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ギャルはご機嫌斜めになりました

 移動を終えると、カリンの想像以上にご機嫌ナナメだった。同じソファーで隣に座ってはいるものの、体の前で腕を組んだまま、そっぽを向いている。そういえばこのソファー、昨日はなかったはずだ。


「あらあら、喧嘩かしら?」


 イレギュラーの拠点にはティアさんがいた。ミサもどこかにいるらしいのだが、姿は見えない。


「違うし。ヤマトっちが悪いし」

「ヤマトくん、何をしたの?」


 ティアの優しい目が、心配の色を灯す。うーん……まさかここまで怒るとは……。

 心当たりは……なくはない。加護が消えたことを確認できたことで、早く次のヴァルキリーのところへ行きたかった。そのせいで、ゆっくり飛びたがっていたカリンを無視して、全速力で飛行を続けたせいだろう。


「お友達とはちゃんと仲良くしないと」

「お、お友達……?」


 そんなことは考えたこともなかった。大事にしてきたつもりではあるけど、それは…えーっと……なんでだ?

 悩んでいると、カリンがちらっとこちらを向いたのが分かった。


 ちょっと期待しているようだな。これはチャンスか?

 言葉を探していると扉が開き、セイラが目をこすりながら入ってきた。驚いた。まさか一人で歩くことが出来るなんて……。

 感動を覚えていると、金色の髪が揺れ、隣の影は立ち上がった。


「ジークルーネ!?」

「……?シュヴァルトライテ?」


 カリンとセイラ。二人は互いに目を見開き、驚いている。


「そういえば言ってなかったか」

「聞いてないし!……てっきりウチだけかと……」

「今なんて?」

「なんでもないし!」


 セイラはふらふらと歩いてくると、そのままソファーに倒れ込み、頭を俺の膝に乗せてきた。


「ちょっと、なにしてるし!!」

「……眠い」

「いやいや、そんなうらやまし…じゃなかった、そこは枕じゃないし!」


 カリンはセイラを引き剥がそうと手を伸ばした瞬間、黒い光が散った。闇魔法だ。これはいけない。このままではこの場所が吹き飛んでしまう。


「落ち着けカリン」

「なによ、ウチよりその子の方が大事だっていうの!!」

「いやいやそんなつもりは…

「もうっ、ヤマトなんて知らないし!」


 カリンは叫び声を上げると、部屋から飛び出していった。それとは入れ違いに、ミサが戻ってきた。怪訝な顔を浮かべると、俺と、膝の上に眠っているセイラに気がついた。


「戻っていたのかヤマト。それじゃあ今のもヴァルキリーか?」

「察しのいいことで」

「見慣れない外見をしていたからな。あの目の下に塗ってあるものはなんだ?クマを隠しいるわけでもなさそうだし」

 

 アイシャドウのことだろう。そういえば、この世界には同じようなメイクをしている人を見たことがない。そもそもギャルが存在しない。俺にとっては普通の見た目過ぎて忘れていたが、ミサや他の人からしたら違和感があるはずだ。

 ただ彼女がヴァルキリーであるが故に、誰も触れなかっただけなのだ。


「ちょっと行ってくる!」


 セイラの頭をクッションにのせると、慌てて部屋を出た。どこだ?どこへ行った?

 外に出られたら大騒ぎだ。ヴァルキリーが泣きながら町を歩いているなんてことになったら災厄の前兆とか言われかねない。


「なにか、なにかヒントは……」


 シュヴェルトライテは剣の乙女だ。加護を得るには戦いに勝って認められる必要がある。それ故か、戦いに近い場所を望むと言われている。

 

「少年よ、これを持っていけ!」


 屋敷のドアの前まで来ると、鞘に入ったままの剣が飛んできた。見た目の割に軽くて、手に馴染むようだ。

 

「ありがとう、ミサ!」


 片手でそれを掴むと外に出た。

 昼過ぎの町は人が一番溢れる時間で、道なんてまともに歩いていられない。思い切って屋根上に飛び乗ると、金色の髪を探す。

 演習場には……いない、武具屋にも……いない。

 

 くそっ、騒ぎになる前に見つけないと!


 中央広場に来ると噴水の回りが賑わっていた。フリーマーケットや旅人の演奏など、日によって様々な催しが開かれている場所だ。そこで見つけられたのはまさに幸運だったと言えるだろう。

 フリーマーケットの中に、剣を売っている店があったのだ。


「えーっと……お嬢ちゃん、何か買いますか…?」


 剣屋の店主は顔色を伺うように言った。彼の前にいるのは、金髪の乙女、まさに俺が探している人物だ。

 彼女は何も答えない。ただうつろな目で、じっと剣を見つめている。


「はあ、はあ……カリンっ」


 その名前を叫ぶと、肩がビクッと震え、走りだろうとした。俺はなんとか腕を掴むと、必死にその体を止めた。

 それでもカリンは抵抗してくる。


「なにしに来たしっ」


 俺は、何を言ったらいい?機嫌が悪かったのは分かっていたが、なぜ急に出ていってしまったのか分かっていない。

 それでも俺はカリンにいなくなってほしくない。せっかく契約をしてくれたんだ。悲しませるようなことは……って、契約?


 そういえば俺は、カリンと戦ったことがない。加護を得る条件は戦って勝つこと。だったら……。


「カリン、俺と戦ってくれ!」

「は?意味がわからないし」

「俺はカリンにいなくなってほしくない!」

「そ、その…嬉しいけどなんで急に…それにこんなところじゃ……」


 やらかした……。俺たちは、思いっきり注目を集めていた。

 痴話喧嘩だと思ったのか、それとも告白だと思ったのか。どちらにせよ、観衆の目を思いっきり集めてしまった。

 特に女の人の多くは、優しい目で俺を見ている。


「……場所を変えようか」

「……おけまる」


 カリンの顔も赤くなっていた。

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