってる島が何処にあるのか、しっかり考えるよ!」
二人で手を繋いで歩き、洋食レストランに入り、ボロネーゼのパスタと、ハンバーグランチセットを注文し、シェアして美味しく食べ進める。ある程度食べたところで、僕が写真の話題を切り出す。
「愛香、そろそろ写真を見せるよ。写真に写ってる島が何処にあるのか、一緒にしっかりと考えようね!」
「あ、そうだね!料理が美味しくて、会話が楽しくて、忘れかけてたわ」
僕が鞄から写真を取り出し、瀧本愛香に見せる。写真には、小さい島が写っていて、瀧本愛香が写真をじ~っと見つめる。
「う~ん、小さい島だね。この島が何処にあるのか、この写真だけで判断するの、難しいな。お前は、何処にあるのか、思い付いた事はあるの?」
「今のところ、さっぱり思い付かないな。そもそも、この写真に写ってる島に、部長と次長と野田さんと森崎さんがいるかどうかなんて、分からないもんな。でも、形に特徴がある島だな。この海か湖には、こんな感じの島が、いっぱいあちこちにあるんだろうな」
「お、お前、今、いい事を言ったな。私は、海と決め付けてたけど、確かに、湖の可能性もあるな。湖だとしたら、大きい湖だろうな」
「そうだね。でも、この水を見てると、海水って感じがするよね。海か湖って言ったけど、僕は、海だと思うな」
「そうか~。確かに、この水は、海水っぽいな。海を中心に考えてみるか」
「そうだな~。この海を見てると、そんなに明るい感じがしないし、南の海ではなさそうだな。海の雰囲気を考えると、北の海って事もなさそうな感じがするよ」
「うん!私もその意見に賛成だよ。となると、東か西の海だね」
「そうだな。難しいな。考え出したら、きりが無いから、絞らないとね」
「そうだね。スマホで小さい島を検索して、候補をどんどん絞っていこうよ!」
二人で楽しくおしゃべりしながら、どんどん食べ進め、完食。デザートを注文し、食後のホットコーヒーを飲みながら、スマホで小さい島を検索し、時々話し合いながら、候補をどんどん絞っていく。順調に調べていた、その時、女性の大きな声が聞こえた。声の主は、三島彩海だった。
「あ~!そこにいたんだね!瀧本さんも一緒ですね!二人、すっごく仲良さそうだね!妬けちゃうな~!」
「あ、三島先輩、本当に来たんですね。こちらにどうぞ」
僕がそう言った直後、顔が青ざめ、びっくり仰天!なんと、三島彩海だけではなく、菅山香菜と藤森美幸も、その場にいるではないか!
「エへへ、私も来ちゃった。あなたと瀧本の事が、気になっちゃって」
「私もです!あなたと瀧本さん、一体、どういう関係なんですか?」
三島彩海だけではなく、意外な二人の登場に、僕が慌てふためきながら言う。
「ちょ、ちょっと、菅山先輩、藤森先輩、来るなんて、聞いてませんよ!そもそも、なんで三人で一斉に現れたんですか?何処かで待ち合わせたんですか?」
僕からの質問に対し、三島彩海が答える。
「フフフ、驚いてるようね。そりゃそうよね。私だけが来ると思ってたんだもんね。実はね、私達、昨日、あなたと瀧本さんが、二人で強引に気分転換に行っちゃった後、三人で居酒屋で飲んでたの。で、飲み終わって、帰ろうとした時、あなたと瀧本さんが、キスしてるところを、偶然見ちゃったのよ。私達、めっちゃ怒って、あなた達のところに走って行こうと思ったんだけど、今行っても、瀧本さんには敵わないって事になって、後で一致団結して、あなたの事で瀧本さんと戦う事に決めたのよ。もう私達、あなたとの関係、知ってるからね。でも、私達同士が戦って、勝った人が瀧本さんと戦っても、負けるだけだし、三人で力を合わせて、瀧本さんに勝とうって決断したの」
「そんな~。団結して瀧本先輩に勝とうなんて、どうかしてますよ。そんな話をしに来たんなら、帰って下さい。僕と瀧本先輩、今、大事な話をしてるんですよ」
「はぁ?てめぇ、私達の事、馬鹿にしてんでしょ!帰る訳ねぇだろ!ふざけた事を言ってんじゃねぇよ!どんどん恋人を増やしていきやがって!私達は、もうブレないんだよ!三人で力を合わせて、絶対に瀧本さんに勝ってやる!で、もうそのビジネストークみたいな話し方を止めろ!もうばれてんだから、いつもの話し方にしろよ!」
「そうだ!私達、絶対に引き下がらないからね!絶対に瀧本に勝つよ!」
「そうだよ!私だって、一人じゃ瀧本さんに敵わないけど、三人で力を合わせれば、瀧本さんに勝てるよ!」
三人の力が籠った言葉に対し、僕が少しビビりながら言う。
「彩海と香菜と美幸の強い思いは分かったけど、今はそんな話をしてる場合じゃないんだよ。僕がいろいろ調べて、突然会社に来なくなった部長、次長、野田さん、森崎さんが何処にいるのか、段々近付いて行ってるんだよ。今、警察から手に入れた写真に写ってる島が何処にあるのかを、僕と愛香で考えてるとこなんだよ。なかなか分からないけど、もう暫く調べたら、分かりそうな気がする。お願いだから、邪魔しないで欲しい。あの四人を見つけ出す為だし、僕が大切にしてる万年筆の在り処にも、繋がるかもしれないんだよ」
僕の真剣なお願いに対し、三島彩海と菅山香菜と藤森美幸が、口々に言う。
「なるほどね。それは確かに、大切な話だね。でも、私達の話だって、大切な話なのよ。私達の決意は、並大抵のものじゃないんだよ。あなたと瀧本さんの話も大切だけど、私達の話を後回しになんてできない!まずは、私達と瀧本さんとの勝負よ!」
「そうよ!あの四人の事、心配だけど、私達、昨日からすっごく意気込んで、決意を固めて来たんだよ!私達三人が、絶対に瀧本に勝つ!」
「そうだよ!私達、あなたの事を愛してる想いは、絶対に瀧本さんに負けないけど、一人一人の魅力では、瀧本さんに劣っちゃうのは分かってる。でも、三人合わせれば、瀧本さんに勝てる!絶対に引き下がらないからね!」
「そんな事を言わないでよ。本当に大切な話をしてるんだよ!お願いだから、分かってよ!ちゃんと後でその話をするからさ~」
真剣な言い合いを聞き、遂に、瀧本愛香が真剣な表情で口を開く。
「三島さん、菅山、藤森さん、あなた達の強い思いは、よく分かったよ。私も、こいつと付き合ってるけど、こいつが、私を含めて、どんどん恋人を増やしていったのは、許せない気持ちがあるよ。でも、今は、私達のこいつとの関係の話よりも、突然会社に来なくなった部長、次長、野田さん、森崎君を見つけ出す事の方が、優先度が高いと思う。まずは、皆で、この写真に写ってる島が何処にあるのかを考えようよ。ただ、これは言っておきたいんだけど、私、こいつを愛してる気持ちの大きさは、絶対にあなた達に負けないからね!絶対に、こいつをあなた達なんかに渡さないからね!」
―お~!愛香、僕の事、そんなに愛してくれてるんだな!感動した!やっぱり、僕が一番愛してる人は愛香だというのを確信した!すっごく嬉しい!早く彩海と香菜と美幸と別れなきゃいけないぞ!―
僕が三島彩海と菅山香菜と藤森美幸に、別れを告げようとした時、三島彩海と菅山香菜と藤森美幸が、迫力ある表情で瀧本愛香に言葉を放った。
「瀧本さん!ふざけないで!私、この人の事、本気で愛してるんです!瀧本さんは、すっごく綺麗でセクシーで、私なんて、見た目では敵わないけど、この人の事を愛してる気持ちの大きさは、絶対に瀧本さんに負けないですよ!」
「瀧本!外見が最高にいいからって、調子に乗ってんじゃないわよ!この人を愛してる気持ちの大きさなんて、私が瀧本に負ける訳ないでしょ!ふざけんな!」
「瀧本さん、あなた、見た目が私達よりもいいからって、勝ち誇らないで下さいよ!この人を愛してる気持ちの大きさ、私は瀧本さんよりも絶対に大きいですよ!」
「ちょ、ちょっと、落ち着いてよ!僕の事で、四人もの美女が言い争いをするなんて、僕としては、その、男冥利に尽きるという感じもするけど、言い争いなんて、して欲しくないよ!お願いだから、愛香の言う通り、この写真に写ってる島が何処にあるのか、皆で話し合って考えようよ!」
「おい、お前!四人もの美女が言い争いをするのは男冥利に尽きるって、どういう事だ!お前が一番調子に乗ってるんじゃないのか!ここで、はっきりさせときたいけど、お前、まさか、私と付き合い始めてから、この三人と、愛し合ったなんて事、ないよな?」
「愛香、男冥利に尽きるなんて言って、ごめん!でも、調子になんて乗ってないよ!愛香と付き合い始めてから、この三人と愛し合ったなんて事、絶対にないよ!こんな短時間で、そんな事、出来る訳ないじゃん!僕が直近で愛し合った人は、間違いなく愛香だよ!」
「そうか。それを聞いて、少し安心したけど、まだお前に対する怒りは、消えてないぞ!ただ、それでも、私はお前を愛してるし、お前も、私を愛してるのが分かる。今は、こんな議論よりも、部長と次長と野田さんと森崎君を見つけ出す為に、写真に写ってる島が何処にあるのかを考える方が先だ!お前の万年筆の事にも、繋がるかもしれないしな!」
「愛香、ありがと~!愛香の言う通りだよ!愛香、愛してるよ!」
続けて、僕が三島彩海と菅山香菜と藤森美幸に言う。
「彩海、香菜、美幸!もう分かっただろ!僕が一番愛してる人は」
その時、その言葉を遮るように、三島彩海が僕に大声で言ってきた。
「止めて!聞きたくない!今、その言葉の続きを言われたら、私、立ち直れない!分かったよ。この話はこれ位にして、その写真に写ってる島が何処にあるのか、一緒に考えるよ。この話の続きは、あの四人を見つけ出した後でいいよ。それまでに、私、絶対にあなたが一番愛してる人は私だって、あなたに思わせてみせるよ!」
続けて、菅山香菜と藤森美幸が、真剣な表情で僕に言ってきた。
「そうよ!今は瀧本に敵わないけど、あの四人を見つけ出した後、絶対に私が一番になってやるからね!私、絶対に諦めないよ!」
「私も、それでいいよ!確かに、あの四人を見つけ出す事が最優先だと思う。見つけ出した後、絶対にあなたにとって、私が一番になるからね!」
「分かった。この話は後にして、部長と次長と野田さんと森崎さんを見つけ出す為に、この写真に写ってる島が何処にあるのか、皆で考えよう。僕の大切にしてる万年筆の在り処にも、繋がるかもしれないし。ただ、この島に、この四人がいるかどうかは分からないから、この島が何処にあるのか分かって、行ってみて、この四人がいないっていう可能性もあるからね」
「分かった。じゃあ、写真を見せてよ。見てすぐに分かるとは思えないけどね~」
「うん!勿論だよ!これが、その島が写ってる写真だよ」
三島彩海の言葉を聞き、僕が三島彩海と菅山香菜と藤森美幸に写真を見せると、三人共、真剣な表情で写真を見て、口々に言ってきた。
「小さい島だね。この島が何処にあるのか、見ただけでは、分からないな」
「そうだね~。この写真に写ってる島を見て、何もビビッとは来ないな~」
「私も、この写真に写ってる島を見ても、特に何も感じないな~」
「湖じゃなくて海だと思うんだよ。東か西の海かな~考えてるよ」
「そうそう。さっきまで、スマホで小さい島を検索して、候補を絞ろうとしてたの」
その時、突然、瀧本愛香のスマホのバイブが鳴った。瀧本愛香がスマホを取り出し、ディスプレイを見ると、高杉稜介からの電話。電話のアイコンをスライドし、電話に出た。
「もしもし、瀧本です。高杉さん、何か御用ですか?」
「瀧本、今何処にいるの?部長と次長と野田さんと森崎の事について、話し合いをしたいんだけど、これから会えるかな?」
「今、所用で羽田空港にいるんです。部長と次長と野田さんと森崎君の事についての話し合いって、何か情報を掴んだんですか?電話じゃダメなんですか?」
「羽田空港にいるのか~!なんで羽田空港にいるの?出来れば会って話し合いたいな」
「所用で羽田空港にいるんですよ。今、大事な用事の最中ですので、ここから離れる事ができません」
「じゃあ、俺が羽田空港に行くよ。羽田空港の何処に行けばいいかな?」
高杉稜介の言葉を聞き、瀧本愛香が僕の方を向き、かなり小さい声で言ってきた。
「高杉さん、ここに来たいって言ってる。どう答えたらいいかな?来てもらってもいいんだけど、ややこしい事になるかな?」
「来てもらってもいいけどね。あの四人について、愛香と何を話し合いたいんだろうな」
「とりあえず、高杉さんに、ここに来てもらうように言うよ」
瀧本愛香が、再びスマホの近くに口を移動させ、高杉稜介に話し始める。
「高杉さん、では、こっちに来ていいですよ。ここは、羽田空港にある、洋食レストランです。ちなみに、今、新入社員と、三島さんと、菅山と、藤森さんもいますからね。それでも良ければ、来て下さい」
「そんなに大人数で話してるのか!確かに、大事な用事って感じだな!一体、何の話をしてるの?俺がそっちに行って、俺の話を聞いてくれるの?」
「そりゃ、折角来てくれるんだし、高杉さんの話も聞きますよ。もしかしたら、凄く役に立つ話かもしれませんし。何の話をしてるのかは、高杉さんが来た時に言いますよ。ここまで来るのに、どれ位時間がかかりそうですか?」
「急いで行くから、そんなに時間かからないと思うよ」
瀧本愛香が電話を切り、僕の方を向いて言う。
「高杉さん、ここに来るって言ってるよ。急いで来るから、そんなに時間かからないって。どんな話をしてくるんだろうね~。何かいい情報を持ってたらいいんだけどね。この写真に写ってる島についても、いい考えを言ってくれたらいいんだけど」
「そうだね。高杉先輩、何かあの四人の事について、愛香に話したい事があるんだろうね。なんで愛香に話したいんだろうな。何を話してくるのかな。愛香、何か心当たりある?」
「いや~、全く無いな。高杉さんが来るまで、皆でこの島が何処にあるのか、しっかり考えて、もっと候補を絞っておこうよ」
「うん!そうしよう!だいぶ候補を絞れてきたし、どんどんスマホで検索して、しっかり考えれば、最終的に一つの場所に絞れるはずだよ!」
高杉稜介の前では、ビジネストークをする事に決め、スマホで小さい島を検索しながら、写真に写っている小さい島が何処にあるのか、より候補を絞る為に考えていると、ふと、藤森美幸が言ってきた。
「この島の周りは、何があるのかな~。海は綺麗だし、観光名所なのかな~」
「お!美幸、いい事を言ったよ!確かに、観光名所っぽいよ!小さい島があって、周りに何かあるっていう場所、何処があるかな~」
「観光名所か~。小さい島という言葉に加えて、観光名所という言葉を入れて、スマホで検索してみよう!」
瀧本愛香の提案により、二つのキーワードを基にして、スマホで検索したが、まだ候補がたくさん出て来る。藤森美幸が、もっとじっくり写真を見るのを提案してきて、写真をじ~っと見てみるが、新たな発見は無い。僕がそろそろ写真をじ~っと見るのを中断しようかなと考えた、その時、写真の端の方に、微かに何かが写っているのが見えた。
「あ!ここに、何か写ってるよ!これは何だろうな~」
「え!ほんと?私も見てみるわ。え~と、あ、ほんとだ!確かに、何かが写ってるね!お前、やるじゃんか!これは何だろうな~」
「確かに何かが写ってる!全然気付かなかったよ!でも、これが何なのか、分かんないよ」
「確かに、何かが写ってるね。よくこんなのに気付いたね。これは何だろうな~」
「ほんとだね~!私にも見えたよ!この小さい島の端の部分に、似てる感じがするな~」
「え!美幸、今、すっごくいい事を言ったよ!確かに、この写真に写ってる小さい島の端の方に、似てる感じがするよ!これで、スマホで検索する為のキーワードが増えたね!小さい島と、観光名所と、島がいっぱいある海で、検索してみよう!」
「ん?ちょっと待って。私、これらのキーワードで、この写真の場所が分かるかもしれない。むか~し、家族旅行で行った事があるの。この場所って、あの有名な観光名所だと思うんだよね!」
瀧本愛香が、思い付いた場所を言うと、僕も三島彩海も菅山香菜も藤森美幸も、満面の笑顔で賛同した。
「ウフフ、ありがと~!すっごく嬉しいよ!これから向かうの?向かうなら、丁度、羽田空港にいるし、飛行機に乗るって事だよね」
「うん!部長と次長と野田さんと森崎さんが、いるかどうか分からないけど、まずは行ってみよう!愛香、一緒に行ってくれるよね?」
「うん!勿論だよ!元々、一緒に行くつもりだったし、ちゃんと泊まりの用意を持って来てるし!久し振りに飛行機に乗るの、すっごく楽しみだよ!」
「あはは。そんなに楽しみにしてくれて、嬉しいけど、あの四人をしっかり探さなきゃいけないよ。あの四人が見つかる上に、僕が大切にしてる万年筆が見つかったら、最高なんだけどな」
「そうだよね。あの四人が突然会社に来なくなった事に、お前の万年筆が関係してる可能性があるし、お前の万年筆も見つかるというのも、十分考えられるぞ!あ、そろそろ高杉さんが着きそうだよ」
「ところで、彩海、香菜、美幸、これからどうする?そっちが切り出してきた話は、今のところ、中途半端な状態になってるけど、あの四人を探し出してから、ちゃんと結論を出す事になってるし、僕と愛香と一緒に行く?危険を伴うかもしれないし、無理にとは言わないけど」
「行くに決まってんじゃん!こうなる事を見越して、私も、ちゃんと泊まりの用意を持って来てるよ!」
「私も一緒に行くよ!私も、泊まりの用意を持って来てるよ!」
「私も一緒に行く!泊まりの用意を持って来て良かった!」
「うん。分かった。勿論、僕も泊まりの用意を持って来てるよ。宿泊施設はどうする?僕は何処でもいいから、女性四人で決めてよ」
「うん!ありがと~!どのホテルがいいかな。旅館でもいいし、温泉がある方がいいな~」
僕の言葉に瀧本愛香が反応し、女性四人でワイワイ楽しそうに今日の宿泊施設を話し合い、決定。瀧本愛香が飛行機の搭乗券を五人分購入し、決めた宿泊施設を五人分予約し、僕と三島彩海と菅山香菜と藤森美幸が、料金を瀧本愛香に支払った。僕と瀧本愛香がホットコーヒーを飲み、運ばれて来たデザートを食べ、三島彩海と菅山香菜と藤森美幸が、ランチを注文して食べていると、突然、男性の声が聞こえた。声の主は、高杉稜介だった。料理を注文し、食べている時、瀧本愛香が口を開いた。
「高杉さん、部長と次長と野田さんと森崎君の事で、私に話があるんですよね」
「うん。警察官に捜査状況を聞こうとしたら、捜査中の事は話せないって言われたんだ。瀧本が何か話を聞いてるかな~って思って、ここに来たんだよ」
「そうなんですね。高杉さんが教えてもらってないのに、私が教えてもらえる訳ないじゃないですか。ところで、この写真に写ってる島が何処にあるのか、分かりますか?」
瀧本愛香がそう言って、写真を高杉稜介に見せると、高杉稜介が暫くの間、写真をじ~っと見つめた後、さっき意見が一致した場所をズバッと言ってきて、驚いて感心すると、高杉稜介が少し得意気な表情になった。
「ははは。君達と意見が一致して良かったよ。ところで、まさかとは思うけど、これから、皆で行くなんて考えてる?」
「そのまさかですよ。この写真に写ってる小さい島に、部長と次長と野田さんと森崎君がいるかもしれませんし、これから皆で飛行機に乗って、あの四人を探しに行くんですよ」
「行動が早いね!僕も一緒に行っていいかな?僕も気になるし、早く見つけ出したいし」
「では高杉さん、一緒に行って下さい。一緒に部長と次長と野田さんと森崎さんを探しましょう。ところで、高杉さん、僕が大切にしてる万年筆の事、何か知りませんか?全然見つからないんですよ」
「いや、知らないな。君が大切にしてる万年筆だし、早く見つかるように願ってるよ」
高杉稜介が、自分で飛行機の搭乗券を購入した。皆で話しながら食べて飲み、全員が注文した食べ物と飲み物を平らげた。
皆で席を立って歩き、高杉稜介が会計を済ませ、皆で店を出て暫く歩き、手荷物検査を通過し、椅子に座って暫く待ち、搭乗口を通って、飛行機に乗り、チケットを見ながら席を探し、見つけると、僕と瀧本愛香が隣同士の席。
「愛香、隣同士だよ!嬉しい!愛香が窓側の席でいいよ!」
「うん!隣同士で良かったね!勿論、私が窓側に座るよ!楽しみ~!」
小声で話したつもりだったが、少し高杉稜介に聞こえたようで、すぐに高杉稜介が突っ込んできた。
「な、何?君達、今、めっちゃ仲良さそうに、タメ口でしゃべってただろ~!まさか、君達、急接近してるの?」
―げ!やばい!聞かれてたか!ここは、何とかして誤魔化そう―
「高杉先輩、考え過ぎですよ。瀧本先輩には、会社では鍛えてもらってますから、仕事以外では、柔らかく接してくれてるだけですよ」
「そうか。まぁ、確かにそうだな。俺の考え過ぎか~」
―高杉先輩、愛香の事となると、顔色が変わって、ムキになるな。高杉先輩、もしかして、愛香の事、好きなのかな。いや、まだ決め付けるのは早い!暫く様子を見よう―
僕と瀧本愛香が隣同士に座り、後ろの列に三島彩海と菅山香菜と藤森美幸が並んで座り、高杉稜介が後ろの方の席に一人で座る。
「愛香、もうすぐ離陸するね!飛行機が離陸した直後の、傾いた景色がいいよね!」
「そうだね!私も、斜めに見える景色好きだよ!すっごく楽しみだよ~!」
飛行機がスピードを上げて走り、離陸した。斜めに見える景色を見ながら、瀧本愛香が大はしゃぎする。
「東京の都会の景色が、斜めに見える!もうすぐ海が見えるんだろうね!楽しみ~!」
「うん!この斜めに見える景色、僕も好きだよ!愛香と一緒に見れて、すっごく嬉しいよ!」
「ウフフ、私もお前と一緒に見れて、すっごく嬉しいよ!」
更に飛行機が上昇し、高度が安定した。窓の外の景色を見ている瀧本愛香が、はしゃぎまくる。
「海が見えるよ!キラキラ輝いていて、すっごく綺麗!飛行機の中から見る景色、最高だね!」
「うん!めっちゃ綺麗な景色だな~!愛香と一緒に見れて、すっごく幸せな気分だよ!」
「ウフフ、ありがと~!私も、お前と一緒に見れて、すっごく幸せだよ!」
瀧本愛香と僕が、楽しくおしゃべりしている時、高杉稜介が突き刺さるような視線を向けてきた。
「愛香、さっきから、高杉先輩、こっちを睨んでるよ。あの人、何なんだろうな。もしかして、高杉先輩、愛香の事、好きなんじゃないの?」
「え~!高杉さんが、私の事、好きなんじゃないの~?って、本気で言ってんの?無い無い!高杉さんが私の事なんて、好きな訳ないじゃん!」
「そうかな~。高杉先輩、愛香の事になると、かなりムキになってる感じがするけどな~」
「いや~、考え過ぎだと思うよ。そもそも、高杉さんはね~、前にね~」
僕が瀧本愛香から、高杉稜介の過去の話を聞いて驚く。
「へぇ~、高杉先輩に、そんな事があったんだな~。知らなかったな」
「ちょっと!内緒だからね!そもそも、本当だって確証は無い話なんだし」
「分かったけど、本当の話だったら、これはめちゃくちゃ重要な事かもしれないぞ。この際だから、他に何か知ってる事があったら、教えてよ」
「他に知ってる事か~。高杉さんの事じゃないけど、こういう話を聞いた事があるよ。これも、本当だって確証は無いからね!」
「うん。分かった。どんな話?教えて~!」
瀧本愛香から話を聞き、再び驚く。
「そんな事があったんだ!びっくりした~!愛香、いろんな事を知ってるんだね。情報に疎いと思ってたけど、とんでもなかったね。最先端を進んでるよ!」
「そんな事を言われても、全然嬉しくないよ!こんな話、今回の件で役に立つのかな?」
「役に立つよ!さすが愛香だよ!ありがと~!」
そんな会話をしている間にも、飛行機が順調に飛び進み、上空で着陸態勢に入り、どんどん高度を下げ、目的地の空港の滑走路に着陸。大きな音を立て、スピードを落とし、ゆっくりと動きながら、漸く止まった。二人で席から立ち上がり、ゆっくりと歩き進む。後ろの席に座っていた三島彩海と菅山香菜と藤森美幸も、ゆっくりと歩いている。更に後ろの席の高杉稜介も立ち上がり、不機嫌な様子でゆっくりと歩く。
皆が飛行機から出て、少し歩き、空港のターミナルビルに入り、駅に向かって歩き、電車に乗った。新鮮な景色を見て、僕と瀧本愛香と三島彩海と菅山香菜と藤森美幸が、ワイワイはしゃぎ、高杉稜介は、全くはしゃぐ事なく、何か考え事をしている様子。
―高杉先輩、僕と愛香が仲良くしゃべってたのを、まだ気にしてる感じだな。高杉先輩、やっぱり愛香の事、好きなのかな。精神的に落ち着かない感じがするな。僕と愛香の関係を疑って、イライラしてるのもあるんだろうけど、何か他の事を考えてる気もするな。高杉先輩を、しっかりチェックする必要があるかもしれないな―
電車がどんどん走り進み、目的地の最寄り駅に着いた。皆で電車から降り、改札口を通ると、目の前に、情緒溢れる景色が広がっていて、僕も瀧本愛香も三島彩海も菅山香菜も藤森美幸も、テンションが上がってはしゃぎまくる。そんな僕等五人を尻目に、高杉稜介は浮かない表情で黙っている。
―やっぱり、高杉先輩、何か考え事をしてる感じがするな。目的地に近付けば近付く程、表情が曇ってきてる感じがするぞ―
僕が瀧本愛香の方を見ると、瀧本愛香が真剣な表情になっている。
「愛香、高杉先輩、やっぱり変な感じがするよな。何かいろいろ考え事をしてる感じがするよ」
「うん。確かに、高杉さん、ずっと変な感じがするよね。いつもの高杉さんじゃないよね」
「僕より、愛香の方が、高杉さんから聞き出せそうな感じがするけど、聞き出せる?」
「そんなの無理だよ~!飛行機の中で、高杉さんの過去の話をしたけど、高杉さん、別に私の事なんて、好きじゃないって~」
「どうだろうな~。過去は過去だもんな。今は愛香の事が好きなのかもしれないよ」
「そうかな~。まぁ、一応、気に留めとくよ」
皆でテクテク歩き進んで行くと、向こうの方に、小さな橋が見えてきて、瀧本愛香の表情がぱ~っと明るくなった。
「お~!見えて来た!この島を含めて、二百以上もの数の島があると言われてるのよ。まずはあの橋を渡って、最初の島に行くよ!」
「はい!分かりました!いよいよ上陸って事ですね!ドキドキしてきました!あの島は、写真に写ってる小さい島ではないですけど、念の為、部長と次長と野田さんと森崎さんがいるかどうか、探してみます!僕が大切にしてる万年筆も、何処かにあるかもしれません」
皆でどんどん歩き進み、最初の島に通じる橋の前に到着。
「いよいよ上陸だね!ドキドキしてきたよ!さぁ、行くよ!」
「はい!瀧本先輩、いよいよですね!僕もドキドキしてきました!」
瀧本愛香と僕がそう言った後、皆で橋を渡り、最初の島に立った。
皆で手分けして、部長と次長と野田圭吾と森崎翔磨を探し回る。僕と瀧本愛香がペアになり、他の人は各自で探し回る。それ程大きくない島なので、探す場所も限られるが、行ける場所をどんどん歩き回り、探し回るが、見つからない。
「愛香、だいぶ探したけど、部長と次長と野田さんと森崎さんは、見つからないな。もう探せる場所は探した感じがするけど、まだこの島を探す?」
「そうだね。こんなに探してるけど、見つからないんだし、やっぱりこの島には、あの四人はいなさそうだね。向こうの方に、陰になってる場所があるから、最後にそこを探して、見つからなかったら、この島から出て、次に探す島を考えなきゃね」
二人で歩き進み、陰になっている場所に到着。周りを見回すが、やはり四人はいない。
「愛香、やっぱりこの島には、部長も次長も野田さんも森崎さんもいないようだね。そろそろこの島から出て、次に何処の島を探すか、考えよっか」
「そうだね。それでいいよ。じゃあ、行こっか」
二人で歩き進み、橋を渡り、最初の島から出た。三島彩海と菅山香菜と藤森美幸と高杉稜介も、最初の島から出て、合流。結局、最初の島には、部長も次長も野田圭吾も森崎悠磨もいなかった。これから何処を探すか、皆で考えている時、ふと、瀧本愛香が口を開いた。
「島を巡る観光船があるから、この観光船に乗って、あの写真に写ってる小さい島が、どの島なのかを、皆で探しながらじ~っと見れば、分かるかもしれないよ!」
「瀧本先輩、いい意見を言ってくれましたね!皆で観光船に乗って、あの写真に写ってる小さい島を探しながら、じっくりと見ましょう!」
他の人も賛成し、皆で歩いて観光船乗り場に向かって歩き進むと、向こうの方に、観光船乗り場が見えてきた。更に歩き、観光船乗り場の前に到着。中に入ると、いくつかの長椅子が置かれていて、乗船券売り場がある。皆で乗船券売り場に行き、各自で乗船券を購入し、観光船の出航時間まで、各自で長椅子に座りながら話したり、売店で売られているグッズを見たり、トイレに行ったりして過ごす。僕と瀧本愛香は、長椅子に座りながら楽しくおしゃべりした後、こっそり観光船乗り場から出て、陰になっている場所に行き、イチャイチャして過ごしてから戻ると、もうすぐ観光船の出航時間になっていた。
皆で受付に行き、乗船券を見せて通り、いよいよ観光船に乗る。中は綺麗で雰囲気があり、瀧本愛香と僕と三島彩海と菅山香菜と藤森美幸がはしゃぎ、高杉稜介が溜息をつく。どの席に座るか、揉めながら話し合い、僕と瀧本愛香、三島彩海と藤森美幸がペアで座り、高杉稜介、菅山香菜が一人ずつ座った。
僕と瀧本愛香が、少しの間、楽しくおしゃべりしていると、アナウンスが流れ、観光船がゆっくりと動き出した。
「観光船が動き出した!たくさんの島を見れる!じっくり見て、しっかり探すぞ!」
「ウフフ、お前、すっごく楽しそうだな!私も久し振りに乗ってるし、テンション上がってるよ!しっかり探すよ!」
観光船が徐々にスピードを上げ、観光船としては一番速いスピードで走るようになったが、それでもゆっくりとしたスピード。丁寧で詳しく分かり易い説明のアナウンスが流れ、僕も瀧本愛香も、アナウンスをじっくりと聞きながら、窓の外の景色をじ~っと見つめる。
「風情があって、特徴のある小さい島がいっぱいあって、見入っちゃうな~!この中から、あの写真に写ってる小さい島を探し出すの、至難の業だな!もう既に見落としてしまってる可能性もあるよな。見つけられそう?」
「ほんとに綺麗で趣のある景色だね!前に来た時とは、また違った魅力を感じるよ!確かに、こんなにたくさんの島から、あの写真に写ってる小さい島を見つけ出すの、すっごく難しそうだけど、たくさんの島の中にあると信じて、しっかり探すよ」
観光船が順調にどんどん走り進むが、依然として、あの写真に写ってる小さい島を、見つけ出す事ができないでいる。三島彩海と藤森美幸も高杉稜介も菅山香菜も、なかなかお目当ての小さい島を見つけ出せないでいる。
更に観光船が走り進む。僕も瀧本愛香も、観光気分ではなく、真剣に、あの写真に写ってる小さい島を探している。
「愛香、同じような島が多過ぎて、あの写真に写ってる小さい島を見つけるの、めちゃくちゃ難しいな!見つけられる気がしないよ!愛香はどう?」
「私も、さっぱり見つけられないよ!同じような小さい島が多いよね。これは、見つけ出すの、相当苦労しそうだね」
「そうだよね。そもそも、島の中に、探してる小さい島があるかどうか分からないし、もしかしたら、もう過ぎてしまってるかもしれないし、一回乗っただけだと、見つけるのは無理かもしれないね。もう一回乗ったら、見つけられるもんなのかな」
「どうだろうね。でも、一回乗って見つけられなくても、もう一回乗ったら、もしかしたら見つけられるかもしれないね。今回の乗船で、見つけられなかったら、もう一回乗ってみようか。それで見つけ出せたら、乗船料なんて安いもんだよね」
「そうだな。でも、この乗船で見つけられれば、それに越したことは無いし、じっくりと目を凝らして、探し出すぞ!」
再び二人で窓の外の景色をじっくり見つめ、あの写真に写っている小さい島を探す。観光船がどんどん走り進み、もうすぐ周回が完了する所まで来ている。次に観光船に乗る前に、あの写真をじっくり見て、重要な特徴を掴む事に決めた。
結局、あの写真に写ってる小さい島を見つける事ができないまま、観光船が元の乗り場に到着してしまい、全員が観光船から降りた。観光船乗り場の長椅子に座り、僕があの写真を鞄から取り出し、皆でじっくりと写真を見つめ、僕と瀧本愛香と三島彩海と菅山香菜と藤森美幸が、次々と意見を出していく。
「あ!この小さい島、上の方に、大きい木が生えてますね。これ、重要な特徴になるんじゃないですか?」
「重要な特徴っていえば重要な特徴だけど、この程度の木、いっぱい生えてる感じがするなぁ。もっとパンチの効いた特徴を見つけたいな。う~ん、あ、この島、左側の先端が尖ってる形をしてるよね。これの方が、重要な特徴だと思うよ」
「二人共、いい線いってますよ!私が見つけた特徴はね、この島の右側の部分が、崖みたいになってるところですね」
「三人共、いい意見だ~!私も何か特徴を見つけなきゃね。そうだな~、あ、この島、狭いけど、ビーチみたいになってる所があるね!」
「皆さん、ほんとに鋭い目を持ってますね!え~と、あ、この島、左側に大きい岩がありますよ!」
どんどん小さい島の特徴に関する意見が飛び出していく中、高杉稜介だけは、やる気があるのか無いのか、じっくり見ているだけで、何も意見を出さない。時間になり、皆で乗船券を購入し、再び観光船に乗り、前に乗った時と同じ席に座った。
観光船が出航し、先程発見した、あの写真に写ってる小さい島の五つの特徴を頭に浮かべながら、窓の外の景色をじ~っと見つめる。どんどん多くの島が見えてきて、五つの特徴と合致するかどうかをチェックする。
「愛香、あの写真に写ってる小さい島をじっくり見て、五つも特徴を見つけ出したし、さっき乗った時よりも、探し易いね。今度こそ、見つかりそうな気がするよ。今のところ、それらしき小さい島は見つかってないけど、愛香はどう?」
「うん。私も同じ事を思ってたよ。やっぱり、特徴を五つも掴んでおいて、良かったね。五つの特徴に近い島は、いくつかあるけど、合致まではしてないんだよな。でも、今回の乗船で、見つけ出せそうな気がするよ!」
観光船が順調に走り進む。ゆっくりとしたスピードで、窓の外に見えるたくさんの島を、じっくりと見ながら、五つの特徴と合致する島を探す。三島彩海と藤森美幸と高杉稜介と菅山香菜も、僕と瀧本愛香と同じように、五つの特徴と合致する島を真剣に探す。
更に観光船が走り進み、たくさんの小さい島が次々と見えてくる。僕がじ~っと島を見つめていると、ふと、気になる島が見えた。
―ん?あの辺り、島の裏側に、もう一つ島が見えるなぁ。今は、右側が見えない感じだけど、見えてる部分は、左側の先端が尖ってるし、左側に大きい岩があるし、ビーチみたいになってる所があるなぁ。後は、上の部分に大きい木があって、右側が崖みたいになってたら、五つの特徴と合致するぞ!あの小さい島を、じっくり見てみよう!―
僕がその小さい島をじっくり観察していると、観光船がどんどん進み、徐々にその小さい島の右側が見えてきた。
―お!上の方に大きい木があるぞ!これで、特徴が四つ合致した!あと一つだ!島の右側が崖みたいになってたら、あそこに見える小さい島が、あの写真に写ってる小さい島と考えていいだろ!―
更に観光船が進み、注目している島の全体像が見えてきた。島の右側は、崖みたいになっている!
―お~!五つ全ての特徴と合致した!間違いない!あそこに見える小さい島が、あの写真に写ってる小さい島だ!―
「愛香!あそこに見える小さい島、さっき皆で考えた五つの特徴に合致してるよ!あの島が、あの写真に写ってる小さい島だよ!愛香も見てよ!」
「え!そうなんだ~!分かった!見てみるよ!」
瀧本愛香も、僕が指摘した小さい島をじっくりと見る。少し時間が経ち、瀧本愛香が満面の笑顔になって僕に言ってきた。
「お~!確かに、あの島、五つの特徴全てと合致してるよ!あの島が、あの写真に写ってる小さい島で間違いないよ!お前、凄いよ!」
「そんなに褒められると、照れちゃうな~。すっごく嬉しいよ!ありがと~!早速、皆に報告して来るよ!」
クルッと後ろを向き、満面の笑顔で三島彩海と藤森美幸に言う。
「彩海、美幸!あそこに見える小さい島を見てよ!五つの特徴全てと合致するよ!あの島が、あの写真に写ってる小さい島で間違いないよ!」
「え!そうなの!分かった!見てみるね!」
「うん!分かった!じっくり見て確認するよ!」
三島彩海と藤森美幸が、その小さい島をじっくり見た後、満面の笑顔になる。
「うん!確かに五つの特徴全てと合致してるよ!あの島で間違いないよ!さすがだね!その観察力、凄いよ!」
「そうだね!私も、あの島で間違いないと思うよ!後は、どうやってあの島に行くかだね」
藤森美幸の言葉を聞き、僕と瀧本愛香と三島彩海の顔から、一気に笑顔が消え、すっかり冷静になった。
「そうか。島が見つかったのはいい事なんだけど、あの島に行く方法を考え出さないと、あの島に行けないよな」
「そうだね。島を見つける事ができても、行けないなら、意味ないもんね。どうやったら、あの島に行く事ができるんだろ~」
「そうだね~。あの島に行く方法か~。どうやって行けばいいんだろうな~。藤森さん、あなたが言ったんだし、行く方法は考えてるの?」
「あの島に行く方法なんて、分かりませんよ~。勿論、観光船が、あの島に行ってくれる訳ないですもんね。皆で筏を作るなんて、どうですか?」
「はぁ?あんた、ふざけてんの?そんな事、出来る訳ないでしょ!」
「そうですよね。やっぱり、船じゃないとダメですよね。船をチャーターできれば、一番いいんですけどね」
「さすがに、それは無理そうだな。何かいい方法は無いもんかな。お前、何かいい方法を考え出せたか?」
「そんなに簡単には思い付かないよ。とりあえず、皆でネットで検索して、あの島に船で行く方法を探ってみますか!」
「お!そうだね!皆で検索したら、すぐに分かるだろ~!」
僕と瀧本愛香と三島彩海と藤森美幸が、スマホを使って、お目当ての島に船で行く為の方法を検索していると、菅山香菜が微妙な笑顔を浮かべながら、こっちに来た。
「ねぇ、皆で何やってんの?もしかして、何か分かったの?」
「さっき、五つの特徴全てと合致する小さい島が見つかったんだよ。で、今、皆でスマホを使って、その島に船で行く方法を検索してるところなんだよ。香菜も一緒に検索してくれる?」
「お~!よく見つけたね!凄い!勿論、私も一緒に検索するよ!」
僕が説明し、菅山香菜も一緒にスマホで検索し始めた。皆で一生懸命スマホをいじり、お目当ての小さい島に船で行く為の方法を検索する。どんどん時間が経ち、観光船が順調に進んで行く。更に検索していると、ふと、瀧本愛香が大喜びで声を上げた。
「ねぇ、ちょっと離れてる所に、手漕ぎのボートを出してるお店があるよ!このお店で、手漕ぎのボートを借りて、皆で頑張って漕いで、あの島に行こうよ!ビーチっぽいのがあるし、行けると思うよ!」
「お~!愛香、素晴らしい!よく見つけたね~!観光船が乗り場に戻ったら、早速、その店に行って、ボートを借りよう!」
僕と三島彩海と藤森美幸と菅山香菜が賛成し、五人で盛り上がっていると、ふと、僕が気付いた。高杉稜介を蚊帳の外にしていた事に。早速、高杉稜介のところに行き、事情を説明する。
「高杉先輩、五つの特徴全てに合致する小さい島が、見つかったんですよ。で、スマホで検索したら、少し離れてる所で、手漕ぎボートを借りる事ができるお店があるのが分かって、観光船が乗り場に到着したら、そのお店に行って、手漕ぎボートを借りて、皆でボートを漕いで、その見つけた小さい島に行こうと思うんです」
「そうなのか!よく見つける事ができたな!しかも、手漕ぎボートのレンタルショップまで見つけるなんて、やるじゃないか!俺が蚊帳の外になってたのは、寂しいけど、役に立てなくて、申し訳なかったな」
「ありがとうございます。申し訳なかったなんて、気にしないで下さいね。こっちこそ、声を掛けなくて申し訳なかったです」
「いいよ。どうせ俺は、蚊帳の外の男なんだから、気にしないでよ」
僕と高杉稜介の会話が終わり、僕が元の席に戻った。僕と瀧本愛香が悠々と観光を楽しみ、楽しくおしゃべりしながら過ごす。三島彩海と藤森美幸は、ほとんどしゃべらずに、ひたすら窓の外の景色を堪能して過ごす。菅山香菜と高杉稜介は、一人で座っていて景色に飽きたのか、コクリコクリと眠っている。そうしている間も、観光船はどんどん走り進み、観光船乗り場に到着。
皆で観光船から降り、観光船乗り場から出て、テクテク歩いて、手漕ぎボートを借りる事ができる店を目指す。僕と瀧本愛香が楽しくおしゃべりしていると、三島彩海と菅山香菜と藤森美幸と高杉稜介が、ムッとした表情になり、特に、高杉稜介は、僕と瀧本愛香を鬼の形相で睨んでくる事もある。高杉稜介からの突き刺さるような視線を感じ、僕が瀧本愛香に小声で言う。
「愛香、高杉先輩が、めっちゃ鋭い眼光で睨んでるよ。やっぱり、僕と愛香が楽しそうに話してるのが、気に入らないんだと思う。愛香は、高杉先輩に好かれてると思うよ」
「え~!高杉さん、私の事なんて好きじゃないと思うけど、もし高杉さんが私の事を好きだとしたら、勿論受け入れられないし、どっちかといえば、迷惑に感じるよ。好きって言われたら、どう答えて断ればいいんだろうな」
「正しい答えなんて無いかもしれないけど、高杉さんに、愛香の事を諦めてもらえるよう、はっきりと断るべきだと思うよ」
「はっきり断って、後でとんでもない事をされたら嫌だけど、はっきり断らないといけないな~」
僕と瀧本愛香が、そんな会話をしていると、高杉稜介が早足でこっちに来て、怒りの表情を浮かべながら、大声で言ってきた。
「おい!瀧本とお前!さっきから浮かれた感じで、ヘラヘラしながらしゃべってるけど、緊張感が無さ過ぎだぞ!ボートを漕いで、あの小さい島に行くの、どれだけ大変だと思ってんだよ!ボートが転覆するリスクもあるんだぞ!それに、その店の経営者が、ボートを漕いでそんな島に行くのなんて、許可してくれるかどうか分からないぞ!もっと緊張感を持てよ!見ていて、イライラするんだよ!」
いなくなった社員と、僕の大切な万年筆は、見つかるのだろうか。この後、明らかになる。
「高杉先輩、ヘラヘラしてるつもりは無かったんですけど、そう思わせてしまって、本当に申し訳ございませんでした。もっと緊張感を持って、目的地の店に着いてからの事を考えながら歩きます」
僕は高杉稜介に謝罪したが、瀧本愛香は逆にヒートアップし、高杉稜介に反抗する。
「高杉さん、さっきから、くだらない事にイライラして、私とこいつに絡んで来て、鬱陶しいですよ!手漕ぎボートを借りる事ができるお店に着くまで位、楽しくしゃべっていても、いいじゃないですか!ほっといて下さい!高杉さんも、誰かと話していればいいでしょう!いい大人なんだから、いちいち突っかかって来ないで下さい!」
瀧本愛香の強い言葉を聞き、高杉稜介がひるんで、弱々しい言葉を絞り出す。
「た、瀧本。そんなに怒る事ないだろ。悪かったよ。もういい。勝手にしゃべってろよ」
高杉稜介が後ろに下がり、しょんぼりした様子で歩く。僕と瀧本愛香は、ニッコリと笑顔になる。
「愛香、ズバッと言ったね。かっこ良かったよ。さすが愛香だよ~!」
「うん!高杉さん、男らしくなくて、ついカッとなって、言いたい事を言っちゃったけど、これで良かったと思うよ」
そんなやり取りを見て、三島彩海と菅山香菜と藤森美幸が、溜息をつきながら歩き、時々、悔しそうな言葉を言い合う。僕も瀧本愛香も、それらの言葉が聞こえたが、いちいち反応せず、引き続き二人で楽しくおしゃべりしながら歩き進む。皆でどんどん歩き進んで行くと、いつの間にか、お目当ての店が見えてきて、瀧本愛香がはしゃぐ。
「見えてきた!あそこに見えるお店が、手漕ぎボートを借りる事ができるお店だよ!もう少し、しっかり歩こう!」
「うん!意外に早く着きますね!ところで、瀧本先輩、あの店で借りる手漕ぎボートで、目的地の小さい島に行くのを、店の人に言うんですか?」
「う~ん、それを今考えてるとこなんだよね~。もしお店の人に言って、断られたら、さすがに、手漕ぎボートでその島に行きづらくなっちゃうし、最初からお店の人に言わない方がいいかな~って思ってるの~」
「あ~、確かにそうだね~。店の人に断られたら、いくら何でも、手漕ぎボートでその島に行く事なんて、出来ないよな。それでいいと思うよ」
瀧本愛香の考えに、僕も三島彩海も菅山香菜も藤森美幸も賛成したが、高杉稜介は、店の人に言うべきだと主張してきた。お目当ての店に着き、僕と瀧本愛香が、実際は店の人と交渉していないが、交渉しているふりをして、高杉稜介を納得させた。
手漕ぎボートのレンタル料金を、皆でお金を出し合い、いよいよ手漕ぎボートに乗り込む。手漕ぎボートは、思ったよりも大きく、安定感があり、僕と瀧本愛香と三島彩海と菅山香菜と藤森美幸が、ワイワイはしゃぎ、高杉稜介がやれやれという感じの表情になり、瀧本愛香が元気良く声を出す。
「じゃあ、漕ぎ始めよう!私が、いち、に、って掛け声を出すから、それに合わせて、リズム良く息ぴったりにして、漕ぎ進めようね!」
「はい!それでいきましょう!男の僕が、一番力強く漕ぎますよ~!」
僕が同調し、三島彩海と菅山香菜と藤森美幸も同調。高杉稜介は黙って頷く。
「じゃあ、いくよ~!い~ち!に~!」
瀧本愛香の掛け声により、皆で息を合わせて漕ぐ。思ったよりも力が必要で、男の僕でさえ、すぐに腕が疲れてきた。
「瀧本先輩、結構力が要りますね。思った以上に大変ですね。大丈夫ですか?疲れてませんか?」
「そりゃ、疲れてきてるけど、やるしかないし、しっかり頑張って漕いで、あの小さい島に行くよ!男であるお前は、私よりも力強く漕がなきゃダメだぞ!」
皆で一生懸命漕ぎ、ボートが順調にどんどん進んで行く。ボート乗り場から、かなり離れた時、ボート乗り場から店の人が何か叫んでいる様子が見えた。僕がヒソヒソ声で瀧本愛香に言う。
「愛香、店の人が、何か叫んでる感じだね。聞こえないけど、これ以上行くな~って叫んでるのかな?」
「うん。たぶんそうだろうね。でも、ここまで来たら、行くしかないし、お店の人には、戻ってから精一杯釈明しよう」
「うん。そうだね。もう引き返せないし、行くしかないね」
皆で更にボートを漕ぎ進め、後ろを振り返ると、もうボート乗り場はほとんど見えないようになった。前を向くと、松島のたくさんの島が、どんどん近くに見えるようになっている。更にボートを島の方向に漕ぎ進め、体力的に相当きつくなってきた時、ふと、僕が気になった事を口に出す。
「あの写真に写ってる小さい島に行くのに、どの方向に向かって漕いで行けばいいんでしょうね。方向を間違えたら、とんでもない場所に行っちゃいそうですね」
「お~!お前、鋭い指摘だな。確かにそうだね。もう島が近いし、ここからは、慎重に舵を取らなきゃいけないね。どの方向に行けばいいかな」
「う~ん、方向を間違えたら、変な所に行って、かなりの体力を消耗しちゃいますし、慎重に考えないといけませんね~」
「そうだね。ここからだと、どの島も同じように見えるし、難しいね。どの方向に行けばいいのかな」
「そうですよね。ボートを漕いで行く方向か~。やっぱり、前に見つけた五つの特徴が合致してる小さい島を探しながら、漕ぎ進めるのがいいですよね」
「お!藤森先輩!相変わらず、いい意見を出してくれますね~!それがいいですね。五つの特徴を頭に入れて、合致する小さい島を探しながら、方向を決めましょう!」
藤森美幸の意見に、僕と瀧本愛香と三島彩海と菅山香菜が賛成し、高杉稜介は相変わらず黙っている。皆でボートを漕ぎながら、たくさんの島をじっくりと観察し、五つの特徴と合致する小さい島を探す。観光船から見た時の、お目当ての島の場所を考えながら、ボートを漕ぎ進め、目を凝らしてじっくりと多くの島を見つめる。
ボートは既に、たくさんの島に囲まれている場所まで進んで来ている。皆でボートを漕ぎながら、五つの特徴に合致する、お目当ての小さい島を探していると、ふと、瀧本愛香が満面の笑顔を浮かべながら、大きな声で言ってきた。
「ねぇ!あそこに見える小さい島、五つの特徴全てに合致してるよ!あの島で間違いないよ!あの島にボートを漕いで行こうよ!ちゃんとビーチみたいな所もあるから、あそこにボートを止める事ができると思うよ!いよいよ、あの島に、部長と次長と野田さんと森崎君がいるかもしれないね!お前が大切にしてる万年筆も、見つかるかもしれないよ!」
「はい!確かに、あの小さい島、五つの特徴全てに合致してますね!あの島に、部長も次長も野田さんも森崎さんもいる事を願って、しっかり探しましょう!僕の万年筆も見つかったら、言う事無しですけどね」
疲れを感じながらも、皆でラストスパートを絞り出してボートを漕ぎ、どんどん目的地の島に近付いて行く。もう少しで到着する、その時、物凄い突風が襲い掛かって来た!ボートが大きく傾き、皆が海に投げ出されそうになる。皆が悲鳴を上げ、瀧本愛香の身体が、ボートから出てしまった!
「キャ~!」
「愛香~!僕の手に捕まれ~!」
僕の叫び声に、瀧本愛香の手が反応し、僕の腕を握り、何とか、瀧本愛香の身体をボートに引き上げる事ができた。瀧本愛香は、脚は海に浸かって濡れてしまったが、お尻から上は、濡れずに済んだ。
「助けてくれてありがと~!」
「うん!愛香、無事で良かった~!」
瀧本愛香と僕がそう言って、涙ぐみながら抱き締め合っていると、三島彩海と菅山香菜と藤森美幸が、次々に言ってきた。
「瀧本さん、無事で良かったけど、イチャイチャし過ぎですよ!いい加減、離れて下さいよ!さすがに、妬けちゃいますよ!」
「そうだぞ、瀧本!無事で安心したけど、抱き締め合うのは、その辺にしとけよ!」
「そうですよ!瀧本さん!私、まだこの人の事、諦めてませんからね!そろそろ離れて下さいね!」
三人の言葉を聞き、僕と瀧本愛香が、パッと身体を離し、恥ずかしそうに見つめ合っていると、高杉稜介が、怒りに満ちた表情で言ってきた。
「おい!瀧本!新入社員!お前等、もしかして、付き合ってるのか?新入社員は、瀧本の事、愛香って呼んでたし、お前等、抱き締め合ってたぞ!」
「高杉さん!それは、高杉さんのご想像にお任せします。申し訳ございませんが、私の口から言う事はできません。分かって下さい」
「高杉先輩!僕と瀧本先輩の関係は、瀧本先輩がおっしゃってる通りです。僕の口からも言う事はできません」
「何だよ!お前等、二人して、隠しやがって!もういいよ!訊いたけど、よく考えたら、知りたくないし、もう考えないようにするよ!今は、あの四人を探し出す事が最優先だしな。あの島に着いてから、しっかり探すよ!」
何とか物凄い突風を乗り越え、再び皆でボートを漕ぎ進めると、どんどん島が大きく見えてきて、漸く、目的地の小さい島に着いた。
ビーチのような所にボートを止め、皆でボートから降りると、思ったよりも雄大で綺麗な島の風景が目の前に広がっていて、僕と瀧本愛香のテンションが一気に上がる。
「お~!想像してたより、雄大で綺麗な景色ですね~!何だか、この島には、いろいろありそうですね~!」
「そうだね~!雄大で綺麗な景色で、びっくりしてるよ~!しっかり探検して、部長と次長と野田さんと森崎君がいるかどうか、調べなきゃね~!」
三島彩海と菅山香菜と藤森美幸もはしゃぎ、高杉稜介は真剣な表情になる。
皆でこの島を見回し、これから何処に行けばいいかを考えていると、まずは瀧本愛香が口を開いた。
「ここで長い時間をかけて何処に行けばいいかを考えていても、仕方ないし、ひたすらいろんな場所を探し回るというのは、どうかな?」
「お!瀧本先輩!それ、名案ですよ!僕も、それがいいと思ってました!見知らぬ場所をいろいろ探し回るというのは、がむしゃらにいろんな場所を探すのがいいと思います!」
「ほんと、そうですね~。まぁ、この島、景色が綺麗ですし、あの高い丘に登れば、見晴らしがいいし、何か分かるかもしれませんよね」
「お!藤森先輩、相変わらず、いい事を言いますね!あの高い丘に登って、この島全体を見渡したら、何処に行けばいいか、分かりそうですね!早速、登りましょう!」
「そうだね~!私も、お前の反応に賛成だよ!藤森さん、冴えてるよ!早速、頑張って登ろう!景色、綺麗そうだな!」
三島彩海と菅山香菜も賛成し、高杉稜介は少し溜息をつきながら頷く。
早速、皆でお目当ての高い丘の一番下に行き、僕が先頭になって、登り始める。いざ登り始めると、思ったよりも急な斜面で、当然の事ながら、道が舗装されておらず、道無き道を、足元に気を付けながら登って行く。うっかり足を滑らすと、一気に下に落ちて行きそうな所もあり、ある意味、命懸けの登山という感じ。
「皆さん、この丘、険しくて斜面が急ですけど、大丈夫ですか~?」
「気遣ってくれて、ありがと~!大丈夫だよ~!」
「ありがとうね~!私も大丈夫だよ~!」
「私も大丈夫!心配要らないよ~!」
「私も大丈夫だよ~!優しいね~!嬉しいよ~!」
瀧本愛香と三島彩海と菅山香菜と藤森美幸が、大丈夫と言ってくれたが、高杉稜介からの返答が無い。
「高杉せんぱ~い!大丈夫ですか~?良かったら、返事して下さ~い!」
僕からの大きな声での呼び掛けにも、高杉稜介からの返答は無い。さすがに気になり、一旦立ち止まり、高杉稜介のところに下りて行くと、高杉稜介が精魂尽き果てた感じの表情で、今にも倒れ込みそうになっている。
「た、高杉先輩!もういいですよ。下りて下さい!このまま登って行くと、最悪の場合、命の危険がありますよ!」
「う、うるさい!だ、大丈夫だよ!心配すんなよ!」
そんなやり取りを聞いた瀧本愛香が、真剣な表情で高杉稜介に言う。
「高杉さん!もう止めて下さい!このまま登ったら、本当に死ぬかもしれませんよ!私達、助けられませんよ!高杉さんが丘の頂上まで登っても登らなくても、結果は変わりませんから、後は私達に任せて、下で休んでいて下さい!」
「そ、そうか。瀧本にそこまで言われると、そうする方がいいっていう気になるな。分かったよ。下に下りるよ。ごめんな。後は任せたぞ!」
「謝らなくて大丈夫ですよ!私達が、高杉さんの分まで丘の頂上に登って、この島全体を見渡して、次に行くべき場所を見つけ出しますよ!」
瀧本愛香の言葉により、高杉稜介が下に下りて行き、僕と瀧本愛香が顔を見合わせる。
「高杉先輩、僕から言っても下に下りなかったのに、愛香が言ったら、すぐに納得して、下に下りて行ったな。やっぱり、高杉先輩、愛香の事が好きなんだよ。僕と愛香が付き合ってるの、知りたくないって感じだったし」
「ここまで来ると、高杉さん、本当に私の事が好きなのかな~っていう気もするけど、私は、お前の事が好きだし、お前を大切にしてるし、高杉さんの気持ちには、応えられないな。もし告白されたら、どう言って断ろうかな~」
「高杉先輩、愛香の為なら、頑張ってくれそうだし、告白されない限りは、愛香が高杉先輩に頼んで、頑張ってもらえる事は頑張ってもらうのがいいよね。もし告白されたら、はっきり断らなきゃダメだよ」
「うん。分かった。告白してこないで欲しい~!」
気を取り直し、再び僕が先頭になって、どんどん高い丘を登り進める。どんどん地面が悪くなり、歩きにくい事この上無いが、それでも気力を振り絞り、ゆっくりと登って行く。徐々に頂上に近付いて行き、無くしかけていたやる気が戻って来る。ラストスパートで気力を振り絞って登って行き、漸く高い丘の頂上に着いた。僕と瀧本愛香が大喜び。
「やっと頂上に着いた!めっちゃ嬉しい!景色がすっごく綺麗!この島を一望できる!」
「やっと頂上に着いたね!しんどかった!でも、すっごく嬉しい!ほんと、めっちゃ綺麗な景色!次は何処に行けばいいか、ここから見れば分かりそう!」
五人で休憩し、景色を堪能した後、気持ちを切り替え、次に何処に行けばいいか、景色をじっくり見る。自然豊かで、大自然に魅了されるが、際立った特徴が無く、部長と次長と野田圭吾と森崎悠磨がいそうな場所は、見当たらない。
「う~ん、景色は綺麗だけど、人が監禁されるような場所は、見当たらないな。そもそも、この島に部長と次長と野田先輩と森崎先輩がいるかどうか、分からないしな」
「そうだね~。景色に魅了されるけど、人が隠されてる感じの場所は、ありそうな感じがしないな~。こんな小さい島に、大人四人を押し込める事ができる場所なんて、無いかもしれないね~」
僕と瀧本愛香が言った後、五人で次に行くべき場所を探すが、次に行くべき場所を見つける事ができないでいる。更に皆で集中力を振り絞って、次に行くべき場所を探す。時間が経ち、限界が近付いていると感じ始めた、その時、三島彩海が大きな声で言ってきた。
「ねぇ、あの崖みたいな所、小さいけど、穴が見えますよ!あの穴、たぶん洞窟の入口ですよ!もしかしたら、あの洞窟の中に、部長と次長と野田さんと森崎君がいるかもしれませんよ!皆で行ってみましょうよ!」
「お~!確かに、あの崖みたいな所に、穴が見える!あの中にいるかもしれないね!彩海、
凄い!よくあんな小さい穴を見つけたね!」
僕が三島彩海の発見に大喜びではしゃぎ、他の三人も大喜び。すぐに丘を下り始め、下に到着すると、木陰に座りながら休憩している高杉稜介が、歩いて近付いて来た。
「頂上まで行けたか?どうだった?何か発見できた?」
「高杉さん、大丈夫ですか?私達、頂上まで行けましたよ。で、三島さんが、崖みたいな所にある小さい穴を発見してくれて、これから皆で、その穴に入ろうって話になってるんですよ。高杉さんも行けますか?」
「頂上まで行けて、そんな物を発見できたんだな!三島さん、凄いよ!僕は大丈夫。勿論、僕も一緒に行くよ!」
「分かりました。大丈夫で良かったです。早速、皆でその穴に行きましょう!」
高杉稜介と瀧本愛香の会話が終わり、皆で歩いて、島の右側にある崖みたいな所を目指す。小さい島という事で、それ程離れていなく、思ったよりも早く、崖みたいな所の近くに着いた。皆でその場所を見て、驚きの表情になる。
「うわ~!この場所、ちょっと足を滑らせたら、海に落ちちゃいますね。僕は行きますけど、僕だけで行ってきましょうか?皆さんを危険な目に遭わせたくないですよ」
「お前、何言ってんだ!私も行くに決まってるだろ!大丈夫だ!足なんて滑らせないよ!心配すんな!さぁ、行くぞ!」
僕の言葉に瀧本愛香が返し、再び皆でゆっくりと慎重に歩き進み、漸くお目当ての穴の前に到着。穴の前に立つと、高い丘の頂上から見た印象よりも、穴が大きく、人一人入れる大きさがある。奥行きがありそうで、穴の奥が見えない。
「いよいよ、この穴の中に入りますよ!穴の前に立つと、正に洞窟って感じですね!」
「うん!行こう!穴の奥が見えなくて、どんな感じなのか、さっぱり分からないね」
僕の掛け声に、瀧本愛香が同調し、皆で穴の中に入った。僕が先頭で歩き進む。
「この穴、何とか一人分の大きさがありますけど、なかなか穴の奥が見えて来ませんね。逃げなきゃいけなくなったら、クルッと後ろを向いて、逃げるしかないですね」
「そうだね。このまま、この大きさの穴が続くのかな。奥まで行って、行き止まりの可能性もあるよね。逆に、穴の入口から、大量の海水が一気に流れ込んで来たら、穴の奥に向かって走るしかないし、それで行き止まりになってたら、やばいよね」
「そっか~。確かに、いろんな可能性がありますし、ありとあらゆる状況に対応できるように、しっかりと気を引き締めて、考えながら歩かなきゃいけませんね」
僕と瀧本愛香が、歩きながらしゃべっている間、三島彩海と菅山香菜と藤森美幸が緊張しながら慎重に歩き、高杉稜介はキョロキョロして落ち着かない様子で歩く。更に皆でどんどん歩き進むと、天井が高く、前後左右が広いスペースに出た。
「この穴の中に、こんな場所があるんですね!ここは、開放感がありますね!部長と次長と野田先輩と森崎先輩が、いるかもしれないっていう思いが強くなってきました!」
「そうだな!こんなに天井が高くて前後左右が広い場所が、この穴にあるなんて、びっくりだな!この場所を調べたら、更に何処かに行ける通路があって、そこにあの四人がいるかもしれないぞ!早速、調べてみよう!」
僕が瀧本愛香と話した後、周りを見回すと、三島彩海と菅山香菜と藤森美幸はいるが、高杉稜介の姿が無い事に気付いた。
「あ、あれ?高杉先輩がいない!さっきまでいたはずなのに、なんで?誰か、高杉先輩が何処に行ったのか、知ってる?」
「いや、知らない。ほんと、いつの間にいなくなっちゃったんだろ。びっくり~!何処かではぐれちゃったのかな」
「私も知らな~い。高杉さんの事なんて、興味ないけど、急にいなくなって、さすがに気になるな~。一体、何処に行ったんだろ~」
「確かに、高杉さんがいないね!びっくりしたけど、私、高杉さんの事、嫌いだし、別に探さなくていいんじゃない?気にする事ないよ」
「え~!いくら嫌いでも、さすがに、ほっとくのはまずいんじゃないですか~?新たな通路を探すのも重要だけど、同時並行で高杉さんも探しましょうよ~!」
「そうだよね~。僕も高杉先輩が何処に行ったのか、気になるし、何処かに行ける通路を探しながら、高杉先輩も探そう!」
「私もそれでいいと思うよ。高杉さん、ある程度は頑張ってくれたんだし、ほっとくなんて、さすがに可哀想だよ。新たな通路を探しながら、高杉さんを探そう」
「私も、前から高杉さんの事、鬱陶しいな~って思ってたけど、いいところも少しはあるし、新たな通路を探しながら、高杉さんも探すのがいいと思うよ」
「ま、皆がそう言うなら、別に高杉さんを探してもいいけどね。ったく。高杉さん、何処に行っちゃったんだろうね」
―香菜、高杉先輩の事、ボロカスに言うなぁ。そんなに高杉先輩の事を嫌ってるのか~。そんなにびっくりする事じゃないけど、ここまでとは思わなかったな―
僕と瀧本愛香と三島彩海と菅山香菜と藤森美幸の意見がまとまり、新たに何処かに行ける通路を探しながら、高杉稜介も探す。暫く一生懸命探すが、新たな通路も高杉稜介も見つける事ができず、どんどん時間が経ち、少し焦り始めた、その時、僕が発見!
「皆!こっちに来てよ!この壁に小さい窪みがあって、上手く窪みに入って行けば、新たな通路に行けるかもしれないよ!」
「お~!お前、よく見つけたな!確かに、行けそうな感じがするな!ここにいる全員、スリムな体型だし、問題なく窪みに入って行けるぞ!」
「ウフフ、瀧本さん、スリムな体型って、私、瀧本さんのスタイルには負けますよ。瀧本さん、おっぱいが大き過ぎて、つっかえるんじゃないですか~?」
「ははは。三島さん、鋭いツッコミだね。確かに、瀧本、おっぱいがでか過ぎて、窪みに入れないかもしれないぞ」
「あはは。ほんとですね。瀧本さん、おっぱい大き過ぎです!羨ましい~!」
「も~、皆で私をからかって~。さすがに、この窪みには入って行けるよ~」
皆で上手く身体をくねらせながら進んで行くと、予想通り、新たな通路に出る事ができた。ゆっくりと慎重に通路を進んで行くと、今度は、地下に通じる下り坂に出くわし、足元に注意しながら、どんどん下りて行くと、下り坂が終わり、通路の先を見ると、部屋のようなスペースが、向こうの方にある。
皆でドキドキしながら通路を歩き進み、部屋のようなスペースの入口に到着。緊張しながら中に入ると、そこにいたのは、なんと、悲壮な表情で座っている部長と次長と野田圭吾と森崎悠磨、そして、刃物を持っている高杉稜介!
「高杉先輩!何してるんですか!なんでこんな事をしてるんですか!馬鹿な事は止めて、刃物を下に落として下さい!」
「高杉さん!どうしちゃったんですか!自分で何をしてるのか分かってるんですか!もう止めて下さい!早く刃物を落として、その四人から離れて下さい!」
「た、高杉さん!そ、それ、犯罪行為ですよ!む、無罪ではないかもしれませんけど、い、今なら、まだ引き返せますよ!もう止めて下さい!」
「高杉さん!頭がおかしい人だとは思ってましたけど、こんな事をする人とは、思いませんでしたよ!本当に馬鹿な人ですね!高杉さん、もうおしまいですよ!」
「高杉さん!なんでこんな事をするんですか!お願いだから、止めて下さい!これ以上、罪を重ねないで下さい!」
僕と瀧本愛香と三島彩海と菅山香菜と藤森美幸が、大きな声で高杉稜介に訴えたが、高杉稜介が物凄い形相で怒鳴ってきた。
「うるさい!お前等が何と言おうと、俺は、こいつらを殺す!そこから動くな!動いたら、こいつらをすぐに殺すぞ!」
―高杉先輩、これは、本気だな!このままだと、部長と次長と野田先輩と森崎先輩が、殺されてしまう!もう覚悟を決めなきゃいけないな!―
僕が真剣な表情で瀧本愛香の方をチラッと見ると、瀧本愛香が大きく頷いてくれた。僕が覚悟を決め、大きな声を出す。
「お願いします!もう止めて下さい!」
続けて、更に大きな声で言う。
「菅山香菜さん!」
僕の言葉を聞き、菅山香菜が、とんでもなく驚いた表情になった。
「はぁ?あんた、何を言っちゃってんの?私に対して、止めて下さいって、どういう事?あんた、頭おかしくなっちゃったの?今、あの四人を殺そうとしてるのは、高杉さんよ!おかしな事を言わないでよ!高杉さんを止める方法を考えてよ!」
「菅山香菜さん!あなたが、高杉先輩を止めて下さい!今なら、高杉先輩は、菅山香菜さんの言う事を聞くはずですよね!さぁ、早く!」
「ふざけんな!てめぇ、いい加減にしろよ!なんで高杉さんが、私の言う事を聞くのよ!そんな訳ないでしょ!私は高杉さんの事が嫌いだし、高杉さんだって、私の事、いいようには思ってないよ!」
「お互いに嫌い合ってると言いたいんですか。まぁ、その理由は、後で分かるでしょう。そんな事より、早く高杉先輩を止めて下さいよ!あなたの言う事を聞くはずですよ!」
「うるせぇんだよ!さっきから、訳の分からない事を言ってんじゃないよ!なんで、高杉さんが、私の言う事を聞くはずなのか、言ってみなさいよ!」
「分かりました。それでは説明します。菅山香菜さん、あなた、僕が大切にしてる万年筆を持ってますよね?証拠を掴んでるんですよ!」
「きゅ、急に何を言ってくれてんの!そんなもん、持ってる訳ないじゃん!」
「嘘つかないで下さい!菅山香菜さん、会社の警備室に落とし物として届いた僕の万年筆を、受け取りに行ったじゃないですか!ちゃんと女性警備員に聞きましたよ!」
「フン!そんな訳ないでしょ!ちゃんとその女性警備員には、私が、あ・・・」
「フフフ、ボロを出しましたね。そうですよ。菅山香菜さんが、僕の万年筆を受け取りに行って、その女性警備員に、いつ受け取ったのか、誰が受け取ったのかを、口止めしたんですよ!でも、僕がその女性警備員に、正直に話してもらいましたよ」
「ふざけんな!あの女性警備員が、お前なんかに言うはずがない!適当な事を言うな!」
「ほぉ~、なんでその女性警備員が、僕に言うはずがないんですか?」
「う、そ、それは、言えないよ」
「そりゃ、言えないですよね。じゃあ、僕から言いますよ。菅山香菜さん、僕の万年筆の蓋を開けて、インクの匂いを、その女性警備員に嗅がせましたよね?僕の万年筆のインクを嗅いだ人は、精神的におかしくなって、万年筆の持ち主の言う事を聞いちゃうんですよ。で、その女性警備員にインクの匂いを嗅がせて、万年筆を受け取った日時と受取人の名前の欄を、空白でいいようにして、誰にも言わないように口止めしたんですよね?僕の万年筆をどうやって手に入れたんですか?手に入れたのは良かったんでしょうけど、うっかり落としちゃったのは誤算でしたね。なんで僕の万年筆を手に入れたかったんですか?僕の万年筆のインクに、そういう力があるのを、なんで知ってるんですか?更に言うと、菅山香菜さん、警察署に行って、女性警察官にインクの匂いを嗅がせて、捜査情報を聞いた上で、口止めしましたよね?それも、その女性警察官に正直に話してもらいましたよ。もうここまでばれてるんだし、この際、洗いざらい吐いちゃって下さい!」
僕の言葉を聞き、菅山香菜が鞄の中に手を入れ、ゆっくりと、僕の万年筆を取り出した。
「そうか。やっぱり、元々の持ち主は君なんだし、この万年筆の事、いろいろ知ってるんだな。もしかしたら、全然知らないのかなと思ってたのに、残念だな」
「最初は、僕の万年筆のインクに、そんな力があるなんて、知らなかったです。万年筆が入ってたケースに、説明書が入ってるのを思い出して、ケースを探し出して、説明書を読んで、いろんな事が分かったんです」
「そうだったんだ。じゃあ、あなたがこの万年筆のインクの匂いを嗅いでも、精神的におかしくならない理由は分かってるの?」
「はい。この万年筆を、僕の祖父が手にした時、インクの匂いを嗅いでも精神的におかしくならないよう、匂いの効果を消す薬を、血に注入されたんです。で、祖父と血が繋がってる僕にも、その薬の効能が、僕の血に入ってるんです。だから、僕は万年筆のインクの匂いを嗅いでも、精神的におかしくならないんです。ただ、分からない事があります。なんで菅山香菜さんが、インクの匂いを嗅いでも、精神的におかしくならないんですか?」
「フフ、それは知らなかったんだね。じゃあ、教えてあげる。あなたの祖父が、その万年筆を手に入れた時、私の祖父が、その万年筆を手に入れたくて、あなたの祖父と争ったんだよ。結果、あなたの祖父が勝って、その万年筆を手に入れたんだけど、インクの匂いの効果を消す薬を、私の祖父も血に注入してもらったんだよ。で、祖父と血が繋がってる私も、その薬の効能が血に入ってるのよ。あなたとあなたの祖父と父親の名前は、私の父親から聞いてたわ。だから、あなたがうちの会社に入社して、あなたから名前を聞いた時、衝撃が走ったわ。父親から聞いてた、万年筆を手にした人の孫なんだもの。その日、あなたの鞄の中を見る隙を窺ってたら、たまたま鞄が開いてるのに気付いて、中を覗いてみたら、あなたが大切にしてる万年筆が見えたんだよ。で、あなたの目を盗んで、パッと万年筆を鞄から取り出して、素早くポケットに入れたんだよ。これで、持ち主は私になり、蓋を開ければ、インクの匂いが漂うって訳。後は、言う事を聞かせたい人に、万年筆の匂いを嗅がせて、私の言う事を聞いてもらったんだよ」
「なるほど。そうだったんですね。祖父と万年筆の事で争った人がいたのは、知りませんでした。部長と次長と野田先輩と森崎先輩に、万年筆の匂いを嗅がせて、菅山香菜さんの言う事を聞かせたという事ですね。部長と次長と野田先輩に、言う事を聞かせたかったのは、この三人が、横領に関わってる事と、関係があるんですか?横領については、あなたが万年筆の匂いを嗅がせた女性警察官から聞きました。横領の事、知ってたんでしょ?」
「フフフ、あなた、いろいろ知ってるのね。まぁいいわ。この三人、前にプロジェクトが大失敗した時に、責任を全て私になすりつけたのよ。ほんとに許せなかったわ。いつか、復讐する機会を窺ってたの。で、野田さん、次長、森崎君、部長に、万年筆のインクの匂いを嗅がせて、この場所に行くように命令したの。ちゃんと行き方を説明したから、何とか行けたみたい。この場所は、大学生の時に付き合ってた人に、連れて来てもらった事があって、印象に残ってたから、行き方を覚えてたよ。この場所なら、こいつらを徹底的に糾弾できるし。その後、警察署で、女性警察官に万年筆のインクの匂いを嗅がせて、その女性警察官から、この三人の横領の事を聞いた時、これだって思ったわ。それで、この場所で、横領の証拠であるメールのやり取りを突き付けて、会社にばらされたくなかったら、私に慰謝料として大金を支払って、更に、プロジェクトの大失敗の責任を背負って、会社に公表して謝罪しろって迫る計画を立てたのよ」
「そういう事だったんですね。部長と次長と野田先輩に対しては、恨みがあって、万年筆のインクの匂いを嗅がせて、この場所に来させたのは分かりましたけど、なんで森崎先輩にも万年筆のインクの匂いを嗅がせたんですか?もしかして、菅山香菜さんと高杉さんが、前に付き合ってたという噂話が関係してるんですか?」
「ふ~ん、あなた、そんな事まで知ってるのね。さすが、勘が鋭いね。その噂話、デタラメだよ。こんなデマを流した張本人が、そこにいる森崎君なのよ。実は、前に、高杉さんに無理矢理二人で飲みに行かされて、その現場を、森崎君がたまたま見たらしくて、私と高杉さんが付き合ってるって勘違いして、ベラベラと言いふらしたんだよ。私、高杉さんなんて嫌いなのにね。そのせいで、私、いろんな人に誤解されて、男の人が寄り付かなくなっちゃったのよ。だから、森崎君にも恨みがあるのよ。この場所で糾弾して、私に対して、心からの謝罪をしてもらうつもりだったの」
「なるほど。それは、理由としては弱い感じがしますけど、菅山香菜さんにとっては、物凄く辛い事だったんでしょうね。で、高杉さんに刃物を持たせて、部長と次長と野田先輩と森崎先輩を殺そうと仕向けたのは、なんでですか?」
「ははは。それは、デマを流された相手の男だし、元々、高杉さんの事、嫌いだったし、丁度適任だな~って思っただけだよ」
「そうなんですか。本当に高杉先輩に、この四人を殺させるつもりだったんですか?」
「フフフ。私の要求をのまなかったら、場合によっては、高杉さんに、この四人を殺させるつもりだったよ。まぁ、あなた達よりも先に、私が一人でこの場所に来て、計画を遂行しようと思ってたんだけど、なかなかタイミングが無くて、そこは上手くいかなかったわ」
「なるほど。そりゃ、僕と瀧本先輩で、菅山香菜さんをしっかり見てましたからね。瀧本先輩には、元々、話をしてたんですよ。変な行動を取りそうだったら、すぐに止めるつもりでしたよ。お陰で、菅山香菜さんに単独行動を取らせずに済みました」
「そっか~。お見通しだった訳だね。あ~あ。上手くいくと思ったのにな~」
「それは残念でしたね。ところで、僕に言い寄って来たのは、なんでですか?」
「ウフフ、気になるんだね~。そりゃ、祖父がどうしても手に入れたかった万年筆の持ち主の孫が、どんな人なのか、どんな身体をしてるのか、どんな風に私を愛してくれるのか、興味あるよ!あなた、期待以上だったよ!でも、これで、私達の関係は終わりだよね。す~っごく残念だよ!」
「そうですね。僕には残念な気持ちと、ほっとした気持ちがありますよ」
「そっか。ま、いいけどね。で、聞きたいんだけど、あなた、どうやって、あの女性警備員と女性警察官の、万年筆のインクの匂いの効果を消す事ができたの?」
「そりゃ気になりますよね。キスですよ。僕の血を、あらかじめ、口に含ませて、あの二人にキスしたんですよ。僕の血が体内に入った事により、インクの匂いの効果が消えたんですよ。効果が消えた後は、あの二人、ちゃんと正直に話してくれましたよ」
「そうなんだ~!あの二人に、よくキスできたね!」
「褒めて頂き、ありがとうございます。それにしても、この島の写真まで、警察署で落とすなんて、そそっかしいですね。もしかして、わざと落としたんですか?」
「まさか!単純にミスって、落としただけだよ!私、昔から、肝心なところで、おっちょこちょいなんだよね」
「そうなんですね。ま、そこが可愛いところでもあるんですけど、今回はかなり痛かったですね。で、話は戻りますが、早く高杉さんを止めて下さい。あなたの計画は、失敗に終わったんですよ。早く部長と次長と野田先輩と森崎先輩を解放して下さい」
「私の計画が失敗に終わった?あなた、本当にそう思ってるの?甘いわよ!私の計画は、これから始まるんだよ!もういいわ!高杉さん!部長と次長と野田さんと森崎君を殺しちゃいなさい!私の恨みを晴らしてやる!」
菅山香菜の言葉を聞き、高杉稜介が大きな声で叫んだ。
「こいつらを殺してやる!まずは部長からだ~!」
高杉稜介が鬼の形相で、刃物を部長に向かって振りかざした。
―もはや一刻の猶予も無い!いくぞ!―
僕が鞄から、水が入っているペットボトルを取り出し、蓋を開け、部長と次長と野田圭吾と森崎悠磨と高杉稜介の顔に向かって、思いっ切り水を掛けた。すると、五人共、はっとした表情になり、万年筆のインクの匂いの効果が無くなった。
「え!俺は一体、何をしてたんだ?ここは何処なんだ?」
「な、何だここは?洞窟の中か?なんでこんな所にいるんだ?」
「お、俺はこんな所で一体何をしてるんだ?高杉!刃物を持って何をするつもりだ?」
「こ、ここは何処だ?え!高杉さん!刃物、危ないですよ!刃物を落として下さい!」
「え!俺はなんでここにいるんだ?なんで刃物なんか持ってるんだ?うわぁぁっ!」
部長と次長と野田圭吾と森崎悠磨と高杉稜介が、驚きながら口々に言葉を放ち、高杉稜介が刃物を見て青ざめ、刃物を地面に投げ落とした。
「良かった!皆、正気に戻ったんですね!僕の血が入ってるペットボトルの水を、念の為に用意しておいて、正解でした!でも、部長と次長と野田先輩!横領した罪を、償わなければいけませんよ!」
「え!なんで新入社員のお前が、横領なんて言ってくるんだ?何か証拠でもあるのか?」
部長の悲痛な訴えに対し、僕が毅然とした態度で答える。
「証拠ならありますよ!警察署で、部長と次長と野田先輩が、横領に関わってるメールを見せてもらいました。メールの内容をプリントアウトした紙がありますよ!」
僕がメールの内容をプリントアウトした紙を、部長と次長と野田圭吾に見せると、三人共、表情が青ざめ、諦めの表情になり、ガックリと項垂れた。その後、すぐに僕が菅山香菜の方を見て、強い口調で言葉を放つ。
「菅山香菜さん!これでもう打つ手が無いでしょう!いい加減、諦めて下さい!実は、もう警察を呼んでます!もう少しで、警察がここに着くはずです!部長と次長と野田先輩と共に、しっかりと罪を償って下さい!そして、僕が大切にしてる万年筆を返して下さい!その万年筆は、代々受け継がれてる、本当に大切な万年筆なんです!」
「フン!言いたい事を言ってるけど、まだ終わってないよ!私には、あなたの万年筆という、強い武器があるんだよ!覚悟しろ!」
菅山香菜がそう言い放つと、僕の万年筆の蓋を取り、こっちの方に向かって振りかざした。インクの匂いが漂い、三島彩海と藤森美幸の表情が一変し、目が虚ろになった。僕と瀧本愛香は、全く変化が無い。
―し、しまった!彩海と美幸には、僕の血を飲ませるタイミングが無かったから、飲ませてなかった!愛香には、今朝、僕が血を口に含ませてキスしたから、愛香は何も変化が無くて良かった―
「愛香、大丈夫だよね?今朝、僕の血をキスで飲ませた効果があるはずだよ!」
「うん!私は大丈夫!今朝のキス、そういう狙いもあったんだね」
「そうなんだよ。まぁ、単純にキスしたかったというのもあったけどね。でも、彩海と美幸には、僕の血を飲ませてなかったから、僕の万年筆のインクの匂いの効果をモロに受けてしまった。今は菅山香菜が持ち主になってるから、菅山香菜に命令されると、聞いてしまう状態だよ」
もう周りを気にせず、敬語無しで僕が瀧本愛香と話した。菅山香菜が勝ち誇った表情になっている。
「あはははは。もう三島さんと藤森さんは、私の意のままに動くよ!」
「菅山香菜さん、馬鹿な事は止めて下さい!もうこれ以上、罪を重ねないで下さい!今なら、誰も死んでないし、大した罪にはならないと思いますよ。上手くいけば、執行猶予が付くかもしれません。ここで引き返して、やり直しましょう!」
「フン!あなたの言う事なんて、聞きたくないよ!よし!決めた!三島さん、藤森さん、こっちに来て!」
菅山香菜の言葉を聞き、三島彩海と藤森美幸が、虚ろな表情で菅山香菜のところに歩いて行き、菅山香菜の前に立った。菅山香菜が、真っ直ぐな視線で三島彩海と藤森美幸を見ながら、強い口調で言う。
「三島さん!藤森さん!この刃物を、首に当てなさい!」
菅山香菜が、高杉稜介が地面に落とした刃物を拾い上げ、三島彩海に渡し、鞄から刃物を一つ取り出し、藤森美幸に渡すと、すぐに三島彩海も藤森美幸も、刃物を首に当てた。
「は~っはっはっは!どうだ!私の命令で、こいつら、いつでも首を切るぞ!こいつらに首を切らせたくなければ、手を頭の後ろに回して、その場で動くな!」
菅山香菜の言葉を聞き、僕と瀧本愛香が顔を見合わせ、小声で話す。
「愛香、二人の命には代えられない。ここは、菅山香菜の言う通りにしよう」
「うん。分かった。悔しいけど、仕方ないね」
菅山香菜に言われた通り、僕と瀧本愛香が、手を頭の後ろに回し、動きを止めた。他の人も、同様に手を頭の後ろに回し、動かないでいる。その時、菅山香菜が叫んだ。
「今から警察に電話して、もう何でもないから、ここに来るなって言え!」
―彩海と美幸の命が懸かってるとはいえ、香菜の言いなりになるの、めちゃくちゃ悔しいな!何かいい方法があるはずだ!考えろ!う~ん、あ!そうだ!―
「菅山香菜さん、分かりました。スマホを取り出しますので、ちょっと待って下さい」
僕がスマホを取り出し、菅山香菜に気付かれないよう、警察の電話番号を検索するふりをして、メールの画面を出し、メッセージを入力し、チラッと瀧本愛香に見せた。瀧本愛香がメッセージを見ると、驚いた表情になり、僕に向かって、首を横に振ってきたが、僕が口パクで「お願い」と伝えると、瀧本愛香が溜息をついてから頷いた。
次の瞬間、瀧本愛香が、高杉稜介の方を向き、おっぱいとお尻を突き出すセクシーポーズを取りながら、ウィンクし、大きな声で言った。
「高杉さ~ん!お願~い!菅山のところに行って、菅山にキスして~!お願いを聞いてくれたら、ご褒美あげちゃいますよ~!」
瀧本愛香からの突然のお願いに、高杉稜介が驚きと嬉しさが混じった表情になる。
「た、瀧本!お前、この状況で、何を言い出すんだ!本当にそんな事をしていいのか?菅山にキスしたら、本当にご褒美をくれるのか?ご褒美って、何をしてくれるんだ?」
「ウフフ、いいですよ~!菅山にキスしてくれたら、ちゃんとご褒美をあげますよ~!ご褒美が何なのかは、ひ・み・つ~」
瀧本愛香がそう言うと、笑顔でウィンクした。それを見て、高杉稜介が大喜び。
「おぉ~!分かった!瀧本、ちゃんとご褒美くれよ~!」
高杉稜介が、やらしい笑顔を浮かべながら、菅山香菜のところに走って行く。高杉稜介にどんどん近付かれ、菅山香菜が固まりながら言う。
「キャ~!高杉さん、来ないで~!あんたなんか大っ嫌い~!」
―今だ!香菜が高杉先輩に気を取られてる隙に、行くぞ!―
僕が素早く三島彩海の前に行き、唇を三島彩海の唇に重ね合わせた。少しの間、濃厚にディープキス。唇を離し、次は藤森美幸の前に行き、唇を藤森美幸の唇に重ね合わせた。少しの間、濃厚にディープキス。唇を離し、三島彩海と藤森美幸を見ると、二人共、はっとした表情になり、万年筆のインクの匂いの効果が消えた。
「あ、あれ?私、一体何してるんだろ。え!刃物を持ってる!キャ~!なんで?」
「え!私、どうしちゃったんだろ。うわっ!刃物だ!ギャ~!怖~い!」
三島彩海も藤森美幸も、すぐに刃物を地面に投げ捨て、僕と瀧本愛香のところに来た。僕が優位に立った表情で、菅山香菜に大きな声で言う。
「菅山香菜さん!もう終わりですよ!あなたにもう打つ手は無いですよ!今度こそ、諦めて、罪を償って下さい!あなたなら、絶対にやり直せますよ!」
僕の言葉を聞き、菅山香菜が、悔しさと怒りに満ちた表情になって言う。
「うわ~!ちっくしょ~!もうどうでもいい!死んでやる~!」
菅山香菜が落ちている刃物を拾い上げ、首に向かって振りかざした。
「香菜~!止めろ~!」
僕が素早く菅山香菜の手首を掴み、グイッと捻ると、菅山香菜の手から刃物が落ち、菅山香菜がその場に座り込み、泣き叫んだ。
「うわ~!もう少しで復讐できるとこだったのに~!悔しい~!」
「香菜、あの四人に対して、物凄い怒りを持って復讐しようとした気持ちは分かるけど、もし復讐できたとしても、後で虚しさが残るだけだよ。部長と次長と野田先輩は、これから警察に逮捕されるし、森崎先輩には、デマを流して香菜を苦しめた事を償ってもらう為に、会社でしっかりと説明し、謝罪してもらうよ。香菜は、これから警察に逮捕されるけど、上手くいけば執行猶予が付くと思う。しっかりと反省し、罪を償ってくれ!それと、僕が大切にしてる万年筆を返してもらうよ!」
「分かった。ごめんなさい。万年筆を返すよ。本来の持ち主が持つべきだよね。今度会う時は、新しい私になるよ!絶対立ち直ってみせるよ!」
菅山香菜が僕の万年筆を僕に渡し、僕が万年筆を鞄の中に入れた。
菅山香菜と僕の会話を聞き、瀧本愛香が菅山香菜に言葉を掛ける。
「菅山、同期のあんたが逮捕されるの、胸が痛いけど、罪を償って、また会える日を、心の底から待ってるよ!頑張ってね!」
「瀧本、ごめんなさい。あんたには、いろんな意味で負けたよ。この人と幸せになってね」
「うん。ありがとう。菅山も罪を償って、しっかり頑張れば、必ず幸せになれるよ!」
僕も瀧本愛香も菅山香菜も三島彩海も藤森美幸も、目から涙が零れている。部長と次長と野田圭吾は、精魂尽き果てた表情で茫然としている。森崎悠磨は、申し訳なさそうにしょんぼりとしている。高杉稜介は、困惑した表情で座り込んでいる。
それから、どれ位時間が経っただろうか。何人もの警察官がやって来た。その中には、香本優香もいた。香本優香を含めた警察官が、部長と次長と野田圭吾と菅山香菜を逮捕し、連行して行った。
僕と瀧本愛香と三島彩海と藤森美幸が、ほっとした表情で笑い合っていると、高杉稜介と森崎悠磨がこっちに来た。
「いろいろびっくりしたけど、何とか解決できて、良かったよ。もう君と瀧本との関係は分かったつもりだよ。俺はこのまま帰って、頭の中をスッキリさせて、月曜日から会社で普通に仕事できるようにするよ」
「僕も、いろいろあり過ぎて、頭の中がまだ混乱してますけど、変なデマを流してしまって、菅山さんを傷付けてしまった事、深く反省してます。僕もこれから帰って、しっかり反省して、月曜日、会社でちゃんとデマの事を説明して、謝罪します」
「はい。分かりました。また月曜日、会社で笑顔で会いましょう!」
僕がそう答えると、高杉稜介と森崎悠磨が、帰る為に向こうに歩き去って行った。
高杉稜介と森崎悠磨の姿が見えなくなり、僕と瀧本愛香と三島彩海と藤森美幸が、ウキウキ気分で歩き、ボートを漕いで乗り場に到着し、店の人に誠心誠意謝罪して、再び歩き、駅で電車に乗り、お目当ての温泉旅館に到着。
僕が一番好きな人は瀧本愛香である事を三人の前で言ってから、僕と瀧本愛香が、二人部屋に移動し、二人でじ~っと見つめ合い、唇と唇を熱く重ね合わせ、舌と舌をグリグリと絡め合い、ぎゅ~っと熱く強く抱き締め合い、勢い良くベッドに雪崩れ込み、無我夢中で時間が経つのを忘れて気が狂ったようにひたすら濃密に愛し合いまくった。
天国にいるかのような極上の時間を過ごした後、貸切露天風呂で瀧本愛香と一緒に気持ちいい温泉を堪能し、部屋に戻り、豪華な料理に舌鼓。途中で三島彩海と藤森美幸が部屋に入って来て、四人で楽しくワイワイ盛り上がりながら、料理とお酒を平らげ、三島彩海と藤森美幸が部屋から出た後、再び二人で愛し合いまくり、心地良い気分で眠りについた。
翌朝、まだ眠気が残っている状態で愛し合いまくり、朝食を堪能し、帰路についた。
月曜日、会社に出社すると、一気に人が少なくなっている事もあって、めちゃくちゃ忙しく、大量の仕事に追われ、いろいろな事を考える余裕が無い。そんな忙しい日々がどんどん過ぎ、いよいよイベント当日。不安な気持ちもあったが、瀧本愛香の励ましもあり、元気に楽しく業務をこなし、瀧本愛香もプレゼンを成功させ、イベントは大成功!更に日が経ったある日、僕と瀧本愛香が、しみじみと語り合う。
「愛香、僕が入社してから、ほんとにいろんな事があったけど、僕にとっては、すごく貴重な経験だったよ。愛香と出会えて、愛香が僕の教育係になって、本当に良かったよ!まだまだ、僕は未熟者だけど、これからもビシビシ鍛えてね!愛してるよ!」
「うん!私も、お前と出会えて、お前の教育係になれて、本当に良かったと思ってるぞ!確かに、お前はまだまだ未熟だけど、熱意は新入社員とは思えない位あるよ!これからも私が知ってる事を全て叩き込むぞ!覚悟しろよ!まぁ、そうは言っても、やっぱり、お前の事、愛してるぞ!」
二人でじ~っと見つめ合い、熱く濃厚にディープキス。ぎゅ~っと熱く強く抱き締め合う。唇をそ~っと離し、二人でニッコリ微笑み合った。
それから数年後。僕も一人前とまではいかないが、かなり成長し、瀧本愛香と対等とまではいかないが、名コンビと言われる二人になった。その年に、僕と瀧本愛香が晴れて結婚。結婚式には、三島彩海も藤森美幸も高杉稜介も森崎悠磨も部長も次長も出席してくれて、菅山香菜も、出席してくれた。皆に祝福され、最高の結婚式となった。
翌年、僕と瀧本愛香に男の子の赤ちゃんが産まれ、幸せの絶頂。ただ、瀧本愛香は少し休暇を取った後、すぐに仕事に復帰し、僕よりもバリバリ働いている。
「愛香、休暇明けなんだし、そんなに無理して働かなくていいよ。僕が愛香の分も、仕事を頑張るよ!」
「何言ってんのよ!あなたにばっかり任せてられないわよ!まだまだ、あなたは私の足元にも及ばないわよ!ね~、あ・な・た!」
「お~!愛香の夫として、あ・な・たって言われるの、めっちゃ嬉しいよ!よ~し、愛香に負けないように、頑張るぞ!」
「ウフフ、その意気よ!頑張ってね!あ・な・た!」
少しのろけながら、二人の熱く甘い一日がどんどん進む。かけがえのない幸せを感じながら、これからも二人で生きていく。




