手が好き
掲載日:2026/04/18
エリカとアルの学校は、席が決まっていない。
早い者勝ちで好きな席に座る方式だ。
二人は、いつも真ん中より少し前に座る。
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「あっ」
エリカは思わず声を上げた。
「どうしたの?」
「教科書、忘れちゃった」
「見せてあげるよ」
アルは机を寄せて、二人の真ん中に教科書を置いた。
「ありがとう」
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距離が、いつもより近い。
それだけで、少しドキドキする。
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アルは気にした様子もなく、ノートに目を落とす。
授業が始まる前に、復習をしているのだろう。
邪魔をしたくなくて、エリカは黙っていた。
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ふと、アルの手に目がいく。
自分より少し大きくて、指はしっかりしている。
手のひらには、剣の稽古でできたタコ。
自分とは違う手。
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「なに?」
アルが視線に気づいた。
エリカは、少しだけ迷ってから言った。
「私、アルの手……好き
いっぱい頑張ってる手だから」
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アルは一瞬、言葉を失って――
それから、少しだけ照れたように笑った。
「……ありがとう」
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ちょうどそのとき、講師が教室に入ってきた。
ベルが鳴る。
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エリカは、もう一度だけアルの手を見た。
少し、幸せになった。
そして、自分のノートに目を落とした。
連載中の「乙女ゲームのバッドエンド絵師、ゲーム世界に転生する 〜バッドエンドしかない世界で、運命を捨てる〜」を読みにきてください。
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