17、ドッとバッと
これは旅人試験。もちろん殺してはいけない。どこまでならいいんだ?
「わぁ、怖い顔。」
まだ外は夜中。けど、今は午前0時だ。つまり、出口は開いている。あとはクリアできるか。
ナイフに片手に駆け出し、殺す勢いで構える。だが当たらない。スッと静かに避けられてしまう。けどこれでいい。
「あ、リュック。」
「ありがとう、返してくれて。」
そう、これがないとクリアしても困ってしまうのだ。あとは、ただ進むだけ。
アレンが杖に持ち替えた。私も同じように持ち替える。
「…おいでよ。捻り潰してあげる。」
よし、これでいい。アレンが杖をこちらに向けた。
「爆発」
激しい音と共に隣にあったレンガのひとつが爆発する。
「防御!」
解除しない。防御魔法を全面に展開させたまま、ただ走る。
容赦なく魔法の嵐が向かってくるが、最深部を目指す。何人か受験者に会ったが、気にせず走り抜けた。
ようやく下に続く階段を見つけ、走り降り、試験官から渡された地図を広げる。これは第二層に辿り着かないと見られない魔法がかかっている。
ダンジョン第二層。巨大迷路。ここには魔物はいない。ただ果てしなく広い迷路があるだけだ。よっぽど気をつけながら歩かないと迷宮入りしてしまうだろう。
初見の迷路を走りながら、魔法にも気を配る。我ながら、なんて難易度の高いことをしているのだろう。
「あははっ。そろそろ魔力が辛くなってきたんじゃないのかい?」
そう、加えて防御魔法は普通の攻撃魔法と比べて消費率が大きい。早くしなければ、魔力切れで倒れてしまう。
まさに、地獄の鬼ごっこだ。
どれだけ走っただろう。息がもう完全に切れる中、下に繋がる穴を見つけた。本来ならロープでも垂らす場面だが、迷わず飛び込む。防御魔法が多少のクッションになるはずだ。
「さあ、そろそろ終わりにしようか。流石に飽きてきたよ。」
「…それはどうかな?」
ドカッ!
いきなりどこからか攻撃が。そう、ここはもう、ボスの領域だ。いくらアレンでも、ボスに集中せざるを得なくなる。
ボレミオン。Aランクの植物型。見た目は大樹のようだが、自身の枝を伸び縮みさせて攻撃する。試験官は、これを私たちに協力して倒してほしいんだろうな。
ボレミオンの枝が容赦なく向かってくる。しかもその枝は頑丈で、生半可な剣では折れかねない。
アレンもターゲットを切り替えた。私も防御魔法を解いてボレミオンに集中する。
植物魔法は、どうやって獲物を察知するか。魔力だ。少しでも魔力を感じればその方向に枝を伸ばす。だから、あえてこうするのが正解だ。
杖をリュックにしまい、武器は全て持っていない状態に。そして平常心を保って、座る。するとどうだろう。
攻撃は全てアレンに向かってしまうのだ。
「先に騙したのはそっちだもん。」
「くそっ、なんだこれ!」
アレンだって、所詮は旅人。戦士や勇者ほど強くない。きっともう少しで魔力は切れる。その間に済ませてしまおうか。
チョークで床に描いていく。絵心はないが、これならうまく描けるのだ。
「おのれ…モニカ…。」
おっと、アレンが倒れてしまった。ボレミオンは平常時に戻る。
残りを描き終え、杖は持たずにそのまま祈るような体制に。
「私をなめるんじゃねえよ。…『灯火』。」
ゴオオオオッ!
一瞬にしてボレミオンに火がまわった。さあ、これであとは待つだけだ。
「…久しぶりに使ったから、ちょっと疲れたな…。」
こうして、私は第一合格者になったのだった。
試験官、すごい顔してたなぁ…。
モニカ 「もはや灯火じゃなくてキャンプファイヤーだよね。」