5、花束を君に
青い空、白い雲。子供達の元気な声が聞こえ、人々も爽やかに挨拶を交わす。だが私には…しがみつく勇者が。
「お願いだ、待ってくれよ!」
「エマ、もっと引っ張って!」
「モニカをはなしてー!」
「お前らめっちゃ注目されてんぞ。」
私が逃げようとしたのが悪かったのだろうか。でも普通じゃない!?出会ってすぐに告白だなんて怖すぎる!
エマが手を引っ張っているのに、全く動く気配がない。戦士もどちらにも加担せず見ているだけだ。どうする?もう殺してでも…いや、流石にそれはダメだ。
「…それなら!勝負しましょう、勝負!」
「え?勝負?」
「はい!勝った方が負けた方になんでも言うことを聞く!どうでしょう!」
「…まあ、いいけど。」
握る力が弱まり、その隙に急いでエマの元へ。見た感じからしてあまり強そうじゃないし、私もまあまあ強くなったと思うのだ。
向かったのは街から出て少し出たところにある野原だった。暖かい日差しと涼しい風に包まれながら勇者を見た。
やっぱり予想は当たっており、剣を取り出して構える。私も杖を相手に向けた。どちらかになんでもいいから触れれば勝ち。体格差からして、私の方が有利。提案してきたのは勇者だ。
「じゃあ、スタートー。」
戦士の緩い合図と共に、息を吸う。
「突き出る岩。」
ガツンッ!
勇者は構えたまま直に受ける。これはいける!
「霹靂!」
これは避けられた。もうめんどくさい。やってしまえ。そう思って杖を短剣に持ち替えて一気に距離を詰めた時、戦士の声が聞こえた。
「終わったな。」
そう、私は忘れていた。
近距離は、物理攻撃者のテリトリーだ。
「箒星。」
はやい!目で追えず、反射で避けることができた。とにかく、離れないと…!
その時、足元に白い何かが。思わず足がよけてしまう。
だが、それがバランスを崩す。視界が空へ。
「沫雪!」
あ、痛く…ない?あれ?
「大丈夫?結構危なっかしいんだね。」
「ありがとうございます…。」
「それじゃあ、お願いは…とりあえず口付け」
「きゃああああ!エマー!助けてー!」
「嘘だって。」
「嘘に聞こえないんですよ!」
私を抱えたまま、勇者はじっと考える。
あのまま長距離だったら勝てていた。転びさえしなければ勝てていた。頭の中をぐるぐると後悔がまわる。
慌てて駆け寄るエマに手を引っ張られ、先ほどと同じ構図に。戦士のため息が聞こえた。
「それじゃあ、一緒にダンジョンに潜ってくれよ。近くにあるだろ?僕らもそこに行く予定だったんだ。ぜひ同行してほしい。どうかな?」
「…まあ、そのくらいならいいですけど…。てっきり、もっと酷いのが来るかと思ってました。」
「お、デートがよかったかな?」
「嫌です。それじゃあ、さっさと行きましょう。」
よっこいしょと立ち上がり、先ほど避けた花が潰されていないことを確認する。エマに気をつけるよう言われ、再びリュックを背負い直す。
「綺麗なハルジオンだ。出発にピッタリだね。」
足元を見ながらつぶやく。爽やかな風がそんな勇者の髪を撫でた。黙っていれば普通にかっこいいのになぁ…。
「それ、ヒメジオンです。」
かくして、旅人、魔法使い、勇者、戦士の4人でダンジョンへ挑むことになってしまったのだった。
勇者 「『ハル』ジオン、『はる』ジオン、『晴る』ジオン。縁起良さそうじゃない?」
モニカ 「それヒメジオンですけどね。」
戦士 「同じだろ。」
エマ 「全然違います!」