手折られなかった花~青夜の回想②~
そんな結婚式の帰り、クロークで荷物を受け取っていると、新郎側の招待客らしき男性が、
「あ~あ! 変わらず嫌な奴だった!」
そう吐き捨てるように言いながら帰っていく姿を見かけた。
普通、挙式の場でそんな言葉は口にしない。
しかも、見たところ非常識そうな人たちには見えなかった。
(……大丈夫だろうか)
胸に小さな不安を残したまま、俺は胸糞の悪い結婚式場を後にした。
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それから彼女とは、年賀状をやり取りする程度の関係になった。
挙式から数か月後に長女を出産したこと、
さらに二年後、男の子が生まれたことを知らせる連絡が届いた。
その頃の俺は、ブラック企業で心身ともに限界で、
お祝いを贈るのが精一杯だった。
日々の生活に追われ、彼女のことも次第に記憶の隅へと追いやられていった。
そんなある日。
アパートの水浸し事件をきっかけに幸福屋へ転居し、慌ただしい毎日を送っていた俺は、思いがけず彼女と再会することになる。
「……青ちゃん?」
マキちゃんたちと買い物をしている時、背後から声をかけられた。
振り向くと、ママチャリの前と後ろに子供を乗せた彼女が立っていた。
「ちょっと待ってて! この子たち、保育園に預けてくるから!」
そう言い残し、彼女はものすごい勢いで走り去っていった。
その背中をぼんやり見送っていると、
「……誰だ?」
一緒にいた空也が、目を据わらせて聞いてきた。
すると横からマキちゃんが身を乗り出し、
「え? 元カノ? 元カノなの?」
と、目を輝かせてくる。
「違うよ。高校時代の同級生」
半ば苦笑いで答えながら、俺は、彼女が昔と変わらない笑顔で子供たちを保育園に預ける姿を眺めていた。
結婚式の時に感じた不安は、今のところ見受けられない。
うまく旦那と折り合いをつけているのだろうか──そんなことを考えていると、
「あの時の子が、こんなに大きくなるなんて……俺もしっかりしないとな」
マキちゃんが、勝手にナレーションを始めた。
「何なに? 青ちゃんの隠し子?」
さらに目を輝かせて、顔をぐっと近づけてくる。
「お前……」
空也は冷たい視線を俺に向けた。
「んなわけあるか! 彼女は既婚者だし、その旦那さんとの子供だよ!」
そう叫んでも、二人の目は疑わしそうなままだ。
「どうかしら?」
「その顔で、意外と手が早かったんだな」
冷めた目を向けられ、
「どんな顔だよ! 俺は節度ある付き合いしかしてないし、彼女にしか手は出してません!」
必死に否定する俺に、なおも疑いの視線。
そこへ、
「ごめんね、青ちゃん。あ、お友達の方ですか?」
ふわりと人懐っこい笑顔で、彼女が戻ってきた。
「あら、いい子そうじゃない。……それなのに、ヤリ捨てなんて最低」
マキちゃんの小声に、
「だから違うって言ってるだろ!」
俺が叫ぶと、彼女がくすっと笑いながら言った。
「大丈夫ですよ。私、結婚していて、青ちゃんとは高校時代からの友達なんです」
そう説明すると、
「……なーんだ。本当に友達だったのね。ざんねん」
興味を失った顔で、マキちゃんはそっぽを向いた。




