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ヴァルキリーとの初契約です

「……ヤマト」

「なんだ?」


 声がして振り返ると、そこには誰もいないかった。

 女の子の声だったような。それもまるで、脳に直接訴えるような……。


「……ヤマト」


 まただ。

 呼ばれるがままに進んでいくと、目の前には崖があった。


「おーい、何してるんだー」


 ハヤテが呼んでいるのが分かった。けれど俺の興味は、完全に女の子の声に向いていた。

 崖に向かってに足を踏みだすと、岩にぶつかるどころか、体がのめり込んだ。そのまま前に進むと、そのさきには道があった。


 ハヤテたちも気がついたようで、駆け寄ってきた。


「こんなところに隠し通路があるのか」

「よく気がついたわね」


 そのまま進んでいくと、真っ白な扉があった。

 首を傾げていると、マヤが教えてくれた。


「聞いたことがあるわ。ヴァルキリーは自身の居場所の前の扉を作り、認めた者だけが入れるようにすると」

「どうしたら開くんだ?」

「試練を乗り越えればいいらしいわ」


 試練か。ボスを倒すとかそんなだろうか?

 だとしても、それっぽい敵はどこにもいない。スイッチでもあるのかと思ったが、仕掛けらしいものもない。


「魔法で開いたりはしないのか?」

「やってみるわ。ファイアーボール!」


 杖から炎の弾が放たれ、扉に当たって弾けた。


「駄目みたいね」

「せっかくヴァルキリーの居場所を見つけたんだ。どうせなら加護を受けたいってのに…」


 ヴァルキリーにはどの程度の頻度で出会えるものなのかは分からないが、かけだしにとっては願ってもないチャンスだろう。ここで加護を受けることができれば、多分強くなれる。

 俺としても、ヴァルキリーという存在には興味がある。力を与えてくれた相手であれば、きちんと挨拶しないとな。


「……ヤマト、来て」


 また声がした。さっきよりもだいぶ近い。扉の向こうにいるのだろうか?

 吸い寄せられるように近づくと、腕に魔法陣が浮き上がった。インベントリを開いた時とは違う。扉と同じ白色の光だ。

 腕を扉にかざすと徐々に開いていき、その先の景色が見えてくる。そこにあるのは青い#帳__とばり__#に囲まれたベッドだった。


「どうしてこんなところにベッドが……それに、誰か寝ているのか?」


 疑問に思いつつ、吸い寄せられるように近づいていく。


「勝手に覗いていいのか?」

「マズイわよ。もしヴァルキリーが寝ていたらどうすんのよ」


 小声で相談が始まった。そうだよな、普通に考えたらやばいよな。

 だけど俺には、予感があった。


「開けてみる」

「ちょ、ちょっと待て!」


 止められるのも無視して、帳に触れた。ビリッっと静電気のような痛みが走ったがそれも一瞬で、あっさり中に入ることが出来た。帳を閉じると、外の音はほとんど入ってこない。

 聞こえてくるのは「スースー」という、規則正しい寝息だけだ。

 ベッドに近づいていくと、水色の髪が見えてきた。どうしたものかと悩んでいると、寝返りが打たれ、可愛いらしい顔がこちらを向いた。


 幼い顔立ちながらも細部は整っていて、まるでお人形のようだ。思わず見入っていると、閉じていた目がゆっくりと開かれ、眠そうに目元をこすった。


「ヤマト……?」

「え、うん……そうだけど。もしかして俺を呼んだのは君?」


 少女は立ち上がると、急に抱きついてきた。そしてそのまま寝息を立て始める。


「ちょっと待った。状況が飲み込めないんだけど。君はヴァルキリー?」

「……そう」


 寝言のような返事があった。


「えっと……名前は?」

「……ない」

「ない?」

「……ジークルーネ。それが私の個体名」


 スライムとかゴブリン的なあれだろうか。


「えっと……君が俺に加護をくれているのか?」

「……そう」

「そっか……えーっと、ありがとう」


 少女は俺の顔を見ると、首を傾げた。


「お礼?どうして?」

「どうしてって……力をもらってるんだから当たり前じゃないのか?」


 また首を傾げられた。


「もしかして加護をもらったらそれっきりとか普通なのか?」


 コクリと、今度は頷いた。

 それは不義理にも程があるんじゃないか?まるで道具として思っているようじゃないか。


「そっか……えーっと、名前がないと呼びにくいな。まあいいや、ありがとう」


 これで目的は果たせたな。とっとと脱出を……って動けない。ぴったり体にくっつかれているのだ。

 ヴァルキリーとはこれほどまでに距離が近い存在なのだろうか?


「契約しにきたの……?」

「何のこと……あーそういえば、俺の職業は契約師だったっけ。いまいち何のことか分からなかったけど」

「……おかしな人」


 俺からすれば、この子のほうがよっぽどおかしい。初対面の俺にくっついてきて、挙句の果てにそのまま寝ようとしているのだから。

 こんな可愛い子だ。俺じゃなかったらあれやこれやされていたかもしれないぞ。


「じゃあ、俺はそろそろ戻ろうと思うんだけど……」

「……嫌」

「え、なんで!?」


 急にダダをこねられた。見た目的に違和感はないのだけれど、ヴァルキリーってことは俺よりも歳上なんじゃないか?


「……契約、しよ?」

「契約するとどうなるんだ?」

「……いつでも一緒」


 召喚獣みたいな認識でいいのだろうか?より強い力を使えるぐらいにしか聞いていなかったから予想外だ。

 ヴァルキリーって多分強いな。それが一緒にいてくれるならたしかにありがたい。


「わかった。それで俺はどうしたらいい?」

「名前を、頂戴」

「そんなことでいいのか。そうだな……」


 いざ考えると結構悩むな。

 ゲームで仲間の名前を考えるのは苦手だ。悩みだすときりがない。こうなったら直感だ直感!


「セイラ、とかどうだ?」

「……可愛い」


 名前を言う声は思ったよりも小さくなってしまった。それでも少女はお気に召してくれたようだ。


「気に入ってくれたようでよかったよ」


 コクリと頷くと、またぽつりと言った。


「……屈んで」


 セイラが体から離れたのを確認すると、腰を落とす。どこまでかがめばいいのか分からなくて、とりあえず目線を合わせたその瞬間……視界が肌色に覆われた。考えるまでもない。セイラの顔だった。そして唇には、柔らかい感触が重ねられた。


 これは……キス!?


 自覚したと同時に、地面には魔法陣が現れた。真っ白で、なんだかホッとする感じがする。


「我が名はセイラ……かの者、ヤマトと契約する……」

 

 光が強くなり、俺とセイラの世界は白色に包まれる。魔法陣は小さくなり、やがて同じ模様の魔法陣が俺の右手とセイラの左手に出現した。

 痛みとかはない。ただなんとなく、セイラの呼吸をさっきよりも近く感じた。


「……契約完了」


 ふらつくセイラを慌てて抱きとめた。小さな体は思っていたよりもずっと軽くて、本当に存在しているのか信じられなくなるほどだ。


「終わったのか?」

「……おんぶ」


 背中に回り込んでぴょんぴょんとアピールしてくる。

 契約したんだし一緒にいるのは当然……なのか?

 背中に乗せると、すぐに寝息を立てて寝始めた。本当に可笑しな子だな……ヴァルキリーってみんなこうなのか……?


 帳の外に出ると、ハヤテ達が待っていて、俺の背中の少女に気がつくと駆け寄ってきた。


「その女の子がヴァルキリーなのか?」


 ハヤテが手を伸ばそうとすると、セイラの体から白い光が発せられた。


「いてえ!?」


 ハヤテは手を抑えると、その場で悶だした。


「大丈夫か?」

「あ、ああ……ったく、なにしやがる…」


 天使のような笑みを浮かべる背中を、ハヤテは睨みつけた。

 まるで相手を人と思っていないようだ。


「どうしてヤマトは近づけるんだ?」


 タケヤは盾を構えながら、じっと様子を伺っている。


「よくわからないけど、契約したからか?」

「「「契約!?」」」


 三人の声が重なった。うるさかったのか、セイラが迷惑そうに唸った。また魔法を使われても困るから、赤ん坊にそうするようにあやしてみると、すぐにおとなしくなった。


「そんなに驚くようなことなのか?」

「当然だ。契約するとヴァルキリーの力を使えるようになるんだぞ!?」


 つまり俺は、人でなくなるということか?


「それでヤマト、俺たちは彼女の加護を受けることは出来るのか?」

「どうだろ……起きたときにでも聞いてみるよ」


 こうして俺はヴァルキリーと契約することに成功した。

 

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