表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/13

薬草屋の始まり②

薬草屋を開いてから数日が経った。アルネは店を整え、毎日村の周囲で薬草を採取し、ポーションを作る作業を続けていた。静かで穏やかな日々だったが、まだお客がほとんど来ていないのが実情だった。村には病気や怪我をする人が少なく、急を要する薬が必要な場面はそう多くない。


「まあ、焦らずゆっくりやっていけばいいか…」


アルネは自分にそう言い聞かせながら、店の窓から外の景色を見ていた。村の広場では、相変わらず人々が日常生活を送っており、子供たちの笑い声が風に乗って届いてくる。穏やかな風景に癒される一方で、彼はふと、冒険者としての激しい日々を思い出すことがあった。


その時、店の扉が開く音がした。


「すみません、誰かいらっしゃいますか?」


若い女性の声が響く。アルネはすぐに立ち上がり、カウンターに向かった。扉の向こうには、茶色い髪を肩まで伸ばした、可愛らしい少女が立っていた。彼女は少し緊張した様子で、店内をキョロキョロと見回している。


「いらっしゃい。何かお探しですか?」


アルネが微笑みながら声をかけると、少女はホッとしたように表情を緩めた。


「あの…ここ、薬草店ですよね?お母さんが具合悪くて、薬を買いたいんです」


彼女は少し困った様子でそう告げた。アルネはすぐに状況を察し、彼女に詳しく聞くことにした。


「お母さんの具合が悪いんですね。どんな症状か教えてもらえますか?」


少女は頷きながら、話し始めた。


「はい。最近、よく頭痛がするみたいで…寝てもあまり良くならなくて。それに、体もだるそうで、食欲もあまりないんです」


アルネは少女の説明を聞きながら、頭の中で症状を整理していた。頭痛や倦怠感、食欲不振は、何らかの慢性的なストレスや疲労が原因である可能性が高い。また、季節の変わり目による体調不良も考えられる。


「それなら、この薬草を使ったお茶が効果的だと思います。リラックス効果があるし、体の調子を整えるのに役立つよ」


アルネは棚から薬草の束を取り出し、それを小さな袋に詰めた。彼は丁寧に説明しながら、使い方も教えた。


「この薬草を熱いお湯に浸してお茶を作ってください。1日に2〜3杯飲むといいでしょう。もしお母さんの具合が良くならなければ、また相談してくださいね」


少女は少し安心した表情で、薬草を手に取った。


「ありがとうございます!これでお母さんも元気になるといいなぁ…」


アルネは軽く頷き、彼女を見送った。初めてのお客が来たことに、彼は少しの達成感を覚えた。村人のために自分の知識を役立てることができたという実感が、彼の心を少し軽くしていた。


数日後、再びその少女が薬草店を訪れた。今回は笑顔を浮かべていた。


「お母さん、元気になりました!本当にありがとうございました!」


彼女の喜びの言葉に、アルネは自然と微笑んだ。自分が誰かの役に立ったという実感が、彼の胸を温かくした。


「それは良かった。何かあれば、いつでも来てくださいね」


彼がそう答えると、少女は元気よく頷いて、店を後にした。アルネは店のカウンターに座り、再び外を眺めた。店の存在が村の人々に少しずつ認知されていると感じ、彼は穏やかな満足感に浸った。


その後も、少しずつお客が訪れるようになった。ある日は、農作業で腰を痛めた村人が、またある日は、風邪気味の子供を連れた母親が薬を求めて訪れた。アルネは一つ一つの相談に丁寧に耳を傾け、その人に合った薬を提供していった。


ある日、夕暮れ時にアルネが店の整理をしていると、また店の扉が開いた。今度は、以前来た少女より少し年上の、落ち着いた雰囲気を持つ女性が入ってきた。彼女はリラという名前の村の住人で、村の雑貨店を営んでいる。


「こんばんは。忙しいところ、すみません。ちょっと相談があって…」


リラは少し遠慮がちに話しかけてきた。アルネは手を止め、彼女に向き合った。


「何かお困りのことですか?」


リラは少し悩んだ様子で、静かに話し始めた。


「実は…最近、気分が落ち込むことが多くて、どうもやる気が出ないんです。お店の仕事も滞ってしまって…周りの人に迷惑をかけてしまっている気がして…」


彼女の声には、疲れと不安が感じられた。アルネはその様子を見て、彼女の心の疲れを感じ取った。村の仕事や生活で、精神的に疲れてしまっているのかもしれない。


「それなら、心を落ち着ける薬草を試してみるといいかもしれません。リラックス効果があって、不安を和らげてくれるものです」


アルネはそう言って、リラに薬草を手渡した。彼女はそれを受け取りながら、少し安心したような表情を浮かべた。


「ありがとうございます。少しでも楽になれるといいんですが…」


リラは礼を言って店を出ていった。アルネは彼女の背中を見送りながら、村の人々の心にも寄り添っていきたいと思った。


その夜、アルネは家の前に座り、星空を見上げていた。セレス村の空は澄み切っており、無数の星が輝いていた。静かな夜風が心地よく、彼の胸に安らぎをもたらしていた。


「ここでの生活は、悪くないな…」


彼はそう呟きながら、再び新しい一日を迎えるために、ゆっくりと目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ