50、巫山の雲雨
冒険者探しは、骨が折れる。
まず、どこに行ったか分からない。数十メートル先を歩いているのかもしれないし、全く違う方向へ向かっているのかもしれない。
そして、向こうも動いている。こちらがスピードを上げない限り、永遠に鬼ごっこ…ということだってありえる。
さらに、こちらだって冒険者だ。手紙を出すにしても、ポストにある村に辿り着かない限り無理だ。モニカが手紙を出しても、こちらに届くのは時間がかなりかかる。
最後に、モニカがなぜいなくなったのか分からない。こちらから逃げるためであれば会えない確率は高くなる。不本意ながら行動しているのであれば、モニカも会う努力をしてくれるはずだ。
「まずはモニカがどこに向かったか、だよな。」
レアルスが地図を開き、少しした後に現在地を見つける。現在地の周りや、モニカと最後にいた場所の周辺を確認する。
「…僕、モニカが行きそうな場所、ひとつ挙げられるかも。」
「俺も。」
「ん?どこだ?」
ここからは、かなり離れている。違うかもしれない。けど、ここなら…。カイも同じことを考えているようだ。
「「フェイスフィア。」」
ここはエマとリリィがいる。だからといって、モニカがここに向かう根拠はない。ただの勘だ。だが情報がない今は、こういうのに頼るしかない。さっきまでいた街でも、モニカらしき人は見かけられなかった。
「…行ってみる価値はあるか…。よし、じゃあフェイスフィアへ行くぞー!」
レアルスが踏み出し、みんながついていく。が、そのとき不安な反応をした者がいた。
サラサだ。さっきから口数が少なく、なんだかふわふわしている。
「おい、サラサ?大丈夫か?」
「…あ、はい!行きましょう…!」
そう言っているが、明らかに怪しい。どうしたんだろう。
「実は…膝が少し痛くて…。」
ああ、そういうことか。
僕らは普段から歩いたり走ったりを長時間繰り返しているため、足腰が鍛えられている。だがサラサは、最近やっと外を歩くようになった。今までずっと我慢して耐えていたのが溜まったのだろう。単なる使いすぎであり、駆け出し冒険者にも見られる。
「少し休もうか。」
「いえ私は大丈夫です!」
「じゃあ俺がおぶっていく。カイ、俺の荷物を持っててくれ。サラサはラルクに預けろ。」
「了解。」
「で、でも…。」
そう言ってレアルスが背中を向けてしゃがむ。少し躊躇うサラサだったが、最終的には大人しく乗ることに。ちなみにその後、メノウが自分も背負ってくれと言い出したが、今は誰も両手が空いていない。僕が手を繋いで満足させておいた。
しばらく歩くと夕陽は沈み、僕らは近くのちょうど良さそうな岩場に留まることに。寝る支度をする。
「…そういえば、雷虎が大量発生してるとか言ってたけど、まだ会ってないよな。」
「そうだね。けど一応、バリアを張っておこうか。」
「バリアー!」
「おい跳ねるな。準備の邪魔だ。」
「少し眠いです…。」
「じゃあサラサは早く寝ないとだな。」
その時、カイが急にこちらを向く。いや、外を見た。話し続けるメノウも少し遅れて察したようだ。
「…なにか来てる。」
カイが小声で注意するように促し、サラサとメノウは奥へ。僕たちも武器に手をかける。ランタンの火を消した。
一気に暗くなるが、数秒後には目が慣れてくる。確かに草が踏まれる音が聞こえる。
「雷虎…?」
「かもね…。」
その音は段々と近づいて、大きくなる。何やら光っているものが見えた。あれが瞳か?ゆらゆらと揺れながら光が近づき…。
ガサガサガサッ!
「うらぁっ!って、は!?」
「あれ…!?」
「ん…?」
「なんだ?もう先客がいるじゃん。」
灰色がかった髪が風になびいている。中背中肉。冒険者だった。さっきの明かりはランタンで、どうやら寝る場所を探していたらしい。
「僕は勇者のラルク。こいつは戦士レアルスに、武闘士カイ。そこにいるのがメノウにサラサだ。よろしく。」
「よろしく。俺はアレン、旅人さ。」
アレン?どこかで聞いたことがある。レアルスも同じように首を傾げ、その数秒後…。
「「あ!モニカに戦って負けた人!」」
「おいなんでそれがバレてる!?」
「え、ダッサー。」
「ガキが…調子に乗りやがって…。」
アレンは確か、モニカが旅人試験を受ける時に邪魔してきたとかいうやつだ。2人して納得してしまったが、当の本人はひどく嫌そうな顔をしていた。
ラルク 「あの大敗した…!」
レアルス 「威勢だけは良かった…!」
アレン 「お前らなぁ…。」
サラサ 「そんなことが…?」
メノウ 「ダサい。」
カイ 「事実を言うな。」