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本日も晴天なり  作者: 古紫 汐桜
第三章 五道家
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手折られなかった花~青夜の回想①~

そんな彼女が、ぽつりと呟いた。


「私さ……アイドル、辞めるんだ」


「十代後半じゃ……遅いんだって……」


そう言って笑った彼女の笑顔は、どこか無理をしているようで、胸が痛んだ。


「それでね……結婚するんだ」


続けて彼女は、淡々と語り出す。


「メンバーの紹介でね。

 お父さんが国家公務員で、彼は化粧品メーカーで化粧品を開発してる人なの。

 なんか、『俺に見合う女は、可愛くて家庭的な子だ』って言ってたらしくて……

 それで、私に白羽の矢が立ったんだって」


その言い方が、あまりにも他人事のようで、俺は思わず聞き返した。


「……本当に、そんな男でいいのか?」


すると彼女は、少し困ったように笑って言った。


「だって、青ちゃんは……私を彼女にしてくれないでしょう?」


思いもよらない言葉に、俺は言葉を失った。

彼女を“女の子”として見たことがなかった、その事実を突きつけられた気がした。


「分かってるから、大丈夫だよ」


そう前置きしてから、彼女は続ける。


「同棲も始めたんだけどね……大変だよ。

 彼、潔癖症でさ。仕事で疲れてシャワー浴びずにベッドに横になったら

 『汚い』って言って、シーツごと私をベッドから落とすの」


淡々とした口調が、逆に怖かった。


「私、痩せたでしょう?

 『化粧品メーカー勤務の俺の隣に並ぶには、ブスとデブは困る』って言われて……

 あんまり、ご飯も食べさせてくれないんだ」


その瞬間、俺は理解した。

彼女の魅力が、なぜこんなにも削ぎ落とされてしまったのか。


彼女は、決して太ってなどいなかった。

丸い輪郭のせいで、少しふっくら見えるだけの女の子だった。


それなのに、頬はこけ、顔色は青白い。

彼女の魅力だった、ほんのり桜色の頬は、もうどこにもなかった。


「なぁ……本当に、そいつと結婚するのか?

 俺は……良い相手だとは思えない」


そう呟くと、彼女は一瞬目を丸くし、それから微笑んだ。


「私をイメージした、世界に一つだけのリップを作ってくれたりもするんだよ?

 優しい人なんだって」


その笑顔に、当時の俺は――

「……そうなんだ」としか言えなかった。



その日、結婚式に招待したいと言われ、連絡先を交換して別れた。


後日、同じ高校だった仲間たちと一緒に、彼女の結婚式に参列した。


やせ細った身体で、重そうなウエディングドレスを身にまとい、歩く彼女。

新郎の男は、見るからにインテリぶった鼻持ちならない男だった。


チャペルで祭壇へ向かう途中、

ドレスの重さに彼女がよろけた、その時――


男は、片手で彼女の手を掴み、

引き寄せるでもなく、支えるでもなく、ただ引っ張った。


彼女は苦笑いを浮かべ、「ごめんね」と唇を動かした。

だが、彼女を見下ろす男の目は、驚くほど冷たかった。


(……ああ。嫌な予感が、当たってしまった)


俺はそう思いながら、祭壇の上の彼女を見つめていた。


結婚式は、正直言って胸糞の悪いものだった。

男は芸能関係者と会社関係者にだけ愛想よく頭を下げ、

俺たちには、挨拶一つなく見下した視線を向けるだけだった。


それでも――

後から、彼女の腹に新しい命が宿っていると聞いた。


だからこそ、願った。

どうか、幸せになってくれ、と。


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