五道本家へ──出会ってしまった、空也たちの“母”
幸福屋から車で走ること一時間。
たどり着いたのは、都内の一等地に建つ、立派な平屋造りの日本家屋だった。
車を降りた瞬間、思わず口が開く。
(……旅館かよ、ここ)
広い敷地。手入れの行き届いた庭。
ただ者ではない雰囲気が漂っている。
「──あ、ごめん。ちょっと良いかな?」
五道哲真がそう言うと、俺の頭の上・肩・腰・足元に指を鳴らす。
「よし、これで空也の張った結界が消えた。……さぁ、入りたまえ」
そう言って、旅館のような大きな玄関を開いた。
パタパタと軽い足音が奥から響き、ひとりの綺麗な女性が姿を見せた。
「哲真さん、おかえりなさい」
「あぁ、ただいま。陽菜」
女性は五道哲真の上着を丁寧に脱がせ、そのまま腕に抱える。
その仕草も声も、驚くほど柔らかい。
俺は思わず顔を見つめた。
色白で細身。線の細い、儚げなほど綺麗な女性。
とても三人の子供を産んだ母親には見えない。
というより、芸能人より綺麗じゃないか。
(……さすが、あの空也と姫華ちゃんの母親)
ガン見してしまった俺に気付いたのか、彼女は微笑み、
「あら? お客様?」
問いかけると、哲真を見上げる。
「あぁ。例の──桜子が失恋した相手だ」
「まぁ、あの噂の?」
陽菜さんは驚いたように俺を見つめ、
「まぁまぁ、本当に可愛らしいお方ですわね」
と、手を口元に添えて微笑んだ。
「初めまして。私は桜子の母、陽菜と申します」
上品で、柔らかくて──
空也と姫華ちゃんが「これでいいんだ」と言っていた理由が、なんとなく分かった。
記憶がどうであれ、この女性は“今”哲真を心から愛している。
見つめ合う目も、並んで立つ姿も、仲睦まじい夫婦そのものだ。
(……この姿、あの二人はどんな気持ちで見てきたんだろう)
胸が少し痛む。
その時、奥から少年が現れた。
どことなく空也に似た、好青年といった雰囲気の少年だ。
「父様、おかえりなさいませ。……朝からお客様ですか?」
学生服姿。ちょうど通学前らしい。
「あぁ。彼は小林青夜君だ。お前の兄になるかもしれない人だよ」
「えぇ!?」
思わず叫んでしまった俺とは対照的に、少年は柔らかく微笑んだ。
「やはりそうでしたか。桜子姉様の好みの方だと思っておりました。それに──とても素晴らしい“陽の気質”をお持ちですね」
さらりと言い、軽く会釈した。
「小林様。桜子姉様をよろしくお願いいたします。
それでは、僕は学校がありますので……またお会いできたら嬉しいです」
にっこり笑った顔は、どこか姫華ちゃんにも似ている。
(……彼が龍真か)
そんなことを思いながら少年を見送ると、
「青夜君、こっちだよ」
と、哲真が再び歩き出した。




