13、ドーナツの穴
「わあ…!ここがルルレーン…!」
「結構大きい街なんだな。」
立派な門をくぐると、ため息が出そうになる。この雰囲気、あまり好きじゃない。
いるのは冒険者ばかりで、みんなランクだの級だの言っている。
ここでエマから階級について質問が入ったので、一応魔法使いの階級について説明しよう。
魔法使いは4段階に分けられる。
まず4級。これは杖さえあれば誰でも取れる。魔法が使えると認められれば取れてしまうのだ。
次に3級。まずはここから目指す者が大半のはず。基本的な魔力操作を求められる。
2級はそれよりもっと多く、深いことが求められる。これを取れば、どこのパーティにも断られず、職に困ることもない。
最後に1級。とても狭き門。だが取得できればあらゆるパーティに勧誘され、魔法のプロフェッショナルだと讃えられる。
「なんでモニカはそんなに詳しいんだい?」
「まあ…。知り合いが魔法使いだから…。」
そう、知り合いが嬉々として語っていたので覚えてしまったのだ。別に調べていたわけではないのだ。
「あら?知り合いだなんて冷たいじゃない、モニカ。」
そう、こいつも来ているかもしれないと思って行きたくなかったのだ。
何度も見てきた自信たっぷりな笑み。なめらかな金髪は右の高い位置でひとつに結ばれ、今日も青空を閉じ込めたような瞳は爛々と輝いている。
「…リリィ…。」
「ねえ、そんな顔しないで〜。私とあなたの仲じゃない。」
「くっつかないで。」
「あらクール。」
そう言いつつも手を握ってくる。ちなみに3つ年上だ。
ふと後ろを見ると、ラルクたちがなんとも言えない眼でこちらを見ている。やめてよ。そんな眼で見ないで…!
私が気まずそうにしていると、それに気づいてラルクたちの前に走って行ってしまう。
「はじめまして。私はリリィ。魔法使いで、モニカの元仲間ね。」
「よろしく。僕はラルク。こいつはレアルスと、エマ。」
「…わぁっ!あなたも魔法使いなの?階級は?いつからはじめたの?得意な魔法は?よかったら」
「リリィ。エマが困ってる。」
「あ、ごめんなさい。」
リリィは元仲間。私が一緒に行動していた魔法使いだ。リリィがいるということは、他の仲間もいるのだろうか。
そんなことを考えているうちに、もうリリィはラルクとレアルスと仲良く話している。ほんとうにコミュニケーション能力はあるやつだ。
「俺でもほんとうに4級は取れるのか?」
「ええ。じゃあ確かめに行きましょうか?もし取れなかったら、何か奢ってあげる。」
リリィが自分の杖をレアルスに持たせて、簡単な炎魔法を教える。そして5分も経たないうちに魔法局へ向かってしまった。ついて行くが、ほんとうに行ってしまうなんて…。行動力も、あの頃と変わらないようだ。
魔法局はやはり綺麗な建物で、支部なのにも関わらず、常に謎の緊張感があった。受付窓口の一角に『4級会場』と書かれた場所があり、そこに少しの列ができていた。
「それでは、見せてもらっても?」
「あ、はい!」
やけに緊張した顔で、レアルスが杖を持っていない方の手を天井に向ける。
「灯火。」
シュルシュルと音がして、手のひらの少し上に炎が現れる。と言っても、焚き火にも満たないような、ロウソクレベルの炎だ。
すぐに担当員がカードを取り出し、名前を書く。メガネをかけた、優しそうな男の人だった。カードを受け取ったレアルスにリリィは見たかというような笑みを浮かべていた。ちなみに、私も背中を押されて受けさせられ、適当に氷魔法を見せて受け取っておいた。
「ほら言ったでしょ。」
「やべえな。戦士なのに魔法使い検定合格しちまった…。」
「私、今度魔法使い検定を受けようと思ってるの。」
「それなら、エマと一緒だね。」
不意に名前を呼ばれたエマがビクッと反応する。そういえばエマ、さっきから少し元気がない。緊張感に当てられたからかな。
一緒だと言われたリリィは、目が壊れそうになるほどキラキラさせて、エマ手を握る。
「あなたも一緒に受けない?2級なのだけど。」
「わ、私3級を受けようと思ってて…」
「大丈夫よ、エマなら合格できるわ!ね?一緒に受けましょうよ。仲間がいた方が心強いもの。」
「…分かりました…。」
「やったぁ!それじゃあ決まりね。明日の8時、また魔法局の前で会いましょう!じゃあね!」
限りなく強い圧力で、風のように去って行ってしまう。本当に変わらないなぁと呆れながら感心してしまった。
2級を受けることになったエマは不安そうな顔で自分の杖を見つめるばかりだ。
気にするな。受けなくてもいい。3級でもすごい。そんな言葉をかけるが、曖昧な返事しか返ってこなかった。
「それじゃあ、次は戦士だね。」
「おい…。本当に受けるのかよ…。」
戦士は3つのランクに分けられている。
まずはブロンズクラス。これはレアルスの現在地。色々なレベルに対応している魔法使い検定とは違い、戦士ランクは猛者のためのものだ。故に、ランク無し戦士も少なくない。
シルバークラスを取っていれば、どこのパーティに所属しても問題ないレベルと言えるだろう。戦力の要として活躍できることが保証される。
ゴールドクラスまで行くと、もはやパーティを組む者が少ないという。更なる高みを目指すものが増え、己との勝負の旅が始まる。たまにいる、山に住む仙人はその類が多いそうだ。
ブロンズクラスでも、まあまあすごいのだが、ぜひシルバークラスを目指したい。ということでラルクは勧めているのだ。
これは、戦士管理局にも行く必要がありそうだな。
心の中でレアルスを慰めていた時、ふとラルクがこちらを見る。
「で、モニカも受けるんだよね?旅人試験。」
「え?」
エマ 「2級…。」
レアルス 「シルバー…。」
モニカ 「二人とも頑張って〜。」
ラルク 「モニカも受けるんだよね?」
リリィ 「エマ、一緒に頑張りましょうね!」