表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/95

16、ピースオブケイク

「…はぁ…。」

 旅人管理局の前でため息をひとつ。やっぱり、どうしてもめんどくささが勝ってしまう。周りを見渡すと、やはり色々な人がいる。綺麗な女の人、不安そうに地図を見続ける男性。年齢もバラバラだが、たぶん最年少は私だ。

 さっきから言われていることも同じだ。「ここは小娘の来ていい場所じゃない」、「あなた本当に2級?」、「辛いだろうけど頑張ってね」。流石に飽きてきた。

 予定通り9時に試験官が降りてきて、別の建物に案内される。一気に緊張感が押し寄せてくるが、私はあくびが出そうになるのを堪えていた。

 階段を上り、2階に向かう。

「わぁっ!」

 ふと階段のねずみ返しに足を取られ転ぶ。周りから少し笑い声が聞こえる。恥ずかしいな…。でも嫌な緊張感はなくなった。

 荷物は全て置くように言われ、机の前に座らされる。私たちの前には小冊子が。分かりやすく、『旅人2級試験』と書かれている。

 全員準備が整ったことを合図に、試験官が開始を宣言する。周りは一斉にペンを取った。

 おいおい筆記試験かよ。考えるのは疲れるんだけど…。遅れてペンを取る。

 制限時間は1時間。表紙をめくると、まず地方地図が。こういう系ねと把握しつつ、問題文を読む。

(…え?)

 思わず、驚いてしまった。

 これが問題?こんなの一般常識じゃないのか。

 今までの旅を思い出しながら、ひとつずつ解答欄を埋めていく。

 ああ、ここは美味しいパン屋があった。ここは変な伝説があった。ここは面白い大道芸人がいた。ここは、染め物が盛んだったはず。ここのダンジョンは初心者向けだと聞いたことがある。

 問題を解き終え、時計を見ると、まだ30分残っている。仕方ないので問題用紙の隅に落書きし始める。ちなみに、画力は皆無と言っていいレベルだ。


「そこまで。」

 試験官の声に全員がペンを置く。解答用紙が回収され、何やら魔法が使われる。すごいな。あれが噂の、開発に成功したとかいう新魔法か。

 3分ほど経って、赤ペンの入った解答用紙が返される。伏せて返されたため、めくらずにそのまま窓の外の空を見上げていた。

「合格点は75。満点は…モニカ。」

「あ、はい。」

「以上。休憩に入る。不合格者は速やかに帰るように。」

 良かった。とりあえず一次試験はクリア。周りからの視線が痛い。

「ねえ、すごいね。満点だなんて。」

 前の席に座っていた人が振り向いた。ラルクやレアルスと同い年くらいの地味目な男子。

「僕はアレン。」

 一次試験は77点。ギリギリだ。

「別に、そんなすごくないよ。」

「そうかなぁ。僕、たくさん勉強したはずなのに、分からない問題あったよ。あ、この街のカップケーキは食べた?」

「うん、すっごく美味しかった。」

「だよね〜。僕も感動しちゃった。」

 なんだろう。アレンは不思議だ。こんなにも周りはピリついているのに、アレンはのびのびとゆったりしている。

 話したのはどうでもいいこと、だけど。気づけばもっと話したくなっている。アレンが聞き上手なのだろうか。

 だが試験官に呼ばれてしまい、全員外に出される。そして別の場所へ連れて行かれる。


 目の前にたたずむのは大きな神殿のような建物。ところどころが新しく、誰かが定期的に内容を変えているのだろう。

『二次試験をはじめる。内容は至ってシンプル。ダンジョン攻略だ。』

 ダンジョンに潜り、クリアして帰ってくること。そして、ダンジョンの出入り口は翌日になるまで開かないようになっている。つまり、絶対にダンジョンで1泊しなければならない。帰る時間が遅くなる。

「モニカ、一緒に行こうよ。」

「…いいよ。」

 1人で行動しろとも、チームを組めとも書いていないのだから自由だろう。

 ふと周りの視線が私たちに集まっていることに気づく。まあ、満点として読み上げられてしまったからな。

「はやく行こう。」

 視線から逃げるように、ダンジョンへ踏み出した。


 ダンジョンは迷路やらトラップが主軸となっていて、そんなに難しくなかった。たまに出る魔物も強くない。

「ねえ、ここちょっと形が違う気がする。押してみていい?」

「…いいよ。」

 アレンがレンガを押し込むと、あたりが一瞬にして騒音に包まれる。大きく何かが変化している。

 私たちの目の前にはやたらと綺麗な階段が現れた。これぞダンジョンの醍醐味。隠し部屋。だいたいこういうのは宝物や珍しい魔導書が眠っている。

「宝箱…。開けてみようよ!」

「うん。」

 そう言って開けると中には、金銀財宝が。だが、持っていくのは一部分。これも旅人のマナーだ。私たちは盗人ではない。

 部屋から出て再びレンガを押すと、階段は隠されていく。どういう仕組みなんだろうか。管理局はこの部屋の存在に気づいているのだろうか。


 そしてその後も進み続け、眠気が襲ってくる。時計を確認すると、確かにいつもなら寝ている時間だった。ご飯はさっき軽めに作って食べた。

「…僕、見張ってるからさ、モニカは少し寝てなよ。」

「ありがとう。」

 まあ、こうなるだろうとは思っていた。起こすように頼んで、寝具を用意する。長年野宿しているせいか、こんな硬い地面でもぐっすり寝れてしまう。薄明るいダンジョンが、より眠気を掻き立てた。



 そして、ふと騒々しさを感じて瞳は開けず、耳を澄ませる。なぜだろう。やけにあたたかい。と思って少し目を開けると、アレンの顔が近くにあった。ん?何が起こった?魔物に襲われた?

 だが、私は再び冷たい地面に寝かされる。アレンの足音が遠くなる。

 …は?なんで遠くなるんだ?そう思って飛び起きる。

 私が寝ていたのはあの隠し部屋だった。そして、まさに階段が閉じようとしている。こちらから開ける手段はない。閉じ込められる。

 やっぱりな、その言葉がよぎった。

 あんな微々たるレンガの形の違いや、妙な手際の良さ、何より落ち着きっぷり。他の受験者と格が違うんだ。

 必死に階段を駆け降りる。まずい。潰される。最後の力を振り絞って、跳んだ。


「…あ、モニカ。」

「アレン…それ、私のリュックなんだけど。返してくれる?」

「ちょっとできないな。あのまま閉じ込められてれば良かったのに。」

「なんで、こんなことするの?」

「…分からせてあげるんだよ、モニカに。お前は1番じゃない。お前の上はいっぱいいるんだって。」

「…あんたなんて信じた私が馬鹿だった。」

「初めから信じてないだろ?」

「…そうかもね。」


 大丈夫。いざという時のために太腿にナイフを仕込んでいる。

 まさか、旅人試験で対人戦になるとは思わなかったな。

モニカ (旅人って腹黒い人多いよね…。)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ