過去からの影③
疑いの中での助け
セレスが村に現れてから数日が経ったが、村の状況は悪化の一途をたどっていた。疫病はさらに広がり、倒れる村人の数は増えるばかり。村の人々は次第に焦燥感を募らせ、やがてその疑念は全てリラに向けられることになった。
「疫病が始まってから、リラがこの村に来た。偶然じゃない!彼女が何かをしているに違いない!」
村人たちは集まり、口々にリラを非難し始めた。リラはその視線に耐えながらも、心の中で不安が膨らんでいく。
しかし、セレスは冷静に状況を見つめていた。ある夜、リラとアルネを集め、重要な話を切り出した。
「リラ、君の力は病とは無関係だ。それを証明するために、まずこの村で何が起こっているのか、真実を伝えよう。」
リラは驚いてセレスを見つめた。
「でも…村の人たちは私を疑っている。私が疫病を広げていると…」
セレスは静かに首を振った。
「それは間違いだ。この疫病の原因は、はるか昔から存在する"封印された力"が関係しているんだ。」
「封印された力…?」
アルネが問いかけると、セレスは深い溜息をつき、静かに説明を始めた。
「この村の近くにある森の奥深くには、かつて古代の魔法使いが強力な呪いを封じ込めた遺跡がある。その呪いは邪悪なエネルギーを持ち、解放されれば周囲の土地に害を及ぼす力があるんだ。数百年前、村の長老たちがその遺跡を封印したが、何らかの原因でその封印が弱まり始め、疫病が発生した。」
アルネは驚きを隠せなかった。
「じゃあ、この疫病はその呪いのせいで…リラとは関係ないってことか。」
セレスは頷いた。
「そうだ。君の力はこの呪いとは全く無関係だし、むしろ君の力があれば封印を再び強化できる可能性がある。」
リラは戸惑いながらも、セレスの言葉に希望の光を見出し始めた。しかし、村人たちの疑念はますます強まっていく。彼女を病の原因として追い出そうとする動きが活発化し、彼らは村の広場で集会を開くまでに至った。
「このままでは村が滅びてしまう!リラを村から追放すれば、疫病も収まるかもしれない!」
そんな声が次第に大きくなり、広場に集まった村人たちは怒りに満ちた表情でリラを探し始めた。
その頃、アルネとリラは村のはずれにある小屋で身を隠していた。アルネはリラの手を握りしめ、彼女を守る決意を新たにしていた。
「リラ、僕が絶対に君を守る。村の人たちは君を誤解しているだけだ。でも、このままでは状況がさらに悪化するかもしれない。」
リラは小さく頷いたが、その瞳には不安が色濃く残っていた。
セレスは彼らの前に立ち、冷静に状況を分析していた。
「時間がない。村人たちが暴動を起こす前に、呪いの封印を強化しなければならない。僕が道を案内するから、リラ、君の力を使って封印を再び施す準備をしよう。」
「でも、私にそんなことができるの?」
リラは自分の力に対する不安を口にした。彼女の力は時折制御できず、その力の大きさが周囲に災いをもたらすのではないかという恐れが常に彼女を縛っていた。
セレスは微笑み、静かに答えた。
「君ならできる。君の力は呪いと反発し合う性質がある。つまり、君の力はその呪いを押し戻し、再び封印するために必要なものなんだ。」
アルネはリラの肩を優しく叩き、励ますように言った。
「リラ、君の力は決して悪いものじゃない。これまでも人を助けてきたじゃないか。僕たちも協力する。だから一緒にやろう。」
リラはしばらく黙っていたが、二人の言葉に少しずつ勇気を取り戻し、力強く頷いた。
「わかった。やってみる…!」
その時、外から村人たちの怒鳴り声が響き渡った。
「リラを引き渡せ!あの女を追い出せば、村は救われるんだ!」
村人たちは松明を持ち、次第に興奮状態に陥り、リラの居場所を探し回っていた。
「急ごう、時間がない。」
セレスは静かにそう言い、三人は村を抜け出して、森の奥へと急いだ。