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レッドラグーンもいよいよ危機に気がついたようです

 ユミネのクエスト、庭園の移動については攻略の活路を見出せなかった。

 ここは一度直接会って話をする必要があるだろう。


 生憎の曇り空の下を、翼をはためかせて駆けていく。第6支社の庭園は目前だ。ほっとして速度を緩めたその瞬間、俺は取り囲まれた。

 空を駆ける5頭の天馬。クランレッドラグーンの誇る騎空隊だ。


「どうして第6支社がここにいる」


 って、聞くまでもなかったか。俺を止めに来たに決まっている。インベントリがなくなるのは困るのだろう。

 庭園の周りには他にも5人ほどの天馬が飛んでいて、地上には火の魔術師部隊が待機している。


「そこまで本気ってわけでもなさそうか」


 見知った顔は一人もいない。リーダー格は別のところにいるようだ。

 うーん…インベントリは重要ではない?ってそうか、どのヴァルキリーにどんな加護があるのか知らないのか。

 火や風魔法だったら見た目にもわかりやすいが、ユミネは補助魔法の加護と特性がインベントリだ。見た目にはどんな力があるのかわかりにくい。


 それじゃあありがたく、ユミネを連れて帰りますか。

 一気に下に降下すると、待ち受けていた天馬の間を通り抜ける。慌てて追いかけてきているが、勝負にならない。


「撃ち落とせ!ファイアボール!!」


 飛んでくる火の弾も大したことがない。避ける必要すら感じなかったが、一応旋回して避けておくと、そのまま庭園に降り立った。

 

「ようユミネ、久しぶり」

「ふむ、来たのか」


 俺の迎撃部隊も、庭園の中までは入ってきていなかった。今日もユミネは足を組み、優雅に紅茶を飲んでいる。


「外が騒がしいようだが」

「ヴァルキリー様がいなくなると困るようだぞ」

「そんなことか。それで、戻ってきたと言うことは僕のクエストは攻略できそうなのかい?」

「それが、全くのお手上げだ。まずは移動先のスペースの確保をしようと思ったんだが見つからず。あったとしても移動方法すらわからん。ラガナにはノーって言われちまったしな」


 両手を上げておどけて見せると、ユミネはカップを置いて目を伏せた。


「俺は本気だぞ?てことで攻略のヒントを教えてくれ」

「はなから冗談だ」

「あ、やっぱりか」


 俺の勘は当たっていた。それならもっと早く気づけよ!ってのは、なしだぞ?


「だったら一緒に来てくれるか」

「そうだね、まあいいよ。どのみちここからは離れることになりそうだからね」


 複数の足音が近づいて来て、俺たちは取り囲まれた。


「君たち、ヴァルキリーの領域には立ち入るなと教わらなかったかい?」

「我々は貴方様を守るためにここに来ました。ご無礼を許し下さい」

「守る?僕を?それは誰からだい?」


 ユミネは眉をひそめると、ゆっくりと立ち上がった。彼女の周囲に新緑のような鮮やかな色の魔力が取り巻いていることを、俺以外は気が付いていない。

 言葉こそ穏やかだったが、ユミネは怒っている。


「ですからヴァルキリー様を、その男から…」

「それこそ彼に対して無礼だと思わないかい。すぐに謝り給え」


 静かな言葉にも、分かりやすいぐらいに怒りがこもった。いくら鈍感でも、さすがに気が付いたようだ。

 俺たちの包囲網は少し広くなった。


「僕は見ての通りとても機嫌が悪い。今すぐに君たちを地の底に落としてしまいたいぐらいさ。だから選択肢をあげよう。今すぐここから立ち去るか、必死に逃げまどうか。どちらがいい」

「我々は貴方様を守りに来ました。引くわけにはいきません」


 ヴァルキリーの守護がかれらに与えられたクエストだとすれば、個人の判断で撤退することは出来ない。クエストの失敗は、クランの除名に直結するからだ。

 そこまでしてレッドラグーンに居座る理由は、もうすぐ無くなるんだけどな。ならば命を大切にすべきだ。俺としては逃げるのがおすすめだ。


「そうだ、ひとつ良いことを思いついたよ」


 ユミネは白い歯を見せるとにやっと笑った。どう見ても悪い顔だ。


「君たちに試練を与えよう。成功すれば加護が得られる。ああ、安心して、失敗しても加護をあげるから。その場合は呪いと呼ばれるものになるがね」


 とても分かりやすい説明に、騎空隊も火の魔術師部隊も、みるみるうちに青ざめていき、顔を見合わせて他人の様子を探る。

 だがここには、統率力のある者はいない。慌てるだけで、誰も動こうとはしない。


「それでは試練を始める」


 庭園全体に光が満ち、足元には巨大な魔法陣が展開される。


「試練の達成条件はヤマトから僕を奪うこと」

「俺もやるのかよ!?」

「敗北条件は…面倒だから制限時間10分で」

「今面倒とか言ったよな!?」


 クスクスと、ユミネは不敵に笑うだけだ。


「それではカウントスタート」


 俺の言葉は無視して、試練は強制的に開始された。


「さて君はどうやって僕を守ってくれるのかな?」


 完全にゲーム感覚だ。俺はともかく、試験を強いられた連中にとっては死活問題だ。

 呪いの内容は分からないが、下手すれば冒険者生命が断たれることだってあり得る。


「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 誰かが叫んだのきっかけに、天馬が追いかけてくる。俺はとっさにユミネの脇から腕を通すと、後ろから抱きつくような格好で庭園の中を飛ぶ。


「もう少し女の子と扱いしてくれないだろうか」

「そんなこと言ってる場合かよ!?」


 おかげで意識しちまったじゃねえか。脇から差し込んだ腕にわずかに当たる、控えめだけど柔らかいものと、落ちないようにお腹に回した手に触れる細いくびれの感触に。どれだけ同性の友人みたいと思っていても、どっからどう見ても可愛い乙女だ。


「悪くない反応だね」

「お前なあ…とと」

 

 急に出てきた天馬に道を塞がれ、一気に曲がった。すると、追いかけてきていた天馬は曲がり切れず、道を塞いだ奴らにそのまま突っ込んだ。

 クランの加護ではこんなものか。


 まずは騎空隊脱落だ。


 前を向くと、今度は魔術師部隊が待ち受けていた。


「ファイアボール!!」


 嘘だろ!?こんな植物だらけのところでそんなもん使ったら燃えちまうぞ!


「アクアシールド!!」


 魔法を避けながら、軌道上にあった植物の前に水の盾を作り出す。読み通りに火魔法は水に飲まれ、蒸発した。


「まだだ。ファイアボー…うおっ!?」


 魔法の使おうとして、腕が燃え出した。ユミネがなにかした…わけではなさそうだ。ユミネも驚いている。


「アクアフォール」


 頭の上から滝を降らし、体ごと水びだしにしてやる。間に合った。見たことろ大きな外傷はなさそうだ。


「何してんだ!!」

「わ、分からない。勝手に魔法が暴れだして…」

「何を言って…って、前らもかよ!?」


 他の魔術師の腕も同時に燃え出した。どうなってんだ?

 考えるのは後にして、俺はひたすらに水魔法を使い続けた。


 それから10分。俺は試練に勝利(?)した。


「ユミネ。さっきのは魔法の暴走だよな?」

「そうだね。火ということは、グリムゲルデの身に何かあったのかもしれないね」

「うげ、まじか」


 本当だったら最悪だ。グリムゲルデのアンナは感情によって魔力が高まる。特に怒り状態になると、暴れだして手が付けられない。


「直行していいか」

「僕は構わないよ」


 ユミネをを抱えたまま、第3支社へと向かうのだった。

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