21、バスタイムがいい
「あ、レアルス!と、ラルクー!?」
「大丈夫だ。ちょっと落ち着かせただけ。」
よかった。倒れてるから心配してしまった。
レアルスも、疲労からか路上に寝っ転がる。私も座り込んだ。再び静かな時間が流れ出す。気づけばもうかなり時間が経っていて、眠くなってしまう。
「…帰るか。」
「ですね。」
するとラルクが飛び起きて、何があったのかほとんど忘れてしまっていた。
3人で並んで歩く。宿からはかなり離れているため、寝るのはもっと先になりそうだ。
そういえば、リリィはどうなったのだろう。各自解散なので会わなかったのだ。
ようやく宿が見えてきて、ああやっと帰れると思っていたら…なぜか入口の前にはリリィが。
「エマー!」
「リリィ…!?なんで…!?」
「あら、レアルスたちもこんな時間に帰ってきたの?」
「ああ。もう眠くて…寝かせてもらっていいか?」
「あははっ、お疲れ様。おやすみなさい。」
やっぱりリリィは人と仲良くするのが上手だ。ラルクたちに手を振って、再び私の方を向き直す。やっぱり、綺麗な青い瞳が目立った。
「ねえ、私の宿に来ない?決まりね!」
「はい?」
急激な提案と可決により、手を引っ張られてしまう。どんどん寝る時間が遅くなっていく。流石にもう疲れたんだけどな…。
リリィの宿はここから10分ほど歩いたところにあり、3階にあった。少し、私たちの宿より豪華な気がする。
促されるまま手を洗い、何やらリリィが荷物を漁り始める。そして、薄い水色のネグリジェを持たされ、風呂場に連れて行かれる。
「ん?何してるの?脱いでいいわよ。」
「え、あ、はい…。」
なぜこんな状況になっているのだろう。そして、なんでそんな平然としてるんだ!?まあ、お風呂には入りたいと思っていたが…。
というか、リリィを見てから自分を見ると、自分の体の貧相さが目立ってしょうがない。モニカとリリィだと、もう目も当てられないことになってしまいそうだ。
ちょっと気にしつつ髪や体を洗い、2人で湯船へ。少し狭い気がしたが、これはこれで良かった。
「エマは、検定受かったの?」
「はい。」
「そう、ならお揃いね。」
「よかったです。
「…ごめんなさい。無理に2級に誘ってしまって。モニカの仲間で、魔法使いだったから、ちょっと対抗心が湧いてしまったの。ごめんなさい。こんなになるまでやらせてしまって…。」
リリィの手が、私の額に触れる。
やっぱり、リリィにも対抗心はあったんだ。自分だけだと思ってた。私とは違うと思っていたリリィとに、少し親近感が湧いてしまう。
私はボロボロなのにリリィはどこも傷ついておらず、やはり自分はリリィに劣るんだと感じてしまう。けど、それ以上に合格できたことが嬉しかった。
「…私はむしろ、感謝してます。確かに、3級を受けていても合格していたと思います。けど、2級に誘われて、本気で魔法を勉強しました。それってすごく素敵なことです。私を成長させてくれてありがとうございます。」
「…エマ〜!」
リリィが抱きついてくる。私より体温が高く、柔らかかった。
「本当にいいんですか?」
「ええ。だって眠いでしょ?」
「そうですけど…。」
あのあと、お風呂で散々話したあと、私はベッドに横たわっていた。ちなみにリリィも同じベッドに横たわる。
妙なあたたかさで、段々とまぶたが開かなくなっていく。
「エマ、これからは敬語なくていいわ。その方が話しやすいし。」
「わかりました…。」
「ふふっ、眠そうな顔。」
リリィの顔がすぐ近くにあるのに、疲れすぎて寝てしまう。そして時は流れ…。
「え…エマ…?」
「ん…モニカ…?」
「おはよう、エマ〜。」
「帰ってきたらエマいなくてさ、もしかしたらと思ったんだけど…あ、そういう…私は別にいいんだけど…。」
なんであんなに戸惑っているんだろう。そう思って起き上がり、固まった。
着た直後は眠すぎて気づかなかったが、このネグリジェ、やたらと丈が短い。膝下くらいだと思っていたら、太腿が露出してしまっている。そしてもっと固まった原因はリリィだ。なぜか、服を着ていない。下着のみだ。
やばい。この状況は確かに誤解されかねない。
地獄の朝が始まってしまった。
モニカ 「私は別に気にしないから…。」
リリィ 「そう?ならいいけど。」
エマ 「リリィ、ややこしくしないで…!」