第6話:信じるものは己の拳のみではなかったらしい
「ほーん。創世神教ってそんな話だったんだな」
森の中を進む馬車に揺られながらロサはライラックの話す創世神教について半分興味なさげに聞いていた。
二大宗教。ロサたちが暮らすこの大陸には二つ大きな宗教がある。
そのうちの一つ、創世神教は最古の歴史を誇り、信者の数も多い。
宗教について学ぶ機会のない、ましてや興味もないロサでさえ、その宗教名と中心となった人物の名は知っていた。
「たしか天使ってリリウムって名前だよな? 今も生きてるんだろ?」
「リリウム様であっているが、もう亡くなっている。生きているのはアルストロメリアだ」
創世神教の始祖であり、翼を折られた天使、リリウム。この世界を導いた無垢な天使はもういない。
「アルストなんちゃらがもう一つの宗教のお偉い天使さんだっけか。……あぁ、もうわけわからなくなってきた」
お勉強にロサはさっそく音を上げた。どんなに大層な教えだろうと、施しを得られず、自分の力で生きる幼少期を過ごしたロサにとっては胡散臭いものにしか見えないのだ。
「なぁんで、自分の人生なのに他人の考えに頼るんだかねぇ」
「その気持ちも分からなくはないが、リリウム様に限ってはやはり特別としか言えない」
我が道を行く。信じるものは己の拳のみ。のイメージがあったライラックをここまで言わせるとは……。
創世神教の歴史的影響は分かっていないロサではあるが、ライラックの反応を見てその凄さを実感する。
また、同時に、ロサはここにはいないネズミとの話を思い出した。