第7話:こっちの方が宗教戦争になるのでは?
時は遡ること、数日前。
久しぶりにロサとの再会を果たし、ライラックに蹴られ、縄にぐるぐるにされた状態でロサたちが逗留する部屋に移動させられたネズミ。
そこで彼は芋虫のように身体をばたつかせながらなんとか会話をしていた。
「なるほど。あんたがあの宝石の正体だったわけっすね」
「レイヴン家の秘宝か? どうやら私はそう呼ばれていたらしいな。だが、貴方もネズミなんて滑稽な名前だな」
「いちおう言っておくが本名じゃないからな。ま、貴族のお嬢様には教えるつもりもないっすけどー」
「ほう……。まだ蹴られ足りないようだな」
「いや、待て待て待て待て! なんでここでまた喧嘩をおっぱじめようとする!? 第一、ライラックは家を出て身分とか全部捨ててる! 貴族じゃない!」
「本当っすか? まぁ、でも、レイヴン家でないならそれを徹底してくださいっすよ。出ないと下手したら宗教戦争の火種になるっす」
さりげなく依頼を引き受けること前提に話が進んでいるのはさておき、今、不穏なことを言わなかったか?
「宗教戦争?」
「そう、宗教戦争。創世神教に関わりの深いレイヴン家の血を引くものが攫われたなんて事実が広まれば大問題っす」
アタシ、そんなたいそうな奴を攫ったのか?
何も知らないまま巻き込まれていたロサは、今さらになってライラックを屋敷から連れ出したことの重大さに気づく。冷や汗が止まらない。
「と、とにかく、ライラックがレイヴン家じゃないのだけバレなきゃいいんだろ? で、アタシたちは何をすればいい?」
とりあえず話を変えようと本題に戻る。しかし、ネズミの答えはより一層ロサを困らせるものだった。
「あ、そうそう。姐さんたちにはある宗教をぶっ潰して欲しいんすよ」
いや、こっちの方が宗教戦争になるのでは? とロサは頭を抱えるのであった。