第27話:降神祭
降神祭。
それはリリス教の神、リリスが年に一度人々の前に姿を現す神聖なる日。
主聖堂の祭壇にて、リリスは聖歌を口ずさみ、訪れる者たちに祝福をする。
彼女によって紡がれる聖歌は人々の心を包み、安らぎを与えるのだ。
だが、本日行われる降神祭に安らぎは訪れない。
「あら? ロサちゃん、今は来賓の方々を案内するはずじゃなかったかしら?」
「先輩、すみません。ちょっとこの地下にいる野郎どもに用があって」
「っ!? なんでそのことを知って―」
ドスン。ロサはここの警備を任されていただろうシスターを気絶させる。
たぶん地下の者たちも目に付いた警備のシスターたちを気絶させ縛りあげているだろう。
地下の監視は今までシスターたちがやっていた。体格差などでいくと圧倒的に働かされている男どもの方に分があるが、今までは反乱などは起こる心配もなかった。たぶん神父の加護の力の影響で逆らうという思考自体を封じられていたからだ。
だけど、今は違う。
「おい、おっさん! 用意はできたか!?」
「おうよ! へへっ、教会を潰すなんたぁ、わくわくすんな!」
ロサは元山賊の男に声をかける。
山賊の頭であったこの男にロサは地下の者たちの統率を任せていた。
酒場で出会った時は飲んだくれてて仲間からも煙たがられていたが、現在は違う。
腹をくくらねばならない状況だからなのかもしれないが、男は地下の者たちを見事まとめ上げていた。
「今までの鬱憤は全部吐き出せよ。ただし、誰も殺すんじゃねぇ。恨みはあるかもしれねぇが、殺すのはだめだ。捕まえたシスターさんたちに手ぇ出してねぇだろうなぁ?」
「出してねぇよ! 出したら怪力のねーちゃんにぶっ殺されるの分かっててそんなバカなことはしねぇよ!」
だからといって、植え付けられた痛みや恐怖はなかなか払拭はできないらしい。
男はライラックに殴り飛ばされたのを思い出したのか顔面蒼白にしながら答える。
被害にあった者限定ではあるが、ライラックを脅しに使うのは便利だとロサは笑う。ひとしきり笑い、気づいた。
「てか、あのでけぇのなんだ?」
「ああ、あれか? あれは大砲だ! 地下の奥に眠っているのを見つけたんだ!」
外敵から守るために昔から置いてあったのだろうか? とはいえいいものをみつけてくれた。最初の使い道をすぐに思いつく。
「へぇ、なら攻撃とみんなへの合図も兼ねて、あそこに撃ってくれないか?」
「あそこ?」
「鐘塔だ」
教会のシンボルの一つである鐘塔。それを壊せとロサは言う。
「主聖堂で神様が現れたら、シスターに内側から扉を開けてもらい侵入して攻め込むことになってるが、その時、合わせて鐘塔も倒してほしい。ほら、あんなものが倒れれば他の場所にいるやつらだってタイミングがわかるだろ?」
リリス教の建物は主聖堂、鐘塔、住棟で分かれていてそれなりに大きい。ロサたちが今いる地下、住棟はとくにそうで、主聖堂の騒ぎにも気づきづらい。
水面下でことを進めるのは便利だが、いざ、全員に表だって暴れろと伝えるには音の出るものを壊すのが手っ取り早い。
「わかったよ。……そういえば、怪力のねーちゃんは?」
「あいつは別行動をしている。今日は神父さんが雇ったらしい傭兵がいるみたいだからそいつの監視だ」
ロサはシスター服を脱ぎ捨て、下に着ていたいつもの服が露になる。
教会暮らしも悪くなかったが、やはりこっちの方が性に合う。
『緋色の翼』時代を思い出して笑みがこぼれた。
「さぁて、暴れるぞ!」




