2、あ、えっと大丈夫?
走っていると、誰かの声が聞こえる。これは、魔法だ。声を頼りに向かうと、そこには私と同い年くらいの女子と…立派な炎猪がいた。
「乱射される石!」
戦況はかなり押され気味。たぶん魔力が尽きようとしているのだろう。
「大丈夫ですか!」
「っ…!?危ないから下がって!」
下がる?こんな立派なのがいるのに?それにこいつ、たかだかBランクでしょ。魔法を使う相手ですらない。
リュックから短剣を取り出して、駆け出した。
炎を吐こうが、所詮は猪。食べれる場所は残して、できるだけ早く終わらせる。
「…よいしょっ」
ドスッ
短剣は綺麗に脳天を突いていた。
「怪我してないですかー?」
私がそう笑顔で振り向くと、女の子は自分の杖をぎゅっと握った。あれ、怖がられたかな?
「ありがとう、助けてくれて。」
「いえいえ、困った時はお互い様ですよ。」
サラサラとした茶髪を2つに結び、私より少し背が高い。クリーム色の長いスカートが動くたびに揺れて、華を添えている。
「私はエマ。一応、魔法使い。よろしくね。」
「旅人のモニカです!」
年齢は私のひとつ上。先週、魔法使いになろうと旅に出たらしい。私の年齢を知るとひどく驚いた。けれど、敬語は必要ないと言ってくれる。
いや、そんなことより猪だ。早く解体してしまおう。
心臓部を少し切ると、すぐに放血できる。エマも初めは少し離れたところで縮こまっていたが、しばらくすると慣れてきて、私の隣で見れるくらいにはなった。あとは近くの川で洗い、内臓を処理して…。
「冷凍保存」
こうして死後硬直が解けるまで待つ。やっぱりすぐには食べられない。棒にくくりつけて、運ぼうとするが重たすぎる。仕方なくリュックから杖を取り出すと、エマが何か言いたそうにしていた。
「私、運ぶの手伝うよ!」
「…そっか。じゃあお願い。」
私が猪の頭側を。エマが尻側を持って、歩き出した。
「モニカはどこで生まれたの?」
「知らないなー。気づいたら旅してた。」
「すごいね。私なんてまだまだ…。」
「…そんなことないって。さっきの魔法もすごかったよ。」
「ありがとう。実は私、魔法の先生を探しているの。うちの村にはあまりいなくて…。よければ」
「待って。私は旅人だよ?教えられないって〜。」
そう言って手を横に振る。そう、教えられない。それにできれば1人で行動したい。
「…そっか。」
悲しそうに呟く声が聞こえる。突き放しすぎた?確かに魔法は私の方が慣れていそうだが、私には夢が…。けど、このまま別れたらこの子はまた…。
「あーもう!分かった。ちょっとなら教えてあげる。けど、無理だなって思ったらすぐに置いてくから!」
「うん!」
いつもは重くて魔法で浮かべていた猪も、今はエマが片方を握っている。
モニカ 「私、猪も好きだけど鶏が1番好きー。」
エマ 「私は牛がいいなぁ…。」