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クランから追放されました

 異世界に来てから2年が経った。俺はハヤトたちと旅を続け、クランを立ち上げていた。

 レッドラグーン。今や、知らない者はいないほどの有名クランだ。

 

 ハヤテは戦士から剣聖へとランクアップし、クランのリーダーを努めている。

 タケヤとマヤもそれぞれ聖騎士、黒魔道士として、クラン内の部隊を率いている。

 

 俺か?俺は変わらず契約師だ。7人のヴァルキリーと契約を交わし、剣などのすべて武器の扱いに長け、火、水、風、土、光、闇の6属性魔法と補助魔法を使えるようになった。

 自分で言うのも何だが、どんな冒険者よりも強い。


 さぞクエストに引っ張りだこ、と思われるかもしれないが、俺がクエストに行くことはあまりない。

 それよりもやらなければならないことがあるのだ。


「第5の契約者メルロ、我に飛翔の力を与え給え。フライ!」


 男には似つかわしくない、真っ白な羽根が背中に生えた。

 ヴァルキリーとの契約によって得た特性、白馬の羽根だ。これによって上空を一瞬で移動することが出来るのだ。


「それじゃあ行きますか」


 俺が向かうのはレッドラグーンの別支部だ。全部で7つあり、それぞれにはヴァルキリーが一人ずつ滞在している。俺の仕事は彼女たちのご機嫌取りだ。部屋には特殊な魔法陣を設置し、クランメンバーがその加護を受けられるようになっている。一人一人が直接加護を得ているわけではないので、もしヴァルキリーに出て行かれたら力は失われてしまう。

 支社と支社は離れていて、白馬の羽根を使ってもすべて回るのには三日はかかる。


 空を飛んでいると、10キロメートルほど先にモンスターの群れがいるのを感じた。スキル、千里眼によるものだ。

 そういえば第5部隊は飛行モンスター討伐のクエストを受けていたはずだ。多分前方にいるのは討伐対象だ。その数は少なく見積もっても50。まともに戦ったら全滅するだろう。


「半分ぐらいにしておけばいいか」


 一気に加速すると、通りがけにモンスターを倒しておいた。俺だってレッドラグーンの一員だ。表向きにクエストを受けていなくても、クランメンバーが傷つかないように考えている。

 最も、これは多分誰も気がついていない。俺が勝手にやっていることなのだ。


 やがて、クラン第2支社が見えてきた。ここにいるのは俺が最初に契約したヴァルキリー、セイラだ。

 彼女の通称は眠り姫。出会った時もそうだったが、いつも眠そうにしている。塔の一番上に部屋があり、俺がいつでも出入りできるように壁の一部が切り抜かれている。不用心と思われるかもしれないが、ここには俺しか入れない。地上からの階段は続いておらず、周囲には闇魔法の渦が取り巻いていて、下手に近づこうものなら大けがをする。



 部屋に乗り込むと、セイラは相変わらず眠っていた。お気に入りの青い帳に囲まれたベッドの中で、それはもう気持ちよさそうに。

 床の魔法陣も異常はない。問題なくクランメンバーに加護が送られている。


「……ヤマト?」


 俺に気がつくと、セイラはベッドからもぞもぞと出てきた。水色の長い髪がぼさぼさなのも気にせず、猫みたいに引っ付いてくる。


「おはよう。いつも起こして悪いな」

「……いい、私もヤマトと話したい」


 表情はとても眠そうだが、それでも嬉しさがにじみ出ていた。


「何か変わったことはあったか?」

「……ない」

「食べたいものはあるか?」

「……ない」


 セイラと話すことは毎回変わらなくて、カウンセリングみたいだ。俺にもっとトークスキルがあったら良かったのだが、あいにく経験不足だ。

 それでもセイラは体をくっつけたまま、寝息を立てながら頷いている。もしかしたら、俺の話なんて聞いていないのかもしれない。それでも楽しそうにしてくれているのが、せめてもの救いだった。


 滞在時間は3時間前後が多い。セイラをベッドに寝かせると、出口に足をかけた。


「なにやら騒がしいな」


 外を見ると真っ赤な竜紋の刻まれた馬車が入ってきている。それは、クランの権力者に与えられるもので、ハヤテ、タケヤ、マヤだけが乗ることが許されている。しかも三台ある。三人揃ってこんなところに何をしにきたんだ?

 

俺に気がついているのか、真っ赤な旗が振られていた。その中心には、馬車に刻まれたのと同じ竜紋があった。飛び降りると、やはり三人がいた。


「珍しいな、今日は会議だったか?」


 俺にしては気さくに話しかけると、ハヤテが動いた。急加速で俺の前に立つと、一枚の紙を突きつけてきた。


「気安く話しかけるな」

「な、なにを……」


 クラン追放証明書。

 俺に渡されたのは、俺がクランから追い出されたことを示す証明書だった。ハヤテたちの署名があり、冒険者ギルドの許可印まで入っている。


「クランメンバーに示しがつかないんだよ。クエストもこなさず、ただ遊び回っているだけのやつが俺たちと同じ初期メンバーなんてな」

「全くだ。おまけにヴァルキリーを独占しやがって。一人ぐらい分けてくれてもいいだろ」


 何を言っているんだ?俺が遊び回っている?

 それは違う。いまやクランメンバーは100人越えている。ギルドに所属する冒険者のランクはB~Dまで様々だが、全員が戦力になっている。それはひとえに加護によるものだ。俺は加護を維持するために、毎日ヴァルキリーに話をしに行っているのだ。


 それにクエストだって、移動中に手助けをしている。今頃、飛行モンスター討伐に向かった第5部隊は被害者を出すことなく討伐を終えているはずだ。


「そうね。働かざる者食うべからずって言葉を知らないのかしら」


 嘘、だろ……この世界に来てからずっと、こいつらとは旅をしてきた。俺は仲間だと思って、出来ることをしてきた。クランを立ち上げたいと言われて、ヴァルキリーに頼み込んで力を貸してもらった。

 なのにこんな仕打ちは……。


「俺がいなくなったら、ヴァルキリーの加護がなくなるかもしれないぞ」


 せめてものすがりだった。今ならまだ引き返せる。


「何を言っているんだ?彼女達はクランと契約しているんだ。貴様がいなくなろうと関係なかろう」

「そうね。一度結ばれた契約は絶対。加護が消えるなんて聞いたこともないわ」


 こいつらの言っていることは正しい。ヴァルキリーはきまぐれで加護を与え、力を奪うことはほとんどない。

 理由は単純だ。同じヴァルキリーに2回以上会うことが稀だからだ。ヴァルキリーだってそこまで暇じゃない。よほど機嫌をそこねるようなことをしない限りは、会いに行ってまで力を奪ったりはしないのだ。


「さあ出ていけ!」

「もう顔を見せるんじゃねえぞ!」

「さようなら」


 つい数分前まで仲間だと思っていた奴らは、他人のような顔を見せる。

 こいつら……せっかく力を貸してやったのに……。


「……フライ」


 全力で空を翔ける。途中で第5部隊の奴らとすれ違った。手を振ってきてくれたのだが、反応することができなかった。

 悪いな。今はそんな気分じゃないんだ。

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