3、朝っぱらから地面が
「わぁ…!すごーい!」
「塩コショウかけちゃうね。」
出会ってから1日経過した夜。私たちは感嘆の声を上げていた。
その日の午後、ついに私たちは猪をばらし始めたのだ。皮を剥ぎ、骨を抜き、今はそのうちの一部分を焼いている。やっぱり最初はシンプルな調理法でいただきたい。
分厚いのでよく焼いて、塩とコショウで味を整えて、そのまま口へ。やっぱり、魚にはない美味しさがある。なんというか、満足感が高い。歯応えがあり、噛めば噛むほど旨味が増す。隣のエマも美味しそうに食べていた。
あの暗い森はその後は問題なく抜けて、私たちは平原を進んでいた。周りには転々と木が生えているだけで、ほぼなにもない。ここから少し進めば街に出れる位置だ。まだ肉は残っているので、街で少し売ってもいいかもしれない。
ステーキを食べ終えると寝る支度にかかった。焚き火は段々と薪を崩して灰にしていく。ぼーっと火を見つめると、段々と眠くなるような気がした。寝具を準備し終えたエマも、私の向かい側に座り直す。
「ちょっと思ったことがあるんだけど…。モニカって、意外とドジ?」
「え?そんなことないよ!」
「だって、小さい石に躓いて転ぶし、リュックのボタン止め忘れて物落としてたし、見れば分かるような動物用の罠にかかるし…。まあ、そこがモニカの人間らしいところだけど。」
「うぅ…。もう寝るよ。」
「はーい。」
翌朝。起きるともうエマが焚き火をして朝食の準備を始めていた。エマは朝に強いタイプなのか、いつもこうなる。私も遅れて出かける支度をした。
馬の走る音が何個か聞こえる。
「…エマ、周り確認。」
「え?うん。」
後ろ手で短剣を掴み、周りを見渡す。
「モニカ、それ私の杖。こっちね。」
「…ありがと。」
調子が狂いそうになりながら、耳を澄ませる。すると…来た。
「…盗賊だ。おかしいと思ったんだよねー。エマ、荷物まとめてある?持っといて。」
明らかにまともじゃなさそうな格好をした輩が7人ほど。全員馬を所持している。
エマも杖を構えてくれている。私も短剣から杖に持ち替えた。私の杖は短くすることが可能で、持ち運びする時は短く、使う時は長くしている。お父さんがくれたもので、薄いピンクの柄に先端にはルビーのような魔法石がつけられていた。そんなことをしているうちに盗賊らが私たちを囲むように立つ。
「こんにちは、お嬢ちゃんたち。どこに行くのかな?」
「私たち、一人前の魔法使いになるために旅をしているの!」
「そりゃあすごい。それじゃあ……荷物と服を全部置いていけ。そうすれば命だけは助けてやる。」
分かってる。絶対こんなの助ける気なんかない。せいぜい殺されるのがオチ。だから、抵抗するしかない。
こうやって本格的に魔法を使うのは少し久しぶりかもしれない。杖にゆっくりと力を込め、それにエマが反応する。
「烈風。」
ヒュゴオオオッという音と共に、飛ばされそうになる風が辺りを襲う。もちろん、私とエマには軟風しか来ない。
「くそっ、なんだこの風!霹靂!」
1人が杖を上空にかざす。それに合わせて、周りもかざす。
受けようとした時、エマが私の近くに立った。
「防御!」
やっぱり防御ひとつとってもまだまだ甘い。所々にほつれや揺らぎが見える。けど、向かってくる雷たちを受けようと必死になってくれる。
「召喚獣。」
目の前に巨大なひとつ目の怪物が。これはちょうどいい。4人で呼んだ。
「エマ、あれ倒して。防御は私がやる。」
「う、うん!乱射される…」
「エマ、怖がらないで!」
そう、怖がらないでほしい。怪物は、言わば本人の魔力そのもの。こいつを叩けば4人倒せる。怪物の攻撃は私が防ぐから恐れる必要はない。落ち着いて、力を一点に。
「…落下する巨岩。」
エマが指し示した方向に小さな石が集まっていく。段々と、段々と、大きくなって…。
ああ、やっぱりエマはすごいな。
ゴオオオオォォッ!!
凄まじい轟音がして、気づけば私はエマに膝枕されていた。
「大丈夫?ごめんね、やりすぎちゃって…」
「ううん、むしろすごいよ!」
「でも、私のせいでモニカが…。」
そう言って私の額を撫でる。そういえば、なんだか違和感がある。触ってみると、どうやら石の破片が掠ったようだった。血が出ている。
「ぜんぜん慣れてるからいいよー。それより食材とか道具は!?」
「それは大丈夫…。」
「あ、よかった〜。」
どうやら私は10分ほど寝ていたようだった。怪物は消え、巨岩だけが地面を割り砕いていた。盗賊たちも衝撃波で吹っ飛ばされ倒れている。馬も逃げてしまったようだ。
朝っぱらから酷い目に遭ったと服についた砂を払い、足早にその場を離れた。
「お腹空いてる?もう街に入っちゃおうかなーって思うんだけど。」
「まだ大丈夫。入っちゃおう。」
そう。地平線からは豆粒ほどの大きさに、街を取り囲む壁が見えていた。
モニカ 「エマの膝枕、めっちゃ寝心地よかったな…。」
エマ 「またしてあげようか?」