手折られなかった花~青夜の回想③~
そんなマキちゃんに、
「マキちゃん、失礼でしょう!」
と俺が怒ると、彼女はくすくすと笑った。
「青ちゃんの周りって、いつも本当に賑やかだね」
その笑顔は、高校時代のままだった。
「元気だった?」
そう切り出すと、彼女は「うん」、と頷いてから、
「元気、元気。今ね、旦那が海外転勤を機に別居してるんだけど……それで逆に、すごく元気」
と笑った。
「え?」
思わず聞き返すと、
「フィリピンの工場の所長になったの。最初は一緒に行ったんだけど、上の子を日本の小学校に通わせたいって理由つけて、帰ってきちゃった」
そう言って、少し肩をすくめる。
「離婚はね、子供二人が大学を出て、ちゃんと独り立ちするまではしないつもり。でも、その後は離婚するつもりよ。今は養育費をもらうために、離婚しないだけ」
意志の強さを宿した瞳で、はっきりと言い切った。
「……ごめんね。青ちゃんが止めてくれたのに、言うこと聞かなかった」
そう呟いたあと、急に思い出したように言った。
「あ、そうだ! 急に連絡取れなくなるし、手紙出しても戻ってくるから、すごく心配してたんだよ! 私……何かした? 言うこと聞かなかったから、嫌いになった?」
不安そうな表情に、胸がちくりとする。
「あ……ごめん。住んでたアパートが水浸しになってさ。その時スマホも壊れて。しかも、アパート自体が取り壊しになって……」
そう説明すると、彼女は信じられないという顔をした。
すると、横からマキちゃんが口元に手を当て、
「信じられないわよね~。でも本当なのよ。公園で荷物抱えて呆然としてた青ちゃんを、空也きゅんが拾ってきたの」
そう言って「ぷぷっ」と笑うと
「拾うって、俺は犬か猫か!」
「事実は事実でしょ?」
マキちゃんは悪びれもせず肩をすくめた。
キャンキャン言い合う俺たちを見て、彼女はふっと微笑んだ。
「青ちゃんにも、帰る場所ができたんだね」
その言葉が、胸にすっと染みた。
「青ちゃん、女性の見る目がないから心配だったのよ」
ため息混じりに言われて、
「ちょっとアンタ! そこ詳しく!」
どこから取り出したのか、マキちゃんがメモとペンを構えて詰め寄る。
「メモ取らなくていいから!」
慌てて止めると、空也まで興味津々で近づいてくる。
「空也まで食いつくな!」
二人を必死に押しとどめていると、彼女が柔らかく言った。
「……でも、安心した。今は、幸せなんだね」
「そっちはどうなんだよ」
そう聞くと、彼女は迷いのない笑顔で答えた。
「結婚相手は失敗したけど……あの子たちに出会うためだったと思えば、成功だったって胸を張って言えるよ」
「……そっか」
「うん!」
微笑み合っていると、
「ちょっといいかしら?」
マキちゃんが割り込んできた。
「いい雰囲気のところ悪いんだけど……本当に友達だったの?」
180センチ超えの、コテコテメイクのオネエに詰め寄られ、彼女は一瞬たじろいだが、すぐに笑った。
「はい。青ちゃんが私に恋愛感情持ってくれてたら、私も男運悪くなかったし、青ちゃんも女運悪くなかったと思いますよ」
さらっと言い切った。
マキちゃんが俺を見て、
「……アンタ、罪な男ね」
と呟くと、空也まで「うんうん」と頷く。
「はぁ? 何でだよ!」
と抗議をすると、マキちゃんと空也が彼女の肩にそっと手を置いた。
「大丈夫。あんたの未来は明るいわ」
「ドンマイ」
そう言って、良い感じで終わると思ったのに……。
「で、青ちゃんが女の趣味悪いって話だけど……」
と、話をぶり返し始めた。
「もう終わり! ほら、帰るぞ! 姫華ちゃん待ってるから!」
二人の背中を押して立ち去ろうとすると、マキちゃんがポケットからショップカードを取り出した。
「私たち、ここにいるから。もちろん、青ちゃんも。いつでも子供連れていらっしゃい」
不安そうに俺を見る彼女に、
「いつでも来いよ。マキちゃんの飯、めちゃくちゃ美味いから」
そう笑うと、彼女はショップカードを胸に抱きしめて、
「うん! 絶対行くね!」
と、明るく笑った。
俺はその時、彼女のしなやかな強さを知った。
風に凪ぎ、時には嵐に揺らされながらも、決して折れない──
若竹のような強さ。
俺も、そう在りたいと心から思ったんだ。




