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本日も晴天なり  作者: 古紫 汐桜
第三章 五道家
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神代家と五道哲真

「母さんが、神代家?

 そんな話、聞いたことないよ。

 しかも、空也の父親の雪夜さんと兄妹なら、

 母さんは神代じゃなくて、五道じゃないのか?」


 思わずそう反論した青夜に、

 五道哲真は余裕のある笑みを浮かべた。


「神代家というのはね、

 五道家から逃げ出した“陽の気質”を持つ者に、

 隠れ蓑として与えられた苗字なんだよ。


 確か、青夜君の出身は南方の小さな島だったね?

 あそここそが、神代家の島なんだ」


 そう言われ、思わず首を傾げる。


 あの島に、“神代”を名乗る家など無かった。

 あったとしても、せいぜい数軒程度だ。

 それなのに──神代家の島、だなんて。


 青夜の疑念を察したのか、

 五道哲真は小さく笑って続けた。


「あの島の住民はね、

 本来の姓はすべて“神代”なんだよ。


 ただ、結婚などで姓を変える者が増え、

 今では神代の名を使うのはごく一部になった。

 例えば……そうだな。

 君の母親のように、五道家本家から逃げ出した者だけだ」


 淡々と語られるその言葉に、胸の奥が冷える。


「雪は、私の婚約者だった。

 だが彼女は、私と結婚するのは嫌だと言って、

 五道家から逃げ出したんだよ」


 まるで昔話をするかのような口調。

 その落ち着きが、かえって恐ろしい。


「お嬢様気質の雪のことだ。

 どうせ、すぐに戻ってくるだろうと高を括っていてね。

 だが……結局、あの島に逃げられてしまった」


「……そんなに言うなら、

 居場所は分かってたんだろ?

 なんで、連れ戻さなかったんだよ」


 そう問いかけると、

 五道哲真は少しだけ目を細めた。


「あの島はね……

 “選ばれた人間”しか入れない島なんだよ」


 にわかには信じ難い言葉だった。


「え?

 俺は何の障害もなく、普通に行き来してるけど?」


 そう言うと、五道哲真は小さく笑った。


「君は、あの島で生まれ育った。

 だからだよ。

 恐らく……桜子や空也は、近付くことすら出来ないだろう」


 そして、付け加える。


「もっとも、君が連れて行くなら別だがね」


 その言葉に、青夜は息を詰める。


「あの島に入れるのは、

 陽の気質を持つ者か、

 まったく何も感じない一般人だけだ。


 我々のような“陰”の気質の者は、

 結界に弾かれてしまう」


 楽しげにも見える微笑みを浮かべながら、

 五道哲真はそう言った。


「本当に……厄介な連中だ」


 その言葉と共に浮かべた表情に、

 青夜の背筋がぞっとする。


 感情がない。

 それでいて、鋭利で、

 まるで研ぎ澄まされた氷の刃のようだった。


「……それで?

 その島出身の俺を、半ば強引に監禁ってわけですか」


 真っ直ぐ見据えてそう言うと、

 五道哲真は肩をすくめ、苦笑した。


「すべては君のためだよ。

 どうか、逆恨みしないでほしいな」


 その言葉に、青夜は悟る。


(この人は……自分が間違っているとは、

 一度も思わない人なんだ)


 信念を持つこと自体は、悪くない。

 だが──

 こうして周囲を巻き込み、

 平然と踏み越えてくる人間は……怖い。


 青夜は、静かに五道哲真を見つめていた。

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