8、ハッピーとラッキー
レンガ造りの壁を触っていると、2個うっすら出っ張ったところと、ひとつだけさらに出っ張った箇所がある。
「2つヤバそうなのと1つ安全そうなものがあるんですけど…。」
「よし、1つ危険な方を押してみよう。」
「ですよねー。えいっ。」
ゴォン!
上からすごく重そうな鉄球が。警戒していなければ死んでたな。そしてもうひとつも押してみると、ラルクの方に槍が降ってきた。まあ、避けられたんだけど。
そして合っているほうを押すと、レンガ壁が天井に収納されていく。なんとなく思ったことなのだが…私とラルクはハズレもアタリも引きたいタイプなのかもしれない。我ながら、命がいくつ合っても足りないな。
今度はタイル状の床。この中のどれかがトラップだ。私1人だったら力技で攻略しようとするが、今回はラルクがいる。リュックをラルクに預けて、出来るだけ身軽に。手で触りながら、大丈夫か危険か見極める。少し沈んだり変な音が微かに鳴ったら、そこは危険。
「そこの2枚とここが危険。あとは普通にまっすぐ歩いてください。リュック持っててくれてありがとうございます。」
「すごいね。僕には全然分からないよ。」
ここまでは順調に進んでいるが、この先もこうなっているのだろうか。だとしたら大変だなぁ。トラップ解除には頭をよく使う。甘いものが欲しくなるな。
こうして、私のトラップ地獄が始まった。
壁を開け、床に触れ、宝箱を開け、もう何十個解除したか分からない。しかし、意外だったのはラルクの方だった。てっきり解除中に話しかけたり、何かしてくるのかと思っていたのだが、私が集中している時は見守り、私が話しかけたら反応する。特に自分からはむやみに動かず、解除したら褒める。意外と空気は読めるんだな。
「ここハズレだけど引っ張ってみます?」
「任せるよ。そろそろ集中力切れてきたんじゃない?」
「んーたしかに…。じゃあいっか。」
そう言って身を翻した時。ハズレの紐がリュックに。
あ、まずい。そう思った瞬間、すでにリュックは引っ張っていた。
「モニカ!?」
床から槍が数本。でも大丈夫、顔に掠るくらいに止められるはず。けど、もうラルクは近くにいる。
ザシュッと音がして、紅が飛んだ。
「いった…。」
「ちょっ…大丈夫ですか!?」
「僕はいいよ。モニカは?」
「私はなにも…。」
「よかった。モニカの顔に傷付いたら困るからね。」
笑って返されるが、ラルクの腕から血が滴っている。背中に寒気が走った。思い出すのは幼い日の記憶。
『お母さん!お母さん!』
忘れてたのにな。思い出しちゃったな。胸がぎゅっと掴まれたように痛くなる。
ラルクは次のトラップの前に移動して、止血し始めた。残された私の目の前には、ラルクの血のついた槍が生えている。
「モニカ、早く行こうよ。」
ラルクの腕には緩く巻かれた包帯が。けど笑顔だ。
なんで笑顔でいられるの。優しいの。だから1人の方が気楽だったんだ。だから関わりたくなかった。でも、ちょっと楽しかった。
バシッ
いきなり頬を叩かれ、ラルクは目を丸くする。
「バカ!あなたが助けなくても大丈夫だった!私、そこまで弱くない!お願いだから、もっと自分を大切にして。行かないでよ…ラルク。」
「…ごめん。包帯巻き直してくれる?それと、モニカって体温高いよね。」
「もう1発やってもいいんだよ!?」
「あはは、ごめんごめん。」
涙を拭って、包帯を巻き直す。そしてリュックを漁った。確か…あった。
この前作った、パンの耳ラスク。やっぱり甘いものが頭に染みる。ラルクにもひとつ食べさせると美味しそうに食べてくれた。
さあ、次のトラップだ。今度は複数の錠のついたドア。またピッキングツールの出番だ。
「…ねえ、よければ僕にも教えてくれないかな。ずっとモニカだけだと申し訳ないし。」
「…分かった。」
「さっきのビンタなかなか痛かったよ。」
「はいはい。」
ラルク 「『ラルク』…『ラルク』って言った…『ラルク』…。」
モニカ 「もう言わないようにするね。」