過去からの影②
リラとアルネは、病に侵された隣村に到着した。村全体が暗い雰囲気に包まれ、家々の窓からは力なく灯るランプの光が漏れている。村人たちの顔はどこか憔悴しており、子供たちの笑い声も、日常の活気もすっかり消え去っていた。
「ここが隣村か…何か妙な感じだな。」
アルネは小さく呟き、リラの様子を窺った。リラは無言でうつむき、肩を小さく震わせていた。彼女の心には、再び自分の力が関係しているのではないかという不安がよぎっていた。
村の入り口に差し掛かると、一人の男が二人を見つけて近づいてきた。顔には疲れが浮かび、ひどく憔悴している。
「おい、お前たち、どこから来たんだ?」
男は警戒心をあらわにしながら尋ねた。アルネが冷静に答える。
「隣村の者だ。病のことを聞き、調査に来たんだ。何か助けになれないかと思って。」
その言葉を聞いても、男の表情は和らがない。むしろ、彼の目はリラを見つめたまま険しさを増していく。
「女の方…どこかで見たことがあるな。お前、あの力を持つって噂の…」
リラの顔が強張った。村での噂はすでにこの村にも広まっているのかもしれない。男は険しい目でリラを睨みつけた。
「お前が来たから、こんなことになったんじゃないのか?疫病が広がり始めたのは、お前がこの辺りに現れてからだって話を聞いたぞ。」
その言葉に、リラの心は凍りついた。アルネがすぐに割って入る。
「それはただの噂だ!リラの力が疫病を引き起こすなんて根拠はどこにもない。僕たちはただ病の原因を調べに来ただけだ。」
アルネの言葉に男は黙り込んだが、その目に残る疑念は消えなかった。二人は男の視線を背に受けながら、村の中心へと進んだ。
村の長老の家に到着すると、家の外には何人かの村人たちが集まっていた。二人の姿を見るなり、村人たちはひそひそと話し始め、リラに向けられる視線がますます重くなった。村人たちの中には、リラの力の噂を知っている者が多くいたようだ。
「この疫病はあの女のせいだ」「彼女の力が災いをもたらしている」
そんな声が次第に広まり、リラはますます不安に襲われた。
「リラ、大丈夫だよ。僕がついてる。」
アルネは静かにリラの手を握りしめ、彼女を励ましたが、リラの顔には恐怖と不安が浮かんでいた。
長老の前に立つと、彼は厳しい目つきで二人を見つめた。
「わざわざ村を訪ねてくれるとは、感謝する。しかし、ここで何が起こっているのかは慎重に調べなくてはならない。」
長老の言葉は一見穏やかに聞こえたが、その目はリラに向けられ、彼女を疑っていることが明らかだった。リラは再び自分の力に対する恐れを感じ始めた。
そのとき、静かに一人の旅人が現れた。背の高い青年で、少し風変わりな格好をしていた。黒いフードを深く被り、腰には古めかしい剣を携えていた。彼はリラの方へ歩み寄り、まるで彼女をずっと知っていたかのように話しかけた。
「君がリラだね。疫病のことは知っているけれど、君の力が原因じゃないと断言できるよ。」
その声に、リラは驚いて顔を上げた。目の前に立つ青年は、自信に満ちた表情で微笑んでいた。
「僕の名はセレス。いろいろと調べている最中なんだ。君の力が疫病と無関係だってことは、すぐに証明できる。」
リラはセレスの言葉に半信半疑だったが、彼の不思議な雰囲気にどこか引き込まれるような感覚を覚えた。彼は何かを知っているようで、ただの旅人ではないことは明らかだった。
アルネも不信感を抱きながらもセレスに質問した。
「君は何者なんだ?なぜリラのことを知っている?」
セレスは軽く肩をすくめ、答えた。
「僕はただの旅人さ。でも、少し古い知識を持っている。リラの力も、それがどこから来ているのかも、少しだけ知っているんだよ。」
その言葉に、リラとアルネは互いに顔を見合わせた。リラの力がどこから来たのか?セレスが知っているというその「古い知識」とは、一体何なのか。
村人たちの疑念が深まる中、リラはセレスに対して特別な興味を抱き始めた。そして、彼が何か重要な真実を握っているのではないかという予感が、次第に彼女の心に宿り始めた。