五道家当主、来襲。
「ちょっと兄貴! 来るなら連絡しなさいよ!」
顔を見るなり叫んだマキちゃんに、五道哲真は眉間に深い皺を刻んだ。
「……真樹。なんだ、その格好は」
低く響く声とともに、哲真は靴を脱ぎ捨てるようにして店内へ入ってくる。
咄嗟に空也が俺の前へ立ちふさがった。
その瞬間、哲真の眉間の皺がさらに深くなり──
背筋が凍りつくほどの圧が走った。
「アタシが家でどんな格好してようが、兄貴には関係ないでしょう!」
マキちゃんは叫ぶが、哲真は完全に無視。
視線はただ、まっすぐ俺へと向けられている。
空也の肩に手を置き、低く命じた。
「退け」
バンッ!!
何が起きたのか分からないほど一瞬で、空也の身体は弾かれたように吹っ飛び、壁へ叩きつけられた。
俺は言葉を失ったまま硬直する。
哲真は俺の前に立ち、冷たく呟いた。
「なんだ、空也。随分とガードしているな。……これでは桜子が近付けんわけだ」
頭の先からつま先まで、値踏みするように俺を見渡し──
「まぁいい。この程度なら消せる」
パチン、と指を鳴らした。
次の瞬間。
黒ずくめの男たちが一斉に雪崩れ込んできた。
空也、姫華ちゃん、マキちゃんの三人は地面に押し付けられ、右腕を固定される。
「さて、小林青夜君。少し本家まで来てもらおうか」
哲真は背を向けたまま言う。
「……あの、俺に拒否権は?」
「無い」
即答。
そして振り返らずに続けた。
「反抗するなら構わんが……こいつらの腕が折れても良いのならな」
背中に冷たいものが走った。
三人は、まるで局所的に重力だけを増されているかのように動けず、黒ずくめの男たちが容赦なく押さえつけている。
(……本気で折る気だ)
唾を飲み込みながら言う。
「わ、分かりました。一緒に行きます……。
だから、空也たちから手を離してください。
──彼らを動けなくしてるのは、あなたの能力ですよね?」
哲真は小さく口笛を吹いた。
「気付いていたか。……なるほど、本物だな」
その“本物”が何を指すのか分からない。
ただ、背中がざわつく。
「詳しい話は後だ。来い」
有無を言わせぬ声。
圧倒的な“強者”の風格。
生物としての本能が告げていた。
──逆らえば殺される。
俺は黙って、巨大な背中の後を追った。
五道哲真。
ただそこに立っているだけで周囲を圧倒する、異常な存在感。
“逆らってはいけない相手”だと、身体の奥が叫んでいる。
(……この人より強かったっていう、空也たちの父親って……どんな人だったんだ?)
案内されるまま後部座席に座り、静かにドアが閉じる。
車は無言のまま、ゆっくりと走り出した。




