薬草屋の始まり④
数日が経ち、アルネの薬草店には少しずつ常連の客が増えていた。村人たちは彼の誠実な対応と、的確な薬草の処方に信頼を寄せ始めていた。薬草を求める人だけでなく、相談をしに来る人も増え、アルネの店は村の一部として定着しつつあった。
ある日、朝早くに店を開けたアルネは、村の子供たちが集まっているのを見かけた。彼らはにぎやかに話しながら、村の広場で遊んでいるようだった。アルネはその光景を眺め、微笑んだ。
「子供たちも元気そうで何よりだな…」
すると、その中の一人がアルネに気づき、駆け寄ってきた。
「アルネさん!おはよう!」
その子供は、アルネの店によく顔を出していた村の少年、ユータだった。アルネは彼に優しく微笑んで返した。
「おはよう、ユータ。今日は何をしているんだい?」
「今日はみんなでお祭りの準備を手伝ってるんだ!村のお祭りがもうすぐだから、大人たちも忙しそうだよ」
ユータの言葉に、アルネは少し驚いた。村のお祭りが近づいていることを初めて知ったからだ。村の伝統行事であるその祭りは、村人たちにとって一年に一度の大切な日だという。
「そうなんだ、お祭りか。それは楽しみだね。何か手伝えることがあれば、僕もお手伝いしようか?」
アルネがそう言うと、ユータは嬉しそうに頷いた。
「ありがとう、アルネさん!お祭りでは、いろんなお店が出るんだ。アルネさんもお店を出すといいよ!」
少年の元気な提案に、アルネは少し考えた。お祭りでお店を出すのは面白いアイデアだ。薬草の効能を知ってもらい、もっと多くの村人と交流する機会にもなるだろう。
「それもいいかもしれないね。じゃあ、少し準備を考えてみるよ」
そう言って、アルネはユータに笑顔を向けた。少年は再び仲間の元へと駆け戻り、アルネは店内に戻ってきた。
夕方、アルネは店の閉店準備をしていた。すると、再び店の扉が開く音がした。振り返ると、リラがいつものように入ってきた。
「こんばんは、アルネさん。今日もお店に顔を出しに来ちゃいました」
リラは少し照れた様子で微笑みながら、カウンターの前に立った。アルネも微笑み返しながら、作業の手を止めた。
「いらっしゃい、リラさん。今日もお疲れさまですね」
リラは少し疲れた顔をしていたが、それでも彼女の表情にはどこか安心感が漂っていた。アルネにとって、リラがこうして店に来てくれることは嬉しいことだった。
「アルネさん、今度のお祭りの話はもう聞きましたか?村のみんな、すごく楽しみにしているんですよ」
リラが話し始めると、アルネは頷いた。
「ええ、ユータから聞きました。僕も何か手伝えることがあればと思っていますが、お店を出すのもいいかもしれないですね」
「それは良い考えですね!お祭りには色んな人が集まるので、アルネさんのお店もきっと賑わいますよ」
リラは嬉しそうに言った。彼女もお祭りを楽しみにしているようで、その目はキラキラと輝いていた。
「そうですね。リラさんも何かお手伝いがあれば、遠慮なく言ってくださいね」
アルネがそう言うと、リラは少し驚いた様子で彼を見つめた。
「本当に?じゃあ、私もお手伝いさせてください!お菓子を作ったり、お店を飾ったりするのは得意なんです」
「それは心強いですね。では、お願いしようかな」
アルネとリラは、少しずつお祭りの準備について話し合い始めた。彼らはお互いに助け合いながら、村の一大イベントに向けての準備を進めていくことを決めた。
お祭り当日、村の広場は色鮮やかな装飾で賑わっていた。子供たちの笑い声、大人たちの談笑、そして店々から立ち上る香りが村全体に広がっていた。アルネの薬草店も、お祭り仕様にデコレーションされ、リラが作った可愛らしいお菓子も並べられていた。
「アルネさん、これで準備は完了ですね!」
リラは少し汗をかきながらも、満足そうに店内を見渡した。アルネも、準備が順調に進んだことに感謝しつつ、彼女に微笑んだ。
「ええ、本当にありがとう、リラさん。これであとはお客さんを待つだけですね」
お祭りが始まると、次々と村の人々がアルネの店に訪れた。お茶や薬草を試すために訪れる人々は、アルネの丁寧な対応に満足し、リラの作ったお菓子も評判だった。
「リラさんのお菓子、美味しいですね!さすがです」
アルネがリラに感謝の言葉をかけると、彼女は少し照れた様子で頬を赤らめた。
「ありがとうございます、アルネさん。お店が賑わってくれて、私も嬉しいです」
二人はお互いに微笑み合い、忙しいながらも心地よい時間を過ごしていた。
夜になり、お祭りは最高潮に達していた。村の広場では、村人たちが踊りを踊り、音楽が響き渡っていた。アルネとリラは店を閉めた後、広場の様子を眺めていた。
「今日は本当に楽しかったですね」
リラがそう言うと、アルネも深く頷いた。
「ええ、村の皆さんとこうしてお祭りを楽しめるのは幸せなことですね。リラさんにもたくさん手伝ってもらえて、感謝しています」
「そんな、私も楽しかったです。アルネさんが来てから、村も少しずつ変わってきた気がしますよ」
リラの言葉に、アルネは少し驚いたが、彼女の言う通りだと感じた。村に来た当初はただ薬草を売るだけの生活だったが、今では村人たちとの交流が何よりの喜びとなっていた。
「そうかもしれませんね。でも、リラさんたちがいるおかげで、僕もこの村が大好きになりました」
アルネは静かにそう言い、リラも微笑みながら頷いた。二人は夜空を見上げ、星がきらめく夜空の下で、穏やかな時間を過ごした。