第26話:◇あなたのことが◇
私、サルビア・アウルは今、とても珍しい光景を目にしています。
「なぁ、サルビア。お願いだ。返事してくれよ……!」
必死で私を抱きしめ、名前を呼んでくれる彼。
「まだ貴女と一緒にいたいんだ。やりたいことがあるんだ」
幼少期ならよくありましたが、大人になった照れ屋な彼は普段なら絶対にしない。でも、今はそんなことを気にしている余裕もなく何度も私の名前を呼ぶ。
だけど、そんな彼の必死に私は応えることができなさそうです。
もうこの身体はだめなのです。壊れてしまいました。
役立たずの身体ではアルストロメリア様のお役に立つことはできません。
だから、分かるのです。羽は次の器を探しているのだ。この器はもう動かなくなるのだと。
アルストロメリア様のお役に立てないのなら仕方ありません。
「サルビア、ほら、アルストロメリア様が貴女の帰りを待っているんだ」
……ああ、どうしてこんな時になって私は気づいてしまうのでしょうか?
今、この瞬間、私はアルストロメリア様のことではなく、目の前のこの男のことばかりを考えているのです。
「サルビア、オレに羽として教えること沢山あるんだろう?」
もう、彼の声を聞くことができない。
もう、彼の顔を見ることができない。
もう、彼の温もりに触れることができない。
「サルビア、サルビア、サルビア……!」
私の名前を叫ぶ彼の声を聞いて、
私を見つめる彼の顔を見て、
私を抱きしめ伝わってくる彼の温もりを感じて、
「サルビア、オレ、貴女のことがずっと好きなんだ」
私は、彼への、コリウス・ルースターへの想いを自覚してしまいました。




