4、なぜ、どうして、なんで
「安心感…!」
「賑わってるね〜。」
私たちは街の中へ入り、市場を進んでいた。空腹が色々な食べ物に目移りさせる。ここまでくればもう安全だ。
「モニカ、あれ…。」
エマに服の裾をつかまれ、視線をやると、そこにはひとつのワゴンが。
薄いクレープのような生地に卵とベーコンを落として調味料をふりかけ、くるくると巻いていく。確かに美味しそう。この街で流行ってる食べ物なのかな、あまり見ない。
知識を蓄えてお父さんのように。
「…食べるかー!」
うん、これも知識のためだ。しょうがない!
生地はとてもモチモチしており、卵はいい具合に半熟だ。ベーコンもカリカリしている。これはコーヒーが欲しい…そう思っていると丁度よくコーヒーワゴンが。私たちのようにコーヒーを求めていた人たちが集っている。あそこの店主、いい商売してんなぁ…。
でもコーヒー欲にも逆らえず、結局コーヒーも飲んでしまった。この街、恐るべし。
「あ、モニカ、私たち売りに来たんだった!」
「忘れてたー!すっかり楽しんじゃってたよ。」
街の人に聞いて商業組合を探し、売り場へ向かう。
中はアンティークなカウンターやら椅子が置かれており、ここの組合がいかに老舗かを物語っていた。安心して売りに出せそうだ。
「おはようございます。今日はいかがしました?」
「炎猪の肉を売りたいんです。」
そう言って半分ほどを見せる。炎猪はBランク。そこそこな値段にはなるはずだが…。
ちゃんと肉をよくよく見てから、計算機を打ち、最後にメガネをクイっと持ち上げる。
「銀貨35枚でどうでしょう。」
やっぱりそれなりにはする。しかし、他と比べてここは高い。今後の私との繋がりを作っておきたいのだろうか。とりあえず、ここならかなりの金額を出してくれそうだ。
「それなら、もう半分も追加で。」
「でしたら…銀貨75枚でいかがでしょう。」
「分かりました。ではそれで。」
書類を書かされ、すぐに袋が渡される。この中に銀貨が入っているのだ。かなりずっしりしている。
「今後ともよろしくお願いします。」
それを言われ、送り出された。
高額で買い取ってくれるのはありがたいし、今後も利用しようかな。
「全部売っちゃってよかったの?」
「うん。だってこの後、ダンジョンに行くからね。」
そう、この街にはすぐ近くにダンジョンが発見された。難易度はそれほど高くなく、エマの魔法の練習にもなる。午前中に出発しようかと思っているところだ。
エマはダンジョンに行ったことがないらしい。それゆえにソワソワし始めている。
ダンジョンは基本的にパーティで向かう場所だ。勇者という名のリーダー、魔法使い、戦士、僧侶が基本。しかし、今いるのは魔法使いと旅人。まあ、短剣あるし。魔法使えるし。私が勇者、戦士と僧侶の代わりとなろう。
「モニカ、私、杖のメンテナンスをしたいんだけど…。」
「分かった。じゃあそこの魔法店行こっか。」
そう言って元気よく踏み出した2歩目。下にはスライムの破片が。誰かが落としたのだろうか。そして、スライムの破片はツルツルしていることでも有名だ。もちろん足を滑らせる。
「わっ…!」
フワッと浮いて、目をつむる。…その時。
「おっと。大丈夫?」
紺色の髪に、輝くような金色の瞳。勇者はみんなオーラがあるけど、この人は誰が見ても勇者だと言えるほどだった。
「ありがとうございます…。」
そしてその5秒後、勇者は私をじーっと見たままひざまずく。隣に立っていた戦士らしき人も私もエマも、思わず変な顔をしてしまった。
「好きだ、付き合おう。」
「おいラルク?」
「え、無理です気持ち悪い。」
「モニカ…!?」
モニカ 「スライム破片、落とさないで!」
エマ 「モニカが転びます!」