過去からの影①
リラとアルネの生活は、一見平穏を取り戻したように見えた。リラの力を受け入れ、村の人々を救ったことで、彼女は少しずつ自分の力に自信を持ち始めていた。薬屋の仕事も順調で、村人たちからの信頼も次第に深まっていった。
それでも、リラの心の奥には、常に不安が残っていた。村人たちの感謝の声とともに、まだ完全に消えない疑念や恐怖の目線も感じ取れていたからだ。彼女の力が再び何か悪いことを引き起こすのではないかという恐れが、静かに彼女の心を蝕んでいた。
ある日、アルネが店の棚を整理していると、外から不穏な話が聞こえてきた。
「隣の村で奇妙な病気が流行っているらしい。病に倒れた人たちが次々に寝たきりになってしまってるとか…。」
「本当か?まさか、あの疫病がまた広がっているんじゃないだろうな?」
店の前で話し込んでいる村人たちの声が、アルネの耳に届いた。彼は一瞬手を止め、表情を引き締めた。最近では、隣接する村で不思議な現象が次々に起こっているという噂が広がっていた。
リラもその噂を耳にしており、心中は穏やかではなかった。彼女は自分の力が原因で、再び疫病が広がっているのではないかという考えに取りつかれていた。
「アルネ、あの隣村の噂、聞いた?」
リラは不安げにアルネに尋ねた。アルネは彼女の顔を見て、少し優しく微笑んだ。
「聞いたよ。でも、君の力のせいじゃない。そんなこと、何の証拠もないんだから。心配しないで大丈夫だよ。」
アルネはいつもと変わらない落ち着いた声でリラを慰めようとしたが、リラの表情は曇ったままだった。彼女はふと手を握りしめ、弱々しい声で言った。
「でも…私、怖いの。もし私がまた…何か悪いことを引き起こしたらどうしようって。」
アルネはその言葉に一瞬黙り込んだ。リラの不安は根深く、彼女が自分の力を完全に受け入れられていないことを感じ取っていた。だからこそ、彼はしっかりとリラを見つめ、決意を込めて言った。
「じゃあ、隣村に行ってみよう。もし本当に病が広がっているなら、原因を突き止めて、それを解決する手助けをしよう。君の力を使って、誰かを救うんだ。それが君にできることだよ。」
アルネの提案にリラは驚いた。彼はいつも冷静で、現実的な判断を下すが、今回の提案は彼の熱い思いがこもっていた。リラの不安を和らげ、彼女が自分の力を正しい方向に使えるようにと考えてのことだった。
「私に…できるかな?」
リラは自信なさげに呟いたが、アルネは微笑みを浮かべながら彼女の肩に手を置いた。
「できるさ、リラ。君はもう、村を救ったんだ。それに、僕がついている。二人でやれば、何だって乗り越えられるよ。」
その言葉に、リラは少しだけ勇気を取り戻した。自分の力が悪ではなく、人々を救うために使えるものであることを信じようと決心した。
こうして、リラとアルネは隣村へと旅立つことを決意した。不安と期待を胸に、彼らは未知なる問題に立ち向かうため、新たな一歩を踏み出す。次第に、二人の前に過去からの影が迫り来ることを、まだ誰も知らなかった。