守りたい場所と、守れなかった友情
「では、こちらのお部屋になります」
着物姿の、落ち着いた雰囲気の女性に案内されたのは──
驚くほど立派な洋間だった。
日本建築の家だから全室和室だと思い込んでいたのに、
ここだけはまるで別世界のようだ。
広いベッド、重厚な机、壁一面のクローゼット。
そして天井には、なぜかシャンデリア。
「……すげぇ」
思わず呟きながらベッドに腰を下ろし、深く溜め息を吐いた。
空也の背中を思い出すたび、胸の奥がずきりと痛む。
でも──
あの場所を守るためには“これでよかった” と、何度も自分に言い聞かせる。
……それでも。
あのとき空也の背中から伝わってきた
悲しさ、悔しさ、寂しさ
あれを俺が与えてしまったのだと思うと、胃の奥がひっくり返りそうになる。
握り締めた拳を額に押し当て、もう一度、自分に言い聞かせた。
(……間違ってない。間違ってない、はずだ)
⸻
「青夜ってさ、なんでも一人で決めちゃうよね」
いつの記憶だろう。
赤いマニュキュアを塗りながら、彼女はそう言っていた。
結婚を考えていた相手だった。
だけど結局、俺の“独りよがり”が原因で破局した。
最後に言われた言葉は、今も胸に張り付いている。
『何でも一人で決めて、何でも一人でやれるなら……
私なんていらないよね?』
素朴で可愛い子だったのに、別れる頃には真っ赤な口紅に真っ赤な爪。
まるで怒りそのままを纏ったみたいな女性になっていた。
「……また、独り善がりだったのかな」
小さく呟くと、こみ上げるものを必死で飲み込んだ。
強引で、我儘で、俺の意思なんてお構いなしで……
でも、離れてしまうと、胸の奥が妙に冷たくなる。
(……なんで、こんなに寂しいんだよ)
──“青夜”
ふいに、空也が俺を呼ぶ声が甦る。
自分勝手で傍若無人で、良いところなんて容姿くらいしかないような奴で……
だけど唯一、俺にこう言ってくれた男だった。
『青夜、俺と一緒に戦ってくれ』
『お前を捨てたりしない。俺はずっとお前のそばにいる。
だって、俺たちは“相棒”だろ?』
空也の言葉は、いつだって本音なんだと信じられた。
だからあの店が奪われることだけは、どうしても嫌だった。
マキちゃんも、姫華ちゃんも、あそこが“帰る場所”だから。
……だけど、本当にこれでよかったんだろうか。
胸の奥で、答えの出ない問いが揺れたその時──
『なんだ……お主も落ち込んでおるのか』
聞き慣れた声がして窓を見ると、
タマが窓の外からこちらを覗いているではないか。
「タ、タマ!」
慌てて窓を開けて呼ぶと──
『“さん”付けをしろ、この馬鹿者が!』
パシィッ!
顔面に鋭いキックが飛んできた。
(肉球なのに……痛ぇ……!!)




