クマのぬいぐるみが喋ってる!? ……クマったな?
青夜と五道哲真はしばらく睨み合った後、哲真が小さく笑った。
「その強がりが、いつまで続くのか……楽しみだよ」
そう呟くと、彼は青夜に背を向け、
「優しいきみが、桜子を“傷もの”にしないことを祈るよ」
と言い残して部屋を出て行った。
「傷ものって! 人をケダモノみたいに……」
そう呟いた、その時だった。
「“傷もの”というのはな、婚約破棄された令嬢を指す言葉じゃ。このたわけ!」
突然、そんな声が響いた。
「え? どこから声が……?」
青夜はきょろきょろと辺りを見回したが、人の気配はない。
(まさか……どこかにタマが隠れているのか!?)
そう思い、辺りを探してみるが、やはり気配はまったくなかった。
「え……まさか、オバケ?」
ぽつりと呟いた、その瞬間──
「誰がオバケじゃ、このたわけが!」
次の瞬間、部屋に置かれていたクマのぬいぐるみが、勢いよくキックしてきた。
(なんか俺、今日はタマとクマのぬいぐるみに蹴られまくってない?)
そんなことを考えていると、
「まったく……哲真め! 勝手なことをしおって、けしからん!」
クマのぬいぐるみが、腕〈らしきもの〉を振り回しながら怒っている。
「あの……」
戸惑う青夜を見上げて、クマのぬいぐるみは言った。
「初めて会うな、青夜。我は五道家の総帥を務めておる、五道薫じゃ」
「え!? クマのぬいぐるみが総帥!?」
思わず叫ぶと、
「馬鹿者! この身体は念話をするための借り物じゃ!」
そう怒鳴られ、再びクマのぬいぐるみに顔を蹴られた。
(五道家の関係者は、手……いや、足が早いんだな)
「念話?」
「そうじゃ。我の本体は、本邸にあるのでな」
「本邸? ここじゃないの?」
驚いて尋ねると、
「確かにここは五道家の本家じゃ。だが我は、五道家と神代家、そして五道家と敵対する六道家――そのすべてを統べる“総本家”の邸宅におるのじゃ」
そう言われ、青夜は思わず息を呑んだ。
「えぇっ!?」
「神代家にはな、五道家や六道家の本家の人間であろうと、決して手を出してはならぬという掟がある。無論、本人同士の意思であれば、婚約でも何でも構わん。じゃが──今回の哲真の行いは、明確な掟違反じゃ!」
クマのぬいぐるみは、ぷんすかと怒っている。
……もっとも、可愛いクマのぬいぐるみが怒っているので、どこか微笑ましくもあるのだが。
そんなことを考えていると、
「近々、そちらへ向かう。それまで辛抱するがよい。では、またな。小林青夜」
そう言い残し、宙に浮いていたクマのぬいぐるみは、ぽとりと床に落ちた。
青夜はそれを拾い上げ、元あったであろう場所へと静かに戻した。
──この時の青夜は、念話で話した相手が、実はとんでもなく偉い人物だったということを、後になって知ることになる。
おはようございます。
2日ほど更新が空いてしまい、すみません。
年末年始は少し慌ただしく、更新が不定期になるかもしれませんが、
なるべくお待たせしないよう、できる範囲で更新していきます。
ゆったりペースになりますが、引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。




