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忌み子の翼 ~女盗賊、神様を盗む~  作者: かぼす
第2章:女盗賊、聖戦に巻き込まれる
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第19話:◆僕の相棒◆


 変なやつに目を付けられた。


『なぁ、アンタ、じぃよめんだろ?』


 この街にしては珍しい真っ直ぐな瞳でそいつは僕に声をかけてきた。黄金の髪と瞳。灰色の自分とは正反対。

 たぶん、僕より、何年か年下のガキ。


『忙しいんだ。早く帰れ』

『おっさん、うごかなくなった』


 繋がらない会話。だけど、その一言でこいつの境遇は何となく分かった。

 同情も、憐れみもない。この街では日常茶飯事。僕だって先日、父さんを失っている。

 金も持っていない、頼り先を失ったばかりの奴に構っていたら、こちらの身が持たない。


『あっそ、それがどうした。僕には関係ない』

『でも、おれはいきたいんだ』


 早々に切り捨てようとしたが、あまりにも純粋な願いが僕を引き留めた。

 この街の誰もが願って諦めた夢。大抵は皆、その祈りは腐り落ちてしまうのに、こいつから発せられるそれは眩しい。


『アンタだっていきたいんだろ?』

『なんでそう決めつけるんだよ?』


 たぶん、気の迷いだったんだろう。聞くべきではないことを聞いてしまった。

 だって聞いたら捨てられなくなる。



『おれとおなじめぇしてるから』



 人差し指を僕の瞳の方に向けてそいつは笑う。その笑顔がひどく僕の心に刺さった。

 話を無理矢理切り上げることができたはずなのにそれがもう出来なくなっていた。


『で、もういちどきくけど、じ、よめんだろ? あたまいーんだろ?』

『……頭がいいかは分からないけど、字は読める』

『そっか、ならアンタにする。おれにいきかたをおしえてくれ』

『……は?』

『あたまよくて、いきたいやつに、いきかたおしえてもらったほうがいいだろ?』


 それは決定事項のようで、見事に掴まった僕は受け入れるしかなくて、でもなぜか悪くはないと思ってしまっていた。


『あんしんしろ! おれはきようだし、うごくのうまいからやくにたつぞ』

『勝手に人を巻き込んでおいて、今さら自分の有用性を語るなよ……。まぁ、いいか。で、名前は?』


 見たところ勝手にずっと付いてきそうだし、一緒に過ごすことになるだろう。お互い死なない限りは長い付き合いになりそうな気がした。だから名前を聞いたのだが、目の前のガキは驚いたように固まった。


『どうした? 名前を教えろよ』

『……なまえをよびあうようなやつなんて、おれにはいなかったから……アンタがそれになってくれるのか?』


 なんでそこで急に遠慮するのか意味不明で今度は僕が笑ってしまう。なんだか久しぶりに笑った気がしたし、自分もまだ笑えることができたのだと安心した。


『大袈裟だな。名前が分かんなきゃ面倒だろ。僕はアッシュ。オマエは?』

『……これよんでくれよ』


 名前の代わりにそいつは大事そうにポケットからあるものを取り出した。

 裏に文字が刻まれた錆びだらけの腕輪。


『たぶん、おれのなまえだ』

『オマエ、自分の名前知らないのか?』

『だから、いっただろ。なまえをよびあうことなんかなかったって』


 この腕輪が本当にこいつのものなのか、刻まれているこの文字がこいつの名前を示しているのかは正直怪しい。でも、こいつの瞳は正しいと言っている。なら、きっとそうなのだろう。


『なまえをよびあって、いっしょにいきるのって、なんか、あいぼーみたいだな』

『そんないいものじゃない気がするけど、オマエが言うとなんだか良いものに聞こえてくるな』


 僕は差し出された腕輪を手に取り、刻まれた文字を指でなぞる。そして、目の前のガキに向かって言った。


『オマエの名前はロサだってよ。それじゃあ、よろしく。相棒さん』




 そして、僕はロサと出会った。




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