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本日も晴天なり  作者: 古紫 汐桜
第二章 幸福屋での日々
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記憶の封印と奪われた母

その後、話題は五道哲真という人物へ移った。

マキちゃんの兄であり、現在の五道家を束ねる“頂点”だという。


「我が五道家で一番の鬼よ!」


鼻息荒く言い放つマキちゃんに、空也も姫華ちゃんもコクリと頷く。

……どうやら冗談ではないらしい。


哲真は、空也たちの父・雪夜には及ばないものの、雪夜が亡くなった今となっては五道家で最強の能力者なのだという。


現代日本の影で暗躍する五道家。

政治家ほど恨みを買いやすい者はいない。

その恨みを“断ち切り”、二度と依頼主と相手が遭遇しないようにする──

それが本家の仕事らしい。


(切られた相手は、恨みの感情ごと消えてしまうらしい)


だからこそ、

“五道家を味方につければ向かうところ敵なし”

と噂されるほどの力を持っているのだという。


さらに本家は徹底して姿を表に出さない。

それもまた、彼らの能力ゆえだった。


依頼が終われば、依頼主も対象者も

“その記憶だけが丸ごと消滅する”。

政治家でさえ、顔も名前も忘れてしまうらしい。


名刺には特殊な術が施されており、依頼完了と同時に紙ごと消滅する。

携帯に残った名前だけを見て、ほとんどが


「……誰だっけ?」


と削除してしまうのだとか。



 哲真には妻と二人の子どもがいるというが──


驚いたことに、その“妻”というのが

空也と姫華ちゃんの母親 だという。


哲真は彼女の“記憶を奪い”、

本家の屋敷で半ば監禁するように暮らしているらしい。


本来なら空也たちも本家から一歩も出られない決まりだが、

彼らの母親が二人の顔を見ると意識障害を起こしてしまうため、

“マキちゃんを側につける”という条件付きで外での生活が許されているのだという。


「雪夜を殺したのは兄貴よ! そう言っても過言じゃないの!」


突然叫んだマキちゃんは、涙を拭いながら続けた。


「大きな仕事を雪夜一人にやらせて、穢れを全部浴びた雪夜を……陽菜さんに会わせなかったのよ。

いくら強くても、自分だけでは浄化しきれなかったのに……!」


その声は震えていた。


「アタシがもっと強かったら……雪夜を助けられたのに」


ぽつりと漏れたその言葉は、胸に刺さるほど痛かった。


空也が静かに口を開く。


「……親父は、あれでよかったんだよ」


横顔は淡く寂しげだった。


「今の“お袋”を見るのは、親父には辛かったと思う。

記憶が戻れば……お袋はまともでいられない。

自分が……親父以外の男の子どもを産んだって分かったら、壊れてしまう」


静かに語りながら、空也は続けた。


「それに、俺たちが“五道”を名乗らずに、お袋の旧姓を名乗ることを許してくれた。

学校に通わせてくれたのも……

多分あの人なりの“懺悔”なんだと思う」


「陽の気質を持つ人間に、五道家が惹かれてしまうのは……仕方ないことだからな」


その声には、諦めと哀しみが滲んでいた。


「でも! それでもルール違反よ!」

マキちゃんが机を叩き、震える声で叫ぶ。


「本来、“番”になった相手を奪うなんて絶対に許されないの!

ましてや記憶を奪って自分のものにするなんて──!」


空也はゆっくりと視線を伏せた。


「……多分、あの時の穢れは、お袋でも昇華しきれなかったんだよ。

親父を失ったら、お袋は……生きていけなかった。

だから──」


空也の瞳はガラス玉のように澄んでいて、痛いほど真っ直ぐだった。


「哲真伯父さんの選択は……間違いじゃない」


静かに、けれど深くそう呟いた。


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