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薬草屋の始まり③

翌日、アルネは朝早くから店を開けていた。これまでの穏やかな日々の中で、少しずつ薬草店が村に馴染んできたことを感じていた。客足はまだまばらだが、訪れる人々との交流が心に温かさをもたらしてくれていた。


「今日もいい天気だな…」


アルネは窓越しに外を眺め、村の静けさに感謝しながら店内を整理していた。そんな時、再び扉が開く音がした。振り向くと、リラが入ってきた。昨日とは違い、少し明るい表情をしている。


「アルネさん、おはようございます」


リラは元気な声で挨拶し、彼に向かって微笑んだ。アルネもそれに応じて軽く会釈した。


「おはようございます、リラさん。どうですか、昨日の薬草は?」


アルネが問いかけると、リラは少し照れた様子で答えた。


「はい、すごく気持ちが楽になりました。夜もぐっすり眠れたし、なんだか心が軽くなった気がします。アルネさんのおかげです」


彼女の感謝の言葉に、アルネはほっとしたように微笑んだ。


「それは良かったです。無理をせず、ゆっくり休んでくださいね。村で働くのも大変でしょうから」


「ええ…でも、こうして誰かに相談できる場所があると、気持ちが楽になります。アルネさんが来てくれて、本当に助かっています」


リラの言葉には真心が込められており、アルネは少し照れくさい気持ちになった。彼は自分が村の役に立てていることを改めて実感し、心の中に温かな感情が広がっていくのを感じた。


「ありがとうございます。でも、僕もまだまだ勉強中ですから、リラさんに教えられることも多いですよ」


二人の間に、自然と心地よい空気が流れる。リラはその場に少し立ち尽くし、何かを言おうとしていたが、ふと何かを思い出したように手を叩いた。


「あ、そうだ!今日はそのお礼も兼ねて、うちの店で新しいお菓子を作ったんです。よかったら試してもらえませんか?」


そう言って、リラは小さな包みを取り出した。それは綺麗にラッピングされた焼き菓子で、甘い香りが漂ってきた。アルネは少し驚きながらも、包みを受け取った。


「わぁ、ありがとうございます。甘いものは好きなので、楽しみにいただきますね」


リラは少し嬉しそうに微笑み、しばらく二人で世間話をした後、店を後にした。


その日の午後、アルネは村の外れにある森に向かっていた。店が開いてからしばらく経ち、店内にある薬草の在庫が減ってきたため、新たな薬草を採取する必要があった。穏やかな日差しの中、森の中を歩くのは彼にとって心地よい時間だった。


「今日は少し珍しい薬草も採れるといいんだけどな…」


アルネは森の中を歩きながら、薬草を探していた。木々の間から差し込む光が心を和ませ、静かな自然の音に耳を傾けながら足を進めていく。


そんな時、ふと見慣れない花が目に入った。紫色の美しい花で、その周りにはふんわりとした香りが漂っていた。


「これは…珍しいな。確か『ムーンブルーム』っていう薬草だったはず。夜に花が開く特別なものだ」


アルネはその花を丁寧に摘み取り、持っていたカゴに収めた。ムーンブルームは、疲労回復や不眠症に効果があり、リラのように心の疲れを癒す薬として重宝されている。彼はそれを使って、さらに村の人々に役立てることを考えながら、森を進んでいった。


夕方、アルネは店に戻り、採取した薬草を整理していた。疲れた体をほぐしながら、今日の収穫を確認していると、再び扉が開く音がした。


「アルネさん、また来ちゃいました」


入ってきたのはリラだった。彼女は仕事を終えた後のようで、少し疲れた様子だったが、彼の顔を見ると安堵したような笑顔を見せた。


「いらっしゃい、リラさん。今日はどうしましたか?」


アルネは手を止めて彼女に声をかけた。リラは少し遠慮がちに、椅子に座りながら答えた。


「実は…またちょっと気分が落ち込んでしまって。最近、なんだか仕事もうまくいかなくて、自信がなくなってしまうんです」


リラは少し困った表情を浮かべていた。アルネは彼女の話を聞きながら、心の中で考えを巡らせていた。彼女のように真面目で一生懸命な人ほど、頑張りすぎてしまうことがある。アルネ自身も、かつて冒険者として過ごしていた頃、同じような気持ちを抱えていたことがあった。


「リラさん、無理をしなくても大丈夫ですよ。僕もよく分かります。頑張っていると、どうしても自分に厳しくなってしまいますよね」


アルネは優しくそう言いながら、先ほど森で見つけたムーンブルームを差し出した。


「これを使ったお茶を作りますね。少しリラックスして、心を落ち着けましょう」


リラは彼の言葉に頷き、アルネが準備したお茶をゆっくりと飲んだ。ムーンブルームの柔らかな香りと、温かいお茶が彼女の心を少しずつほぐしていくのが分かった。


「ありがとう、アルネさん。少し楽になった気がします」


リラはそう言いながら、優しい微笑みを見せた。アルネもそれに応えるように微笑み返し、彼女が少しでも心の平穏を取り戻せたことを嬉しく思った。


その夜、リラは帰り際にふと立ち止まり、アルネに向かってぽつりとつぶやいた。


「アルネさん、本当にありがとうございます。こうして話を聞いてくれるだけで、とても救われます」


彼女の言葉に、アルネは静かに頷いた。


「僕も、リラさんとの話で元気をもらっていますよ。だから、またいつでも来てください」


リラは感謝の気持ちを込めて彼に微笑み、店を後にした。アルネは彼女を見送った後、静かな店内に戻り、深い息をついた。村の人々と心を通わせることが、彼の心に癒しと充実感をもたらしてくれているのだと、改めて感じた。



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