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本日も晴天なり  作者: 古紫 汐桜
第三章 五道家
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手折られない花

「フフフッ」


 睨み合っていると、突然、五道哲真が笑い出した。


「いや、すまない。最近、私にそんなふうに噛みついてくる人間がいなくてね。威勢のいい人間は、嫌いじゃない」


 そう言って青夜の顎を掴み、無理やり顔を上げさせる。


「力の差を思い知って、手折れていく様を見るのがたまらなく好きなんですよ。……まあ、きみの母親は、手折れる前に逃げ出してしまったがね。さあ、青夜君。きみはどうかな?」


 心の底から楽しそうに囁かれ、青夜はその手を勢いよく払いのけた。


「母さんは、父さんの穏やかな性格が好きだって言ってた。……分かる気がするよ。あんたみたいな、支配的な人間の傍にいたら、そう思うよな!」


 思わず叫んだ。


「ほう……」


 目を細めて見つめてくる五道哲真に、青夜は一歩も引かず言い放つ。


「人の心は、あんたが思うほど脆くない。確かに繊細だけど……強さだってある!

 手折られない花もあるってこと、思い知らせてやる!」


 気付けば、完全に啖呵を切っていた。



 青夜は都会に出て初めて知った。


 田舎にはいない人種がいることを。


 権力や家柄を盾に、人を見下し、支配しようとする人間。

 青夜は、そういう人種を心の底から軽蔑していた。


 人として本当に尊敬される人間は、支配などしなくても人は自然とついてくる。

 むしろ、ああいう輩には本当の友人はできない——青夜はそれを知っていた。


 青夜には、高校時代に親しくしていた女友達がいる。


 島には高校がなかったため、青夜は島から通える大きな街の高校に進学していた。

 そこで出会った彼女とは、恋愛感情のない、気の置けない友人関係だった。


 愛らしい容姿に加え、純粋無垢な性格。

 だが、その愛らしさが仇となり、彼女は女子からいじめを受けていた。


 それでも彼女は折れなかった。


「青ちゃん、私、アイドルになって、あいつらを見返してやる!」


 そう笑っていた。


 ただ——致命的に、男を見る目がなかった。


 見た目だけの軽薄な男と付き合っては捨てられる。

 しかも、そういう男ほど女子に人気があり、そのことが彼女への妬みをさらに強める。

 悪循環だった。


 高校卒業と同時に、彼女は都会へ出ていった。


 青夜も大学進学で上京したため、

 ——もしかしたら、どこかで会うかもしれない。

 そんなことを考えたこともあった。


 彼女は、いわゆる地下アイドルになっていた。


 だが、それだけで生活できるほど甘くはない。

 アルバイトとアイドル活動の両立。

 さらに、アイドルの低年齢化が進む中、十八歳を過ぎた彼女の活動は、次第に行き詰まっていったようだった。


「……青ちゃん?」


 大学二年の夏。

 偶然、彼女と再会した。


 笑顔は変わらなかった。

 けれど——かつて彼女が持っていた、あの純真無垢さは、確かに失われているように見えた。


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