18、溺れて
『これより魔法使い検定2級を開始する。』
試験官の重々しい声が響いた。
内容は至って簡単だった。試験官と対戦して、基準を満たせば合格。
「誰に当たるんだろう…。」
「結構重要だよね。」
対戦相手の書かれた紙が配られ、自分の名前を探す。
…あった。『ミュール』さん。1級だ。どんな人なんだろう。
「よろしくね、エマさん。」
「はい…!」
指定された場所に向かい、挨拶して杖を構えた。
とても綺麗な女の人だ。なんというか、ひとつひとつの動きが優雅。
「私に触れることができたら合格とします。直接でも、魔法でもなんでも良しとします。ちなみに私、手加減とか分かんないから…まあ、殺さない程度にやりますね〜。」
いや、怖すぎる。なんだ、「殺さない程度」って。
ミュールさんも杖を構えて、何やら雰囲気が変わる。
「春嵐。」
「召喚獣。氷の壁。」
やっぱり強い。氷塊が最も簡単に薙ぎ払われていく。
「突き出る岩。」
来る、下だ。避けたと思っても、連続で襲いかかる。
これが、格の違い。
♢♢♢
「…終わっちゃった。」
目の前の受験者ちゃんを見ながら呟いた。
今回もダメだった。初めは良かったのに、穴が目立った。
知らせによると、もう半分以上は倒れたらしい。さあ、あとはこの子を運べば、この子の不合格が確定する。
「…まだ…。」
「ん…?」
ヨロヨロしながらも、エマさんは立ち上がった。この子は、まだ諦めない。けどもう無理だ。
「霹靂。」
防御魔法でなんとか防いだが、ショックで再び倒れてしまう。痛そうな音がした。
「エマさん、もう」
「まだ…まだ行けます。毒花。」
足元に花が咲き、体を蝕む毒が噴出される。
「…焔。」
すぐに燃えてしまう。けど、エマさんは立っていた。額からは血が出ていた。流石に可哀想に思えてくるが、あくまで試験だ。私は助けない。
ふと、違和感が。
さっきから召喚獣が動いていない。人形のように、エマさんの後ろに座っている。
召喚獣はエマさんの魔力そのもの。あれを叩けば終わる。
「光の矢。」
召喚獣の頭が削れた。その時だ。
召喚獣が、エマさんの身体を掴んで口に運ぼうとする。まずい。食べられる。たまにあるのだ。召喚獣の扱いに慣れておらず、暴走してしまうことが。だが、ここから魔法を放つと、エマさんにも当たる。今、エマさんはかなり危ない状態だ。死んでしまうかもしれない。
「飛ぶ者!」
一瞬で、召喚獣の頭上へ。その時だ。
そいつが、いきなりこちらを向いた。なんで?
魔法で吹っ飛ばすが…。
ビリッ
着ていたコートが、ほんの少し破れた。
「あっ…。」
「…『基本魔導書』、168ページ…。」
『召喚獣には自分の意識を伝えることも可能。ただし、召喚獣をしばらく動かさずに無傷で保っておかねばならない。』
エマさんは、私が助けることまで読んで、最初から策を巡らせていた。
あの文章も、私でも忘れていた、ページの目立たない隅っこに書かれている。
「…合格ね。もし私が助けなかったらどうするつもりだったの?」
「食べられてたかもしてませんね。でも、助けるって信じてたので。」
カードに名前を書いて、エマさんに渡す。
額から血は流れ、頬も切れ、手も赤く、本当にボロボロになのに、その眼は死んでいなかった。
ミュール 「ごめんね、痛かったでしょ。」
エマ 「だ、大丈夫です…!」