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薬草屋の始まり①

アルネがセレス村に足を踏み入れた時、彼の胸には一抹の安堵が広がった。長い旅路の果てにようやく辿り着いたこの場所は、都会の喧騒からは遠く離れ、自然に囲まれた静かな村だった。ここでなら、心を癒し、新しい生活を始めることができる――そう信じていた。


村は緩やかな丘の中腹に広がっており、中央には小さな広場があり、その周りには石造りの家々が並んでいた。村の中央を流れる清らかな小川は、近くの森から湧き出ており、村全体に爽やかな風を運んでいた。


「ここが新しい生活の始まりか…」


アルネは肩に掛けた鞄を少し持ち上げ、見晴らしの良い場所に立ち止まった。村全体を見下ろしながら、彼は深呼吸をする。新鮮な空気が肺に満ち、かつての冒険者としての激しい日々とは対照的な穏やかさが、彼の心を包み込んでいく。


かつて、アルネは冒険者として名を馳せ、多くの戦いや困難に立ち向かってきた。仲間たちと共に魔物を倒し、遺跡を探索し、数々の冒険を乗り越えてきたが、あるミッションで彼は大切な仲間を失った。そのことが彼に深い傷を残し、冒険者としての生活に終止符を打つことを決意させたのだ。


村外れに位置する一軒の古い家が、彼がこれから住む場所だった。かつては薬草学者が住んでいたらしいが、長年放置されていたため、外観は少し荒れ果てていた。だが、その静けさや自然に囲まれた環境は、アルネにとって理想的だった。


「まずは掃除からだな…」


アルネは家の中に足を踏み入れ、窓を開け放った。長年溜まった埃が舞い上がり、日の光が差し込む。古い木製の家具や棚が部屋を占めていたが、それは今にも壊れそうなほど古びていた。だが、彼にとってはそれがかえって落ち着く要素だった。


数日後、彼は村に薬草を採取に出かけた。セレス村の周りには豊富な自然が広がり、魔法植物や薬草が自生していることで知られていた。彼が訪れた理由の一つも、この豊かな自然の恵みだった。森の中には、冒険者の頃に培った知識を活かして薬草を見つけ出すことができた。


「この辺りには良質な薬草がある…これなら十分にやっていけそうだ」


アルネは採取した薬草を慎重にカバンに詰めながら、自らの手で店を開く準備を整えていった。彼の計画は、村の人々を癒すための魔法薬を作り、その販売を通じて静かに生活を続けることだった。


彼が村の広場に顔を出すようになったのは、薬草の採取を続けて数日が経ってからだった。村の人々は、彼が何者であるかに興味を持ち始めていた。セレス村は小さな村で、外部の人間が来ることは珍しかったため、アルネが新しい住人であることはすぐに村中に広まった。


広場では、村人たちが日々の生活を営んでいた。市場には農作物や手工芸品が並び、村の子供たちが楽しそうに走り回っている。アルネは静かに広場の一角に立ち、村人たちの様子を観察していた。彼にとって、冒険者としての激しい日々とは対照的な、穏やかな日常の風景だった。


「おや、あなたが新しく村に来た方かい?」


突然、背後から声をかけられた。振り返ると、そこには年配の女性が立っていた。彼女は優しい笑顔を浮かべ、アルネをじっと見つめていた。


「ええ、そうです。ここで薬草店を開くつもりです」


アルネが簡単に自己紹介すると、女性は驚いた様子で目を見開いた。


「それは素晴らしい!私たちの村には、ずっと薬草店がなかったんです。みんな体の不調を抱えながらも、遠くの町まで行かなければならなかったから…本当にありがたいことですよ」


女性の言葉に、アルネは軽く頷いた。自分の選択が村にとって役立つことを知り、少し安心感を覚えた。


「どうか、よろしくお願いしますね。私はエルバン、この村の長老です。何か困ったことがあれば、いつでも声をかけてください」


彼女は温かい言葉をかけ、立ち去っていった。アルネはその背中を見送りながら、彼女の言葉に心を少し軽くした。


その後、アルネは村人たちとの交流を少しずつ深めていった。彼は薬草店の準備を進めながら、村人たちと話をする機会を増やしていった。村の人々は皆、親切で温かく、彼を快く迎え入れてくれた。


数日後、ついに薬草店が開店する日がやってきた。アルネは店の外に看板を掲げ、扉を開いた。店内には、彼が丁寧に並べた薬草やポーションが並んでおり、外の風景と調和するような穏やかな空間が広がっていた。


最初のお客は、長老のエルバンだった。彼女は店の様子を見回しながら、微笑んでいた。


「本当に素敵な店ですね。ここが村の人々の癒しの場所になることを期待しています」


アルネは静かに微笑み、彼女の言葉に感謝の意を伝えた。彼の新しい生活はここから始まる。冒険者としての激しい日々から離れ、今度は村人たちを癒すための静かな日常が始まったのだ。

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