第1話:飛べない鳥
あの日、私は翼になった。
焼け付くような背中の痛み。
体の内側が別の何かに変わってしまうような気持ち悪さ。
「ライラック、大丈夫だ」
冷たい手で幼い私の頬に触れるお爺様は酷く悲しい顔をしていた。
痛くて、気持ち悪くて、苦しくて、突然の異変に身体も心もついていけなかった私は声にならない叫びをあげた。お爺様の冷たい手に縋った。
だけど、
「ライラック・レイヴン。次の翼はおまえだ」
そして、お爺様はその言葉を最後に残して事切れた。
直後、私の身体はおかしくなった。別の身体に入れ替えられてしまったような、そんな違和感。立ち方も、指の動かし方も、息の仕方もわからなくなって私は崩れ落ちる。
それと同時だった。
視界がぼやけ、水の底から引っ張られるような感覚が襲ってくる。
引っ張られ、全てが黒になり、そして、光が差し込む。
柔らかな太陽の温もり、朝を告げる鶏の鳴き声、枕元から漂う花の匂い。
夢を見ていたのだ。
見慣れた天井を見て、私は幼い頃の、全てが変わってしまったあの日のことを夢に見ていたのだと気づいた。
そうだ。私は、ライラック・レイヴンは、人の形をした人ならざる者になったのだと自覚した。
尊き御方を支える翼になったのだと自覚した。
でも、足りない。
私は起き上がり、鉄格子の窓から広い空を見つめる。
本当ならいるはずなのだ。
私だけでは空を飛べない。片翼だけでは空を飛べない。
ああ、主よ、飛べない鳥はどう生きればいいのですか?




