6、いざ、ダンジョン
「これが…ダンジョン…。」
エマが目の前の入り口につばを飲む。
太く頑丈な柱と扉が、未だ崩れず綺麗に残っている理由だろう。丘のふもとにあるため、丘のちょうど下にダンジョンがあるような構造だ。ちなみに、骨を埋めようと犬がこの辺りの土を掘り、そこに居合わせた子供が発見したらしい。私も人生で1回くらいはダンジョンを発見してみたいなぁ。
「おっと、そうだ。自己紹介がまだだったね。僕は勇者のラルク、こいつは戦士のレアルスだ。よろしく。」
「…旅人のモニカと魔法使いのエマです。よろしく。」
「旅人だったのか。てっきり魔法使いかと思ってたぜ。」
「モニカはすごい旅人さんなんですよ。」
情報が少ないため、中はどうなってるか分からない。けど、この雰囲気だとレベルはそこまで高くないはず。
深部へ続く階段に、足を乗せた。
どこまでも続きそうな階段に、嫌な緊張感が走る。段々と、辺りが暗くなっていく。絶妙に階段も狭く、先頭から、私、ラルク、エマ、レアルスと並んで降りた。
「満ちる玉桂。」
私たちの頭上に光の球体が浮かび上がる。これでいくら暗くても大丈夫だ。
すると、何か音が聞こえる。後ろから。ドンドンというような音が、段々と近づいている。みんなにも聞こえているらしく、みんな辺りを見渡した。
レアルスが少し階段を上って後ろをを確認する。なにか嫌な予感がして、私は先の方へ目をやった。先はまだまだ階段が続きそうだ。
ドンドンドンドン…
「…お前ら走れ。」
「ん?何があった?」
「走れ、潰されるぞ!」
最初は何が起こっているのか分からなかった。だが段々と理解する。これは、典型的なトラップだ。典型的であり、フィジカルでしか突破できないもの。
天井が降りてきている。階段を一段ずつ潰している。私たちよりずっと速い。
「まだ階段は終わらねえのか!」
「あと少しだと思う!」
まずい。今回のは結構速いな。エマは大丈夫かな。銅貨を1枚取り出し、遠くに投げる。少し時間が経ってから音が鳴った。それほど遠くない。いざとなったら移動魔法を…。
「追いつかれるぞ!」
「…少し急ごうか。」
そう呟き、ラルクが私を抱え上げる。エマもレアルスに俵担ぎされた。
トントンと、跳ぶように階段を駆け降りる。壁が一気に遠のく。やっと床が見えた。軽やかに着地し、ようやく落ち着ける、そう思った時。
ドンッ!
「モニカ!」
「エマ!」
仕上げというように、壁がもう一枚。完全に、二手に分断されてしまった。なんで…。
「あなたが一緒なの…!」
「しょうがないよねー。」
あははと笑ってはいるが、こっちは全然笑えない。エマも大丈夫かな。まあ、何かあったら私がレアルスを滅するまでだ。
とりあえず、先に進むしかない。こういうのは大体、どこかで合流できる仕組みになっている。あ、そういえば銅貨潰されちゃった。頭上の光は私の方に来ている。
「モニカ、これ…。」
呼ばれた方へ行くと…。
壁があった。レンガ作りの、今までと同じような壁。
「これって…。」
「はい。私たちの得意分野ですね。」
こんなところにわざわざレンガ壁を用意するということは、なにか意味がある。この他に道はないし、トラップだ。
私のような異端でなければ、大抵の旅人はパーティに属する。トラップを開ける係を任されるのだ。
エマたちは大丈夫かな。
♢♢♢
「くそっ、なんだここ。」
レアルスが気だるげに言う。私も、このままではキリがないことに同意だ。
ここは、さっきからずっと魔物が襲ってくるのだ。このままでは私の魔力も尽き、レアルスの体力も底をつく。
さっきから進むかぎり、少し迷路のようにもなっているが、難しくはない。それより魔物の方が問題だ。なるべく最短距離で向かいたい。
「認識魔法…。」
「ん?」
「私、認識魔法でこの迷路の地図を作ろうと思います。ですがその代わり、魔法を使用している間、私は動けません。それに、かなりの魔力を使います。どうしましょうか?」
レアルスは少し考え込む。流石に無茶な願いだろうか。でも、私だって何かの役に立ちたい。足を引っ張ってばかりではいられない。
「…おもしれえじゃん。やってみようぜ。」
フッとレアルスが微笑んだ。あの人笑えたんだ…。
手を重ねて、その場に座る。目をつむって…。
「測る瞳。」
モニカ (なんでこの人と…。早くクリアしないとね。)
ラルク (モニカ…可愛かったし、軽かったなぁ。)
エマ (初めてのダンジョン、足引っ張らないように頑張らないと…!)
レアルス (こいつと俺だけじゃダメだ。ラルクたちに合流しねえとな。)