あかとんぼ
掲載日:2026/06/06
ふいに訪れる待ち時間。
こんなときを楽しめる人になりたいと常々思っている。
鮮やかに重なる暖色の雲たち、大人を照らす大きな丸が今日も疲れて沈んでいく。
そんな赤色に混じって一匹の訪問者が話しかけてくる。
「こんなところに人間が一人とは珍しい。見捨てられたのか?」
なんとも失礼なトンボだが、その挑発に対抗する言葉を持ち合わせてはいない。何もしないのも癪なので代わりに指を伸ばしてみる。
「ふん、その手には乗らないぞ」
ふいっと私の指をかわし、かぶっていたお気に入りの赤い帽子にそいつは止まった。
「おお、なかなかいい帽子だな。特にオレと同じ色なのがいい」
図々しいな。効果はないかもしれないが一応、不満の声を発してみる。
「なんだ?文章がないのか。分かった!お前、赤ん坊ってやつだろ」
バカにされているんだろうが、これは事実だ。
「赤ん坊なんて贅沢だ。お前はこの赤い帽子を取って〝んぼ〟だな」
まったく。こんなふざけた奴がトンボなわけがない。赤トンボからトンボを取って〝あか〟だ。それで十分だろう。
と名前を決定したところでお迎えがきた。
「大人を連れてきたか。卑怯な奴め」
そんな捨て台詞とともに〝あか〟は飛んでいった。
逃げていく背中を見つめながら、意外にも奴との会話を楽しめたことに気がつけた。




