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『のり子の夏祭りロック』

掲載日:2026/07/03

現代版 『証城寺の狸囃子』への最高のリスペクト です


夏休みに入ってすぐ、のり子は祖父の家に遊びに来ていた。

ここは本当に山深い集落だった。最寄りのバス停から車で三十分以上、細い山道をぐねぐねと登った先にある。信号もコンビニもなかった。朝は鶏の鳴き声が聞こえ、夜は虫の合唱と遠くの川の音だけが響く、本物の田舎だった。家と家の間には林や田んぼが広がり、夜になると真っ暗で星が驚くほど綺麗に見えた。

山あいの小さな集落にある祖父の家は、古い木造の一軒家だった。屋根のトタンはところどころ錆びていて、縁側は年季が入った飴色をしていた。庭には祖父が大切に育てている朝顔や、毎年たくさんの実をつける柿の木があった。

朝、祖父はいつものように庭で朝顔に水をやりながら、のり子に声をかけた。

「のり子、そろそろ夏祭りじゃなぁ。今年はエレキでも鳴かせるか……ふっふっふ」

祖父は田舎では珍しい自称ロックンローラーだった。

若い頃、ほんの少しの間だけ都会のライブハウスでバンドをやっていたという伝説の持ち主で、今でも倉庫の奥に大事に古いエレキギターとアンプをしまっていた。たまにのり子が来ると、埃を払ってチューニングを始め、「昔はこの音で女の子たちが黄色い声を上げたんじゃぞ」と自慢げに話すのだった。

のり子は毎回その話が大好きだった。

「おじいちゃん、かっこいいよね!」

「今年はおじいちゃんもステージ出るの?」

祖父は白髪頭を掻きながら笑った。

「まあ、腰が痛いからのり子に任せるわい! お前が頑張って、じいちゃんの代わりに盛り上げてくれ」

そう言って祖父は、のり子の頭を軽く撫でると、山道の先を指差した。

「適当に散歩してこい。迷ったらお寺の和尚さんのところに行けば大丈夫じゃ」


ある暑い午後、のり子はいつものように「お散歩~」と独り言を言いながら、木漏れ日が気持ちよく差し込む山道をのんびり歩いていた。

ところがいつもの分かれ道を一本間違えただけで、周りの景色が知らないものに変わっていった。木々が深くなり、鳥の声も遠のき……気がつくと、苔むした石段の先に、小さなお寺がぽつんと立っていた。

「え……ここ、どこだろう?」

のり子が恐る恐る境内に入ると、大きなお腹をゆさゆさ揺らした和尚さんが、にこにこしながら出てきた。

頭も頰もお腹も真ん丸な和尚さんの後ろには、同じようにぽっちゃりとした小坊主たちが数人、きょとんとした目でこちらを見ていた。

「ようこそ、迷子さん。今日は夏祭りじゃよ。よかったら見ていきなさい」

和尚さんは優しく言った。

「それまでは、小坊主たちと遊んでおるといい」

小坊主の一人が、恥ずかしそうに近づいてきた。

「一緒に……かくれんぼする?」

別の子が「僕、鬼やる!」と元気に手を挙げた。

のり子は最初少し緊張していたが、すぐに笑顔になった。

「うん! やるやる!」

境内はちょうど良い広さで、木陰や石仏の後ろが絶好の隠れ場所だった。

のり子が石灯籠の陰に隠れていると、小坊主たちが「見つけたー!」と笑いながら追いかけてきた。

のり子も「見つからないもん!」と走り回り、みんなで何度も大笑いした。

かくれんぼの後は、和尚さんが持ってきた古いボールでドッジボールをした。

真ん丸のお腹を揺らしながら和尚さんも時々参加し、みんなで汗だくになって遊んだ。

最初は知らない者同士だったのに、遊びを通じてすっかり仲良くなっていた。

「のり子ちゃん、速いね!」

「タヌキ丸、意外と運動できるじゃん!」

遊び疲れてみんながへたり込んだ頃、和尚さんが笑顔で言った。

「よし、みんなお腹が空いたじゃろう。今日は特別じゃ」

和尚さんは境内のお堂から大きなお皿を取り出し、そこにおはぎを山盛りに盛ってくれた。

つやつやのあんこがてらてら光り、白いご飯がふっくらと盛られていた。

「わあっ! やったー!」

小坊主たちが大喜びで手を伸ばした。のり子も「お、お邪魔します……」と一つ手に取り、ぱくっと一口食べた。

甘くて柔らかくて、口の中でとろけるような美味しさだった……。

すると——隣にいたタヌキ丸が、特に幸せそうな顔で次々とおはぎを頰張っていた瞬間、

ぴょこん! と頭にふわふわのタヌキ耳が飛び出し、ふさふさの尻尾が後ろでゆらゆら出てきた。

「あっ……!」

のり子がびっくりして目を見開いた。

他の小坊主たちが笑いながら言った。

「またやっちゃったよ、タヌキ丸!」

「美味しすぎて化けが解けるんだもんねー」

和尚さんは大きなお腹を揺らして大笑いした。

「はっはっは、今年もおはぎの力じゃのう。のり子、驚かせてすまなかったのう」

のり子は最初驚いたが、すぐに一緒に笑い出した。

タヌキ耳をぴくぴくさせながら照れるタヌキ丸の姿がなんだか可愛くて、みんなでさらに仲良くなった。

おはぎを頰張りながら、笑い声が境内に響いていた。


夕方、提灯の明かりが揺れる森の広場で、夏祭りのコンサートが始まった。

山の動物たちが次々と人間に化けて登場した。

キツネのおねえさんは艶やかな赤いドレスを着て、甘くしっとりしたジャズを歌い上げ、観客をうっとりさせた。

ウサギの男の子たちはキャップを被ったラッパー姿で高速ラップを披露し、会場を一気に熱くした。

タヌキのおじさんは着物姿で民謡を熱唱し、鳥のコーラスグループは美しいハーモニーを夜空に響かせ、鹿のグループは軽やかなダンスで観客を魅了した。

そして、のり子が一番待ち望んでいた瞬間がやってきた。

狼と熊を中心としたロックバンドがステージに登場した!

狼のギタリストがギターを掻き鳴らすと、火花のような高速ソロが炸裂した。

指が弦の上を稲妻のように駆け巡り、鋭い音が森全体に響き渡った。

熊のドラマーは巨大な体を揺らしながらドラムを叩き、「ドドドドドーン!!」という重低音が地面を震わせ、会場中の観客が自然と足を踏み鳴らした。

「うわあああっ!!」

「最高だー!!」

動物たちが拳を突き上げ、興奮の渦が広がっていく中、のり子は我慢できなくなった。

祖父のエレキギターの音を思い出しながら、思わず立ち上がって叫んだ。

「イエーイ! 最高だぜ、ベイベー!!」

その声があまりに大きく、熱かったため、会場中の視線が一気にのり子に集まった。

司会のキツネのおねえさんがにやりと笑ってマイクを差し出した。

「ほう、君もロックが好きか! じゃあ、ちょっと来てみない?」

「えっ……!?」

一瞬迷ったのり子だったが、狼のギタリストが挑発するようにもう一度ソロを弾いた瞬間、

破れかぶれでステージに飛び上がった。

マイクを握ったのり子は、髪を激しく振り乱してヘッドバンギングを開始した。

足を大きく踏み鳴らし、体をくねらせてジャンプしながら、TVで見たロックシンガーを全力で真似した。

「うおおおおっ!!

今夜はみんなでぶっ飛ばすぞー!!」

声が少し掠れても構わず、思いっきり叫び続けた。

狼のギタリストがのり子の歌に合わせてさらに熱いソロを重ね、熊のドラムが「ドドドーン!」と背中を押してくれた。

会場は完全に沸騰し、動物たちが総立ちで拳を突き上げ、飛び跳ね、大合唱になった。

「人間の女の子なのにすげえ!!」

「かわいいー!!」

「もっと歌えー!!」


のり子が汗だくでサビを歌いきったその瞬間——

提灯の明かりの中から、一人の老人がゆっくりと歩いてきた。

「おじいちゃん……!?」

会場がどよめいた。

誰かが叫んだ。

「伝説が来たー!!」

「おおおっ! あのロックじいさんだ!!」

祖父は不敵な笑みを浮かべ、古いエレキギターを肩に担いだまま、悠々とステージに上がった。

白髪頭に少し腰は曲がっていたが、その目は若者のように輝いていた。

観客の動物たちは全員が祖父に注目し、興奮の渦がさらに大きくなった。

祖父はのり子にウィンクすると、ギターを構えて言った。

「のり子、なかなかやるじゃないか。

よし、じいちゃんと一緒に一曲、いくぞ!」

夏の夜空の下、提灯の灯りと、祖父と孫娘のロックが、森全体を熱く揺らしたのだった。

いつまでも、いつまでも、エレキの響きと、観衆の声援は鳴りやまなかった……。


そして、気がつくと、のり子は祖父の家の囲炉裏のそばで眠っていた。

目をこすりながら薄く開けると、そこには祖父が古いエレキギターを抱えて立っていた。

ジャーーーン! ジャジャジャジャーン!!

下手くそなエレキの音が、囲炉裏の火のはぜる音と一緒に響いていた。

のり子は眠そうに言った。

「……おじいちゃん、うるさいよぉ……」

そう言って、のり子はもう一度目を閉じた。

祖父は「すみません」と、ぼそっと言った。

夏休みの夜は、まだ始まったばかりだった。



おしまい

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