14、垂直に、平行に、ねじれたい
旅人試験。最近知名度が上がってきた、注目度の高い試験。3階級あり、魔法使い検定と同じように、3級から1級のような制度らしい。
3級は極めて簡単。冒険者でなくても旅行好きであれば取れてしまうようなもの。
だが1級は極めて難しく、知識も戦闘能力も鍵開け能力も全てが試される。
もともと旅人という職業自体、曖昧なものなので、試験も総合的なバランスが試される。何かひとつに特化していても合格することはできない。ある意味難しい試験とも言える。
「…めんどくさい。」
「えー?本当は落ちるのが怖いんじゃないのかい?」
「そんなことないし。」
ラルクの安い挑発にモニカはいとも簡単に乗っかってしまう。
違う。私は魔法使い検定について考えないと。つい圧力に負けて2級を受けると言ってしまった。
「じゃあ3級受けるよ。これでいい?」
「もったいない。せっかくなら1級受けて仕舞えばいいのに。」
「なるべく簡単なのがいいの。じゃあ2級にするか。」
「よっしゃあ。これでモニカも一緒だな。」
モニカも2級か。
本当は、3級に変えることも考えていた。けど、これで本格的に変えられない。だって、モニカもレアルスも2番目に難しい級だ。これで私だけ3級だなんてできない。けど、本当に受かる自信がないのだ。実際、前のダンジョンでは魔力切れを起こしている。
私が悶々と頭を悩ませていると、それにいち早く気づいたモニカが宿に向かうように言ってくれる。
いつも通り、モニカと私、ラルクとレアルスに分かれて部屋を用意し、モニカは美味しいものを見つけたと言って、どこかに行ってしまった。ラルクとレアルスも鍛錬に行ってしまう。
ひとり、部屋に残された。ベッド上に座る。
明日、どう断ろうかな。それを考える方にシフトしてしまうが、なんとか踏みとどまる。
「っ…!」
ふと窓の外を見て、目が離せなくなった。
モニカがリリィと一緒にいる。
確かにモニカはスイーツを頬張っているが、リリィが隣で楽しそうに喋っている。
なんだか、疎外感が芽生えてしまう。
モニカは私にとって、初めてできた冒険者の友達であり仲間だ。いつも一緒にいた親友だ。
「2級取ったら…モニカはなんて言うかな…。」
リリィを羨んでいる自分に気づいて嫌になるが、心は2級に寄っていく。
2級を取って、みんなを喜ばせたい。あわよくば、モニカに祝ってもらいたい。汚い感情だけど、これが私。
2級合格という、とびきりの花束を、渡してあげたい。
「…やらなきゃ。」
カバンから魔導書を取り出し、再び読み返す。ひとつひとつ文字を落とさないように拾っていく。どんなに知っている魔法でも読み直す。基本編から応用編まで余すことなく。
ふと、涙が出てきた。好きな魔法のはずなのに。
これに落ちたら、『魔法使い』を剥奪されてしまいそうで、怖いんだ。
夕日が、窓から差し込みつつある。
翌朝。私は魔法局の前に立っていた。ひとり、杖だけを握りしめていた。
「エマ!おはよう!」
リリィが手を振りながら走ってくる。一瞬遅れて、振り返した。
「今日は一緒に頑張りましょうね。」
「…うん…。」
昨日の夜、遅くまで魔導書を読んでは暗記し、少しだけ実際に魔法を使ってみたりして体に染み込ませた。1日で対策できるほど甘くないことは知っていたけど、やらないと寝れなかった。
「リリィ。私…合格するから…!」
少し震えたけど、これは本当。リリィも青い瞳を真っ直ぐに向けて、頷いた。
ひとつだけ、モニカからアドバイスをもらった。友達として、先生として。
『落ち着いて、よく考えて。』
分かったよ。私、頑張るから…!
あなたと、私のために。
♢♢♢
「みんなは試験か…。」
僕はひとり、部屋で剣の手入れをしていた。たぶん、今日1日は返ってこないだろう。どうしよう。やることがない。
「僕も…何かやってみようかな…。」
こうして部屋にいても息が詰まるのだ。
なにをしよう。そう考えていると、ふと、昔を思い出してしまった。
あーあ、苦い。
「ははっ…。」
部屋にそれが深く染み込んだ。
ラルク 「あーあ。」
エマ 「よし…!」
モニカ 「はぁ…。」
レアルス 「よっしゃあ!」
リリィ 「ふふっ。」