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ヴァルキリーからクエストが出ました

 さて、武器の加護を奪った今、レッドラグーンは異変に気づくだろう。これならインベントリを使えなくしても被害は少なく抑えられれるはずだ。


「ということで来たぞ」

「全く説明になっていないと思うのだが」


 庭園の中で優雅に紅茶を飲んでいるのは、ヴァルキリー、ヴァルトラウテのユミネだ。彼女は契約している中では一番髪が短く、耳が見えている。そのボーイッシュな見た目に加え、独特の落ち着いた雰囲気は、気の合う男友達に近かった。完璧なまでのツッコミをしてくれて、俺がボケ役でいられる唯一存在でもある。


「俺と一緒に来てほしい」

「なんだいそれは。愛の告白かい?」

「そうだ」

「そ、そうか……」


 あれ?いつものキレがない。ここは、ああジュリエットとか、月が綺麗ですねぐらいに言っておくところだ。

 俺の反応を変に思ったのか、ユミネはわざとらしく咳払いをした。


「ゴホン、僕はそれほど安くないよ」

「いくらだ?金ならないぞ」

「自虐的な言葉からは想像できない堂々っぷりだな」


 取り繕っても俺がほぼ文無しなのには変わりない。ヴァルキリー用の設備を作るために、クランに多大な負担を強いた。

 結果として、俺は最低限の飯代で馬車馬のように働かされていた。欲しいものとかなかったから気にしてなかったけど、今思うと酷い話だな。


「心配するな、内臓を売ってこいとかいうつもりはない」

「そいつはよかった」


 大げさにホッとして見せると、ユミネは眉をひそめた。


「何を言っているんだい?僕は別に、君を社会的に抹殺したいわけじゃないよ」


 この世界には移植手術なんて存在しない。魔法があるのだ。傷も内臓の悪いところも、光魔法がなんとかしてくれる。

 臓器を欲しがる連中がいるとすれば、人体実験で人工的に人間を作り出そうとしている奴らぐらいだ。それらは暗黒魔術と呼ばれ、関わっているのが分かったら即死死刑だ。もし俺が臓器を売ろうものなら、共犯者として扱われる。


「ユミネが話の分かる奴で助かったよ」

「その信頼に答えるべきかは悩むところだが、あまり都合のいい相手と思われても面白くはないね」


 腕を組むと、じっと何やら考え出す。


「エロいこと以外で頼む」

「君は僕を何だと思っているんだい……まったく……」


 紅茶を一口飲むと、その口元が少し緩んだ。


「そうだね…僕からの要求、君達風に言うならばクエストを出させてもらおう」

「その内容は?」

「庭園の移動だ」


 庭園と呼ばれたこの場所は、田舎の土地付き一軒家ぐらいの広さがある。そんなものを持っていくスペースなんてすぐには見つからない。イレギュラーの拠点には庭なんてなかったし、気づいていなくてあったとしても町中裏路地の屋敷ではどう考えてもキャパオーバーだ。

 そもそも、どうやったら移動なんて出来るんだ?鉢植えならまだしも、ほとんどの植物が土から生えている。インベントリに入れようにも大きすぎて、小分けにするしかない。土なんて形のないもの、出した時にどうなっているかなんて想像がつかない。


「出来そうかい?」

「そうだな……有識者会議にかけてみる必要があるな」

「それは一大事だな」


 どんな難題でも、機嫌を損ねるようなことはしたくない。カレンの時のように、急に出ていかれても困るからな。


「というのは冗談で………」

「分かった。また来るよ」


 立ち上がった俺を、なぜかユミネは慌てた目で見ていた。心配するな、クエストは成功させてみせるよ。

 胸に誓うと、庭園を後にしたのだった。

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