11、羽ばたけ
「うおおおおお!」
俺はなにをしているか。走っていた。山の中を。
山頂が近い。もう日が傾き始めている。けど構わず走り続けた。この辺りならあるはずなんだ。きっと。
その時、ふと足元に目を移すと…あった!
「これだー!よし、これをすぐに持ち帰って…」
ガルルルル…
「え…?うわ…魔物じゃん…。…逃げろ!」
そう言って、下山を始めるのだった。
♢♢♢
「ただいま〜。」
「おかえりー。」
部屋に戻るとエマがニコニコしながら手を後ろに組んでいる。これは、出来上がったのだろう。
あのあと私とラルクは夕方になるまでカフェに行ったり路上で行われるショーを見ていた。この間にエマは黙々と取り組んでいたのだ。
「ラルク、誕生日おめでとうございます!」
そう言って見せられたのは、小さな剣。金具が付いていて、どこでも取り付けられるようになっている。
「え…これ僕に?」
「うん。」
「ありがとう…いや、予想より凄いものが来て驚いたんだ。」
確かにその通りだ。ラルクの剣をそのまま小さくしたかのような精密さ、持ち手についている飾りまで掘る繊細さ、エマ、彫刻家になった方がいいのでは…?
2人して見入っていると、エマがそんなラルクの手にふれる。
「ああ、これ?モニカが僕のために選んでくれたんだ。」
「そうだったの。似合ってるね。」
「だろう?モニカが選んだからね。」
「うるさい。」
さあ、もうすぐ夜になる。けどレアルスは戻ってくる気配がない。
…しょうがない。私が夕飯を作っておいてやろう。
まず、ブロッコリーを切り、そして茹でておく。茹でている間に他の野菜とホタテの貝柱も切っておく。
フライパンにバターを溶かし、切ってスパイスをかけたホタテを入れる。ワインを回し入れ、フタをして蒸し焼きに。
鍋には油を注ぎ、タマネギ、ニンジン、ジャガイモを炒める。
炒め終わったら水を加えて、沸騰したら約15分煮込む。この間に、アクを取るのを忘れない。
煮込んだら、一旦火を止め、ルウを入れて溶かし、とろみがつくまで煮込む。
「こんな便利なものがあったなんて…。今までルウから作ってたな。」
最後に、ブロッコリー、ホタテ、牛乳を加えてひと煮立ちさせて…
「完成…!」
ホタテのクリームシチューの出来上がり。
もうすっかり時間は経ち、夕飯になってしまった。レアルスはどこまで行ったんだ…?
付け合わせのパンも焼き、テーブルに並べ始める。あの2人はまだ誕生日プレゼントで盛り上がっていた。
「夜ご飯できたよー。」
「あれ?レアルスは?」
「まだどこかに行ってるみたい。」
全ての命に感謝して、先に食べ始めることになった。レアルスはどこまでいったのだろう。
ちなみに、エマが作ったプレゼントは、カバンにつけられている。
「ごちそうさま。美味しかったよ。」
ついにはシチューまで食べ終えてしまった。食器を洗い、レアルスはどこだろう、探しに行こうかなどという案が出た。が、その時、ドアを誰かがノックする。開けると…。
「ラルク、誕生日おめでとう。」
「レアルス、どうしたんだ、そんな怪我して。」
レアルスが何やら持っていた瓶をラルクに託して椅子に座る。
額から血を流し、手も傷だらけだ。何があった。誰にやられた。エマがすぐに手当てをするが、誰も聞けない。すると、ラルクが瓶を見たまま口を割る。
「これは…ヒカミルシー…。」
ヒカミルシー。別名、『天使のハーブ』。特定の山にしか生息しておらず、滅多に手に入らない。そのかわり、ヒカミルシーのハーブティーはまろやかで優しい、最高の味わいだと言う。
「な、なんで、ここからはかなり離れているはずだ。」
「走っただけだ。」
「その傷はどうしたんだ?」
「途中で足が滑って崖の下に落ちただけだ。ラルク、前に飲んでみたいって言ってただろ?だから採ってきたんだ。
「お前なぁ…。俺はそんなにボロボロになれとは言ってない。」
珍しくラルクが怒っている。真剣な顔をしてレアルスの方を見ている。レアルスは申し訳なさそうに目線をずらす。
空気がピリピリとして、自分が怒られているような気持ちになった。静かな時間が流れだす。
「まあ、嬉しくないと言えば嘘になるし、みんなで飲んでみようか。」
ラルクは呆れ笑顔を浮かべてキッチンへ向かった。空気が緩む。ようやく生きた心地がした。そこで、ふと違和感を覚えた。瓶の中のヒカミルシーはドライハーブだ。今日入手したはずなのに、なぜ乾いているのだろう。急激に乾燥させる技があるなら、ぜひ聞いてみたい。
「レアルス、これ、どうやって乾かしたの?」
「魔法だよ。」
「へー…え!?」
「レアルス、魔法使えたんですか!?」
「初耳だな。」
「え?あ、違う違う。」
レアルスが乾燥に成功した理由。それは、この間のダンジョンで得た魔導書にあった。
ラルク 「まったく…。」
モニカ (ラルクが怒った…!)
エマ (『俺』って言った…!)
レアルス (魔物に噛まれたところが痛えな…。)