ギャルなヴァルキリーは気軽についてきてくれます
支社の屋敷に戻ると、カリンが笑顔で出迎えてくれた。
「お疲れーヤマトっち。さっすがだねぇ」
「別に。ちょっと気に食わなかっただけだよ。確認したいこともあったし」
縁側に腰をかけると、カリンも隣に座った。いつの間に用意したのか、急須にお茶、和菓子まで完備だ。
「それで、確認したかったことっていうのは?」
「加護が消えたかどうか」
「そっかぁ、なんか難しげなことやってるね」
興味がないのか、お菓子を口に入れると、さっきまで言い争っていた場所を見つめている。
「最近多いんだよねえ」
「助けようと思ったりはしないのか?」
「可愛そうだと思わなくはないけど、怒られちゃうし?」
ヴァルキリーにも勝てない誰かがこの世界にはいるらしい。その正体は彼女たち自身にも分からない。ただなんとなく、見られている、これをやってはいけないといった感覚に襲われるという。
「ウチ難しいことは苦手だし。それよりももっと楽しいお話をしよ、ね?」
「そうだな……」
セイラの時もそうだったが、俺には会話の引き出しなんてもんはない。特技は黙って話を聞くこと……頷くぐらいならいくらでも出来るからさ。
「もう、また難しい顔をしてるし」
「俺にとっては無理難題なんだよ」
「駄目!ウチに前では笑ってないとダメだし」
カリンは立ち上がると、後ろから抱きついてきた。わざとなのか、柔らかい2つの物体が背中にあたり、嫌でも意識させられる。決して嫌ってわけではないんだけど。
あーくそっ、セイラだったらこんなことにはならないのに!
「やった、難しい顔じゃなくなったし」
「これはこれで難しい事態だよ……」
カリンはにやにや笑うと、ペロッと舌で唇を舐めた。またそんなことをっ。
わざとなのか?そうなんだよな?
「はあ……もうなんでもいいや……」
「えー、もっと面白い反応見せてほしいし」
「俺を何だと思ってるんだよ…」
カリンは笑うだけで答えてはくれない。それでも密着した体は離れるどころか近づいてきていて、背中の柔らかい圧力が大きくなっている。
「カリン、お前を連れ出しに来たんだ」
「え」と声がして、柔らかい感触が離れていった。んー…こうなるとちょっと残念だ。
「それって、こくは……」
「違う。俺はクランから追い出されたんだ」
「嘘でしょ!!……って、クランってなんだし」
「そこからかよ!?」
全身の力が一気に抜けた。
ヴァルキリーは冒険者の世間体に疎いことが多いが、流石に2年以上も住んでいたら多少のことは学ぶものだ。
「クランってのはここだよ…」
「じゃあどこに住むし!?あ、もしかして駆け落ちとか?」
「どうしてそういう言葉は知っているんだよ……」
「テヘペロ?」
舌を出すと、頭をコツンと叩いた。これまたどこで覚えたんだよ……って、いちいち突っ込んでいても話が進まない。
「助けてくれた人がいてさ、そこでお世話になろうと思ってる」
「おけまるー。すぐに行くの?」
「そうしたい」
長居をすればハヤテたちに俺がここにいることが伝わってしまうかもしれない。面倒な揉め事はできれば避けたい。
「条件があるし」
「なんだ?」
「目的地につくまで、ウチをお姫様抱っこすること」
カリンはにやっと笑った。こいつ、出来ないと思っているな。その程度のことは造作も無いぞ?
「分かった」
腕に抱えると「キャー」とか黄色い声を上げやがった。嫌がっているわけではなさそうだし、このまま続行でいいよな?
屋敷から庭に出ると、カリンがびくっと動いた。
「どうした?」
「なんか体が軽くなったし」
「あー、屋敷の魔法陣から解放されたからかな?」
「そんな仕掛けがあったしっ!?」
今更かよ……こいつ、本当にヴァルキリーなんだよな?フィーリングで生きているにも程があるだろ……。
「……フライ」
詠唱省略。言うのも疲れちまった。それでも羽はいつものように生え、準備は万端だ。
「おー凄いし」
ヴァルキリーにとっては珍しくないはずなのに、大げさに褒めてくる。悪い気はしないけど。
学生時代に同じクラスにいたら楽しかったんだろうなとか、時々思ったりする。
「それじゃあ行きますか」
「おけまるうううぅぅぅぅううう!?」
全速力で空を翔ける。急な加速にカリンは悲鳴のような叫びを上げていた。
「ちょっと、速い、速いし!ロマンスのかけらもないし!」
ゆっくり楽しい空の旅でも想像していたのだろうか。あいにく今はそんな気分ではない。また後日、余裕があるときにでも、だな。




